ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第35話

 

「なにがあった!壁を破壊したのは誰だ!」

 

天之河光輝に切られた鈴をステラが治し、光輝と恵里と檜山を見下しているその時、ステラ達が入ってきた穴からメルド率いる騎士団達が駆けつけてきた。

 

ステラと愛子が口を開こうとしたが、先に光輝が口を開いた。

 

「メルド団長!敵襲です!俺がいた部屋を襲ってきたんだ!」

 

光輝はさも必死そうに叫び、恵里と檜山はニヤリと笑みを浮かべる。

生徒達は「なんだと!?」っと光輝に詰めよろうとするが、ステラが結界を張って入れないようにする。ガンガンと、この世界ではトップクラスのステータスを誇る子供たちの攻撃にビクともしないし声も届かない。

 

 

 

 

「なんだと?…貴様の眼、まさか亜人族か?」

 

「にゃはっ、間違ってはいないんだけどさぁ、死体は死体らしく黙って死んでてねっ!」

 

「ステラさん!?なんで天之河くんを!」

 

ステラが動き出し、メルド達は剣を抜くがステラはメルドでは無く床にうずくまっている光輝をメルド目掛けて蹴り飛ばした。

 

「ゥグッ!…貴様、目的はなんだ。こんな時に一体何をしに来た」

 

「んーとね、旅行♪」

 

茶目っ気たっぷりに答えるステラ。メルドは剣を振り上げ、目を血ばらせながらステラに襲いかかる。

 

「覚悟ォ!」

 

「メルドさん!ステラさんは私達の味方です!」

 

愛子の言葉は届かず、メルドを筆頭に次々と騎士団達がステラを囲う。

 

「だから死体は黙っててっての。除霊解呪は専門外なんだけど?」

 

剣を振るわれるよりも早く、騎士たちの額に御札が貼られる。

 

「『怪異 キョンシー』、なんちゃって。

効果はただの死後硬直の超促進だけどね」

 

騎士団は石像のように固まり、驚愕の表情すら出来ない。

が、メルドだけは何事もなく動け、ステラの首筋に剣を止める。

 

「俺の部下に、何をしたんだ」

 

瞼をつりあげ、冷たく怒る騎士団長メルド。額には御札が付いているが効果を発揮していない。

 

 

 

「ハッ――ニャハッ――ニャハハッ――ニャハハハハッ――ニャッハハハハハハハ!!」

 

 

 

首筋に触れる剣をに見向きもせず、嘲るような高笑い。

 

「もしかして気づいてなかった?もう死んでるよ?騎士団達と、勇者天之河光輝は、もう既に殺されて死んでいる 。今はただの意思と記憶を持った動く死体なの」

 

「なんだと!?」

 

メルドはステラの言葉に驚きながら、這いずって見上げている天之河光輝の脈を確認する。

 

脈はあるが、身体は冷たく、血色も悪い。

 

「まさか…本当に、死んだのか…」

 

「あいつの言うことは嘘だ!騙されないでくださいメルドさん!俺は平気です!」

 

手首を握られたままの天之河光輝が必死に、死に物狂いならぬ死に者狂いで叫ぶ。

 

「平気?兵器の間違いでしょ。

やっぱり成仏させるとかは苦手だから助っ人を呼ぼっと。愛ちゃん、団長さん、本物の勇者ってやつを見せたげるよ」

 

「「…?」」

 

疑問符を浮かべる二人に、ステラは不敵な笑みを浮かべる。

 

「『不遇な少女達の魔王道』より、『ジュリエット・アリエル』を出力」

 

ステラの手に白い本が現れ、勝手に開き、一枚のページが暖かくも強烈で、苛烈な光を放つ。

光がさらに強くなり、その場の全員が顔を伏せてしまう。

 

光が収まり、顔を上げると、そこにはアイマスクを着けた一人のシスターがふらつきながらも立っていた。

 

「何々何々何々何々何々何々何々!?寝てたらピカッてワーッってってここはどこ!?」

 

アイマスクを引きちぎりながら慌てふためくジュリエット。見た目だけなら聖女の彼女があたふたとしているのはチグハグで滑稽な印象を与える。

 

「「「「………」」」」

 

「ジュリエットちゃん、早速で悪いけど死体の完全浄化をお願いしていい?」

 

「…だれよあんた。べつに、それくらいお願いされるまでもないわよ。『聖閃』」

 

ジュリエットの手足に光が灯る。

 

ジュリエット・アリエル

魔王時代の希依を最も追い詰めた、使命で戦い恥辱で敗れた勇者。元シスターの聖拳使い。

 

ジュリエットは、その場の誰よりも早く跳び走り、既に死んでいて動く死体となっている騎士達と天之河光輝の急所に拳や蹴りを当てていく。

 

焼け焦げ、爛れ、炭化して、最後に残るのは原型を留めていない人骨。水分が全く残っていない骨は、ジュリエットが踏む度にザクザクと心地良い音を奏でる。

 

「ちょっとやりすぎた気もするけど、まぁ集団火葬ってことでいいかしら?土葬よりマシでしょ」

 

愛子と恵里がワナワナとなにか言いたげな目で見るがジュリエットがギロリと睨みつけて黙らせる。

 

「なんで助けなかったとか、宣うんじゃ無いでしょうねぇ?死人は死人。いくら意志を持っていても、どれだけ自由自在に動けたとしても、一度死んだ時点でそれはもうただの動く肉の塊」

 

 

壁に空いた穴から空を眺めながら、ジュリエットは語る。

 

 

 

その穴から、一人の少女が飛び込んできた。

 

「雫ちゃん!

