ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
「ステラちゃん、来たよ」
「にゃはは、ん、分かってる。
さぁ、南雲さん、そして雫ちゃんも!」
「え、なに?」
「んだよ」
「ここまでお疲れ様! こっから先は二次創作の中でもぶっちぎりの危険度。あとはステラ達で、ていうか本当はステラだけでやらなきゃいけないことだから、安全地帯でちょっとまっててね!」
「「はぁ!?」」
雫やハジメ、ユエにティオにシアに香織、そして宇未とラストは、かつてステラがハジメと戦ったときにも使われた、空間を裂いたようなものに吸い込まれていく。
「あっ、ちょ、南雲くん!? 八重樫さんも!」
「ステラちゃん、愛子ちゃんを忘れてる」
「あ、ごめん愛ちゃん」
希依の腕の中で慌てふためく愛子は地面に降ろされる。
「愛ちゃんの生徒の子達は保護してるから、頑張ってまとめておいてね」
「えっ、ええ!?」
「後でね、愛ちゃん! 愛してるぜ!」
「え、あ、えっと、きゃあああ!」
愛子の足元が裂け、吸い込まれていった。
愛子が落ちてきたのは、柔らかいソファだった。
白い机、白い椅子、白い紙、白い本棚、白い本、白い地球儀、白い空間。
全てが白いその空間に愛子は、愛子たちは送られた。
愛子の生徒たちは一人も欠かさずその場におり、他にもさっきまで戦場にいた者たちもここにいた。
「先生、怪我はありませんか?」
「あ、八重樫さん……。あの、ここは?」
「それがさっぱりで。宇未さんは来たことがあるそうなんですけど、詳しくは知らないそうです」
愛子が腰掛ける二人掛けのソファに雫も腰掛け、一方を目を細めながら見つめる。
「そう、ですか。あの、八重樫さん?やえ……っ!!」
雫の見る方向を見て、愛子は目を見開いた。
そこに居たのは、赤い糸で縛られ、唇や股間部を強制的に押し付け合わせられる、天之川光輝と檜山大介。いつかと同じように、この場にいるべきでない二人は物理的縁結びで拘束されていた。
そしてもう二人、物理的に縁結びされている二人を、というか檜山を、目を血走らせて睨みつける中村恵理。もう一人は、ウルの街に六万の魔物をけしかけて、愛子を殺そうとした清水幸利。中村は首から下を御札に包まれ、ミノムシ状態で横に倒れながら涙を流す。同じように拘束されている清水の顔には、表情らしいものは見られなかった。
「一体どういうことですか!? 天之川くんは、それに清水くんも確かに死んだはずじゃ……」
「あれだけじゃないわ。先生、あっちも」
雫は死んだ魚、もしくはゴーレムのような無機質な目をしながら別方向を指さした。
「「私の身体、返しなさい!」」
お互いに身体を傷つけないように掴み合う二人の少女。
白崎香織と、神の使徒、ノイントがお互いに自分の身体をもつ者相手に、傷を負わせられないキャットファイトを繰り広げる。
「も、もう先生には何がなにやら~」
両手で顔を覆って俯く愛子。
「あっ、ちょ、先生!? 」
愛子とその生徒たちが状況についていけず混乱しているのにも構わず、リンは宇未に話しかけた。
「東江宇未さん、ですよね」
「っ、はい。あなたは、えっと……」
この場に送られる前でも顔見知り程度だった宇未は、緊張気味に返した。
「私はリンと申します。十四代目魔王、希依様の頃にヘルムートの騎士団長をしていました」
「はぁ。えっと、リンさん、なにか、ご用でした、か?」
「そうかしこまらなくていいですよ。こんな体格なので、魔王様方のようにリンちゃんとでもお呼びください」
「えっ、……いや、その、恐れ多いというか、年上をちゃん付けで呼ぶのはなんか……」
「あはは、まぁ呼びやすいように呼んでくださって結構ですよ。私は、あなたとお話したいんです」
「話、ですか?」
「ええ、お話です。雑談と言ってもいいかもしれません。
……東江宇未さん、私は、貴女が妬ましくて、そしてとっても羨ましいです」
「え?」
「私は、魔王様の師事では強くなれなかった。魔王様に助けていただいて、他の誰かを助けられるくらい強くなりたいと誓ったにも関わらず、私を鍛えようとして下さったにも関わらず、結局私はラストさんや琴様に強くしてもらったんです」
「あの……でも、それって」
「いえ、分かっていますよ。相性が悪かったからだというのは」
「そういえば、お姉ちゃんは、ちょっと悔しがっていました。『私に師匠は向いてない』『ご両親から預かった大切な子を、結局人任せにしちゃった』って」
「そう、でしょうね。あの方はそういう人です。心は誰よりも弱いのに、強がって何でもかんでもやりたがるんです。琴様は、そんな魔王様を『ありとあらゆる物事に対して方向音痴』と称していました」
希依には、才能と呼べるものが一切無かった。学者が向いてるとか、芸術家が向いてるとか、人の上に立つ才能も無ければ人の下で支える才能も無い。
努力を努力と思わず嬉嬉として技術を身につけていった希依にとって、人にものを教えるというのは何よりも苦手なことだった
