ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第36話

 

「ヒニャ……ニャニャァ………ヒニャアッ!……ウゥ…」

 

「ステラさん、お腹大丈夫ですかー」

 

親友どうしの衝突から半刻ほど経過。喧嘩は、雫をジュリエットが押さえ込み愛子が説得。香織は目覚めたハジメとユエ、シア、ティオの四人で組み付かれてから愛子の説得で静止した。

 

今は、ステラは笑いすぎて痛めたお腹を抱えながら愛子に介抱されている。生徒たちは愛子を護衛していた騎士達が指揮をとりながら色々と崩壊した街での救助に向かった。

雫と香織はすんなり仲直りして、両者ともにハジメお手製の丈夫なロープで縛られながら互いの近況報告。

ユエ、シア、ティオは香織が動かぬうちにハジメに猛アタック。

檜山と恵里は気絶しているうちにハジメがより強固にした地下牢へと放り込み、鍵は愛子が管理している。

今回かなりの活躍を収めたジュリエットはステラが無事元いた場所へと送り返した。

 

魔物や魔人族はユエ達が対処していたのだが、広範囲故に雫襲来に間に合わず、残った数百の魔物と数名の魔人族は、ある者は切り刻まれ、またあるものは石となり、またあるものは歪な穴を胴に空けて死亡していた。

 

 

 

「うっ、うにゃっ、うぅ…」

 

ステラが苦しみながらも立ち上がり、雫の持ってきた銀髪碧眼少女ノイントの元へと歩み寄って行く。

 

「ステラさん?もう大丈夫なんですか?」

 

愛子が心配してステラのお腹を撫でながら付き添う。

 

「まだ痛いし、力入らないけど、最後にまだやることが、あるからね。うぅ、お腹が内から痛い」

 

「な、なにかお薬持ってきましょうか?」

 

「にゃはっはっ、大丈夫だよ愛ちゃん。吸血鬼の血より有能な薬なんて、あんまし無いんだか、らっ」

 

そう言いながらステラは愛子の手を離させると、右手の五指を腹筋に突き刺す。数秒グリグリと動かし、指を抜くと即座に傷が塞がり、血に濡れた床や巫女服が元通りになる。

 

「ス、ステラさん!?何を!?」

 

愛子だけでなく、ユエ達も驚いている。ハジメは頭部を爆散させても再生する所を一度見ているので他ほどの驚きはないが、それでも軽く引いている。愛子も見ているが、性格的に慣れることは無いだろう。

 

「さてさて、…もう回復してんでしょ、起きなって」

 

ステラがノイントの首を掴み、プラプラと体を振り子のように揺らす。

 

間もなくしてノイントは目を覚ましたがステラは揺らすのをやめない。

 

「星っ、神、ステッラ、し、主は、あなったの、退場っを、望んでっ、おられますっ」

 

「にゃははっ、何言ってるか分かんなーい」

 

「なら、揺らすのをやめ、ください」

 

「ん~、ダーメ」

 

むしろ、揺らすスピードは速まり、ブンブンと回転させる。

 

「こここっ、んなっ、こっ、無駄っ、で」

 

普段の愛子なら止めるところだが、回されているのは生徒を傷つけ自身を拉致、監禁した張本人。黙ってステラの狂行を見守っている。

 

ヒュンヒュンと音を立て始めた頃、新たな事件が始まった。

 

「「「あっ」」」

 

「えっ、ちょ、誰か紐解いてー!」

 

「「っ香織!!」」

 

ステラが手を滑らし、ノイントを離してしまった。某引っ張りハンティングRPGのように天井、床で跳ね返り、ロープで縛られていた香織と目と鼻の距離に。

 

気がついた雫はロープを力づくで引きちぎり、とハジメは組み付いていた三人を振りほどいて香織に駆け寄るが時すでに遅し。ノイントと香織の頭頂部がゴチンという古典的な効果音を立てながら衝突、両者気絶した。

 

「す、すまぬ。なも知らぬ少女よ」

 

目を伏せ、拳を握りながら演技くさい謝罪をするステラ。

 

「なにカッコつけてるんですか!

