ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

3 / 67
第3話

 

戦争参加の決意をした以上、戦いの術を学ばなければならない。いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生であり、いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。

 

しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある神山の麓のハイリヒ王国にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国とのこと。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かる。

 

希依達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。

 

聖教教会は神山の頂上にあるらしく、荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

 

イシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてくる。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。

 

台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――『天道』」

 

その途端、足元の魔法陣が燦然さんぜんと輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。

 

皆は初めて見る魔法に目を輝かせ、希依はこの程度のことに魔法を使うのかと呆れを隠しきれない様子。

 

王宮に着くと、希依達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。

教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。皆が何者か、ある程度知っているようだ。

美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放つ。

イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。希依や光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。

 

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

玉座の手前に着くと、イシュタルは国王の隣へと進んだ。

そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。

 

そこからは自己紹介。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

 

後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに途中、美少年の目が希依に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから希依の魅力は異世界でも通用するようである。

 

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味だった。

希依が一切戸惑わずに虹色の飲み物に口をつけたときは光輝含む皆の注目を集めた。

 

 

 

晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きベッドにすらも希依は動じることなく、どこからか取ってきたこの世界の本を読んで夜を過ごした。

 

 

 

 

翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

方向音痴な私は無くす訳にはいかない。気をつけねば。なんて希依は考えているが、ステータスプレートにマップ機能は当然ついていない。持っていても迷子にはなるのだ。

 

非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告していて希依は呆れていた。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

アーティファクト。地球でいうオーパーツのようなもの。厳密には違うが似たようなものだろう。

 

生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝く。希依も刺そうとするが刺さる気配が全くないので、袖を捲り腕に爪で切り傷を付けて血を垂らす。

 

ステラ・スカーレット(喜多 希依) 10(20438)歳 

女 レベル:MAX

天職:最強

筋力:±

体力:±

耐性:±

敏捷:±

魔力:±

魔耐:±

技能:来訪者・究極の加減

 

 

年齢以外の数値は希依には見慣れたものだった。

来訪者とは異世界に転移する際、あらゆる言語が扱えるようになる言語学者の仕事を奪い取るような技能である。

名前や年齢は分離元のステラのものも書かれていた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初にレベルがあるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

レベルは100が最大値というメルド。でもそれはMAXと表記されるのかは現状不明。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。

それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

メルドの言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

多分私を除いて。

 

「次に天職ってのがあるだろう? それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

最強を才能というのははたしてどうなのだろうか。最強というのは称号や資格であり、才能とは全く違うものだと思うのだけど…

ま、いっか。

 

「各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

あっはっは~

そもそも数値じゃないんだな~

…どうしよ、めっちゃ見せたくない。

 

メルドの呼び掛けに早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

 

…なんとも面白みのない平らな数値に一辺倒さの欠けらも無い技能。まるでインフレ最終期のスマホゲーのキャラのよう。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは……」

 

メルドの称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみにメルドのレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだが、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

 

光輝に続き勇者パーティ(仮)がステータスを見せ、それに続き希依以外の全員が見せ終えたようだ。

 

「ほら、お前で最後だ。どれだけ規格外なの…やら……」

 

何もかもが他と違うステータスを見て黙ってしまうメルド。故障かと思いコツコツと叩いたり擦ったりしているが、それが誤表示では無いのだと察する。

 

私は固まったメルドからステータスプレートを奪い取る。乙女の肉体事情を数値化したものなんてジロジロ見るなっての。

 

 

 

全員がステータスを開示し終えると、それぞれ仲の良い者たちが見せあっていると、生徒の中で唯一の生産職だった少年、南雲ハジメのもとへわかりやすい、いかにもないじめっ子、檜山とその取り巻きが標的を見つけたと言わんばかりに絡んでいく。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

メルドの表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗に聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動。

 

私はこういう輩を殴らなきゃ気が済まない質なのを、彼等は学ばなければならない。

 

「へぇ、それならえっと、檜山って言ったっけ?国が抱えるような超重要生産職、練成師を笑えるような素晴らしく輝かしいステータスをしてるのかな?」

 

「あぁ?んだよお前、部外者のお前が首突っ込んでんじゃねぇよ。

そういやメルドさんのあの反応、お前も非戦闘職なんだろ!」

 

ギャハハハと、汚らしく笑う檜山。

 

「私はいつでも弱い子と可愛い子の味方。そして、いじめっ子や強姦魔の敵だよ」

 

ドゴスッ

私の身体に触ろうとしてきた檜山とその取り巻きを、骨が折れない程度まで力加減をして壁に衝突させる。

 

「そして残念だったね。私ほど強力な戦闘職は存在しない」

 

本来『最強』という職を持つ者のステータスの数値は全てMAXと表記される。希依の場合は例外で、数値を操作しながら行動することを『究極の加減』という技能が実現している。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。