ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第34話

 

「大型五重結界。魔物、魔族を隔絶指定」

 

地上の魔物の大半を圧殺したステラは街の中央で漢字のようなものが書かれた御札を五枚用意し、街全体をドームのように覆う結界を張った。

 

「あの、ステラさん、早く私の生徒達のもとへ……」

 

ステラと身長差が激しい愛子はステラの袖をチョコンと摘み上目遣いをする。ステラはニヤけるのを隠さずにニヤニヤとしながら愛子の手をとる。

 

「分かってるよ愛ちゃん。もう手遅れではあるんだけど、それでも急いだ方が良さそうだし」

 

「て…手遅れ?な、なんで言いきれるんですか!?まだ会ってもいないのに!」

 

「にゃははは。会ってはいないけど、視えるんだよ。ステラの右眼は、千里眼だからね。あぁ、設定盛りすぎとか言わないでよ?若気の至りってやつだから。今も若いけど。

ほら急ぐよー」

 

「は、はい!」

 

急ぐと言いつつ、ステラが愛子の歩幅に合わせて歩くおかげで二人は格好の的。既に街へ入り込んでいてステラの攻撃から免れた魔物達が次々と襲いかかってくる。

 

「ステラさん!また魔物が!」

 

「にゃっははは!これくらい問題ないってば。設定盛りすぎ第二弾、ステラ・スカーレットという吸血鬼は神である以前に怪異を司る吸血鬼である。ってね。

『怪異 命を削る人形』」

 

「へ?へ?」

 

二人に襲いかかる狼型の魔物の鼻先に、一つのビスクドールがくっつき、その魔物は足を止めて苦しみだす。

 

「命を削る人形。

50~60cmほどの背丈の美しい人形。特性は寝食を惜しんでまで世話をさせるほどの魅了(チャーム)と、死に至らしめるほどの原因不明の病魔。

人形ちゃんに任せてステラ達は行くよ」

 

人形は飛び回り、魔物を引き寄せ、触れた魔物から次々と倒れていく。

 

「愛ちゃんの生徒達は王宮にいるみたいだよ。…なんで戦っていないんだろ」

 

「フンっ、先生は今でも戦うことには反対なんです」

 

「ほらほらむくれてないで、結構ピンチっぽいよ?」

 

「ほんとですか!?急いでください!」

 

「いいけど、いいの?」

 

「当たり前です!」

 

「まぁステラは別に構わないんだけどさ。ほら、背中に乗ってよ。おんぶ」

 

「…ステラさんが走るんですか?」

 

「んーん、違うよ」

 

不思議そうな顔をしながらステラにおんぶされる愛子。

 

「お説教は無しでお願いね!

『怪異 ターボババア』」

 

クラウチングスタートの姿勢をしていて、背中に『ターボ』と書かれた紙が張り付いている老婆が突如現れた。ステラは一切の躊躇もなく老婆の頭の上に立つ。

 

「ちょっと!?これは絵的にマズいと思います!」

 

「れでぃー、ごー!」

 

ターボババアは本来高速道路を走る車と並走する老婆の怪異。

もちろん愛子は生身でその速度を体験したことなどなく、必死にステラにしがみつく。

 

「キャアアアアアアア!!」

 

「にゃっはははははははは!!」

 

一人は悲鳴をあげ、一人は奇妙な笑い声をあげながら髪をなびかせる。

 

「ちなみに愛ちゃん!このターボババアにはあと二段階の進化を残している!」

 

「ダメです!ぜーったいダメですよ!」

 

「にゃはははは!『ハイパーババア』!!」

 

「いやぁぁあああ!!」

 

老婆がさらに速度をあげる。音を置き去りにし、周囲の建築物にダメージを与え、魔物を轢き殺しながら勇者達のいる王宮へと走り抜ける。

 

その後、一分も経つことなく王宮へと到着した。

 

 

 

 

時刻は少し巻きもどる。

結界が破壊され、ステラが新たな結界を貼り直した直後のこと。

 

宇未による殺しと蘇生のループによる精神的ショックで寝込んでいた天之河光輝が、突如なんの前触れもなく目覚めた。

 

「…ここは、王宮か?なんだか外が騒がしいような……」

 

三週間近く眠っていたおかげで筋力が衰えているはずなのだが、光輝はそれを一切感じず、そしてその事に一切の違和感も感じない。

 

起き上がろうとすると、部屋に誰も居ないと思っていた光輝の横から声がかけられる。

 

「あ、天之河君、目、覚めたの?」

 

「っ!」

 

光輝に気配を感じさせずに横にいたのは、大人しい眼鏡っ子の恵里だった。

恵里は、何がおかしいのかニヤニヤと笑いながら光輝の方へ詰め寄った。

 

「え、恵里…っ…一体…ぐっ…どうしたんだ……」

 

雫達幼馴染ほどではないが、極々親しい友人で仲間の一人である恵里の余りの雰囲気の違いに疑問をぶつける光輝。だが、恵里はどこか熱に浮かされたような表情で光輝の質問を無視する。

 

そして、

 

「アハ、光輝くん、つ~かま~えた~」

 

そんな事を言いながら、光輝の唇に自分のそれを重ねた。妙な静寂が辺りを包む中、ぴちゃぴちゃと生々しい音が部屋中に響く。恵里は、まるで長年溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように夢中で光輝を貪った。

 

「まさか、こんな簡単に手に入るなんてね~。

光輝くんを殺したのはムカつくけどあの子(宇未)には感謝しておかないと」

 

