ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第42話

 

「……三人それぞれ、悪いかもしれないし楽しいかもしれない知らせがある?」

 

雫、愛子、宇未の三人はエストレーヤに連れられて別室に案内された。

皆の居た何もかもが白い部屋とは違い、中央に炬燵があるだけの六畳ほどの和室。エストがどこからともなく人数分のお茶とみかんを出すと、座布団に腰掛けるように促した。

 

「いい話とか悪い話じゃないのかしら」

 

雫の呟きをエストは聞き逃さなかった。

 

「人によってはいい話かもしれないし、嫌な話かもしれないから」

 

「あの、先に聞いておきたいのですけど、何故私達なんですか? 南雲くん達も居た方が……」

 

「……端的に言う。まず八重樫雫と畑山愛子、二人はすぐには元の世界に戻れない。確定ではないけど、戻れない可能性もある」

 

「っ──!!」

 

「……は?」

目を見開き驚愕する愛子と、唖然とする雫。雫の髪が蛇に変化し威嚇しているよう。二人が今にも掴みかかりそうになるがその前に、エストが頭を下げた。

 

「これは全面的に神々(こっち)側の責任。不用意に介入したブローベルと、ステラ、そして希依。

二人には一切の責任も負い目も無い。管理者で責任者のステラに変わって、謝罪する。……ごめんなさい」

 

子供のように、しかし粛々と、エストは謝罪する。

 

宇未は心配そうに三人を見つめ、謝罪を受けた二人は落ち着きを取り戻した。

 

「何故そんなことになったのか、教えてください。それに皆のことも」

 

こんな時にも関わらず、愛子の心配の事はずっと変わっていなかった。

 

「ん。

……端的に言うと、二人は希依とステラの影響を受けすぎた。致命的に」

 

「影響って、それなら光輝と檜山はどうなのよ。あの縁結びとか」

 

「……あれは所謂ギャグパートだから。影響は誤差の範囲内。

……そもそも会話が成り立たないから影響が大きくてもこの場に招いたりはしない。あ……」

 

エストはみかんの皮を剥くのに失敗してぐちゃぐちゃにしてしまう。

 

「あ、あの、これをどうぞ。私はいいですから」

 

「……ありがと」

 

宇未は自分の分のみかんを皮を剥いた状態にしてからエストに渡す。

 

一切れ食べてからエストは話を再開した。

 

「……宇未は、ブローベルによって転生させられた転生者だからちょっと面倒。暫くはステラと一緒にいてもらう」

 

「あの、おねーちゃんは……」

 

「……希依はまだ別に仕事があるから忙しい。」

 

「そう、ですか」

 

落ち込む宇未を後目にエストはお茶を啜った。

 

「……別に、希依と琴音みたいに事情がないと会えないわけじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わっちゃったね、おねーちゃん」

「うん。……やろうか、琴音」

「あーあ、もっとおねーちゃんと一緒にいたかったな」

 

転生者達とエヒトルジュエ、ブローベルを倒したことで希依、ステラの仕事は全て終了した。

 

クラークと愛子はステラが元いた世界に帰した。

 

希依と琴音は距離を置いて向き合う。

 

ステラは瓦礫に腰掛け、二人を見守る。

 

「因果律コントロール、MAX」

 

「詠唱省略」

 

「「やぁああ!!」」

 

希依の拳と、琴音の放った緑色に妖しく光る光線がぶつかり合う。

 

光線は弾け、被弾した建物や地面が凍り、燃え、崩れて、消える。

「やめてよね、おねーちゃん。素直に当たってよ」

「アハハ、痛いからやだ。ちゃんと殴り合お? 琴音を感じさせてほしいな」

 

「んもぅ、おねーちゃんはワガママなんだから。一回だけね」

 

「大丈夫。一回で終わるよ」

二人は腕を伸ばせば触れる距離まで近づき、拳を構える。

 

「大好きだよ、おねーちゃん」

「うん。私も好きだよ、琴音」

 

 

 

「カウントいくよー。……さーん」

 

ステラは石をそこらから拾い、一つを投げた。

 

「にー」

 

「……」

 

「……」

 

宙を舞う石に、二つ目の石がぶつかり、一つ目が弾けた。

 

「いーち」

 

「またね、おねーちゃん」

 

「さようなら、琴音」

三つ目の石が二つ目の石を追いかけるように翔ぶ。

 

「ぜろ」

 

互いの拳が頭部にぶつかる。破裂音と共に一輪の花火が空に咲いた。

 

花はすぐに消え、希依には血肉の雨が降りかかった。

 

 

「……キヒャッ! キャハハハッ! キャッハハハハハハ!!」

 

妹であり、恋人であり、家族であった琴音の血肉を浴びながら、希依は笑う。

 

悲しみを殺そうと、強引に笑みを浮かべて腹を抱えて、涙を絶えず流しながら。

 

