ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
「エヒトルジュエの名において命ずる『平伏せ!』」
「うるさい黙れ」
エヒトルジュエという名を名乗り叫ぶ金髪金眼で、平凡な顔立ちの男。
対するは、赤いショートヘアに茶色の眼、左目に片眼鏡をかけ、首と左足には動物用の首輪のようなものを身につけ、髪をひと房紫のリボンで括り、猫をモチーフとしたスリッパを着用し、ワイシャツ一枚を第3ボタンまで空けて身につけた属性過多な少女。名を
両者は神域とでも呼ぶべき神々しい雰囲気の場で向かい合う。
「『神言』が通じないだと?それにこの肉体、妙に馴染むがあまり動けぬか」
「ららは足止めだけって言ってたけど、手加減は無理かも」
「我が使徒よ、この人間を殺せ!」
「リンドブルム。性質は高速飛行」
「なっ!! ──グッ」
使徒達は回避するが、主が不調な上、敵の手にあるこの状況では下手に攻撃出来ない。
「フェンリル。性質は神殺し」
手刀をエヒトルジュエの頭部に突きつけると、
「今すぐコレを殺されたくなかったら、わたしがいいと言うまで動かないで」
「エヒトルジュエの、名において「うるさいってば」ウグッ…」
抵抗するエヒトルジュエを
「ブラトム。性質は転移」
神域に神の使徒達を置き去りにし、
「時は来ました。これより神話は終わり、過激で危険な二次創作の始まりです」
ららがステラに銃を渡すと、空を見上げた。そこには渦巻きのような何かがあり、二人の人影が吐き出されるように出てくる
「琴音、お願いね」
「おっけー。『透覆幕光収壁』」
ユエ達を閉じ込めていた檻が消え、その代わりと言わんばかりに街をガラスのようなものがドーム状に覆う。
「懐かしいですね、琴音様の超差別的殺戮魔法。エヴァポレーション」
「何よその聞くからに物騒な魔法は」
魔王達やステラ以外の全員が気になったことを雫が代表して言った。それに答えたのは、それを懐かしんだラスト。ではなく楽羅來ららだった。
「
かつて琴音さんはこの魔法で敵国を覆い、軍人達を蒸発させて戦意を喪失させました」
ららの言葉を聞き流しながら、雫は刀を抜く。
二人の人影のうちの一人が、もう1人を担ぎあげ、地面に叩きつけた。落ちてきたのは、金髪の男。その上に赤髪の少女が着地した。
「らら、ちゃんと連れてきたよ」
「えぇ。ありがとうございます。
さぁ、八重樫雫さん、現在
「え、えぇ。ええ?あの、さっき渡してた銃は使わないのかしら?」
倒すべき相手が既に瀕死で戸惑う雫の背をステラは押した。
「これを使うのはこの後のお仕事で。そこの神を殺すのはステラとか希依ちゃん達とか、そこのららちゃんと
本当は南雲さん達と協力してって感じにしようと思ってたんだけど、希依ちゃんがやりすぎちゃったみたいだしね。
だからこそ予定を繰り上げて今に至るんだけど」
「別に俺は誰が殺そうとどうでもいい。八重樫、しっかり殺れよ」
さらに後押しするハジメ。そもそも今のハジメには戦う武器がほとんど残っていないのだが、そこには誰も触れない。
「はぁ。分かったわよ。それじゃあえっと、誰だっけ」
雫はエヒトルジュエを踏みつける少女に尋ねる。
「絶対的百獣王者
無駄に中二くさくて長ったらしい苗字は無視して雫は刀を肩に乗せる。
「それじゃあ子猫さん、そのクズ上に投げてもらっていいかしら」
「うん、分かった。悪鬼。性質は怪力」
豆粒程になるくらい高く投げられたエヒトルジュエ。雫は、調子を確かめるかのようにつま先でトントンと地面を蹴ると、飛び上がった。
「八重樫流殺戮演技、三の型。空乱劇」
空を蹴る雫はエヒトルジュエに追いつくと、出鱈目かつひたすらに切りまくる。
すぐに原型は無くなり、血肉や臓物は街中に飛び散った。
断末魔も聞こえず、エヒトルジュエは死んだかと思われたが、その期待はすぐさま砕かれた。
エヒトルジュエの肉片達は、その一つ一つが再生を始めた。まるで、切り離されると複数の個体に増殖するプラナリアのように。
