ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
パーティを組まされて後、ベータ版プレイヤーの行動に関しての一悶着あったものの、色黒で大柄な男性によってその場は収められ、ながら解散となりました。
パーティを組んでいただいた二人とどこかで話そうかと思ったところで、バカにしてはバカらしくもなく、カオリが良い提案をしました。
「圏外の安全地帯で食べながら話しませんか? 私、料理スキル高いですから、焚き火で焼くだけでも結構美味しく作れますよ?」
「《初対面同士の飲み宴会。ただし全員未成年》かつ、《最初の冒険。ただしパーティ全員前衛職》みたいな」
フードを被った女性と、暗い色の装備で揃えた男性は、何の文句も言わずにうなづいてくれました。カオリの装備に怪訝そうな表情を浮かべていますが。
客人二人を招いての夕飯は、焼いたイノシシやカラスの肉に塩とスパイスで味付けして、ネギのような味の葉野菜で包んで軽く炙った、擬似的なネギまでした。
カラスの肉に不安は残りましたが、流石料理スキルカンスト、ちゃんと美味しくて二人は驚いていました。
「上手い! 数万コルは取れるんじゃないのかこれ」
「美味しい……」
「おかわりはいくらでも作れるんで遠慮しないでくださいね」
「ハム……」コミュニケーションはカオリに任せて、私は本を――
「ダメだよ、ノイント。ちゃんと会話に参加しなさい」
本を取り上げられてしまいました。
「あなたは私の姉ですか」
「そうだよ? もしかして忘れてたの!?」
「いえ、申し訳ありません。あなたが姉という現実から逃げていただけですから」
「それ忘れるより酷いから! アスナさんからも何か言ってやってください!」
「……姉妹なの? 顔は似てると思ってたけど」
「一卵性の双子なんです! おしりの形も一緒なんですよ!」
「そ、そう……」
「いえ、カオリの方が一回り大きいです」
「あれ、そうだっけ?」
「あんたら、男がいるのを忘れてないか?」
人見知りっぽい男性が呆れたような表情で言った。
「あははっ、そうでしたね。食事中にする話じゃなかったですね」
「そうじゃない、そうじゃないんだ……」
「……バッカみたい」
ふむ。「なら頭の良さそうなシラケる話をしましょう。えと、アスナさんでしたっけ。どのような戦闘スタイルですか?」
「え、どうって………………猪突猛進?」
アスナさんが数秒考えた末に出した結論は思いのほか脳筋でした。
「「「…………」」」
シラケた。
「え、なに?」
「話すことを変えましょう。お二人、レベルはいくつですか?」
「レベル、13」
「俺は16だな」
低い。思ってた以上に低い。……もしかして私がレベルを上げすぎましたか?
「……カオリ、あなたは」
「ここに来る時に20になったよ。あれ、もしかして私がいちばん高い?」
「いえ、いちばん高いのは私ですね。ちなみに28」
「うそ……倍以上?」
「どこで! どんな方法でレベル上げしたんだ!?」
「気になるのでしたら着いてきますか?」
「いいのか? 秘密の狩場とかなんじゃ……」
「問題ありませんが、やっぱり着いてこられても困りますね。ソロでボスの取り巻きを倒し続けるわけですから、取り分が半減すると困りますね」私は店売りの槍を取り出し立ち上がる。「では、行ってきます」
「まて、死ぬ気か?」
「そんなわけないでしょう。現に私、死んでないですから」
一階層でまともな経験値を得るならもうそれくらいしか相手がいないというだけのことです。
「カオリ、明日村に戻ったら連絡しますから、私の分の宿を取っておいてくださいね」
「待っ――
迷宮最奥のボスモンスターはイルファング・ザ・コボルド・ロード。これは流石に一人で倒すのは一苦労なので、今日も倒すのはその取り巻きのルイン・コボルド・センチネル。ボスから逃げながら倒すので多少手間取りますが、十分安全に倒せるモンスターです。一つ問題なのは、三体までしか湧かないことですが、ボス部屋からでて数十分待てば再度湧くので、そこは休憩時間として我慢しましょう。
