ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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姉妹転生 002

埼玉県川越市にて、二人はすくすくと成長した。

 

元白崎香織は、現、白神詩織(しらかみしおり)

元ノイントは、現、白神彩織(しらかみいおり)

 

一卵性双生児の姉妹として生まれた二人は、全く同じ顔、全く同じ身体、全く同じ環境で育った。にもかかわらず、現在中学生、全く異なる成長を遂げた。

 

中身がそっくりの二人は、十四年の時を経て外見はそっくりで中身は全く別人の二人になっていた。

 

片や、白神姉妹のうるさい方、白神詩織。

白神詩織は頭が良く、とてもよく喋る子だった。暇さえあれば誰かに話しかけ、暇がなくとも他人の迷惑を考えずに口を開き続ける。その話はいつも面白く、教師が注意しようにも、その教師までもが会話に参加してしまう。

白神詩織はつねに喋り続ける。さながら呪いでも掛けられているのかと思うほどに、白神詩織は黙らない。

 

片や、白神姉妹のやばい方、白神彩織。

白神彩織は物静かで、よく本を読んでいる子だった。常に片手には本があり、そのジャンル、大きさ、厚さは気がついた時には変わっている。

白神彩織は学園最強。強きをねじ伏せ弱きを蹴散らす。勘違いしてはならないのは、白神姉妹の通う学校は決して、授業で戦闘訓練を行うわけでもなければ、体育祭でトーナメントを行うわけでもない、普通の中学校だということ。

学園最強に至るには、やむにやまれぬ事情があった。白神彩織は、よく絡まれる。執拗に。粘着質に。病的に。

例えばいじめ。例えばカツアゲ。例えばカンニング疑惑。例えば一目惚れ。例えば八つ当たり。例えば最強への挑戦。それら全てに、彩織はコミュニケーションの手段として暴力を選んだ。

 

 

 

二人の生きる時代は2022年。香織が産まれ、トータスに召喚された年代よりも近未来な時代。

 

今日は、後に今世紀最大級の事件とされるであろう事件が起こる日だった。

 

 

 

三時間目の授業が終わってすぐのこと、一応私の姉である詩織が勢いよく扉を開けた。

 

「彩織ー! 早く帰ろー! 早く速く帰ろう、マッハ20なんて私たちの前では速さじゃないよ!」

 

「……詩織、仮にも祖母(存命)の葬式ということで早退するんですから、もっとテンションを下げなさい。それと殺せんせーは過去の私でもどうしようもないくらい速いです」

 

「まぁまぁまぁまぁまあまァマア! あと一時間で始まっちゃうんだから、間に合わなくなっちゃうよ!」

 

そうだった。そうでした。今日はあのゲームのサービス開始日。正午から始まるそれにいち早く参戦するために、私たちは学校を早退するのでした。

 

急いで帰るために普段は読み続ける本を鞄に仕舞い、走るのに邪魔になる膝ほどまで伸びた銀色の髪を高い位置で縛る。

髪を染めるのは校則で禁じられているのですが、同じ顔を持つ姉と見分けさせるため、特例的に認めさせました。

 

「早く帰ろ! ただでさえ彩織はキャラメイクに時間がかかるんだから! なんならおんぶしたげよっか?」

 

「家まで蹴り飛ばしますよ、詩織」はぁと、ため息をつきつつ鞄を肩にかけ、私たちは学校を後にする。

 

 

 

「《前代未聞の世紀の瞬間。ただし魔王誕生》みたいな」

 

「彩織? なんか言った?」

 

「なんでもありません。巫女子(みここ)ちゃん化してただけです」

 

「えーと、彩織の好きな小説の、告って死んじゃう子だよね」

 

「《神の冒涜。ただし性癖批判》み、た、い、な!」

 

「うん、彩織が怒ってるのは分かったから歩こっか」

 

「私への冒涜は構いません。主への冒涜は許しません」

 

「分からない! 私の妹が分からない! 双子なのに!」

 

 

 

 

 

何事もなく帰宅出来た私たちは、母に見つからないように部屋に飛び込み、昨日のうちにスタンバイさせていたゲーム機、ナーヴギアを被ってベットに横になる。

 

いざ、私の元いた世界に似た世界へ!

