ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
宇未と雫を鍛えることを目的とした大迷宮攻略を初めて三日が経過した。
既に雫のステータスプレートは数値表記が文字化けし、機能しなくなっていた。
宇未は鍛えるのではなく、吸血鬼の創造能力で新たな武器を作ることと、力加減を覚えることを目的としていたため、目立った成長はないが確実に相手に傷を与えることなく倒し、奇抜で奇妙で奇天烈な武器を多数創る事に成功している。
希依は、度々二人の持ってくる現代ではまず有り得ない肉体構造をした魔物を解剖、毒ぬきをし、美味しく調理することに専念することにした。
そんな彼女達は今、百層のラスボス部屋に拠点をとしていた。
その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径5mはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでおり、天井までは約30m。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間。
その部屋の中央に、巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。
魔法陣はより一層輝くと、遂に弾けるように光を放った。
体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。
「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」
不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が希依達を射貫く。
「これで四回目ですね」
「こういうのを、周回プレイっていうのよね?」
「雫さん、ちょっと違います」
前日、二日目から彼女等はここにいて、三回ヒュドラを倒している。
そもそも大迷宮の魔物は数に制限はあれど残機は無限。ベヒモスのように、何度倒しても時間が経つとまた生まれる。
一回目は宇未と雫の二人で。二回目は宇未のソロで。三回目は雫のソロ。
今回は、ジャンケンで負けた希依がヒュドラを倒して奥へと進むことにしている。
「私は戦わないつもりだったのになぁ。
ほら、来なよラスボス。魔王が直々に相手してあげるよ」
希依が右手をチョイチョイと、定番の挑発行為をする。
六つの首のうち、赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。
「まだまだ弱火だね!
指をデコピンの形にし、指先の空気を弾丸として炎に打つ。
空気は炎を突き破り、そのままヒュドラに命中。炎を放った首が弾け飛んだ。
が、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。白頭は回復魔法を使えるらしい。
「なるほど、六つの命を一つにしてるんじゃなくて一つの命を六等分してるんだ」
独り言を話しつつも空気弾(物理)を、回復役の白頭に向けて放つが黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させる。そして淡く黄色に輝き、多少のダメージは負うが受け止めてしまった。衝撃の後には無傷の黄頭が平然とそこにいて希依を睥睨している。
攻撃を受け止められた経験が実はあまりない希依はニヤリと笑みを浮かべる。
「
拳を握り、やや上気味に正拳突き。空気を殴り飛ばし、今度は黄頭をはじけ飛ばす。
すかさず希依の攻撃を回避した白頭が黄頭を回復させる。全くもって優秀な回復役である。
次は何をしてくるかと希依が待ち受けると、黒頭が睨むような行動をすると、突然希依が頭を抑えてしゃがみこんでしまう。
「あっ…………いや……やめて…………もぅ………」
攻勢だった頃からは想像もつかないような弱々しい声が零れる。
その隙をヒュドラは逃すわけもなく、六首全てが希依に食らいつきに行く。
流石に雫と宇未も心配になり、駆け寄ろうとするが、希依から制止の指示が出た。
「そラみちゃン……シずくチゃん………コナいで……」
「「っ!」」
ヒュドラ達は希依に噛み付くが、衣服は破れても肌には傷の一切もつかない。
「くとぅるふ・ふたぐん。にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ。しゃめっしゅ。
にゃるらとてっぷ・つがー。くとぅるふ・ふたぐん」
希依が、雫も宇未も知らない奇妙な詠唱を、まるで機械音声が読み上げるように淡々と唱える。
「にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな!」
何かに取り憑かれたかのように、ヒュドラに噛み付かれたまま立ち上がり何かを叫ぶ。
「くとぅるふ・ふたぐん!にゃるらとてっぷ・つがーしゃめっしゅ!しゃめっしゅ!
にゃるらとてっぷ・つがー!くとぅる・ふたぐん!」
希依の背後に、闇のオーラのような、炎のような、目のような、顔のようなものが現れる、
「にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな!」
闇が、人型に変化した。
安っぽい赤色のライダースーツ。田舎のヒーローショーで出るような、ネットにも載らないご当地ヒーローのようなヒーローマスク。
明らかにその場には不釣り合いな赤いヒーローが、希依を背後から抱きしめた。
「まったく、誰かが必死に呼んでるから来てみたらまさかピンチなのが希依ちゃんとはね。まぁそもそもこんなボクを呼べる人間なんて希依ちゃんしか居ないか」
ヒーローを避けるようにヒュドラが後退し遠のいていく。
「……おとう…さん…?」
「あぁ、お父さんだ。もう安心だよ。希依ちゃんが見たのはずっと昔のことだ」
「うん……でも…でも……。嫌われるんじゃないかって……宇未ちゃんから……琴音から……」
「そんなことないのは希依ちゃんが分かってるだろう?」
「…うん」
希依はヒーロー男に抱きつかれたまま胸に顔をうずめる。
ヒュドラの赤頭が、空気を読まずに二人へ火炎放射を放つ。
「ちょっと、黙っててくれるかな」
希依を右手で抱きしめたまま、左手をヒュドラに向ける。
ヒュドラの足元と頭上に、その巨体を上回る大きさの魔法陣が現れ、そこから無数の吸盤や口、手のようなものが付いた触手がヒュドラを引きちぎり、貪り、潰す。
ヒュドラの討伐は、完了。
希依を心配し、雫と宇未が刀を構えながらヒーローに近ずいていく。
「あなた、何者?」
「君は…八重樫雫さん、そっちは東江宇未ちゃんだね。
僕の名前は
「喜多…お姉ちゃんの血縁者?」
「まって、這いよる混沌って、…ニャル子さん?」
「ハッハッハ~。残念、あれは別個体だよ。僕は宇宙人ではなく人間だ。紛れもなくニャルラトホテプではあるのだけどね」
「…雫さん、ニャル子さんって誰ですか?」
「あなたのお姉ちゃんに聞きなさい。多分困った顔しながら教えてくれるわ」
「お姉ちゃん、教えてください」
「…ニャルラトホテプ星人。宇宙人」
「間違ってはいないけど雑じゃないかな?
まぁいいや、ボクは宇未ちゃんが察した通り希依ちゃんの血縁者、というか希依ちゃんの実の父親だよ」
「父親…お姉ちゃんの、お父さん?」
「YES。宇未ちゃんもパパと呼んでくれたまえ。
それじゃあ、あんまり長居しすぎると怒られるからボクはもう行くよ。チャオ♪」
赤いヒーロー、ニャルラトホテプは希依を雫に預け、手を振りながら虚空へ消えていく。
「…行っちゃった。てか、希依さん軽いわね」
「……ありがと雫ちゃん。先に進もっか」
希依はフラフラと不安定ながらも歩み出す。
「あっちょ、希依さん!」
「お姉ちゃん!」
両側から二人で希依を支えながら次の部屋へと進んでいく。
希依の目は虚ろで、一筋の涙が流れた跡が残っていた。