ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第38話

「魔王様を探すだけのつもりが、面倒なことになりました」

 

騎士から剣を向けられ、一般人から刃物を向けられ、武装した少年少女から武器を向けられるのは、頭部から狐の耳を生やし、九つの尾をゆらゆらと揺らす金髪の可愛らしい少女。宇未と同じ白黒の巫女服が綺麗な金髪をより際立たせている。名はリン。魔王時代の希依の遊び相手である。

 

 

ここは街の隅の大きな空き地に即席で作られた住民の集まるテント。

 

リンはラストに言われた通りに希依を探していたのだが、一向に見つからず、やむを得ず人間のいる地に降り立ったところ敵襲と思われ凶器を向けられているところである。

 

「聞くだけ聞きますが、あなた方の中に希依という名前の綺麗な人を知ってる人はいますか?」

 

「それなら――

 

希依という名前に少年少女達がなにか言おうとするが、騎士の一人が遮った。

 

「亜人に教えることなどない。今すぐ立ち去らないと言うのなら、騎士として貴様を斬る!」

 

騎士は、剣を両手で握りリンに襲いかかった。

 

「殺しはしないつもりですが、まぁ戦うしかありませんか。

ヘルムート王国魔王直属騎士団団長、リン。騎士として、あなたをぶちのめしましょう」

 

「オオオオ!!」

 

炎爪劇(えんそうげき)

 

リンの両手の爪が肥大化し、炎が灯る。騎士の剣とぶつかり合う爪は剣に食い込み、炎は剣を熱する。

 

「グッ」

 

「見た目が亜人だから油断しましたか?容姿が可愛らしいから手篭めにしようとでも考えましたか?

残念、私は魔族の妖狐、その上位個体である九尾の妖狐です」

 

リンが妖艶な笑みを浮かべると、騎士は剣を手放しその場で崩れ落ちた。

 

妖狐の特性の一つである魅了。生業とする淫魔や食事のために使う吸血鬼ほど本来強力なものでは無いのだが、リンのそれは質が違う。

自身に惚れさせるのでは無く、敵対者には罪悪感を抱かせ、味方には加護欲を湧きあがらせる。

 

「皆さんどうかどいてもらえませんか?私は魔王様を探しているだけなので」

 

「「「「っ!!」」」」

 

リンの魅了に頬が緩みそうになるも、『魔王』というワードに場が凍りつく。

 

すぐさま動き出したのは戦いを使命とする騎士達。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――『聖絶』!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。何者にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がリンを囲みこんだ。

 

「幼稚な魔法。詠唱はドヌーヴ様を思い出しますが、結果は大したことありませんね。『魔よ、我が魔を糧とし術者を屠れ』」

 

障壁に爪を突き刺し詠唱を唱えると、半球状の障壁はみるみる径を大きくし、リンを囲った者たちが押し退けられる。

 

「さっさと退いてください。風圧で身体が崩れますよ『翔狂爪(ときょうそう)』」

 

リンは肉体を全長2mの大きな狐に変化すると、威圧して周囲の人間を退避させる。

 

ソニックブームを発生させながら跳び去るリンを前にして追いかけようと思うものなど、そこには一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

何かないか何かないか何かないかっ──

 

武器、兵器、何もかもが無意味に終わる一方的な戦いに、ハジメはステラにダメージを与える手段を考える。

 

「アアアア!!」

 

「ニャハハ♪

戦いで解決しようとするあたり、南雲さんも主人公だね!」

 

「オラァ!!」

 

「ニャフフ。設定盛りすぎ第三弾、ステラ・スカーレットは氷の造形魔法の使い手である」

 

弾を撃ちきった銃でステラに殴り掛かるも、ステラに触れる前に氷の壁に阻まれる。

 

氷の造形魔法(アイスメイク) (シールド)。先生に教わった魔法だけど、なかなかうまいもんでしょ?」

 

「てめぇ、いくつ手札持ってやがる」

 

「ん──

 

両手を突き出し何かをしようとしたステラだったが、突然白い何かに変貌した。

丸みを帯びた形状、真っ白で艶のある表面、真円ではないが楕円でもない見慣れた形状。

つまりは、人間サイズの卵が道のど真ん中に設置されている。

 

何をしてくるのかと警戒するハジメだが、ステラ()は何もしてこない。

 

「私名物『ゆで卵』

残念ながらっていうか、喜ばしながら時間切れだね」

 

卵の後ろからひとつの顔が覗く。

 

「…あ?」

 

声も見た目も女性だが、頭だけで、首はなく黒い髪がだらりと伸びている。

 

デュラハンか?

