ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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番外編 サムライとセンセの人間卒業式
人間卒業 001


 

「ここがどこか、これから何をして、二人はどうなるのか、まずはそれを説明するために少し移動するよ」

 

希依は二人を先導して、数多ある道の中から一つを選び進む。

 

キョロキョロと雫と愛子は周囲を見渡す。

道で繋がった巨大なシャボン玉のようなものが無数に浮かんでいて、中には世界が広がっている。

 

巨大な木が中央にそそり立つ世界。

暗雲に包まれた摩天楼の世界。

草原と花畑が広がるのどかな世界。

学校の校舎内。

体育館。

箱庭。

 

 

希依達が進む先には、本がぎっしり詰まった本棚が見えた。

 

 

 

簡素なベッドと机、他には無数の本棚だけが広がる部屋に雫と愛子は案内された。

 

「お茶も出せなくてごめんね。もともとヘルムートにあった私の部屋と全く同じように創られたから、冷蔵庫とかキッチンとかがなくてね」

 

「気にしなくていいわ。それより話を聞かせて欲しいのだけど」

 

雫がキッと、鋭い目付きで希依を見る。

「うん。じゃあまずはさっきの場所がなんなのか、から話そうかな」

 

雫をベッドに座らせ、希依も愛子を膝に乗せるようにして隣に座る。

 

「あ……」

「うん、やっぱり心地いい。命の重みってやつだね。それとも愛情の負荷かな」

 

希依の重たい言葉に愛子は抵抗出来なくなる。

 

「シャボン玉みたいなのに包まれてた世界は、全部私が管理してる世界。人呼んで、というか、神呼んで滅界。滅ぼすことを許容された世界。

ステラちゃんは物語として、あの白い本で管理してたけど、私は流れとして道で管理してる」

 

「滅ぼすって、誰がですか?」

 

愛子が顔を希依のいる方に回して尋ねる。

 

「もちろん私が」

 

チュッと、愛子の頬っぺたにキスした。

 

「ヒャッ!?」

 

「改めて、今の状況で自己紹介しようか。

世界消滅要因が一柱にしてリーダー、神を超越せし者、全てを穿つ鍵担当、(Key)

ちなみにちなみに、さっき会った楽羅來ららちゃんも私と同じく世界消滅要因の一柱。有無を語る者、創造人、最後を歌う者、歌声(Lala)。」

 

「あの人も神なの?」

 

「違うよ。私はステラちゃんと同一ってことで人と神の両方だから、近い言葉で現人神なんだけど、ららちゃんは正真正銘人間。とは言っても、ららちゃんの世界ではららちゃん達のことは人外と呼ばれる。明確な基準は知らないけど」

 

「達って、その危なそうな人達がもっといるんですか?」

 

「いるよー、いっぱい。ららちゃんを筆頭に、愛子ちゃんじゃなくて卵料理人の方の愛子さんの上位互換である彩美加奈ちゃん、愛情を操る浄花町ののちゃん、エヒトしばいてたあの赤髪の子、ギリ人間の人間最強の子猫さん。などなど、ヘルムートとかトータスなんかと比べ物にならないくらいの怪物揃いの世界があるし、他にも世界消滅要因に認定されてる人は何人かいるって聞いた。ららちゃん以外に会ったことないけど」

 

「なんか、あれね、中二病?」

 

「やっ、八重樫さん!」

 

揶揄う雫を咎める愛子を優しく抱きしめる。

 

「たはは、いーのいーの。私にとって中二病は褒め言葉だから」

 

「それはそれでどうなのよ」

 

「雫ちゃんには言われたくないかな。ひとり怪物劇団(モンスターパレード)ちゃん」

 

「なっ、なにゃナンでそれを!!」

 

「八重樫流殺戮演技、演芸劇!」

 

「やーめーてー!」

 

「隠れて私の真似をしようと頑張ってた雫ちゃん、可愛かったよ」

 

「もう喋らないでー!」

 

両手で顔を隠して悶々とする。

 

「フッ、フフフッ」

 

肩を震わせて笑いを堪える愛子。

 

「せ、先生?」

 

「二人ともっ、中二病ですっ」

 

「あはははっ、そうだね、その通りだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むーー」

 

「ご、ごめんなさい八重樫さん」

 

「ごめんごめん、話に戻ろうか」

「フンッ」

 

愛子にまで裏切られて、雫は完全に拗ねてそっぽを向く。

 

「雫ちゃーん? 話進めていーい?」

 

「知らないわよっ」

 

「八重樫さん、悪気はなかったんです」

 

「……プィ」

 

「愛子ちゃんでもダメか……。

仕方ない。雫ちゃん、話はちゃんと聞いててね」

 

「……」

 

「いいよね? 実はそんなに怒ってないけどオーバーリアクションに拗ねちゃって素直になれない雫ちゃん?」

 

