ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第31話

 

琴音が来て、一週間が経過した。

 

信憑性はともかく、世界の真実を知ってしまった雫は今後の振る舞いを、どうしても決めなくてはならない。勇者パーティの主力の一人で、天之河光輝程ではないにしろそれなりの立場、発言力があるのだから。

 

今後どうするか、その決断を一週間という期間で出した。

 

「希依さん、私は、神を倒して元の世界へ帰るわ」

 

「ん。まぁ、私に決意を伝えられてもって気が薄々してるんだけどまぁそこはいいよ。

興味本位で聞くけどなんで?」

 

「私は、南雲くんや光輝のように極端にはなれない。光輝は神に従って魔人族を滅ぼし、運が良ければ帰れるかもしれない。

南雲くんは、神もこの世界もどうでもいい。ユエさん達を連れて故郷に帰る。

世界の真実を聞いて、今更魔人族を滅ぼすなんて出来ないし、でもこの世界を放置して帰るなんて、そんなことが出来ないくらいにはこの世界で友達も出来た。

 

世界を救うなんて言わない。神は倒して、それだけをして帰るわ」

 

雫のそれは、どうしようもなく自分勝手なもの。中途半端な正義感で神を殺して、世界のその後は放置して元の世界に帰る。天之河光輝は間違いなく洗脳や催眠を疑うだろう。

 

「まぁいいんじゃない?神に負けるほど、私は雫ちゃんを弱く鍛えた覚えはないよ」

 

「中途半端に救うよりよっぽどいいです。

…お姉ちゃん、私、雫さんを手伝いたいです。いいですか?」

 

宇未は雫の手を取り、希依に頭を下げた。

 

「宇未ちゃん」

 

希依は微笑み、頭を上げさせる。

 

「それは雫ちゃんのため?それとも宇未ちゃん自身のため?」

 

「…自殺する直前まで、生きるのに必死で友達なんてつくる暇もありませんでした。泥を啜り、虫も食べ、人から逃げ隠れて。雫さんは、そんな私の初めての友達なんです。そんな友達を手伝いたいと思うことは、友達のために何かをしたいと思うことは、いけないことですか?」

 

「いんや、全然。それでこそ私の眷属だよ!私も手伝う!琴音もいいよね!」

 

宇未を思いっきり抱きしめ、琴音に振り向く希依の笑顔は太陽を錯視させるほど楽しげなものだった。

 

「おねーちゃんが楽しそうでなによりだよ。

そもそもおねーちゃん、ソラちゃんがどっち答えても許可出して手伝う気満々だったよね?」

 

「あ、バレた?」

 

「ヤエちゃんも分かってたでしょ?」

「えぇ、まぁ。でもいいの?神を、殺すのよ?そんな軽いノリで…」

 

雫は琴音を心配する目で見る。

 

「ヤエちゃん、私だって戦えるんだよ。私に理解される程度の神なんて取るに足らない」

 

「希依さん、琴音さんって何者?」

 

「琴音は全てを理解出来る超古代魔法使い。なんでも知れて割と色々できる、やりようによっては私より強い子だよ」

 

「それは心強い…というかいいの?希依さんや琴音がさんにも目的があるんじゃ…」

 

「私はおねーちゃんに会いに来ただけだよ?」

 

「私は仕事だけど、結局何すればいいのかよく分かってないしね」

 

「おねーちゃん、それはそれでどうなの?」

 

「文句はステラちゃんに言ってよ。なにも伝えずに放り込んだのはステラちゃんなんだから」

 

「ステラちゃんもおねーちゃんでしょうが」

 

「記憶の共有は一方通行なの。ステラちゃんはリアルタイムで私の記憶を見てるだろうけど私は見えない」

 

「えっ、じゃあ私とおねーちゃんのあれこれも…?」

 

(希依)に会いに来るために(ステラ)に性的拷問した子のセリフじゃないよねそれ」

 

「お姉ちゃん、セリフがなんか変」

 

「あなたと琴音さんの『おねーちゃん』『お姉ちゃん』も紛らわしいわよ」

 

「ヤエちゃんがちょっとメタイ!?」

 

「琴音だけは後々のことも考えて言っちゃダメでしょそれ」

 

グダグダわいわいと雑談に花が咲き出し、気がつけば一日が経つのだが、全員体力が並外れていて気がつく者はいなかった。

 

 

 

「ね、ねぇみんな、なんか、魔法陣光ってるんだけど」

 

「「「えっ?」」」

 

四人で雑談しながら何気なく部屋を歩き回ったり、小物を弄ったりしていると、雫が何かの魔法陣を発動させてしまう。魔法陣は強く輝き、三人の目を眩ませる。

 

