ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第43話

 

白い空。白い床。白い机に白い椅子。何もかもが白いその空間に、ステラと希依も遅れながらも君臨した。

 

幼女姿のステラに、血濡れの希依の姿は、皆の警戒を煽った。

 

「全員揃ってるみたいだね。エストちゃんもお疲れさま」

 

「……別に、ステラのためだから」

 

拗ねたようにそっぽを向くエストレーヤ。

 

「さぁて、随分と待たせちゃったみたいだしサクサクと進めようか」

 

普段ステラが作業している机に腰掛けた希依が、書類を取りだし読み上げる。

 

「まずは死んだ天之川光輝と清水幸俊、立って」

 

二人の拘束が解かれ、見えない何かによって強制的に立たされる。

 

「なにを、する気だ……」

 

「うおー!!」

清水は全てを諦めたように無気力だが、天之川光輝は希依に殴り掛かる。

 

「二人は揃って地獄行き。どれだけ他人に迷惑をかけたのか、思い知るがいいよ」

 

二人の足元に黒い穴が発生、落下していった。

 

「き、希依さん! 二人はどこに……」

 

「ここの真下には地獄があってね。閻魔様の目の前に直行だから他の亡者よりかは楽なんじゃないかな。

それじゃあ次は、……これはステラちゃんにバトンタッチだね」

 

希依は椅子に座っているステラに書類を手渡した。

 

「ん、えーと、愛ちゃん、雫ちゃん、宙未ちゃんの三人を除いた皆には、元の世界に帰すんだけど、その準備に時間がかかるから異世界転生してもらうね。

人によるけど、だいたい人生二、三回くらいは遊べると思うよ。危険なところはないはず。

帰宅することがゴールなのだとしたら、もうちっとだけ続くんじゃって所かな。

詳しくは担当の神から説明があるから、あんまり迷惑かけないようにね?」

 

なんで。

今すぐ帰して。

 

そんな言葉を無視して、ステラは全員の足元に魔法陣を展開する。

 

それは始まりと同じように目が眩むほど輝くと、雫と愛子、宇未、ラストを除いた皆は居なくなった。

 

「ラストさん、お疲れ様。もう帰っていいよ」

 

「かしこまりました、希依様。いつでもヘルムートに遊びに来てくださいね。みんな喜びますから」

 

「うん、分かった。よろしく伝えておいてね」

 

「承りました」

 

ラストはその空間から溶けるように消えていった。

 

 

「み……みんなが……。

ステラさん! 希依さん! どうしてこんなことを!」

愛子が机をバンッと叩く。

 

ステラは、すぐに答えた。

 

「んー、愛ちゃんにわかりやすく言うのなら、死亡した二人を覗いた皆の肉体的、精神的な洗濯って所かな」

 

「せ、洗濯……?」

 

宇未と雫も首を傾げる。

 

「南雲さんなんか特にわかりやすいけど、全員、あのままの状態で元の世界に帰すのは色んな意味で危険なの。魔法やら、技能やら。

それらを悪用して強盗なんかをするかもしれないし、研究機関のモルモットになるかもしれない。過ぎた力はマイナスしか生まないからね。

そんな人並みから外れたものたちを全て無くしたノーマルな人間に転生してもらって、その後に元の世界に帰ってもらおうって感じ」

 

ステラの語る内容に間違いがないであろうことは愛子も分かっている。元々希依が直す約束はしていたが、ハジメの腕と目が直るというのなら文句を言うことではないと、愛子は判断する。

 

「んじゃ、あとは愛子ちゃんと雫ちゃんが私と一緒に、宇未ちゃんはステラちゃんとってなるんだけど、これはもうエストちゃんに聞いてるってことでいいんだよね?」

 

「は、はい」

 

「まぁ、そうね。中身は聞いてないけれど」

 

「にゃっはっはー、エストちゃん?」

 

ステラがどういうことかと聞くが、エストは希依の方を向く。

 

「……だって、聞いてなかったし」

 

「あれ、そうだったっけ。

ねぇステラちゃん、行先って私が決めてもいいんだよね?」

 

「そりゃもちろん、急ぎの用も現状ないし」

 

「おっけー。じゃあ雫ちゃん、愛子ちゃん、行こっか」

 

希依は本棚から一冊の白い本を抜き取ると、脇に挟んで、二人の手を取った。

 

「は、はい?」

 

「えっと……」

 

「じゃ、またね、宇未ちゃん」

 

「はい!」

 

希依と雫と愛子の三人は、何かに吸い込まれるように消えていった。

 

 

 

 