「分かってるならほっといて話しててよ! 終いにはもっと拗ねるわよ!?」

 

「それはそれできっと可愛いから見たいけど、うん、手短に話すよ」

 

「おふざけは無しですよ」

 

「ん、分かってる。

まず、これから何をするかだけど、いくつかの世界を巡って二人に力をつけてもらう。それも逸脱した、世界の特異点足りうるだけの」

 

「それって、どれくらいの強さなんですか? あと正直私には無理な気が……」

 

「だいじょぶだいじょぶ。折り紙よりも弱かったエストちゃんでも出来たんだから、ステラちゃんに変わって私が魔改造したげるよ」

 

「ぐ、具体的には……」

 

「エストちゃんを魔改造するときには、脳には魔導書、心臓には賢者の石を中に仕込み、骨はオリハルコンとヒヒイロノカネ、血は神の血を入れ替えたと聞いたよ」

 

「はわわわわわわわ」

 

「私にそんなこと、出来なくはないけどやらないから大丈夫だって。私は人を鍛えてるときほど優しいときはあんまりないよ。ね? 雫ちゃん?」

 

「……さぁね、どうかしら」

 

「……希依さん?」

 

「肉体改造は趣味じゃない」

 

「なぜかその一言で納得しました」

 

「まぁ納得しようとしなかろうと、鍛えるのに変わりはないんだけどね」

 

「私、たまに希依さんと一緒にいていいのかと不安になります」

 

「その不安は大正解だったわけだけどね」

 

「……そうでしたね。…………。」

 

「辛い時こそ、笑うんだよ。私はそうやって生きてきた。現代社会でも、ヘルムートでも。怒りも悲しみも、どれだけ辛くても笑っていればその時だけは忘れられる」

 

「……はい」

 

「ただし、キチガイに思われるからそこだけは注意」

 

「なんでかっこよく絞められないんですか、もぅ」

 

「ケヒャヒャヒャヒャヒャ! つらいなー! 泣きそうだなー!」

 

「それが演技なのは分かりますからね」

 

「たはは。

んじゃ最後、二人はどうなるのかって話だけど、……どうなりたい? 雫ちゃんの人生、愛子ちゃんの人生、二人はいま誰よりも自由だ。役割を、生き方を、生きる場所を、選べる」

 

「いきなり、そんなことを言われましても、大きすぎて」

 

「これはプレゼントでも報酬でもないよ。言うなれば賠償だ。世界を奪った、正しく人生を狂わせたことに対しての、私からの、星神ステラからの精一杯の損害賠償だ」

 

「「…………」」

 

「まぁこれはすぐに決める必要は無いよ。進路指導が私じゃ不安っていうのなら、色んな友達にも付き合わせるし、色んな世界に連れてってあげる」

 

「「……」」

 

「まぁ私が行きたい世界もあるからついでに付き合ってもらうけどね」

 

「もぅ、ずっと付き合わせますからね? ……おかあさん?」

 

「っ! 雫ちゃん! 愛子ちゃんがデレたぁ!」

 

「……よかったわね、お姉ちゃん」

 

「雫ちゃんまで! もしかしてここは天国!? 快楽浄土!?」

 

「何よその真っピンクな浄土は。宇未さんの真似をしてみただけよ。二度は呼ばないわ」

 

「えー」

 

「……ねぇ、希依さん」

 

目を細め、というか睨んで、雫は尋ねる。

 

「うにゃ?」

 

「ずっと気になってたんだけど、あなたにとって家族って何?

自分を姉とか母親みたいに呼ばせて、ちょっとおかしいと思う」

「……わたしも、気になります」

 

それは愛子も気になってはいたがずっと聞けずにいたこと。

 

「……家族、そうだね、多分みんなの言う家族と私の家族観はちょっと違うのかもしれないね。

まぁそれは、一緒にいればそのうち分かるだろうからさ、出発と行こうか。あんまりグダグダしすぎるとステラちゃんに仕事寄越されて面倒なことになるからさ」

 

希依は膝の上の愛子を肩車して立ち上がる。

「はわっ」

「……誤魔化したわね」

 

「仕事寄越されるってのはほんとだよ? ステラちゃんって立場的にはめちゃくちゃ偉いけど、できた人間じゃないから」

 

「そうは見えませんでしたけど……」

 

「愛子ちゃんの前じゃそうだろうね。私とステラちゃんは同一。好みのタイプも同一。カッコつけたがりだから」

 

「よく恥ずかしげもなく言えるわね」

 

「そっ、それよりどんなとこに行くんですか!」

「愛子ちゃんも誤魔化した。

まぁいいけど。最初に行くのはステラちゃんも修行に使った世界、魔法を使う者が魔道士ギルドで働く世界、『FAIRY TAIL』

まずは雫ちゃんの剣術と愛子ちゃんの魔法の魔改造からだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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