数日が経ち、ボス討伐戦当日。迷宮前に、会議の時よりも数名の欠員はあるものの、ボスを倒せるであろう人数は揃いました。
私たち残りものパーティの担当は雑魚モンスターの処理と、取り巻き相手の補助。女三人にソロ一人ということもあり、その程度が妥当という判断なのでしょう。
「まとめて、吹っ飛べ」
「ちょっ! 嬢ちゃん殺す気か!?」
そんなハズレ位置に追いやられたんですから、押し付けて後ろを歩いてる重装備の男共に投げつけても、私は悪くない。
「ダメだよ、ノイント。しっかり倒さなきゃ経験値入らないよ」
「多少はダメージ入ってますから、微小ですが入りますよ。カオリ好きでしょう? みんなはみんなのために、all for all です」
「八つ当たりには適用されないかな!」
タンッと、コボルト型モンスターの首をまな板と包丁で挟むようにして倒すカオリに歓声が上がって、私には文句しか飛んでこないのは納得いきません。だから、私は悪くない。
親の顔より見た扉。とまでは言いませんが、宿の戸より見た扉。というわけでボス部屋手前までは何も問題なく辿り着きました。
皆さんそれぞれポーションの準備などをして、ボスに備えています。
「カオリ、キリト、アスナ。武器の耐久は大丈夫ですか?」
「平気! ……あ、まな板がもう割れそうかも」
「問題ないわ。予備も買ってある」
「俺もだ」
カオリ用に買っておいたまな板を渡し、ついでに槍をもう一本取り出します。
「ノ、ノイントさん? 何に使うんすかそれ」
キリトが困惑しながら聞いてくる。
「筋力任せの二槍流です。跳躍用と攻撃用で使い分けたかったので」
「んな観賞用保存用みたいな……。ソードスキルも使えないだろ」
「だからこその筋力任せです。そもそも槍は両手持ちの武器です。片手で使うなら大半のソードスキルは発動しないのですから、二本使っても問題ありません」
「だからって」納得いかないのか、私の肩を揺さぶる。
「もう突入を始めてますよ。出遅れると面倒です」
「あ、まて!」
もうカオリもアスナも見えないところまで言ってしまいました。この方はソロらしいですし、ほっといても問題ないでしょう。
私は二本の槍の石突を地面につけて、腕の力で飛び上がり、取り巻きのコボルトの顔面目掛けて槍を突き出す。
「一体に何秒費やす気ですか。取り巻きは三体とも私が速攻で仕留めますから、全員ボスに攻撃してください。グダグダしてると、私一人で終わらせますよ?」
槍を顔面に突き刺したまま肩に着地し、首を切り落として一体目の取り巻きを仕留めました。
床と壁を利用して二体目の取り巻きまで飛び込み、心臓めがけて一突き。そのまま二本目を突き刺して、ポリゴン片になるのを確認したら、三体目の位置を確認して一度地面に着地。三体目に向かおうという所で、刺々しい髪型の男に肩を掴まれた。
「何を勝手なことしとるんや! 協調性っチューもん知らんのかおどれは!」
「知っていますよ。むしろ私の辞書には協調性以外の言葉は載っていません」
「ふざけてる場合とあらへんのやぞ! これは全員にとって大事な戦いなんや!」
「その全員に私を含めないでください。もう行きますよ」
「あ、まて!」
最後の取り巻きをカオリ、キリト、アスナの三人かがりで足止めしているのが見えました。全員レベルが低すぎです。他のオンラインゲームで何を学んできたのですか。
「射し、穿て!」
槍一本で真上に跳躍。もう一本を投擲スキルで投擲して、三体目の首から肩にかけて穿き仕留める。これで残りはボスだけですね。
ボス攻略開始から五分が経過。ボスのHPゲージはまだ一割も減っていない。
取り巻きが全滅してから三十分が経過した。
私は巨大なボスの攻撃を受け流しつつ攻撃を加えていている。
ボスのHPが残りわずかとなったところで、ボスは二本目の武器を抜いた。
どんな技が来るかわからないので、何が来ても対応可能な位置まで下がると、キリトが叫びが聞こえた。
「だ……だめだ、下がれ! 全力で後ろへ跳べーーッ‼︎」
一人が飛び出し、他の全員は入口近くまで下がっていた。
……なぜ?
見捨てる気?
ボスのソードスキルの軌道は、しっかりと飛び出た一人を仕留められる軌道だ。不味い!
