ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第4話

 

「こらー!何を笑って…なにをかっ飛ばしてんですか!仲間を殴るなんて先生許しませんよ!ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」

 

ちっこい体で精一杯怒りを表現する愛子先生。

 

「あ、ごめん愛子ちゃん。つい殺意を沸き立てられて」

 

そう言いながら希依は気絶している檜山の未だ握られているハジメのステータスプレートを奪い、ハジメに手渡す。

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

そう言って「ほらっ」と愛子はハジメに自分のステータスを見せた。

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。

 

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子

 

「愛子と名のつくものは食料関係に強くなるのかな」

 

「「へ?」」

 

「あーいや、知り合いに愛子さんっていう最強の卵料理人がいてね。愛子ちゃんもその類なのかなって」

 

「最強の卵料理人ってなに!?」

 

「えと、ハジメくんでいいんだよね?安心していいよ。料理人ですら料理を極めて魔王級に強くなった人もいるんだから。きっと強くなれるって」

 

希依はハジメの肩をパシパシと叩くとなにかを感じとった。

 

手のひらを眺める希依。

 

「安心していいよ。ハジメくん、愛子ちゃん。カオティックチーレムエンドが君を待っている!」

 

「カオティっ、なんて?」

 

「おっと、聖女っぽい子に睨まれてるから私は行くよ。じゃね~」

 

ハジメと愛子、そして希依に般若を幻視させる白崎香織から逃げるようにその場から去る希依。

 

 

 

逃げ出した希依が向かう場所は図書館。昨日のうちにメイドから場所は聞いている。そう、場所は。

 

 

 

「…驚いた。まさか迷わずに一発で辿り着くなんて」

 

希依はステータスの他にも規格外な要素を秘めている。

かつて軽いジョギングのつもりが地球を六周走ったあと迎えに来てもらってなんとか帰ることが出来るという奇跡的なまでの方向音痴を希依は秘めていた。

 

「あのメイドさん道教えるの上手なんだ。名前聞いておけば良かった」

 

とはいえ、そのメイドは今この場にいない。

 

「~♪~♪」

 

もともと読書好きどころか活字中毒予備軍な希依は図書館の奥の本棚の端からどんどんと既読本の山を築き上げていく。

魔物図鑑、魔導書、歴史書、その他童話や小説などジャンルを問わず読み、本を片付けずに積み重ねていくので司書が睨みつけるも希依は一切気にとめず読み進めていくので、諦めた司書は希依の読み終えた本を片っ端から元の場所へと返していく。

 

そうして過ごすまま二週間が経過。10万を超える冊数の本を希依の圧倒的な集中力、耐久力をフル活用して短時間で読み終えた。

 

「ケモ耳っ子、ここではちゃんと国なんだ。ちょっと行ってみたいかも」

 

「ヒィッ!しゃ、喋った?」

 

二週間ぶりに口を開いた希依に驚いたのは黒髪の練成師の少年、南雲ハジメだった。

 

「およ、こんにちはハジメくん。どったの?みんな訓練とかしてるの?」

 

どうした?はこちらのセリフだと言いたいのを飲み込みハジメは答えた。

 

「ぼ、僕戦闘は苦手だから、せめて知識を身につけようと思ってさ」

 

「ふーん。どんな本が読みたい?良ければ紹介するよ」

 

「そ、それじゃあ魔物に関する本とこの世界の歴史に関する本が欲しいかな」

 

「おっけー。3秒ほど時間ちょうだいね。『敏捷MAX』『空気摩擦min』」

 

希依は音を置き去りにし、埃一つ立てずに本を四冊抱えて帰ってきた。

 

「はいっ、これがオルクス大迷宮の魔物図鑑の上巻下巻、こっちは宗教味の強い胡散臭い歴史書、こっちは反逆者って人達をボロくそ叩きまくってる宛にならない歴史書」

 

「あの、普通の歴史書はないのかな?」

 

「むしろあると思う?こんなとち狂った世界にまともな歴史書なんて」

 

「あ、あははは」

 

「じゃ、私はなんか食べるもの探してくるから」

 

「う、うん。喜多さんは訓練とかいいの?ずっと本読んでたみたいだけど」

 

「私は勉強とか筋トレとかは嫌いなの。じゃね」

 

あ、メイドさんちょうどいい所に。お腹すいたからパンかなんかちょうだーい

 

かしこまりました。どうぞこちらへ。

 

 

そんな言葉を残して希依はその場から去っていった。

 

