ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第37話

 

「くたばれバケモン!!」

 

「にゃっはははははは♪」

 

一発一発がクレーターを作るほどの威力のレールガンを放つハジメ、そしてステラはその銃弾を長さ2m強の黒い刀身の刀、切ったものを崩壊させる刀、『妖刀 現崩し』で切り払いながらの空中戦。

唐突に始まった怪物同士の戦闘に街中の人間たちが目を丸くしながら、ただひたすらに街への被害が少しでも減ることを願う。

 

ハジメは持ちうる最高戦力を惜しまず、全ての弾をステラに向けて放つ。

 

「来て『怪異 斧乃木余接』」

 

現れた怪異は、世にも珍しい人間の死体の憑喪神。オレンジ色のドロストブラウスの上着に可愛らしいティアードスカート、そしてカラータイツにミュールといった奇抜なファッションの、ノイントともまた違った意味で人形じみた童女。

 

「GO!余接おねーちゃん!!」

 

「その見た目でおねーちゃんと呼ばないでくれるかな、怖気が走るから。

例外のほうが多い規則(アンリミテッドルールブック)』」

 

「っっ!!」

 

怪異、余接が突き出した人差し指が、急激に肥大化してハジメが吹き飛ばされた。

 

飛行能力を持たない余接は、重力に従い地面に吸い込まれるが、身を案じず落ちるに身を任せる。

 

落ちるハジメと余接。ハジメは技能、天歩で空中を足場にして再度跳び、余接の落下先にある、空間を裂いたようなものに吸い込まれていく。

 

空中で縮地を行い一気に距離を詰めるハジメ。今度は、両手に握られた拳銃二丁によるガンカタ。被弾数は遠距離戦よりも多く、かすったり、直撃したり。いずれもステラには大したダメージにはならないが、現崩しが長すぎるため上手くハジメに当てることは出来ない。

 

「にゃは♪近接戦なら勝てると思った?ミスタードーナツのポンデリングよりも甘いよ!」

 

ステラは現崩しを持たない方の手、左手を振るう。

 

ドガン!

 

ステラの攻撃は、宙に浮く盾のようなものに命中した。盾はひしゃげるが、貫通した拳が抜けないでいる。

 

「甘いのはそっちだぁ!!」

 

ドパンッ!!ドパンッ!!ドパンッ!!

 

二丁から交互に三発発射され、全てがステラに命中した。弾は貫通せず、ステラの肉体に残った。

 

「貫通しないように威力を下げた。さらに銀の弾丸だ。それ高いんだぜ?」

 

ヘラヘラと笑うハジメを無視して、ステラは傷口に指を突っ込む。

 

「別に、抜けばいいし銀も大して効かないんだけどね」

 

胸に二発、頭部に一発肉体に入り込んだ銀の銃弾は付いた血をジュウジュウと蒸発させている。

 

「嘘だろおい…」

 

顔を顰めるハジメに対し、ステラは新たな手札を切る。

 

「光の速さの衝突事故って、経験したことある?『怪異 光速ババア』」

 

ターボババア、ハイパーババアと進化していく走る老婆の怪異の第三形態、光の速さで駆ける光速ババア。

 

「ガァッ―――

 

老婆は一切の躊躇も無くハジメに突進し、神山のある方向へと自身事吹き飛ばす。

 

神山に巨大なクレーターを作り、その中心には血が滲んでいる。神山頂上にある神殿は崩壊を始め、山は土砂崩れを起こす。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、それじゃあこっちも始めるわよ」

 

ところ変わって、というか戻って、壁に大穴が空いた王宮の治療室。

ハジメ達の戦闘を見守るユエ達に雫は刀を抜いた。

 

真っ先に動き出したのは雫と同じく近接が得意なシア。大槌状のアーティファクト、ドリュッケンを構え、柄で刀を受け止める。

 

雫が振るう刀は、ステラが愛用している刀、現崩しの模造品である現切り。線で崩壊させるこの刀に切れないものは、無い。

 

「うそっ!?」

 

「シア、退いて。『緋槍』」

 

