ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
宇未を転生させ、エヒトルジュエに小細工を施した末端の神、ブローベル。彼は現代の装いをした人間を数名連れて、ステラ達に宣戦布告をした。掟を破り、法を犯し、原作をも侮辱して。
「小娘、貴様の時代は決して来ない!! その歳でその座に至ったことは褒めてやるが、しかし! 我らがそれを認めると思ったら大間違いだ!」
「セリフがさぁ、いかにも惜しいところまでいって全滅する革命軍とか反逆者のそれだよね。──ニルヴァーナ」
ステラはららから受け取った銃を躊躇いなくブローベルに撃ち放った。
「エヒトルジュエ!!」
いくら殺しても増殖し続けたエヒト達がブローベルの前に立ち並び、ブローベル達の盾となった。
「行け! 我が下僕たち!」
ブローベルが小物臭く、大して強くもないようなラスボスのような言葉と動作に応じて、恐ろしい攻撃が放たれる。
「かー、めー、はー、めー……」
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流、受けるがいい!」
輝く二つの光はどちらも強烈で強力。それが何かを知る希依と琴音は苦笑いを浮かべ、その二人の様子に愛子は戸惑い、クラークは警戒する。
「波ぁぁぁあああ!!!」
「エクスカリバー!!!」
自らの盾となっていたエヒトを蹴散らしながら襲い来る二つの光線。
基本的にどの世界観でも最強クラスの攻撃に、最強が立ちはだかった。
「筋力MAX」
英雄の光線を、希依は純粋な筋力で蹴り伏せた。
「畜神ブローベル、非認定転生者の確認により、悪神と認定。ステラ・スカーレットの名をもって、貴様を殺す」
ステラは銃をしまうと、ブローベルに殴りかかった。
「させるかよぉ! こっから先は一方通行だ!」
白髪の転生者が立ちはだかるが、ステラは勢いを弱めない。
「邪魔、腐れ童貞オタク、っ!」
転生者を殴りつけたステラの右腕が木端微塵に砕け散った。
「ギャッハハハァ! どうだぁ! 俺の女になりゃあ、見逃してやギャバッ」
「クハハ、女口説くにゃ弱すぎるぞ、もやしが」
転生者の能力の弱点を見抜いたクラークが、転生者を殴り飛ばした。
「死すなぞ許した覚えは無いぞ!」
「言われずともぉ!」
「そもそも、転生することすら許していないっての」
あらゆるベクトルを味方につけた拳を、ステラは最小限の動きで躱した。
「クソがァ!」
「クラーク、任せたよ」
「ったく、俺がやるまでもねぇだろうに」
言葉とは裏腹に、クラークは笑みを浮かべている。
「わりぃが、お前ら相手に手加減できる気がしねぇぜ!」
クラークの正拳突きが音もなく半数の転生者をふきとばした。
青いコートを羽織った少女が紅い槍を構え、愛子に駆け詰める。
「その心臓、貰い受ける──
少女が突き出すのは因果逆転、必中必殺の槍。ケルト神話の英雄の一撃を少女は愛子に放つ。
他の転生者達に注意を向けていた愛子は触れる直前まで気が付かず、槍は愛子の胸を穿く。割烹着に血が滲み、口内に血が溢れる。
「やった!」
「──ゥガっ!」
槍は愛子の心臓を貫いた槍は半ば程で止まった。少女は笑みを浮かべ、槍を引き抜こうとする。
が、槍はビクともしなかった。
愛子が槍を握りしめ、槍からビキビキと罅の入る音が響く。
「弱いねぇ。ステラちゃんから強いって聞いてたんだけど」
「嘘でしょ!?」
「あっはっはー。魔王を相手に接近戦なんて自殺行為ってことを知っておくべきだったね」
愛子槍を引き抜くと、少女ごと地面に叩きつけた。
「長年料理人やってると、その食材が何に向いてるか分かるようになる。年の功ってやつなのかね」
「このっ……クソババアがっ!!」
「私をババアと呼んでいいのは私の家族だけだ、小娘。割って溶いて延ばして焼いて、細く切れば錦糸卵。精々、相方を探すことだね」
愛子の前には槍も残らず、あるのは大きな皿に盛り付けられた山盛りの錦糸卵。程よい焦げ目と光沢が視覚から食欲を刺激する。
「
「ハァ!」
金髪の美青年が振るう風を纏う不可視の剣と、希依の振るう鈍の剣が轟音を響かせる。
青年が両手で振るうのに対して希依は利き手では無い左手で乱雑に振るい、剣先で相手の攻撃を捌いている。
「本気で戦え!」
「悪いけど、男はあんま好きじゃない上に勇者みたいなやつは大っ嫌いなんだわ」
希依は目をジト目にしながら右手に魔法陣を展開する。
「小癪なァ!」
「ヘルムート式格闘術、
希依の手刀の形の右手が鉄色に変色する。
「なにおぅ!」
不可視の剣が希依の剣を真っ二つに叩き割り、刃が希依に襲いかかる。
ガキン!!