「じゃ、宇未ちゃんはステラのお手伝いね。

まずはブローベルが違法に転生させた転生者の処理だよ」

 

「処理、ですか」

 

「理不尽で残酷と思われるかもしれないけど、それは間違い。そもそも一度死んでるんだから、それらは有っちゃいけない命なんだよ。

まぁ、希依ちゃんはそれを無視しがちなんだけどね。だからこそ宇未ちゃんはここにいるわけだし、そのおかげで一部の眷属や下僕、使いを持てない神々の人材不足が解消されつつある」

 

「あの、それ大丈夫なんですか?」

 

「ダメだよ」

 

「ダメなんですか!?」

 

「これは希依ちゃんの発案で、希依ちゃんが全面的に責任を負うからってことで成り立ってるから、何か問題があったら希依ちゃんは責任を取らなければいけない。

あ、安心してね。ブローベルみたいな一部末端を除いた神々はみんな希依ちゃんのこと大好きだから宇未ちゃんが考えてるような事にはならないよ。そもそも強すぎて死刑執行されようと殺せないけど」

 

「へ、へー」

 

宇未は思ってた以上に重大だった自分と希依の状況に、思考が追いつかなくなった。

 

 

 

 

 

ところ変わって希依達が消えた行き先。

 

そこは幾つもの分かれ道に分かれる道の真ん中で、一つ一つの道の端に看板が立っている。

 

道はそれぞれ縦横無尽に伸び、先には舞台となる地が待ち受けている。

 

キョロキョロと周囲を見渡す愛子と雫に希依が声をかける。

 

「愛子ちゃん、雫ちゃん。エストちゃんから聞いてるかもしれないけど、……ごめんなさい。私は取り返しのつかないことを二人にした」

 

「希依さん?」

 

頭を下げる希依に困惑する二人。

 

「元の世界に帰れると期待させるだけさせておいて、この事態。殺されても仕方ないと思ってるし、そんな状況にしてしまってご両親や友人、なにより二人に申し訳ない」

 

「…………」

 

愛子は服の裾を握り俯く。

 

「……えぇ、本当にそうよ! ふざけんじゃないわよ! 私が何をしたっていうのよ! 何も悪いことしてない!」

 

希依の胸ぐらを掴み、溜まったものを吐き出すように怒鳴る雫。希依の背丈が雫より頭一個半低いことにより、足が浮く。

 

「ごめん」

 

「ごめんじゃ、ないわよ。……お母さんに、お父さんに会えると思って、わたしがんばったわよね?」

 

「ほんと、ごめん」

 

「ちょっと変わったけど、それでもまた香織と遊べると思ってた。今度は南雲くん達とも一緒に」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝らないでよ、ズルいじゃない。……希依さんに対してそんなに怒ってるわけじゃないから、簡単に許しちゃうじゃない」

 

胸ぐらから手を離し抱きしめる。身長差によって頭を抱きしめるようになり、胸に顔が押し付けられる。

 

「……雫ちゃん?」

 

「……宇未さんと三人で食べたあの串焼き、また一緒に食べたい。迷宮のときみたく、笑ったり泣いたりしながら一緒にご飯を食べたい」

 

「……うん、いいよ。それくらいいくらでも作るから」

 

雫が希依を離すと、希依から抱きしめ返したあと、静かに涙を流す愛子を抱きしめた。今度は背丈にあまり差はなく、愛子の頭が希依の肩に乗る。

 

「抱っことか肩車とかはしたけど、こうやって普通に抱きしめるのは初めてだね」

 

「……希依さん」

 

「私は教師じゃないから愛子ちゃんがいま何を考えてるのか分からないし、最初に家族がいなかったから失うつらさも知らない。

だから同情なんてしないよ。雫ちゃんにも、愛子ちゃんにも」

 

「……違うんです。……希依さん、八重樫さん、……私、ちゃんと先生出来てましたか? 最後まで、みんなの先生で居られてましたか?」

 

「……うん。出来てた。二万年を生きたけど、愛子ちゃんほどいい先生を私は知らないや」

 

「ほんと、ですか?」

 

「もちろん。宇未ちゃんも愛子ちゃんを絶賛してたでしょ? 雫ちゃんから見てどうだった?」

 

「小学校六年、中学校三年、高校一年と少し、その中でも先生は一番いい先生、恩師です。断言しますよ」

 

「そう、ですか。良かったぁ」

 

緊張が解けたのか希依に身を任せる愛子。それをしっかり支える希依。小柄な二人を雫は両腕いっぱいに抱きしめた。

 

 

 

 

 


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