シアを退かせて飛び出してきたのはユエ。炎の槍を雫目掛けて放ち距離をとらせようとする。

が、その槍は何かにぶつかる前に勢いが消え、炎の見た目をしたまま凍りつき、重力に従って落下した。

 

「っ!!?」

 

「『氷化消速』あなたの相手は私だよ!アレーティアちゃん!」

 

ユエの魔法を無力化したのは、大迷宮で希依のピンチに駆けつけた理解者にして超古代魔法使いである琴音。

背後に紅い目の龍と金髪紫眼のメイド、金色の毛並みの巨大な九尾の狐を従えて戦闘に参加した。

 

「……その名前は、もう捨てた。私はユエ。『蒼天』」

 

アレーティア。ユエの本名というべきか、捨てた名というべきか。全てを理解する琴音は知っているべきことなのだが、同じく一度名を捨てた琴音は捨てた名で呼ばれることの苛立ちを知っている。

 

「ごめん見逃してた!『白炎焼却葬』」

 

ユエの放った巨大な青い炎は、琴音の放つ白い炎に焼き払われた。

 

ユエの魔力量にものを言わせた強力な魔法に対し、琴音が使うのは効率、威力、範囲、汎用性と、あらゆる分野が時の流れにより完成された超古代魔法。本来発音不可能な詠唱を、日本語に訳したものを琴音は自在に操ることが出来る。

 

「…悔しいけど、勝てる気がしない」

 

冷や汗を流すユエに対して琴音はなんてことないように微笑んでいる。

 

琴音は『不壊氷牢』と詠唱し、ユエを氷の檻に閉じ込めた。『緋槍』『蒼天』『蒼龍』と、炎系の魔法攻撃を放つも、檻には傷一つ付かない。

 

 

 

苦戦するシアとユエ、音だけを残し消息不明のハジメ。残るは愛子とティオだが、愛子はいつの間にか琴音が睡眠魔法で眠らせてしまった。

 

「残るは私と貴方ですか。リンちゃんは希依様を探してきてください」

 

刀を納め殴り合う雫、閉じ込められているユエを微笑みながら見るだけの琴音。こちらで残ったのは金髪紫眼のメイドと九尾の狐。

 

メイドにリンと呼ばれた狐はコクリと頷き、どこかへ跳び去っていった。

 

「サシなら何とか…なる気がしないのぅ」

 

既に若干戦意喪失しているティオに対してメイドはニヤニヤと隠しきれない笑みを浮かべている。

 

「先手必勝じゃ!!」

 

竜人種のティオは人間形態でもかなりのステータスを誇る。メイドは両腕をクロスして構えるも、背後に吹き飛ばされて外へと出る。

 

ティオもすぐさま外に出て、巨大な竜に変化した。金の瞳はメイドを睨みつけるが、吹き飛んだメイドは埃一つ付かずに空飛ぶティオをニヤニヤと見上げている。

 

『ご主人様が苦戦する化け物に魔法使いに剣士、はたして主はなんじゃ?』

 

「まさか、それを答えるとでも?」

 

『まぁそうじゃろ――

 

「私は旧人類の最高傑作、自動人形(オートマタ)最終人形(ラストドール)です。ラストとお呼びください」

 

『答えるじゃと!?ついでに攻略法でも分かるとありがたいんじゃが……』

 

「あくまでも戦闘中ですから、作法は守らないといけません。『両腕変形(アームトランス) 鳥人(ハーピィ)』」

 

ラストはありとあらゆる超技術を組み合わせて作られた人形。永久機関やナノマシン、他にも現代の人類には発想すらない機能が山のように積まれている。

 

両腕を鳥の羽根に変化させたラストは羽ばたき、上空へと飛び上がる。

 

ティオは炎を吐き打ち落とそうとするもラストは素早く、ただひたすらに街へ被害をもたらす。

 

『クッ…』

 

「10倍速」

 

ラストに搭載された機能の一つ、時間操作。常時2倍速でようやく人並みのラストは、速さを10倍にするとさらに普段の5倍の速度で動くことが出来る。

 

「……」

 

『アッ――クッ―ンンッ――』

 