「恵里…急に、どうしたんだい?なんで君がこんな……」

 

「なんでそんな哀しそうな顔してるの?僕、頑張ったんだよ?光輝くんを手に入れるために騎士団をお人形にして、魔人族とコンタクトをとって、お人形にした異世界人を材料に魔人領に入れてもらって、僕と光輝くんだけ放っておいてもらうことにしたんだよ?」

 

「馬鹿な…魔人族と連絡なんて…」

 

光輝がキスの衝撃からどうにか持ち直し、信じられないと言った表情で呟く。恵里は自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、恵里を信じたい気持ちから拙い反論をする。

 

しかし、恵里はそんな希望をあっさり打ち砕く。

 

「【オルクス大迷宮】で襲ってきた魔人族の女の人。帰り際にちょちょいと、降霊術でね? 予想通り、魔人族が回収に来て、そこで使わせてもらったんだ。あの事件は、流石に肝が冷えたね。何とか殺されないように迎合しようとしたら却下されちゃうし……思わず、降霊術も使っちゃったし……怪しまれたくないから降霊術は使えないっていう印象を持たせておきたかったんだけどねぇ……まぁ、結果オーライって感じだったけど……」

 

恵里の言葉通り、彼女は、魔人族の女に降霊術を施して、帰還しない事で彼女を探しに来るであろう魔人族にメッセージを残したのである。

 

恵里の話を聞き、光輝はキスで赤らんだ顔を青ざめさせた。

 

その時、ドアの辺りで何かが崩れ落ちる音がした。

 

「嘘だ……嘘だよ! ぅ…エリリンが、恵里が…っ…そんなことするわけない! ……きっと…何か…そう…操られているだけなんだよ! っ…目を覚まして恵里!」

 

部屋を覗いていたのは、中村恵里の親友であった谷口鈴。恵里の光輝に語る言葉を聞いてしまい、涙を流す。

よく見ると、鈴の後ろには大人数、恐らくクラスメイトのほとんどがそこに居る。全員が、恵里の言葉を聞いてしまった。

 

「聞かれちゃったのならしょうがない。っていうか、聞かれてなくてもやるつもりだったけど。じゃあ始めようっか、光輝くん」

 

光輝はおもむろに立ち上がり、近くに立てかけられていた、聖剣でもアーティファクトでもなんでもないただの剣を握る。

 

「うぉおおお!!」

 

「っ谷口!」

 

光輝は雄叫びをあげながら、一番手前にいた鈴に切りかかる。

咄嗟に反応した男子生徒がどうにかしようにも、迷宮でも訓練場でもないこの場に防具や武器を持ってきている訳もなく、鈴は腕で頭を守ろうとするが――

 

「アハハ♪最初の共同作業と洒落こもうか!」

 

恵里は短剣を取り出し、他の生徒達に斬りかかりに行く。

 

 

バゴーン!!

 

「滑り込みセーフ!!」

 

「アウトですよ!!」

 

鈴が光輝に腕と頭を切り裂かれ、恵里が誰かを刺そうとする所で、部屋に見慣れぬ老婆と金髪長身、見慣れた我らが愛ちゃん先生が壁を破壊して飛び込んできた。

 

全員が呆気に取られているうちに、愛子がどう見ても死んでしまっている鈴に駆け寄る。

 

「あ、あぁ…、谷口さん、どうして……なんでこんな…」

 

両腕は完全に切断されていて、頭部も頭頂部から鼻辺りまで切り裂かれていて頭蓋骨や脳の断面が覗いている。

 

「愛ちゃん、ちょっとどいてくれる?治すから」

 

ステラは襲いかかってきた光輝と恵里、背後から不意打ちしようとしてきた檜山を拳一つで黙らせて愛子と鈴のもとへ近寄る。

 

「治すって、神様は蘇生は出来ないんじゃ…?」

 

ステラは巫女服を軽くはだけさせると、右手をそこに突き刺し、血を流しながら引き抜く。

その手に握られているのは、心臓。原理は不明だが、血管から絶えず血が流れ続ける。

 

「心臓が止まっても約三分以内なら蘇生の可能性がある。小学生でも知ってることでしょ?」

 

「いやそれは…」などと周囲の言葉を無視して心臓をシャワーヘッドのように使い、鈴の頭部に血をかけていく。

 

切り目は完全に塞がり、腕は断面で塞がるのでは無く完全に新しい、新品の腕が生えてきた。

 

「神は人間を生き返らせることが出来ない。これは希依ちゃんから聞いたんだと思うけどさ、これも一種のルールとかマナーみたいなものでね。所詮は解釈次第というか認識次第というか。人を人と思わないゴミクズとか、よくわかんない理論武装してるときとかは例外的に蘇生が出来たり出来なかったりするんだよ」

 

血濡れの鈴が息を吹き返すのを確認したステラは心臓をもとある位置に戻すと、溝尾に怪力を誇る吸血鬼であるステラのパンチを喰らい悶えている三人へと振り返る。

 

「なにお腹抑えて寝てんの?さっさと愛ちゃんに土下座して謝れよ。愛ちゃんが泣きそうだよ?」

 

ステラはニヤニヤと上品な笑みを浮かべながら恵里の頭に踵をグリグリと。

 

三人はステラを睨もうとするも、ステラの目を見てつい目を逸らしてしまう。

 

ステラの目は、氷のように冷たい目をしていた。

 


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