ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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姉妹転生 005

 

 

「待ってくれ! あんた、もしかして――」

 

「なんです?」

 

二層へと向かう道中、他のプレイヤーは一層に戻ったのか、一人だけ、キリトだけが私たちを追いかけてきた。

 

「思い出したんだ。あんた、学園最強だよな」

 

「……ええ、まぁ、不本意ながら」

 

「ノイント、キリトさんって、リアルの知り合い?」

 

「さぁ。少なくとも蹴り飛ばした相手の顔は覚えてませんし」

 

「俺も蹴り飛ばされた覚えはねぇよ。忘れてても無理ないさ。学校の図書室で一度会っただけだからな」

 

学校、図書室……、思い出した。

 

「あぁ、もしかして痛々しい、読むに耐えない中二くさい本を山積みにしていた後輩の」

 

「そっちか!? そっちで思い出しちゃったのか!?」

 

「キリトさんって、もしかしてそんな趣味が……?」

 

「違う! 当時俺は中一だから中二なんかじゃない!」

 

「冗談です。確かにその光景は今も手に取るように思い浮かびますが、それとは別に彼と一度だけ話してるんです。カオリにも話したでしょう。読みたい本が被ってしまい、必死に譲ろうとしてきた女顔の後輩ですよ」

 

「あぁ! その話思い出した! あれだよね、ちょうどノイントが学園最強って騒がれだした頃の」

 

「ええ。……それで、何か用ですか? 今の私は気分がいいので、片手間程度になら頼み事も聞いてあげますよ、後輩」

 

私の言葉に、キリトは必死に顔を横に振った。

 

「違う違う、違うんだ。礼を言いたかっただけなんだ。

ありがとうございました、先輩。俺、実はベータテスターなんです」

 

「そうですか。ではこれにて。私はベータテスターを助けた覚えはありませんよ。……あ、ディアベルを助けていましたか。あれは単に、ベータテスターへのヘイトを有耶無耶にしただけですよ。ベータテスターは貴重ではありませんが重要な戦力ですから。

それでも私に恩を感じると言うのでしたら、せいぜい攻略に尽力してください」

 

私は二層へと続く門を開け、振り返らずに先へ進む。

 

「あぁ、そうだ、パーティは解散しておいてください。私とカオリはこれから単独行動が続くので」

 

この日、私たち四人のパーティは解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一気に時計の針を進め、一思いにカレンダーを捲り、サービス開始から一年と数ヶ月が経過したころ、私は遂に、ついについについに! 成し遂げたのです!

 

白を基調としたドレス甲冑のようなもの。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕、足、頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るした、前世の私の戦闘服。そして、銀色に輝く全長二メートル近くの大剣。

 

「フッ、フフッ、やりました! 一年四ヶ月、正真正銘三百六十度ノイントちゃんの完成と言っていいでしょう!! 惜しむらくは顔が再現出来ていませんが、しかし! 人間の顔なんて誤差なのです! 銀髪ワンピドレス甲冑で大剣持っていればそれはノイントちゃん! 間違いありません!!!」

 

……………………

 

反応する声がないどころか、その場には人間は一人しかいない。

「なぜ! なぜこの喜びを分かち合う相手がこの場に一人とて居ないのですか!」

 

それは、人目につかない中途半端な層の村か街か曖昧な町のはずれのホームに住んでいるからである。

 

「寂しい! 誰ですかこんなクソ田舎に住むとか考えたアホは!」

 

ノイントである。

 

そして住所は姉であるカオリすらも知らない。

 

「カオリ! アスナ! キリト! あなたたちは今どこに!」

 

キリトとアスナは最前線。カオリは下層で屋台。

 

「仕方がありません。これはきっと雑魚を相手に無双してこいという主のお導きに間違いなく違いありません! ビバ! 新たなる出会い!」

 

ビバは多分もう死語である。

 

 

 

 

 

 

35層の森。

「今日のラッキーナンバーは35!」と無我夢中に叫びながら走り回ったノイントは正気に戻ったら森の中にいた。

 

「……何処でしょう、ここ。これは迷子なんかじゃありませんよ! 遭難です! だからお姉ちゃんに言わないで! ……って、今は一人なんでした。」

 

あの私がここまで狂うとは、やはり感情は恐ろしいです。そして寂しい。

 

「都合よくプレイヤーに会えれば「ピナー!!」

 

都合よく、女の子の泣き声が私の耳に届く。

 

「試し斬りィィ!!」

 

大剣とは別に、両端が石突になっている槍(というか棍)、で飛び上がり、声の元へと切りかかる。

 

声の主の少女はゴリラ型モンスター三体に襲われていた。

 

「ひー! ふー! みー!」

 

「先輩!?」

 

槍で飛び跳ね、大剣で三体をまとめて切り払ったノイントは、偶然声を聞いて駆けつけてきた黒の剣士、キリトに切りかかる。

 

「よー!」

「まてまてまてまて! 俺だ!――ピッ!?」

 

キリトの顔面の真横に大剣が突き刺さり、ノイントは停止した。

 

「……どこに行っていた、後輩」

 

「それはこっちのセリフだ。前線からもいつの間にか居なくなってるし」

 

「あの……」

 