「リンさん、私、あなたが羨ましいです」
「はい?」
「私は、誰かのために強くなりたいだなんて、全く思っていませんでした。復讐のために、八つ当たりのために、勇者を殺すために。私が力を欲した理由はそんな、お世辞にも綺麗とは言えない理由でしたから」
「そんなこと、ありませんよ」
「私、怖かったんです。勇者を殺した後。人に恨まれるのも怖かったし、自分が迷わず殺せたのも恐ろしかった」
「奇遇ですね、私も、勇者を殺してるんです。復讐で。八つ当たりで。
それでも、多分、私はあなたよりは恵まれていたんでしょうね。その勇者を殺しても恨むような人はその場にはいませんでしたし、家族の仇という口実もありましたから。
実を言うと、宇未さん、あなたの過去、少しだけですが聞いてます。その恨みつらみの全てを理解できるなんて、言えません。それを言えるのは理解者である琴様と、似た過去をもつ魔王様だけでしょう。
あなたの行いは許されざることだと思います。それでも、理解はされるべきです」
「理解……?」
「私の時には琴様がそうでした。琴様は、私の恨み、憎しみを間違うことなく理解して下さり、その上で正しく導いて下さいました。
だから、辛いことを誰かに、大切な人に理解してもらうというのは、とっても大事なことだと思うんです。
宇未さん、あなたにはそんな人はいませんか?」
「……私に。私の大切な……」
宇未は自身を友と呼んでくれた雫、生徒と言ってくれた愛子、妹として見てくれたユエをチラリと見て、「なにか、違う……?」と、顔を伏せる。
「宇未さん?どうかし──」
リンが宇未の顔を覗き込もうとした時、空間に鈴の音が響いた。
チリンチリンという音に気がついた全員が動きを止め、辺りを見回す。
ずっと笑みを浮かべていた顔を引き締めたラストと、宇未と話していたリンは、自然に空いていた不自然な誰もいない場所で頭を垂れた。
二人の前に、何の脈絡もなく、いかにも『神様』といった風貌の白髪白髭の老人が降臨した。幼女状態のステラによく似た、金髪赤眼の幼女を肩車しているが、それすらも様になっている。
「そうかしこまるな、面をあげい。儂はもう引退したようなものなのじゃから」
老人の言葉を聞いた二人は立ち上がって一礼すると元いた場所に戻った。
「リンさん、あのお二人は……?」
「私が紹介せずとも、自己紹介して下さいますよ」
そう言われた宇未は軽く目を擦ると二人の顔を見る。幼女は一度宇未を見て、軽く手を振ってから視線を戻した。
先に話し始めたのは、幼女の方だった。
「……あたしの名前は、エストレーヤ。……ステラのクローン。……出来損ないの吸血鬼」
ユエに似た、しかしそれ以上に静かな口調でエストレーヤは自身を語った。
「儂は、一応神共の王をしているジジイじゃ。ステラの先代をしておったのじゃが、あとを継がせて引退かと思ったら昇格しちまった、ただの慕われ者じゃよ」
優しいおじいちゃんのような微笑みを浮かべた神王は、腕を伸ばしてエストレーヤの頭を撫でると、エストレーヤは嫌がり、肩から飛び降りた。
「っ……痛い」
勢いよく落ちたエストレーヤは尻もちをつき、涙目になりながら立ち上がると、ソファに腰掛けた。
「あー……」
約三十名、約六十個の責めるような眼に神王は困ったような顔で頭をかく。
「あの、そのような偉い方が私たちにどのような要件で来たのですか?」
人外を除いた中で最年長の愛子が代表して聞くと、神王はすぐに答えた。
「儂の用事はそこの
神王の言葉に中村は聞く耳を持たず、目も合わせない。
「その反応は予想しておったのじゃが、それでも堪えるのぅ……」
エストレーヤにしたのと同じように、中村の頭を撫でる神王。中村は神王をギロリと睨みつけた。
「おぉ、怖い怖い。聞きたいことはおおよそ知れたのでな、儂は帰るとしよう。どうにも、儂は子供受けがあまり良くないみたいじゃしのう。やれやれじゃわい」
チリンと鈴の音が鳴ると、神王はその場から消え去った。
「……八重樫雫、東江宇未、畑山愛子、話がある。着いてきて」
涙を拭いながらエストレーヤは立ち上がると、すぐ近くで座っていた雫と愛子に手を差し伸べ、宇未に薄く微笑みかけた。
エストレーヤ・スカーレット
希依がステラに転生し、神となるための修行中にとある敵がステラを殺すためにステラのDNAから生み出されたステラのクローン。
当然神のような力はなく、吸血鬼としての力も最低限。吸血鬼のありとあらゆる弱点を兼ね備えており、吸血鬼のありとあらゆる長所を再現できずにいる。
自他共に認める出来損ないの吸血鬼。
様々な魔導書、魔道具、薬物により人並みの生活と吸血鬼程度の戦闘能力を得て、安定化してからは緊急時のみステラの手伝いをしている。
神王
希依をステラとして転生させた神。当時は、現在のステラが携わっている全世界の管理をしていたが、ステラが跡を継ぎ引退。現在は人間ではなく神々に信仰される、正しく神々の王と呼べる存在。
ステラやエストレーヤを孫のように可愛がっているが、エストレーヤには嫌われている。