「支点力点、作用点!」
槍を一本投げ捨て、もう一本で跳躍して相手の剣を受ける。てこの原理で、私を支点として、ボスの剣が作用点、石突近くの腕が力点となるように振るい、剣を真上にかち上げる。
危うく死にかけたその男は、なんとディアベルだった。
「何をしているのですか。自殺願望なら後回しにしてください」
「キミも、ベータテスターなら分かるだろう?」
「さぁ。分かりませんね」投げ捨てた槍を拾う。
ボス以外が沈黙に包まれる。ボスは、私に襲いかかろうとしていた。
「攻撃は全て私が退けます! 全員でボスを切りなさい!!」
ボスの攻撃を全て無力化することで、防衛に回っていた人達を攻撃に回せる。これなら私一人での攻略よりよっぽど効率的です。
そこからは大した問題もなく、ディアベルも攻撃に参加して第一層のボス、イルファング・ザ・コボルド・ロードの攻略を完遂した。
そう、ここまでは大した問題はなかった。
「なんでや!!」
さっきのトゲトゲが叫ぶ。
「なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!」
「み、見殺し?」
トゲトゲに睨まれるキリトと、ディアベルも困惑していた。
他の男が叫んだ。
「だってそうだろ! あんたはボスの使う技を知ってたじゃない!! あんたらが最初からあの情報を使えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!」
「おれ、死んでないんだけどな。日差しが弱いのかな、ははっ」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。下手すれば、攻略はここで詰むことになりますから」
喚きは続く。
「オレ……オレ知ってる! こいつら、元ベータテスターだ! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ‼︎知ってて隠してるんだ!!」
攻略は私一人でも不可能ではないでしょうが、効率はかなり悪い。仕方がありません。ここは感情封印といきましょう。
「知っていたらなんだと言うんです。あなた達がここで喚いて、それで誰が得するというのですか?」
「なんだと!!」
「あぁ、あなた達は得するのでしたか。なんでしたっけ、ベータテスターは死んだ約二千人に謝罪し、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわなきゃパーティメンバーとしては命は預けられない。でしたか。会議の時に言ってましたね」
「そ、そうだ! 全部出せ!」
「女だからって許されるとか思ってんじゃねぇぞ!」
「……許されなかったらどうなるのでしょうか?
そうですねぇ、私には姉がいますから、それを人質にでもとって性奴隷にするなんていいかもしれませんね? 女性プレイヤーは貴重ですから、性欲のはけ口にも一苦労でしょう」
「ほぉう、いい度胸しとるやないか。ならここで、裸で土下座の一つでもしてみろや」
男共が卑猥な目で私を見る。
「ノイント! ダメだよそんなの! そもそもノイントはベータテスターなんかじゃ……、っ!」
どうやらカオリは気づいたようです。
「そんなことしませんよ、カオリに言われるまでもなく。私はベータテスターではありませんから」
「そんなの信じられるか!」
「証拠を出せ証拠を!」
「証拠、証拠ですか。そうですね、ゲームをクリアした後ならそれも可能なのでしょうが、少なくとも今は不可能ですね。見た目で分かるものじゃありませんし、何か物的特典もありませんから。さながら魔女裁判ですかね」
「んなわけあるかい! 現に知っとるゆーとる奴がおるやないか!」
「なぜ、いつ、どーやって知ったのでしょうね。その方ももしやベータテスターなのでは無いですか? それなら知っていても、不自然ではありますが信憑性はあります」
「つべこべ言わず出すものだしやがれ!」
「……仕方がありません。でしたら私の槍、ボスの攻撃全てを受けきった環境トップクラスの槍を一本差し上げます。これでどうかご満足ください」
私が槍を放ると、そこにアリのように群がる下衆共。
「カオリ、先へ進みましょう。立ち止まっている時間が惜しいです」
「え、あ、うん。いいの? あれ」
「店売りの、それも耐久値ギリギリのオンボロ槍ですよ。処分する手間が省けました」
「……ノイント、嘘つきは泥棒の始まりって知ってる?」
「カオリ、私の今の気分は反逆者です。いえ、今思えば彼らは解放者なのですかね」
「それって、もしかしてトータスの?」
「全く、感情とは厄介なものです。正義と悪が簡単に切り替わっちゃうんですから」
かっこいいだけのことを言ってみましたが、そんなことよりも第二層本屋さんが楽しみです。いっそ、私も書いてみましょうかね。
ノイントの戦い方、なんかに似てると思ったらモンハンの操虫棍にそっくりでした。
賽銭箱に五円玉を放る感覚で感想をよろしくお願いします!
小説家は読者が思っている以上に感想に飢えに飢えまくっていることを、読者の皆様は知ってくださいまし。
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