刃は届いたものの、希依の右手には傷一つつかなかった。
「王に人の声が届かないように、魔王に人の刃は届かない」
「僕はアーサー王だ!」
「パチモンでしょうが!」
「うるさいうるさいうるさーい!!」
無茶苦茶に振るわれる剣。青年の顔は怒りで染まり、剣の動きは単調になる。
「見抜かれるとすぐ逆ギレ。これだから男で勇者風な奴は嫌いなんだよ。モノホンのアルトリアちゃんならともかく」
手刀を刀にする魔法を解いた希依は剣を掴む。
「遺伝子影響力、上昇」
希依の手足が黒く染まり、二の腕、太もも半ばからいくつもの触手に分裂する。
それは本来受け継がれることのなかったもの。クトゥルフ神話の邪神ニャルラトホテプを父に持つ希依は、活動を停止させられたはずの遺伝子を強引に働かせ、肉体を急激に変性させる。
青年の顔から生気が消え去り、涙と鼻水を垂れ流しながら声にもならぬ叫びを上げる。
「╋┣┗┫┏┳┗┯┏┫┫┫┫!!」
「うっさい」
「┏┗┃━┣┏┗┓╋╋┗━┏ァァァァァアアアアア──!!」
希依の怒りを買った騎士王の力を持つ青年は、つま先から足首、脛、膝、腿と輪切りにされ、局部に届く前に出血多量で絶命した。
「恐れろ! 怒れ! 狂え! 魔王からは逃げられねぇぞ!」
黒い褐色肌に妖力を滾らせた魔王、クラークは自信が吹き飛ばした転生者達を同時に相手をする。
「もらったぁ!」
『divide』
「あ?」
光の翼を生やした少女はクラークの鳩尾に手を当てると、何者かの声が響いた。
「がっっ──強すぎる──
パンッ
クラークに触れた手から順に肉体が膨れ、少女は風船のように破裂した。
ブローベルが少女に与えた特典は『
触れた相手の力を半減させ、吸収する
基本ステータスがMAXのクラークの力の半分を吸収するには少女の肉体は弱すぎた。
「オラッ、次ィ!」
「
全身に筋肉の鎧をまとった金髪巨漢の男のチョップはクラークの側頭部に命中。轟音は鳴り響いたが大したダメージは入らず、クラークは不敵な笑みを浮かべる。
「きかねぇよ、ボケが」
「なんだと!?」
「『僕のヒーローアカデミア』……知らねぇな。転生特典は『ワンフォーオールとそれを使いこなす肉体』個性、異能みたいなもんか」
「
攻撃しなかった方の左手でクラークの頭を挟むように手刀を放つ。
男の手刀はクラークに命中することはなく、どころか手刀ごと腕は消え去った。断面は焦げ付いていて、肉の焼ける匂いが周囲に漂う。
「イァァァ!!」
筋肉のおかげか、流れた血は少量であるが脂汗を滲ませる。
「なにを──」
ジュっと、液体が蒸発するような音とともに男は消え去った。地面は赤熱している。
「……琴音、余計なことしてんじゃねぇよ」
「アッハハハハハハ♪
早い者勝ちだよ、クラーク!」
狂ったようにケタケタと笑う琴音は、差別的殺戮光線で未だ絶滅しないエヒトルジュエと転生者達を一人一人蒸発させる。
「こらこら、食材を無駄にしたらダメだよ、琴音ちゃん」
「はーい。ごめんなさい愛子さん」
愛子が投げた解いた卵を殺戮光線でオムレツにしてはじき返す。
オムレツをチキンライスで受け止めると愛子は包丁で切り裂く。半熟の卵が溢れ、赤を黄色に染め上げた。
いつの間にか用意されていた大きなテーブルにフワトロオムレツをのせると、テーブルは様々な卵料理で埋め尽くされた。全てが何人もの転生者やエヒトルジュエを素材に作られた卵未使用の卵料理のフルコース。
黄色の絨毯はどうしようもなく戦場には似合わなかった。
「ば、馬鹿な!?
全員が最強の転生者達だぞ! 何をしたステラ・スカーレット!!」
転生者やエヒトルジュエが全滅した事に驚き叫ぶブローベル。
目を見開き唾を飛ばす様はいかにもな踏み台転生者のそれ。
「にゃはは、希依ちゃん曰く。
勇者じゃ軽くなろう系でも足らず、オリ主転生者でようやく辛うじて大目に見ても空気抵抗程度。最強を受け継ぐヘルムートの国王とは必中必殺の鏃である」
愛子、クラーク、希依。他十一名の魔王達は皆総じて先頭に立ち活路を切り開く鏃であった。止めることが出来たのは、矢そのものである国民のみ。
「巫山戯るなぁ!! そんな巫山戯た世界があってたまるか!」
「そんなことステラに合われても困るってば。希依ちゃん達、っていうかヘルムートのある世界を作ったのは師匠なんだから」
「あの方は力は素晴らしいが甘すぎた! だからこそ貴様のようなメスガキが神になるなどという過ちを犯した!!」
「メスガキって、乱暴な言い方だけど要するに子供の女の子なのになんかえっちぃ感じがするのは間違いなく日本人最大の過ちだよね。あとステラも神前ではちゃんと大人な姿になってるからメスガキじゃないし」
「若すぎると言っているのだ! 貴様のような若造が我らの上に立つなど誰が認めるものか!!」
「……勘違いするなよ、畜神ブローベル。賛同多数だからといってそれが正しいということは無いし、そもそも正しさを神が語る時点で神失格だ。神は常に正しく、何を成そうと意義はない」
「何も知らぬメスガキが生意気言いよって!!」
「生意気言うのがメスガキの仕事でしょ。そしてステラの仕事は神の行いに物申すこと。立場も役割も意義も、あなたとは違う」
しっかりと狙いを定め、ステラは引き金を引いた。
ニルヴァーナ、善悪を逆転させる光線は精神が形をもった存在である神を殺すに十分な威力だった。
「畜神ブローベル、あなたの代わりはいくらでもいるから安心してね。まぁ聞こえないだろうけど」