ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第5話

オルクス大迷宮

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 

 

 

 

現在、希依達はオルクス大迷宮の正面入口がある広場に集まっていた。

 

希依としては洞窟の入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置なのだろう。

 

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそう。

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

正面に立つ光輝達、特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。希依は知らぬことだが、訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

 

 

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

 

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

 

この調子でスムーズに進んでいって20層。

希依はメルド含む騎士団からは図書館に二週間引きこもった完全知識特化型だと評価しており、魔物の説明を全て希依に投げ、それ全てに正確に、むしろ騎士団ですら知りえない情報すら語ることで全員を驚愕に染めた。

希依を努力をしない怠け者と評して居た勇者、天之河光輝はそれに悔しがっていたがそれは余談だろう。

 

 

さて、そろそろ私も少しは働かないとかな。

 

20層まで降りてくると、さすがに簡単に勝てるとは言いきれず、ところどころに苦戦しては光輝が聖剣で薙ぎ払うというゴリ押しのような攻略を行っていた。

 

そんな所に防具も武器も一切装備していない普段着姿の私が前に出てくると勇者パーティやメルドが止めにかかるが筋力MAXの馬力の前には焼石に水どころか、海にお湯と言ったところか。

 

先頭を行く希依が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルドの忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウント。岩のような硬い肌とゴリラのような豪腕を誇るパワー特化の魔物。

洞窟に住み着いたゴリラが長い年月をかけ、他の生物に負けない強力な戦闘力と、格上の生物から逃れるための擬態能力を身につけるために進化した魔物。

ま、要するに雑魚だね」

 

希依は左手を腰に当て、右手を前に出し、この世界にはない、というかどこの世界にもないオリジナルの詠唱を唱える。

 

「求めるは絶対不変の鈍。もたらすは粉砕撲殺。極めたるは殺戮の剣技」

 

希依の右手に長剣のような形をした刃のない剣が握られ、希依はそれを肩に乗せてロックマウントへと歩き出す。

当然、ロックマウントは希依に襲いかかる。

 

「喜多さん危ない!」

 

女の子の誰かが希依の身を心配して叫ぶも、希依は足を止めない。

 

「殺戮演技 参の型 撲殺劇」

 

希依は剣の腹でロックマウントを殴りつける。

ロックマウントの全身の骨が砕け、硬い皮膚に覆われた中身はグズグズのひき肉となる。

血が一滴も流れていない肉袋の完成である。

 

襲いかかってきた一体だけでなく、壁に擬態したままだったロックマウントも同じようにし、ロックマウントのゴリラ型ソーセージが四つ完成する。

 

「どうよ騎士団、私だって戦えるんだよ」

 

メルドは「せめて何をするか言ってから行け。てか死んでるのかこれ?」と呟きながら希依に近づき、ロックマウントの死体を剣でつつくと仁王立ちしていたロックマウントが希依に向かって倒れてくる。

 

希依は押しつぶされたくも、汚れたくもないためロックマウントの身体に傷がつかないように弱く頭部を蹴り、反対側に倒そうとする。

が、光輝がそれをロックマウントが死んでいないと誤解したのか剣を構えて詠唱を始める。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントの死体から血肉を撒き散らし、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルを希依に向ける光輝。

 

希依はロックマウントの血肉を正面から浴び、白いパーカーとジーンズは面影もないほど赤黒く染まる。

「はぁ~」と、気だるげなため息を吐く希依はパッパッた手で払うと、血で汚れた服や肌は本来の白さを取り戻す。

 

「もう大丈夫だ希依さん!努力をしない君を良くは思わないけど、それでも俺はみんなをまも――ヘブゥッ!」

 

頓珍漢なことを言い出す光輝にメルドは問答無用で拳骨を喰らわす。

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなもの。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

「いや、どう見てもパチモンでトラップでしょ。光がわざとらしく綺麗」

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は希依やメルドの言葉を聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

メルドは、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

「ほらやっぱり」

 

しかし、メルドも、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップなのだろう。美味しい話には裏がある。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

部屋の中に光が満ち、視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 

 

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