 

 

 

硬いフランスパンのようなパンをメイドから貰った希依は目的もなくなにか面白いものはないかと歩き回っていると、王女、リリアーナと遭遇した。

 

「あ、リリィちゃんじゃん。おはよー」

 

「希依様ですね。おはようございます。どうかされましたか?」

 

「んー、この国の本をあらかた読み終えたから暇なんだよね。なんかいい暇つぶしない?」

 

「暇つぶし、になるかは分かりませんがこれから訓練場に行くところですし、ご一緒しますか?」

 

「まぁそれでいっか。案内よろしくね」

 

「王女に道案内をさせたのは、恐らく希依様が初めてでしょうね」

 

リリアーナは愉快そうに微笑みながら希依に並び立つ。

 

「私、これでも昔はヘルムートっていう国の王様やってたの。だからなのかあんまりリリィちゃんのことを高嶺の花みたいには扱えないんだよね。普通に友達とか妹って感じ」

 

「ヘルムート、ごめんなさい、聞いた事のない国ですね」

 

「そりゃそうだよ。愛子ちゃんとかハジメくんのいた世界とはまた違う世界の国だからね」

 

「希依様は、以前にも異世界に召喚されたことがおありなよですか?」

 

「実は結構よくある事なんだよ?寝て起きたら異世界に、とか死んだと思ったら異世界に、とか」

 

「なるほど、興味深いですね」

 

「ま、そういう小説があと二千年くらい経てば出てくるんじゃないかな。異世界召喚ものの小説」

 

「小説のことだったのですね」

 

「ま、今回は現実で起きちゃったわけだけど。まさしく、現実は小説よりも奇なりってわけだ」

 

「現実は小説よりも奇なり。勉強になります。あ、着きましたよ。ここが訓練場です」

 

リリアーナが扉を開けた先にあったのは騎士と生徒たちが剣を握り、お互いに叫びながら打ち合う光景だった。

 

「低レベルな…

ねぇリリィちゃん、この国攻められたら滅ぶんじゃないの?」

 

「なぜ、そう思われるので?騎士団長メルドを筆頭に魔人族に引けを取らない強者が多くいると思いますが」

 

「んー、お互いに人間だからか無意識に加減してるとか、声を出しながらの攻撃は負担が増える上に奇襲が出来ないとか、色々言いたいことはあるけど何より無駄なのは生徒たち全員、殺して生き残る覚悟が全くない。

殺さない前提で鍛えてるならともかく、戦争に備えて鍛えてるなら覚悟のない訓練は無駄に終わる。

どれだけ強くなっても、相手を殺せなきゃ意味が無いってこと」

 

「しかし、皆様はそういったことと無縁な世界からいらしたのですよね?それなら仕方ないかと…」

 

「仕方ない、なんてのはただの甘えだよ。あの吐き気がするようなイケメンは二十何人かを巻き込んで戦争に参加すると決意した。反対してた子も居たにも関わらずね。そんな奴が覚悟出来てないなんて、人間として最低だと、私は思う」

 

「希依様は、どうなのですか?人を、殺す覚悟はもう出来ているのですか?」

 

「…私ってさぁ、実は結構人間としてぶっ壊れてるんだよね」

 

「実はというか、二週間も食事や睡眠を取らずに本を読む方は壊れているかと思いますが」

 

「そういうことじゃなくってね。

産まれてから十年くらい、愛とか優しさとかと無縁の生活を送ってたんだ。向けられる感情は妬みや嫉妬、嫌悪、その他負の感情を色々とね。

殺されて当然だった私は、そもそも殺しを悪いことだなんて知らなかったんだよ。死ぬっていうのは現実という地獄からリタイアするってことだとずっと思ってた」

 

「神は…」

 

「え?」

 

「神はお救いには、なられなかったのですか?」

 

「ないよー、ないない。ここのエヒトってのがどんな畜生かは知らないけど、私の生きた時代にはそもそも神なんて居ないってのが通説だったし、居たとしてもその神は人を救いなんてしない。見守るだけの存在だったんだよ」

 

「そんな…そんな世界」

 

「恐ろしい?怖い?」

 

「え、ええ。そんな世界、考えられませんわ」

 

「産まれてからずっとこの世界のリリィちゃんにしてみたら確かにそうなのかもね」

 

神の奇跡は人間に堕落をもたらす。なんて言うのはきっと野暮というもの。かな?

少なくとも言うだけ無駄か。

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