白崎さん大丈夫ですか!?あぁ頭にたんこぶがぁ…」

 

「あ、気絶してる。骨折とかは無さそうね」

 

「俺の苦労は一体…」

冷静に分析する雫、雫が来るまでに倒せなかったノイントをうっかりで気絶させたステラにガチ凹みするハジメ。

仮にも仲間の非常事態に、流石のユエ達も香織に駆け寄る。

 

 

 

二人とも常人離れしたステータスのため、目が覚めるのにそれほど時間はかからなかった。

 

先に目覚めたのは、香織。何も言わずに縛られたままムクリと上半身を起こす姿はサイボーグやロボットのようだった。

 

「…星神ステラの力、主の仰っていた通りでした。至急、対策が必要だと愚考します」

 

「か、香織?あなた何か変よ?なんか、そこに倒れてる銀髪みたいで」

 

雫が指さした方をノイントが見ると、飛び跳ねるように立ち上がった。

 

「なぜ、私がもう一人いるのですか?」

 

「「「「は?」」」」

 

香織の言葉にポカーンと口を開ける愛子、雫、ステラ、ハジメ。

 

「……壊れた。フッ、いい気味」

 

目を輝かせ、不敵に笑うユエ。

 

「ユエさん!?流石に不謹慎では!?」

 

そんなユエを咎めるシア。

 

「じゃが、これは…」

 

顎に手を当てて推理小説の探偵のように思考に耽けるティオ。

 

 

「ねぇ愛ちゃん、ステラの予想だとこれかなり愉快なことになってんだけど」

 

「やっぱり、…そうなんでしょうか。でもそんなことって…?」

 

ステラと愛子が予想したのは、香織とノイントの入れ替わり。アニメや漫画では定番のネタのひとつだが、どれだけラノベじみてて剣と魔法の世界で実は魂魄魔法というものがあろうと、ここはあくまでも現実である。そうそう有り得るものでは無い。無い……はず。

 

そんなことを考えているとノイントも目を覚ました。

 

「痛ったた、あれ、何があったんだっけ…?」

 

「香織を直しなさい!」

 

「あっぶな!?何すんの雫ちゃん!私だよ私!」

 

起き上がったノイントに雫はすかさず拳を振るった。感情の無さそうな彼女らしく無く驚きながらも、顔面目掛けて飛んでくる拳を最低限の動きで回避する。

 

「神の使徒ってわたしわたし詐欺なんて粋なことも出来るのね」

 

「だから違うってば!私だよ白崎香織!学校のマドンナ的な存在で、ハジメくんのことになると周りが見えなくなったり、感情の振れ幅が大きくて、雫ちゃんの幼なじみでハジメくんのことが大好きで、ユエに目の敵にされてて、ハジメくんの趣味を理解したくて雫ちゃんをゲーム屋さんのアダルトコーナーに連れていった香織だよ!」

 

「わかったわかったわかったから落ち着きなさい!あなたが香織なのね!?そうなのね!?そこまで自分のことを分析してると返って怪しくなるから落ち着きなさい!!そして最後のは何がなんでも忘却の彼方へと放り込みなさい!!」

 

おおよそ自覚してはいけない自身の設定を自ら言い放つ荒ぶる般若、中身香織の見た目ノイント。その両肩に手を当てて抑える雫は、見た目香織、中身ノイントの方に振り向いた。

 

「つまり、あなたがあの銀髪ってわけね!」

 

「グフッ、この肉体、軟弱すぎ…ま…」

 

縛られていて拳に対処出来なかった見た目香織のノイントは再度意識を沈められた。

 

「雫ちゃんそれ私の身体!なんで!?なんで殴ったの!?ちゃんと縛られてたじゃん!!」

 

「いやなんか、香織の顔であのキャラはなんとなくキモかったし」

 

「いまなんとなくって言ったよね!?そんな理由で殴ったの!?あとなんで私がフォローしなきゃいけないのかわかんないけど結構様になってたと思うよ!?いいじゃん真面目でクールな私も!」

 

「ダメよ!そんなの香織じゃないわ!!」

 

「雫ちゃんが私の何を知ってるの!」

 

「だいたい何でも知ってるわよ!!何年あなたの幼なじみやってると思ってるの!」

 

「雫ちゃん…!」

 

「香織!」

 

何かを再確認した二人は抱きしめ合い涙を流す。

 

 

 

「なぁ、この茶番いつまで続くんだ?」

 

「にゃははっ、それじゃあシリアスに戻そっか」

 

不敵な笑みを浮かべるハジメににゃははと微笑むステラ、手にはそれぞれ巨大な銃に異常に長い刀。

 


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