……あれ?」

 

飛び込んできたのは、ハジメについて行った治癒士、白崎香織。敵を警戒してか、自身に幾つもの障壁を展開しながら飛び込んでくるが、そこに心配していた親友の姿は無かった。

 

「にゃっ――にゃふっ――ふっっ――」

 

周囲をキョロキョロと見渡す香織の姿に、ステラは肩を震わせる。

 

「みんな、雫ちゃんはどこ?あれ、これ結界?」

 

ドア部分の結界の向こう側にいるクラスメイト達に尋ねると、声は聞こえてこないが、何人かが香織が飛び込んできた壁穴を指さしている。

 

 

「香織、私はこっちよ。変わってないわね」

 

いつの間にか、色々と変貌していて顔つきくらいしか面影のない雫の姿がそこにあった。

右手には香織の想い人であるハジメが、左手にはハジメが戦っていた銀髪碧眼の少女、ノイントの髪の毛を掴むように持っていた。

 

「間に合っては、いなかったみたいね」

 

ドパンッ!と、不敵な笑みを浮かべながら雫は手に持つハジメでジュリエットを殴りつける。

ジュリエットは危なげなく受け止めるが、表情はさっきのような怒り心頭な顔では無く驚愕に満ちた顔。

 

「いきなりなんなのこの子!?殴るべきはあっちでしょ!?」

 

恵里と檜山をジュリエットは指さすが雫はそれを無視。

 

「希依さんに、とりあえず金髪シスターは全力で殴っとけと言われてるのよ」

 

「あのシスコン魔王何考えてんの!?下手すりゃ死ぬっての!」

 

「私に言われても困るわよ」

 

「じゃあ誰に言えばいいのよ!」

 

「それはまぁ、希依さんか琴音さんでしょうに」

 

「いつか死ぬよりも辛い目に合わせるわ。三人とも」

 

「…聖女の言葉でも勇者の言葉でもないわね」

 

「フンっ」

 

ジュリエットは完全にそっぽ向いて帰りたそうにしている。

 

武器として使われたハジメはピクピクと痙攣しているが、それに気づくものはいなかった。

 

 

 

 

「雫ちゃん、その、ちょっと見ないうちに大分変わったね。特に胸とか」

 

香織は変貌して豊満になった雫の胸に視線を寄せる。

 

「そういう香織は全く変わらないわね。特に胸とか」

 

雫にとって大きな胸は戦闘中邪魔でしかなく、香織はお世辞にも胸が大きいとは言えず、求愛的な意味で大きな胸は求めるものだった。

 

香織の素直な願望に、雫は素直な願望を返すとお互いに煽りと認識したのかバチバチと睨み合う。

 

普段なら天之河光輝か谷口鈴が間に入って有耶無耶にするのだが、光輝はもう灰で、鈴は怪我はないがまだ目覚めてはいない。

 

見ることの無いクラスカースト二人のガチ喧嘩にクラスメイトや愛子は冷や汗を流しながら見守ることしかできず、香織には般若を、雫には蛇の髪をもつ怪物、メドゥーサを幻視する。

 

否、香織の般若は幻視だが、雫のメドゥーサは幻視では無く現実。変貌して白髪となった髪が白蛇へと変化して蠢いている。

 

「か、かお――

 

「「あんたは引っ込んでて!」」

 

「「グフェ!!」」

 

立ち上がり、香織に声をかけようとした檜山と、逃げ出そうとしていた恵里は香織と雫のパンチを顔面にくらい、メキョという奇妙な音を鳴らしながら気絶する。

 

「どうしたの雫ちゃん、あんまり言いたくないけどその髪、気持ち悪いよ?触りたくないけど、抜いてあげよっか?」

 

「気にしないでちょうだい香織。あなた分かる?石化能力持ったトカゲを食べて期待はずれって言われた私の気持ちが」

 

「ごめん分かんないや。ほんとに平気?魔人族に捕まって実験動物になってたりしない?」

 

「魔人族なんかに負けるほど弱くないわよ。そっちこそ大丈夫なの?南雲くんに乱暴されたりしてない?ユエさんからの正妻イビリとか平気?」

 

お互いヘラヘラと、目が全く笑っていない笑みを浮かべながら拳を握る。

 

「「……くたばれ親友!!」」

 

無数の障壁で包まれた拳と、ステータスプレートの数値限界を超えた拳が―――

 

「痛っつつ、いきなドフェエ!?」

 

ぶつからなかった。雫が部屋に放り込んでいたハジメが不幸で最悪なタイミングで目を覚まして立ち上がり、雫と香織の拳を同時に顔面で受けた。

 

「ニャッハハハハハハハ!!ニャハッ、ニャハハハハハハハハハハハハハハっケホッゴフェッ、ヒニャニャッ」

 

しょうもなくてくだらない愉快な喧嘩を前に、最高クラスの神の腹筋は崩壊した。

 

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