「嘘でしょ…」
数千人の金髪の全裸の男、エヒトルジュエが街に放たれた。
「「「「よォくも!エヒトルジュエの名において命ずる!『平伏せェ!』」」」」
全エヒトルジュエが同時に叫んだ。
明らかに、統制がとれすぎている。
雫や畑山愛子、ハジメ達に凄まじい重圧がかかる。足元の地面はひび割れ、足がめり込む。
この場では飛び抜けて弱い愛子は希依が抱き抱えることで守ったが、ららは崩れ落ちるように膝をつき、グシャッと潰れてしまった。
「ちょっ、大丈夫?」
余裕のあった魔王の方の愛子がららのあまりの弱さに狼狽えるも、ららはすぐに蘇った。
血肉の中から、植物が成長するように。赤子姿から幼女、少女、童女とみるみる成長していくも、その段階で成長はとまり、元の姿にはあと2~3歳ほど足りない。
「残り残機27京3598兆9807億4268万4456、まったく、私の弱さには呆れますね。残機が減った上、耐えられるように密度を濃くしたら縮んでしまいました」
「わ、可愛い~、じゃなかった。ららちゃん服!服!」
ステラが抱きしめそうになるも、ららは裸だった。そのことに気がつき、吸血鬼の創造スキルで即席のワンピースを手渡すも、ららはそれを断った。
「いえ、お気になさらず。私が創れますから」
そう言いながらららはさっきまでと同じ黒い学生服を直接身の回りに創る。サイズも小さくなっているので、今のららは中学生にしか見えない。
「らら、大丈夫?」
「ええ。大丈夫です子猫さん。ただ、流石に不便ですね。ステラお姉様、私たちはもう帰っても大丈夫ですよね?」
「えー、帰っちゃうの?んんー、まいっか。じゃあまたね、ららちゃん、子猫ちゃん」
「はい。ではまた」
「またね、みんな」
ららは赤い紙を二枚創り出すと、一枚を子猫に手渡す。
「そうそう、あのエヒトルジュエの肉体は私が創ったものです。適合率100%オーバー、他の肉体に憑依することは出来ません」
最後にそう言い残し、二人は紙を破ると、最初からいなかったかのように跡形もなく消えていった。
「ほらほら、二人が帰って終わりの雰囲気になってるけど今絶賛地獄絵図真っ只中だよ!ステラちゃんの言ってたこととか無視して大丈夫だからみんなでさっさとぶっ殺す!『光撃』」
琴音が声を張り上げながら、殺戮光線でエヒトルジュエ達を殲滅しているが辛うじて抑え込む程度。次々と干からびた死体が積み重なる。
「琴音ごめん!因果律コントロール、MAX!」
因果律を操作技術を最大値まで極めた希依のデコピンで竜巻が起こり、死体ごとエヒトを吹き飛ばす。
「スクランブルエッグと卵焼き、ポテトサラダってところかしら」
両手を手刀の形にした愛子はエヒト達に飛びつき、卵料理の山を築きあげる。
「こんなことで、諦めてられない!八重樫流殺戮演技、壱の型、流波劇」
一切の音もなく刀を振るいながら回り舞う雫。その静かな舞はエヒトの倒れる音すらも無い。
「俺は集団戦は苦手なんだが、なぁ!」
元魔王にして妖怪覚のクラークは、特殊な何かをするでもなく純粋な暴力でエヒトを殴り飛ばす。飛んだエヒトがエヒトを殺し、その死体がエヒトを殺す。計算し尽くされた暴力を振るうクラークが集団戦を苦手と言うのは明らかな虚言だろう。
おおよそのエヒトルジュエを倒したきった頃、街を覆った琴音の魔法を破壊し、ガラス片のようなものを散らしながら数人が降り立った。
そのうちの一人が、ステラの目的。
その名はブローベル。エヒトルジュエを含むこの世界のあらゆる全てを管理する、末端の神である。
「にゃっはははははははは♪もう逃がさないよ、裏切り者。ステラの仕事を増やしやがって……」
絶対的百獣王子猫。18歳。
未知系幻獣科10年生。
人類の創作した生物の力を使える。
人類最強の座に君臨する最も人外に近い生命体。
身につけている特徴的な小物は全てららが創ったもので拘束具の役割をもっており、子猫を人類の枠に押さえ込んでいる。
異能の都合上軽度の厨二病であるのだが、気だるげ、眠たげな雰囲気である程度中和されている。