ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
早朝、まだ日が登りきっておらず街の住民のほとんどは起きていないような時間帯。
そんな早い時間に大きめのバックを持った希依と手ぶらの宇未、そして新たな武器を腰に下げた八重樫雫はオルクス大迷宮65層、ベヒモスとの戦闘時にハジメが落下した橋に三人はいた。
ここまではわざと転移トラップにかかるなどしてショートカットして来たので疲労はほとんどない。
「…ここまで一時間もかからないなんて、私達の努力って一体……」
「落ちこんでる暇はないよ、雫ちゃん」
以前と同じようにベヒモスが現れる魔法陣が展開されている。
「へっ!?」
ベヒモスを警戒している雫を横抱きにし、橋のふちに立つ。
「き、希依さん!?何する気!?」
「宇未ちゃんは自力でね!」
ベヒモスが現れると同時に雫を抱えた希依は奈落へと飛び降りた。宇未もそれに続き、飛び降りる。
「きゃああああああ!!」
希依はダンっ……ダンっ……と、時々空を蹴って減速し、宇未は羽根を広げてパラシュートの要領で降りて行く。
一分ほど落下すると、地面に着地した。
周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではなく、視線の先には幅五メートル程の川がある。
遠くには脚が異常発達したウサギと、爪の長いクマが争っている。ウサギはピョンピョンなどとゆっくりでなく、雫には目で負えないような速さで飛び回り、クマを翻弄している。クマは、その剛腕と爪でウサギに攻撃しているが、その力強さは音で聞こえてくる。
「こっ、こんな化け物を南雲くんは倒したっていうの!?」
「多分、これでも弱い方だと思います。特にウサギは雑魚枠かと。いっぱい居ますし」
目を凝らすと、岩陰などに体の一部が覗いている。
「宇未ちゃんはクマを倒してね。力加減のための戦いだから、部位欠損をさせてはダメ。
雫ちゃんは、まずは私の戦いを見て、技を盗んでちょうだい。教えるのは剣じゃなくて殺戮。一対多の戦い方だからね」
「「はい!」」
返事をした後宇未は脚を龍のように変化させ、一気に跳躍してクマを蹴り飛ばした。
「むっ、もうちょっと強くても良さそうですね」
獲物を取られたウサギは、標的を宇未に変えた。
「求めるは刀剣、質は硬、性は斬」
希依の右手に無骨で一切の無駄がない刀のようなものが現れる。
「殺戮演技、一の型。斬殺劇」
宇未に迫るウサギの脚を、縦に振り下ろされた刀が切り落とし、そのまま流れるようにウサギの首を切り飛ばす。これで足を止めず、そのまま走り岩陰に隠れるウサギを次々と首を切り落とし、攻撃してくるウサギの脚を切り落とす。
「コツは一度動いたら手も足も動きを止めないこと。それと、相手の攻撃は見てすぐに最低限の動きで回避して、即攻撃に移る。気配を察知して避けるなんてしてたら、いつの間にか逃げ場が無くなるから最初のうちは絶対やっちゃダメ」
剣道とも、戦闘訓練での剣とも違う戦い方に雫は唖然とする。
戦闘訓練で習った戦い方は基本的に一人が一体を相手取る多対多の戦い方。これは、出来た隙を味方がフォローする戦い方なのに対して希依の戦い方は隙を作らず、または隙を狙わせて相手に隙を作らせる戦い方。
「どう?雫ちゃん、出来そう?」
「やって、みせるわ」
柄を握る手に汗が滲む。
ドスーン、と巨大なものが倒れる音が聞こえてきた。
そちらに目を向けると、所々に肉や骨が露出しているクマが倒れていて、その上には 手足を血で染めた宇未が立っていた。
「雫ちゃん!」
希依の声が響き渡る。
現切りを抜刀し、襲いかかってきていたウサギの胴を上下に切り裂く。
動きを、止めない!