 

そう思うハジメだったが、新たに現れた男の言葉に否定される。

 

「クハハハハ!惜しいがちげえよ南雲ハジメ。そのババアは首無しのろくろ首だ」

 

いつの間にか卵の上に胡座をかいていた色黒で美形の男は、ハジメの前で浮く生首を指さして笑っている。

 

男は生首をババアと呼ぶが、彼女の顔は若々しく快活な笑みを浮かべている。

 

「バケモンの次は妖怪かよ…」

 

「そんな鳩が小豆喰らったみたいな顔しないでよ失礼な。私はただの料理人だよ?」

 

生首だけの女の身体と思われるものが現れ、生首を首が本来ある場所まで持ち上げる。

女性的な凹凸のある身体に割烹着を身につけ、首にマフラーを巻いた、若干古風だが普通な女性の完成である。

 

――愛子さんがただの料理人とか、もはや詐欺でしょそれ。ニャハハハハ

 

ステラの奇妙な笑い声が、卵の中から響いてきた。

 

「なに!?マジか!」

 

「やっぱダメか~」

 

卵にヒビが入り、柔らかい白身と半熟のトロトロな黄身を撒き散らす。

そこからステラが現れ、卵に座っていた男は全身を卵まみれにして目元をピクピクとさせている。

 

「愛子…先生のことじゃねぇよな?」

 

「あー、うん。あんたの先生のことは知らないけど私の名前は愛子だよ。あの卵まみれはクラ坊ことクラーク。

希依ちゃんに誘われて遊びミャッ――

 

ハジメと会話すら愛子の頭をステラが掴み、遠くの山目掛けて投げつける。背景の一部になるほど遠い山にはここからでも見えるほどの大きなクレーターができた。

 

「いきなりなんてことすんのさステラちゃんや。今度は蒸すよ?それとも揚げる?」

 

吹き飛んだはずの頭は既にこの場にあり、周囲の建物には頭一つ分の穴が空き、そこから街の外を覗ける。

 

「は?いや、今ふっとんで…」

 

「ま、俺たち魔王はステータスがMAXだからな。そうそう怪我なんざしねぇよ」

 

「なろうかよ…あっ!返しやがれ!」

 

愛子にクラ坊と呼ばれた男、クラークはハジメの銃を掠め取り、カチャカチャといじりながらハジメに話しかけた。

 

「クハハッ」

 

「ッ……」

 

クラークは銃を片手で構え、引き金に指を当ててハジメに向ける。

 

「おいおい、弾切れだってのは南雲ハジメ、お前が一番分かってる事だろう?」

 

「チッ」

 

舌打ちをしつつも警戒をやめないハジメに銃を返すクラーク。

少し離れた位置でステラと愛子が顔面の飛ばし合いを始め、街や山がどんどん崩れていく。

 

「――時間切れだって言ったのは愛子さんでしょ?なに遊んでるのさ」

 

新たな声にステラと愛子は拳を止め、男はため息を吐く。聞こえてきた声にはハジメも聞き覚えがあるものだった。

 

「…喜多か」

 

九つの尾を生やした金色の毛並みを持つ狐に乗った希依が、この場の混沌を収めた。

 

「希依ちゃん遅かったね。うっかりスクランブルエッグにするところだったよ?」

 

「ごめんごめん愛子さん。ちょっと迷子になってたよ。リンちゃんもありがとねー」

 

希依が隣に佇む狐を撫でると、金髪の少女に変化した。人間の姿になっても希依が続けて撫でると、頬が緩み九つの尾がフリフリと揺れている。

 

「…お前ら何しに来たんだよ」

 

「世界を管理する神の仕事は、人類が滅ぼうと、己を崇拝する物が居なくなろうと、ただひたすらに見守ること。決して、自分の趣味のために直接介入してはならない。それを許されるのは、ステラと最高神(師匠)のみ」

 

ステラは空を見上げながら語る。

ハジメと戦っていた時とも、愛子とじゃれあっていた時とも違う、正しく神々しいとでも言うべき雰囲気を醸し出すステラにハジメは声を出すことすらままならなかった。

 

「おねーちゃーん!!」

 

「ハジメ!」

 

その場の全員が口を閉じたそのとき、上空から琴音と雫、ラストを背に乗せた赤眼の黒龍と、シア、ユエ、香織、愛子を入れた氷の檻を背に乗せ、檻から伸びた氷の鎖で繋がれた首輪を着けた黒竜がステラたちの元へ降り立った。