光が止むと、雫はその場にはいなかった。

 

「…琴音、これなんの魔法陣?」

 

「脱出用の転移魔法陣だね。今頃ヤエちゃんは外にいるんじゃないかな」

 

「ふーん、じゃあ行こっか、宇未ちゃん、琴音」

 

「「おー」」

 

希依の呼びかけに二人は小さく拳を掲げる。

三人同時に魔法陣に乗り、雫がいる場所へと転移する。

 

先程と同じように、眩い光が三人を包み、転移が行われる。

 

 

 

光を抜けると、そこは洞窟だった。

 

「…普通さ、野外にしない?迷宮から出たと思ったら洞窟て」

 

「おねーちゃん、そんなこと言ってる場合?」

 

転移先が洞窟だが、そんなことよりも重視すべきは雫がいないこと。軽く見回してもそれらしき人影は見えない。

 

「とりあえず洞窟を出ましょう。もう外に出てるかもです」

 

宇未の言う通りに、洞窟の出口へと三人は目指す。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、琴音の魔法で尽く解除されていった。三人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に外に出た。

 

 

 

外は既に夜だった。月がのぼり、雲に隠れながらも星がチラホラと見える。

 

先に外へ出ていた雫は、上を、星を眺めていた。三人が声をかけると驚いたものの、安心した顔でため息をついた。

 

「もう一度迷宮を降りないといけないのかと思ったわ」

 

「今の雫ちゃんならそれくらい余裕でしょ?」

 

なんてことないように言う希依の言葉に、雫は不穏なものを感じた。

 

「雫ちゃん、これから毎日大迷宮往復ダッシュを修行に追加ね」

 

「それ亀仙流の修行よりも過酷じゃないかしら!?」

 

「おねーちゃんの提案は鬼すぎるし、ヤエちゃんがドラゴンボール初期の話を知ってるのにもちょっと驚きだよ」

 

「琴姉様、そこですか?」

 

いつの間にか、宇未は琴音を琴姉様と呼ぶようになっていた。呼び方だけを見たら希依の立場が低そうだが、本人たちは気にしていない。

 

「琴音も雫ちゃんも何言ってるのさ。別に石ころに亀って書いて迷宮に投げ込んだりしないし、迷宮に牛乳配達させる気なんてあんまり無いよ?」

 

「いつかさせられそうで怖いわ…」

 

「最終的にはビーム撃ってもらわないと」

 

「希依さんの『殺戮演技』にはビームがあるの!?」

 

「えっ…おねーちゃん、ヤエちゃんにそのなんちゃって武術教えてるの?無茶すぎない?」

 

「…琴音さん、どういうことかしら?」

 

「おねーちゃんのオリジナル武術、『殺戮演技』っていうのはね、早く動いて早く攻撃すれば勝てるっていうステータスにものを言わせる超脳筋武術もどきなんだよ。それにおねーちゃんの技能、『究極の加減』で力加減を微調整していろんな殺し方を出来るっていう、普通の人にはまず使えない武術だね」

 

琴音の説明を聞き、雫は希依に疑いの目を向ける。

 

「別に、殺戮演技そのものを教えてたわけじゃないんだよ?その、刀で殺すなら参考にしやすそうな戦い方が殺戮演技ってだけで、雫ちゃんに打撃で動物型ソーセージを作らせたり、切った時の摩擦熱でステーキを作らせたり、薄く焼き切ってしゃぶしゃぶに出来るようにさせたかったわけじゃないんだよ?」

 

希依は目を逸らし顔を伏せ、指を絡ませたりしながら事実を語る。

 

「なんで完成形が料理なのよ…」

 

「おねーちゃん……それだからおねーちゃんに師匠ポジは無理って魔王のときも言ったのに」

 

「やめて琴音!そのアホな妹を見る出来のいい姉みたいな目をやめて。私がお姉ちゃんなんだからね!」

 

「歳の差なんて一歳しか変わんないじゃん。二万年も生きたら誤差でしょ。たまにはおねーちゃんが私を『琴ねぇ』って呼んでくれてもいいんだよ?」

 

希依と琴音の共通点として、気に入った子に姉と呼ばせることがときどきある。宇未は素直に従っているが、愛子に母と呼ばせることには未だ成功していない。

 

「あなた達、ほんとに血は繋がってないのよね?」

 

「お姉ちゃんも琴姉様も、同じようなこと言ってます」

 

ぶつかり合う、というか乳くりあう二人を後目に街へ行こうかと悩む宇未と雫であった。





どうしても琴音ちゃんが居ると雑談が多くなっちゃいますねぇ。あっはっはー ( ̄∀ ̄)

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