 

「リンク、スタート」

 

魔法の世界から、化学の世界に転生した私は、電子の世界へ。

 

 

 

 

 

 

 

ソードアート・オンラインに彩織を誘ったのは正解だったと思う。あの子、誘わないとずっと本読んでるから、たまには一緒に遊びたいし。

初めて出会ったときは敵どうしだったけど、十年以上家族として暮らしたら流石に愛情とかも芽生える。それでもハジメくんが一番だけど、今はユエくらいには好き、かな。

それにゲームはハジメくんのおかげで好きになれたものだから、次に会った時に思いっきり沢山話せるように思いっきり遊ばなきゃ!

 

「リンクスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……彩織が来ない。彩織が来ない。彩織が来ない。い、お、り、が、来ない!! 他のゲームのときもキャラメイクに時間かける子だから覚悟はしてたけど、流石に四時間は遅すぎないかな!? 男の人たちがチラチラ見てきていい加減鬱陶しいんだけど。

 

「申し訳ありません。少々手間取りました」

 

「おそっ……い……、ノイント?」

 

「はい、キャラネームは〈noint〉です」

 

彩織のアバターは、装備は初期装備ではあるものの、一時は私の体でもあった転生前の銀髪美女のノイントのものだった。

 

「へー、……いいなぁ」

 

「あなたもやれば良かったじゃないですか。前世の再現。とりあえず名前を教えてください。呼ぶのに不便ですから」

 

「再現できるほど私の顔なんて覚えてないもん。名前は私も〈kaoli〉だよ」

 

「あぁ、カオリの顔は整ってはいましたが、パッとしない顔でしたからね。なってる間は苦痛でした激痛でしたいっそ致命傷でした」

 

「酷くない!? そこまでブサイクじゃないはずだよ!?」

 

「日本人の顔ってパッとしないんですよ。ライン生産品ですかあなたは」

 

「ノイント、すっごいデカいブーメラン刺さってるよ。私を巻き添えに」

 

今は私たち同じ顔だからね!

 

「……何の話ですか。ほら行きますよ、さっさと進めて私を再現しなくちゃいけないんですから」

 

「もぅ、分かったよ。今度なんか奢ってね」

 

「本ならいくらでも奢りますよ」

 

「本以外で!」

 

「ちっ」

 

「今舌打ちしたでしょ!」

 

「さぁ行きますよ、まずは本屋様です」

 

「武器屋さんでしょ!? 様!?」

 

 

 

 

 

始まりの街の武器屋は分かりやすい場所にあり、すぐに着きました。問題は私の武器なのですが……

 

「ない……」

 

前世で使っていたような全長2メートルほどの大剣を探したのですが、一番長いものですら1メートル強とは……

 

「ノイントー、いいのあった?」

 

「私はちょっと絶望してるところです。ほっといてください」

 

「みてみてこのナイフ、可愛くない?」

 

「…………」

 

「あー、このレイピアもいいかも! 二刀流とかできるかなぁ」

 

「…………仕方ありません、しばらくは槍で妥協します」

 

「ノイント! どっちがいいかな!」

 

「隣の店の包丁なんていかがですか? お似合いかと」

 

「どういう意味かな!? かなな!?」

 

「攻撃力は知りませんが、女子力は高いかと」

 

「なるほど! すいませーん」

 

大丈夫かこの姉。姉とすら認めたくない。

 

「カオリ、私は本屋様を探しに行ってきます。一時間後に中央の広場で合流しましょう」

 

「うんー」

 

 

 

 

 

私は街中を歩きまわり探したのですが、本屋様は一軒も見つかりませんでした。これは早急に攻略し、他の街や階層を探すしかありませんね。

回復アイテムや探索用アイテムを諸々買い揃えて広場に来たのですが、ほんとに、あのバカ姉はほんっとに!