巨体であるティオに対して体格は人間とそう変わらないラストの蹴りは、速くとも重さが足りない。

ペシペシという効果音が似合いそうな攻撃は、ティオに微弱な痛みしか与えない。

 

『アンッ――もうちょっと、激しく…』

 

ティオから零れた変態発言に、ラストはより笑みを深める。

 

「2倍速。お望みとあらば、こちらはいかがでしょうか?『右脚変形(ライトレッグトランス) 巨人(ジャイアント)』」

 

はるか上空へと飛び立ったラストは、右脚だけを長さ4m、太さ1m程の巨大な脚に変化させる。腕を元の状態に戻すと落下を開始。

 

「100倍速」

 

『アガッ―――

 

ズドーン!!

 

竜が、巨人の脚に蹴り落とされる。特撮の巨大怪獣同士の戦いのように建物は尽く破壊され、地面は割れる。

 

ティオは気絶し、竜化が解ける。

 

「2倍速。…流石に100倍速は、やりすぎましたかね?」

 

しゃがみこみ、ティオの顔色を伺うラスト。気絶しながらも妖艶な笑みを浮かべているが気にせずその場を立ち去る。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

「ふっ!」

 

厳つい筋肉が浮き出るほどの身体強化をしたシアと、何故かうさ耳を生やした雫。

 

雫の蹴りがシアの鳩尾に直撃するもシアは吹き飛ばず、さらにそのまま顎に横蹴りを当ててシアの脳を揺らす。

 

「シアさん!!」

 

シアが膝をついたことで雫は一息つき、その間に未だ外見がノイントのままの香織がシアを治癒魔法で癒す。

 

「雫ちゃんなんで!なんでみんな戦うの!!」

 

「これは私が望むハッピーエンドを目指すための戦い。殺しはしないけど、香織、邪魔をするなら貴女でも殴るわ」

 

「ひぃっ」

 

狼のようなギロりという擬音が似合いそうな雫の睨みに香織は腰が抜け、股間部を中心に水溜まりができる。

 

「あっ……ぁ…」

 

「心配は要らないわ。誰も、死なないから」

 

雫は優しい笑みを浮かべ、香織の頭を撫でてからその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「邪魔するやつは、殺す!」

 

「なかなかしぶといね!」

 

住民が一人もいない住宅街で向かい合う傷だらけのハジメと余裕綽々なステラ。

 

「ちょっと飽きてきた頃だろうし、遊ぼっか『怪異 ラーメン女』」

 

向かい合う二人の間に現れたのは、おかっぱ頭で青いジャージを着た赤い目の女。名前通り、手にラーメンを持っている。

 

ラーメン女は一切言葉を発さず、ハジメに駆け寄る。当然ハジメは銃を撃ったり、駆け回ったりするのだが一切動じずにハジメと一定の距離を保つ。

 

「いま!」

 

「……」

 

「いっ――!?

あっつぅ!!」

 

ステラの合図と共に、ハジメの顔面にラーメンをぶっかけた。

ステータスがステータスだけに大したダメージは無いものの、それでもラーメンをかけられて怒らないやつはいない。

 

「死ねぇ!!」

 

ラーメン女に目掛けて撃つも、既にその場にはいなくなっていてさらなる被害をもたらすだけだった。

 

「まだまだいるよ!『怪異 ヨタロウ』」

 

次に現れるのは人型だがモヤのようなものに覆われていて実体は見えない。

 

ドパン!ドパン!

とハジメが撃つも、銃弾は通り抜ける。

 

後ずさるハジメにヨタロウは一気に距離を詰め、人でいうところの腕をハジメの銃に這わせ、その数秒後にヨタロウは消滅した。

 

「何がしてぇんだ!」

 

青筋を浮かべるハジメはステラに向けて撃とうとするが、引き金が引けなかった。否、引き金が最初から無かったかのように跡形もなく無くなっていた。

さらに銃のバレルはグニャグニャと歪み、銃弾は向きが前後バラバラに装填されている。

 

「にゃはは。ヨタロウは出会うとなにか良くないことをされる怪異。嫌がらせにはもってこいだよね」

 

にゃっはははははははは♪

 

街の中心から、神の笑いが響きわたる。


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