 

「もう!おねーちゃん、一人でどっか行かないでよ!また迷子になってたんでしょ!」

 

「んー、ごめん琴音。せっかくステラちゃん達が真面目な雰囲気にしてくれてたからその話はあとでいい?」

 

素で緊張していたハジメを除いた愛子(魔王)、クラーク、ステラは照れたように顔を逸らしている。

 

 

──ふふっ、私が来たからには、その気遣いは無駄に終わりますよ

 

とつぜん何も誰もいないはずの方向から女性の声が聞こえ、全員がそこに目を向ける。

 

そこに居たのは、一人の女子高生。配色を黒で統一したどこかの学校の学生服、足首近くまで伸ばされたクセひとつないサラリとした黒髪、ヘラヘラとした笑みを浮かべた顔は化粧っ気は無いものの整っている。

 

「誰だ。つーか、何だ、お前」

 

最初に話しかけたのはクラークだった。

 

クラークの質問に、女子高生は素直に答えた。

 

「希依お姉様とステラお姉様、琴音さん以外の方ははじめまして。

私は隔離高等学校、未知系創作科1年、楽羅來(らららい)ららと申します」

 

「ららちゃんには秘密兵器の制作をお願いしてたの。みんな仲良くしたげてね」

 

自己紹介を終えたららがこの場に来た理由をステラが説明したのだが、希依と琴音を除いた全員が警戒をやめない。

その様子に、ららはより一層笑みを深めて口を開いた。というか、語り聞かせた。

 

「魔国ヘルムート13代目国王、独身王(読心王)クラーク。理解者に義理の娘、マーフィという鬼神と人間のハーフの女の子をもつ。極度の親バカだが娘へのお土産ではかなりの高確率で詐欺、ぼったくりの被害に。

希依お姉様が王になってからはマーフィさんの経営している魔物達の動物園に勤務。

 

魔国ヘルムート11代目国王、卵王愛子。日本産まれの首なしのろくろ首。料理が得意だが極めて特出しているのが卵料理。無機物、有機物問わずあらゆるものを卵料理にしてしまうレシピは魔法以上の効力を発揮することも。クラークさんとはほぼ同時期に産まれた幼なじみでしたが、時間軸の都合でクラークさんよりも数万年年上。

 

ヘルムート王国魔王直属騎士団団長、リン。九尾の狐となる以前は普通の妖狐でしたが、両親と弟の仇である当時の勇者、織田(おだ)光亮(こうすけ)との戦闘中に九尾に変化した結果、元に戻らなくなった。国中の強者たちに鍛えられていてヘルムートでは最強である魔王を除けば五本指に入るほどに」

 

希依が呼んだという元魔王二人とリンについて、楽羅來ららは知らないはずの情報を語る。

 

「へぇ、よくもまぁ大した意味も無いもの集めたね。情報源はどこなんだか」

 

あまり動じなかった愛子はクラークの顔をチラリとみる。

 

クラークの顔が表しているのは、恐怖。

 

「…ババア、気をつけろ。こいつの心、人間とは思えねぇ。覗こうとしただけで強引に追い返しやがった。それもかなり機械的にだ」

 

「それはまぁ何回か心も身体も創り直してますから。って、こんなことしてる暇ほんとにないんでした。そろそろ急拵えの足止めも限界です。ステラお姉様、こちらをどうぞ」

 

「おおー!思ってた以上に小さくなったね」

 

ステラが受け取ったのは凹凸のないシンプルな形状の赤いハンドガン。

 

その銃の名は『ニルヴァーナⅡ』

 

かつて修行時代のステラが右眼を犠牲に封じ込めたものの改良、改悪したものだった。

 

 





楽羅來らら 16歳 未知系創作科
『楽羅來ららちゃんは語りたい』
『楽羅來ららは語りたい(ブログ)』
の主人公にして語り手。

限界が未知の物質創造能力をもつ。

脳を『知りたいことをなんでも知れる脳』に創り変えている。

極度の語りたがりで、知ろうと思えば分かることも出来るだけ人に聞くようにしている。

隔離高等学校に在籍。普段は同じ未知系の生徒と語らうなどして数年続くゴールデンウィークを満喫中。

身体能力はそれなりに優れているが、あくまで一般人程度。

希依、ステラを『お姉様』と呼ぶのは、ららと同じく二人が主人公であり、ららよりも早く生まれたからであり、血の繋がりがある訳では無い。

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