「……希依ちゃん、帰るよ」

 

「キヒャヒャッ! ……ごめ、ちょっと待って」

 

 

 

 

 

 

希依は琴音を愛している。正しく、間違いなく。殺しは決して望むものではなく、二人に殺意は無い。

 

そんな二人が殺し合う理由は、未だ語られない。

 

この物語は終わらぬ物語の成れの果ての、蛇足でしかないのだから。

 

楽羅來ららに言わせるならば、語らせるならば。

「語るまでもありません。これは自己満足であり、自己完結でしかないのですから」

 

 

 

 

 

 

「き、希依様……? 何をしてらっしゃるのですか!?」

 

希依と琴音の戦いを、物陰から見ていた者がいた。

 

「……だれだっけ?」

 

「私ですよ! リリアーナです!」

 

「………………?」

 

「希依ちゃん、知り合いじゃないの?」

 

「王女のリリアーナです! お話したりもしましたよね!?」

 

戦場となったこの国の王女、リリアーナが一人、護衛もつけずに来ていた。

 

「……やぁリリィちゃん。久しぶりだね」

 

「何事も無かったかのように仕切り直さないでください!」

 

「ごめんごめん。

ステラちゃん、先に帰ってもらっていいかな? 一仕事増えちゃったみたいでさ」

 

「一仕事、なんだね。……分かった。じゃあ後でね」

 

ステラは希依とリリアーナに手を振ってから消えていった。

 

 

「さてさて、他にもいるんでしょう? 私に用のある人達が」

 

「へっ?」

 

希依はリリアーナを頭を撫でながら、遠くを見やる。

 

ゾロゾロと出てくるのは、多数の人間達と、武装した獣人、兎人族。

 

人間と兎人族それぞれから一人が代表するように前に出る。

兎人族達は希依を警戒していて、先に口を開いたのは人間。

 

「神の使徒の一人、喜多希依だな。貴様を反逆者と認定し、この場で処刑する!」

 

「いや、今?

いや、そうだねぇ、こうしよう。リリィちゃんの命が惜しければ、その認定を取り消して貰おうか」

 

「ちょっ、希依様!?」

 

希依はリリアーナを背後から首に腕を当てる。

 

「下劣な!」

「卑怯だぞ!」

 

「キヒャヒャッ!

あいにく私は愛しの恋人を殺した直後で機嫌がすこぶる悪いんだ。あんまり騒ぐと殺しちゃうぞ?」

 

人間の騎士たちは歯噛みし、兎人族達は希依の発言に引いている。

 

「申し訳ございません姫様! うおぉ!──ッガッ」

 

「言ったでしょ?機嫌が悪いって」

 

希依に襲いかかった男の頭部が、卵のようにグシャリと握りつぶされた。

 

「さぁて、溜まりに溜まったストレス、発散しなきゃ」

 

「やめてください希依様! 私はどうなっても構いませんから!」

 

手の関節を鳴らす希依の前に、両腕を広げたリリアーナが立ち塞がった。

 

「やだよ、可愛い子を殺したって一文の得にもならないでしょ?

それにあれはリリィちゃんのことをなんとも思ってない無能の騎士もどき。元王としてアドバイスするのなら、あんな騎士さっさと解雇しなさい」

 

「そんなことありません! 彼らは紛うことなく誇り高き騎士です!」

 

「誇り高き騎士なら、そもそも人質を取られたりしないし、取られても無視はしない」

 

「私の命なぞどうなっても構いません!」

 

「そうじゃないんだよ、リリィちゃん。

それじゃないんだよ。私はただ殺したいんじゃなくて、苦手で嫌いで気に入らなくてムカついて腹のたつアイツらを殺したいんだ。

──だから殺した」

 

リリアーナが一瞬目を離した隙に、死体の山と顔面の海が街中に築き上げられた。

 

「へ……あ、……え?」

 

ペタリと地面に座り、表情の消えたリリアーナ。

足元には水溜まりが出来て、そこに水滴が垂れる。

 

「さて、次は兎人族の番だ。またせたね」

 

「……ボスを、南雲ハジメという人間を知らないか」

 

「あぁ、彼なら帰ったよ」

 

ボスって、いや人の趣味にとやかく言わないけど、ウサミミのオッサンにボスって呼ばせるのはどうかと思うよ……

 

「帰った……だと?」

 

「うん。なんの用だったのか知らないけど、まぁ縁があればまた逢えるでしょ」

 

あれ、ステラちゃんはまだ帰すことは出来ないとか言ってたっけ。……まぁこの世界から居なくなったのなら似たようなもんか。

 

「もうすぐここにも多くの人間が来ると思う。ケモ耳は世界の宝だからね、今すぐにでもこの街から離れることをおすすめするよ」

 

 

ヒソヒソと話す兎人族を後目に、希依は世界に穴を開けてその場から去った。

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