抜刀した勢いで片足を軸に回転斬り、そのままウサギがいる方に突きを放って先手必勝、頭部を貫く。切り上げて右に曲がり、隠れていたウサギが素早く飛び去る。正面からの攻撃がかろうじて見え、雫は刀を縦に振り下ろしてウサギを真っ二つにする。
おおよそ狩り尽くしたのか、戦闘音がなりやむ。
「予想以上だね雫ちゃん。でもまだまだ甘いね。栗きんとんのはちみつ漬けよりも甘い」
なによそれ、と希依のいる方に振り向くと大量のウサギと狼の魔物の死体の山が積み上げられていた。
「希依さん、それは…」
「雫ちゃんが見逃してた魔物。もっと視界を広く持たなきゃね。最初にやってた回転斬り、あれは良かったかな」
「お姉ちゃん、私は?」
「宇未ちゃんは……」
クマの死体を観察する希依。
「うん、攻撃する時に当たる寸前に力を込めるようにしよっか。無駄に力を込めてるから肉が抉れちゃってる」
「うーん、難しい」
「ま、課題が見えてきたところで朝食にしよっか」
「そういえば、なにか持ってきているのかしら?」
「フライパンと包丁、それと調味料を色々と持ってきたんだよー」
「…食材は?」
宇未が死体の山を指さす。希依は死体を川に運び血抜きを始めた。
「…うそ…でしょ?」
雫が不安を胸に抱えたまま10分ほどが経過した。
チラホラと現れてきた魔物を宇未と雫で倒し、希依はフライパンでクマ肉とウサギ肉を焼き始めた。
シュパシュパと小気味いい魔物を斬る音を立てる雫、魔物を傷つけないように蹴り倒す宇未、魔物肉に胡椒と塩で味付けする希依。
「出来たよー」という声が聞こえると魔物を倒していた二人が希依のもとへ戻って来る。
皿に盛り付けられているのは元が魔物とは思えないほど美味しそうなクマ肉とウサギ肉のステーキ。
「これ、食べても大丈夫なのかしら?魔物の肉ってたしか…」
「大丈夫。良くないものだけをしっかりと取り除いたから食べて死ぬなんてことは無いよ」
「そんな、ジャガイモの芽を取るみたいなことなの?」
「それよりはフグの毒ぬきに近いかな?まぁ大丈夫だって」
見せつけるようにクマ肉のステーキを頬張る希依。
「んん、ちょっと筋っぽいけど味はなかなか。ビーフジャーキーみたいな感じ」
「ネズミの丸焼きよりずっと美味しいです」
ウサギ肉を食べて不穏な台詞を吐く宇未。
「そ、それなら…」と、躊躇いながらもウサギ肉を口に運ぶ。
「確かに硬いけど味は――ウグッ…ガあああああああああ!!」
飲み込んですぐ、雫は腹部を抑えて断末魔のような声を上げながら蹲る。
「雫ちゃん!?大丈夫!?喉に詰まらせた!?」
「お姉ちゃん!そんなんじゃなさそうです!」
緊急事態に二人とも狼狽えながら雫に駆け寄る。
希依が前から支えて宇未が背をさすると、雫は希依の背に手を回し、爪をたててしがみつく。
雫の事態はすぐに収まり、希依に寄りかかるようにしてぐったりとしている。
「ふぅ、宇未ちゃんはなんともない?」
「はい、大丈夫です」
「はぁー」と一息つく二人。
「…あの、お姉ちゃん」
「ん?どったの?」
「八重樫さんの髪色って、何色でした?」
「何色って、黒…色…あれ?」
雫の髪色が白色になっていた。他にも、胸は豊満になったり、背が伸びたりと、より女性として魅力的な肉体へと変化していた。
「あれ、私…あれ?えっ、なにこれ!?」
苦痛がおさまり、自身の変化に気がついた雫は当然狼狽えた。
「なるほど、ハジメくんのあのイメチェンはこれが原因だったのか」
「あの強靭な肉体は魔物を食べたためのものだったのですね」
「なんで二人は納得してるのよ!」
「雫ちゃん雫ちゃん、ハジメくんを思い出してみ?」
「え、南雲くん?………あっ」
白い髪、伸びた背、…魅力的な肉体。
見事に奈落に落ちる前のハジメと最近のハジメの変化と共通している点が多い。
「ステータスはどうなってる?」
希依に聞かれて懐からステータスプレートをとりだす。
八重樫雫 17歳 女 レベル:89
天職:剣士
筋力:1480
体力:1530
耐性:590
敏捷:3590
魔力:630
魔耐:780
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+移動速度上昇]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・魔力操作・胃酸強化・天歩[+空力]・言語理解
「うそ、ステータスがかなり上がってるわ。それに、魔力操作に胃酸強化、天歩って……」
「間違いなく、魔物肉の副作用って感じだね」
「あの、希依さん?なんで笑って…」
「修行に食事を追加ね♪」
「いやよ!?かなり痛かったんだから!」
「まぁまぁ、最初だけだから、ちょっとだけだから」
「な、なんか言い方が卑猥なんだけど?」
希依がフォークに刺さったクマ肉を差し出す。
「あーん」
強くなれるのも事実。我慢して食べると、今度は痛みもなく、さらにステータスが上昇していた。
最初は希依も冗談で言ったものの、苦痛が無いならと本格的に食事を修行に導入したのだった。