「まぁ、そんなことどうでもいいんです。見てくださいよこの装備! 可愛いでしょう! カッコイイでしょう! 完璧な再現度でしょう!!褒めてください! 称えてください! この喜びを分かちあってください!」

 

「あんたそんなキャラだったか!? カオリはどうしたんだよ!」

 

「カオリは、もうここには……」

 

「なんだと?」

 

「あのー、」

 

「冗談です。正直言うと一年ほど別行動中なので全く会っていません。メッセージでのやり取りだけで……す……、はっ、その手がありました」

 

「なんのことだ?」

 

「あの! 助けてくれてありがとうございました!」

 

「「っ!!」」

 

少女は立ち上がり、割り込むように礼を言う。

 

「……お気になさらず。 ……その羽根、もしかして竜騎士(ドラグナイツ)シリカですか?」

 

少女、シリカの手には青い羽根が握られていた。

 

「なに!? この子が竜騎士(ドラグナイツ)!?」

 

「あの、その竜騎士(ドラグナイツ)は知らないですけど、私はシリカです。これは、ピナの……」

 

テイムしたモンスターは、確か蘇生が可能なはずです。

 

「後輩、蘇生アイテムの入手は私たちでも可能ですか?」

 

「確か、四十七層の南にある思い出の丘っていうフィールドダンジョンでその蘇生アイテムが入手出来る……らしい。情報は確かなんだが、俺もこの目で見たわけじゃないんだ」

 

「47層……、大丈夫です。私、ピナのためならいくらでも頑張りますから」

 

テイムモンスターの蘇生、あまり興味がなかったので記憶が曖昧ですが、確か時間制限があったはずです。早い方がいいでしょうし、ついでに道案内もお願いしましょう。

 

竜騎士(ドラグナイツ)シリカ、交換条件といきましょう。私はいま遭難しています。アイテム入手を手伝いますから、私を街まで案内してください」

 

私が差し出す手を、シリカは申し訳なさそうにとった。

 

「ありがとうございます。でも、いいんですか? 私なんかにかまけて、攻略とかは」

 

「私は攻略組から離脱しましたので。そこの後輩は知りませんが、私はこの装備が作れた時点で暇なんです。

あぁ、申し遅れました。私はノイントといいます」

 

「私はシリカです! その、よろしくお願いします。ノイントさん、コウハイさん」

 

「……俺はキリトだ。この学園最強の後輩なだけで後輩は名前じゃないんだ」

 

「ごっ、ごごごめんなさい! 失礼しました!」

 

「いやいやいやっ、気にしなくていいって」

 

「後輩、SAOで二度とその名で呼ばないでください。さもなくば漆黒の剣士(ダークセイバー)キリトの名を流行らせますよ」

 

「……悪かったよ」

 

「もしかして竜騎士(ドラグナイツ)シリカもノイントさんが広めたんですか!?」

 

「コツは本人にだけは知られないようにすることですよ」

 

「でしょうね! 私初耳ですもん!」

 

「なぁ先輩、まさかとは思うが、閃光(セイント)アスナとか最終要塞(ラスボス)ヒースクリフとか棘頭(イガグリ)キバオウとかもあんたの仕業か?」

 

「はい。攻略組を抜けるときに置き土産として」

 

「私攻略組じゃないんですけど!」

 

「攻略組でなくとも、目立つ方には差し上げております。有名どころだと猟理人(クッキングママ)カオリとか鍛冶神(ヘファイストス)リズベット。代金は一切取っておりません。サービスです」

 

「あんたそのうち刺されるぞ!?」

 

「私を刺したところでその名は消えませんよ。死ぬまで背負ってください」

 

「下手な窃盗よりもタチが悪いです! ……この人に頼って大丈夫でしょうか」

 

「実力は問題ないと思うけど……ちなみに先輩、いまレベル幾つだ?」

 

「二ヶ月前、お正月辺りでカンストしましたよ。この装備のために裁縫スキル、鍛治スキル、採掘スキルなどなど、スキルスロットが大量に必要だったので」

 

「嘘だろおい……」

 

「攻略組ってすごいんですね!」

 

シリカがキラキラとした目をキリトに向ける。

 

「いやシリカ、先輩が異常なだけだ」

 

「ほぇー。ノイントさんって何者なんですか?」

 

「さて、なんなんでしょうね。わかりやすいところなら、ギルド《反逆者》の元リーダー、といったところでしょうか」

 

「反逆者、聞いたことないギルドです。キリトさん、知ってますか?」

キリトは険しい顔で答える。

 

「……ああ、知ってるさ。古参の攻略組の中では有名な話だ。ある意味殺人ギルド《ラフィンコフィン》以上の接触禁止(アンタッチャブル)、通称()B()A()N()()()()。メンバー全員垢BANで生死不明って聞いてたが、まさか先輩もそこにいたなんてな」

 

「そんな極悪集団みたいに言わないでください。どれだけ愚かでも、私の大切な友人達なんですから」

 

そう。彼らはちょっとばかし遊びすぎて運営に目をつけられただけなんです。

 

採掘スキルでダンジョンを破壊したりとか、

跳躍系ソードスキルを連発して上層に登ろうとしたりとか、

モンスタードロップのアイテムを全て実体化させながらのレベリングでサーバーに負荷をかけたりとか、そう、ちょっとばかし好奇心旺盛で行動力モンスターなだけなんですっ!

 

 

 





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