 

「何を考えてるんですか!?」

 

「え、似合ってない? これ」

 

「いえ、あなたのようなバカにはお似合いです。似合ってますとも」

 

カオリの装備はエプロンにダガー扱いの包丁、盾扱いのまな板と、クッキングママ・オンラインと間違えたのかと思うような装備でした。

 

私の装備は、槍以外は初期装備の可憐さの欠けらも無い不格好なものですが、それでもこのバカよりはマシでしょう。

 

「ね、ねぇノイント」

 

「なんです? 私はいま今後あなたと行動をするか否かを真面目に考えてるところなんですけど」

 

「いやなんで? ってそうじゃなくて、この状況、おかしくない?」

 

「おかしいのはあなたの頭です」

 

「そうじゃなくって! 周りを見て!」

 

「はぁ、……は?」

 

気がついたら、広場は人間で埋め尽くされていました。広場は決して狭い訳ではありません。NPCでかさましでもしない限り、恐らくプレイヤー全員。

 

これは恐らく、いえ確実に、イベントだ。

 

急に空が徐々に赤くなり、巨大なローブが現れた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ、私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

茅場晶彦、彼の出している書籍は読んだことはあるが、ゲームも作っていたのか

 

『プレイヤー諸君は、メインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしこれはゲームの不具合ではない、繰り返す、不具合ではなくこれはソードアート・オンライン本来の仕様だ』

 

「あ、ほんとだ」

 

カオリがメニューを開いて確認している。

 

これってつまり……

 

私は考える。思考を廻す。目が回る。

 

『諸君は自発的にログアウトボタンはできない。また、外部からのナーヴギアの停止、あるいは解除もあり得ない。もしそれらが試みられた場合、ナーヴギアの発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

「どういうことだ」

「盛り上がるための演出だろ?」

 

うるさい、周囲のプレイヤーの声が耳障りだ!

 

私がしゃがんで両手で耳を塞ぐと、誰かが私を抱きしめた。

 

『この警告を無視し、家族、あるいは友人が強制的に解除を試みた例が少なからずあり……その結果、213名のプレイヤーがアインクラッド、および現実世界から永久退場している』

 

………………

 

『しかし、諸君には今後、十分に留意してもらいたい。今後あらゆる蘇生手段は機能せず、HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

「ねぇ、ノイント」

 

カオリの声がかすかに聞こえてくる。

 

『諸君らが解放される条件はただ一つ、このゲームをクリアすればよい』

 

「これってさぁ、つまり、お母さんに怒られずにずっと遊べるってこと?」

 

っ!!

 

そうだ。そうです! バカは私でした!

 

『最後に、諸君らのアイテムストレージにプレゼントを用意した。確認してくれたまえ』

 

「カオリ! あなたは天才ですか!」

 

「ええ? 普通の事じゃない? ほら、ノイントも手鏡出してって茅場さんが言ってるよ?」

 

促されるままにアイテムストレージから私も手鏡を取り出す。

 

突如私の体、カオリ、ここにいる全プレイヤーが光りだした。

 

光が止むと、辺り一帯のプレイヤーの容姿のレベルが数段落ちていた。ブサイクになる魔法か呪いでも使われたのでしょうか。

 

「い、彩織?」

 

「カオリ、ここでの私はノイ、ント……詩織?」

 

目の前には、カオリではなく詩織がいた。微小のズレはあるものの、間違いなくそれは詩織だった。

 

手鏡には、髪は銀髪のままで、カオリと同じ顔の私が映っていた。

 

つまり、周囲の人間たちの容姿がブサイクになったのではなく、現実の容姿に変えられただけ。

 

だけ……ではありません! 前世の私の再現にどれだけの時間を要したと思っているのですか! せめてスクリーンショット機能があれば……

 

あきらめます。私はバカ違って諦めのいい女なのです。

 

「ノイント?」

 

「カオリ、いますぐ別の街か村に行きますよ。そこで夜に備えます」

 

「夜?」

 

「RPGでの基本ですよ。夜はモンスターの発生率が高いんです」

 

カオリは少し考えるようにして、うなづく。

 

「うん、ごめん。ちょっと平和ボケしてたよ。行こっか」

 

「見敵必殺、効率重視で行きましょう。おんぶしてさしあげましょうか?」

 

「ううん、平気。ところでなんだけど、うずくまって何考えてたの?」

 

「知っていますか、カオリ。数日間の失踪はただの不良行為ですが、数年間の失踪は行方不明事件になるんです」

 

「ノイント、それ絶対に人前で言っちゃダメだからね」

 

「分かっていますよ。ただ、この世界はやっぱり安全ですよ。星神ステラが言ってたでしょう」

 

「私たちを入れ替えた奴の言ってたことだよ?」

 

「……そうでしたね」

 

 


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