ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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では。


姉妹転生 006

 

シリカの案内で35層の主街区に辿り着けたノイント達は、夕食を終えた後、宿に泊まることになった。もちろん、シリカとノイントの二人部屋と、キリトの一人部屋に別れて。

 

「……眠れませんか?」

 

「……はい」

 

シリカは枕を抱いて横になっているが、眠れそうになかった。

 

「明日は早くに宿を出るので早めに睡眠に入って欲しいのですが」

 

「ごめんなさい。なんか身体を休めたら、ピナのこと思い出しちゃって」

 

「まぁ、ギルドを解散したときは私もそうでしたから、気持ちは分かりますが。まったく、感情とは厄介なものですよ」

 

「ごめんなさいっ。その――」

 

「構いませんよ。まだ死んだのが確定しているわけではありませんし、全員が垢BANされたわけではありませんので」

 

「え? キリトさんは全員が垢BANされたって言ってませんでしたっけ」

 

「そんなことありませんよ。現に私は違います。有名どころだと、情報屋、鼠のアルゴも反逆者の一員でしたし」

 

「へ、へー」

 

ポカンとした表情を浮かべるシリカ。

 

「良かったら、他のメンバーの話でも聞きますか?」

 

「えと、じゃあお願いします」

 

「そうですねぇ、では、《反逆者》を結成するに至るまででも話しましょうか。寝物語になると幸いですが」

 

 

 

 

あれはまだ攻略組で戦っていた頃のことです。

 

彼と出会ったのは新月の夜でした。

 

 

「クソが! クソが! クッソがぁ!!」

 

 

彼の名はカイン。元々は攻略組のあるギルドに属していたのですが、レベルノルマについていけず、夜中の圏外に追い出されたそうです。汚い言葉を叫びながらモンスターと戦っていた彼はさながら狂戦士でした。

 

 

「なァにがレベルだ! ふざけんじゃねぇよ雑魚どもが! オレはテメェらより強え! それで十分だろうが! ああ!!ああ!!! ああ!!!!」

 

 

私はあのとき、さながら習慣になっていた深夜でのレベリングをしていました。そこにカインがやってきて、私のレベリングの障害になったので私から声をかけたんです。

 

 

「まるで狂戦士ですね。それでいて効率的。ただ、別の場所に移って貰えますか。ここは私の縄張りです」

 

「アァン!!? ……ちっ、テメェか、たしか――」

 

「ノイントです。そういうあなたはカインですね。舞突錐(ダンシングランサー)カイン」

 

「オレァ今機嫌が悪ぃンだ。死にたくなきゃ退()け」

 

「あなたに私は殺せませんよ」

 

「うっせぇ!! テメェもオレはレベルが低いだの武器がしょぼいだの言う気かゴラぁ!」

 

「レベルはともかく武器は私も人のことは言えませんよ。店売りの量産品ですから」

 

「だからどうした! 強ぇ奴らが気に入らねぇ! 弱い奴らも気に入らねぇ! 何もかもが気に入らねぇ! いいから黙ってどっか行きやがれ!!」

 

 

何もかもが気に入らない。今思うと、私は彼の言葉に何かを感じたのでしょうね。

 

 

「いいですね、あなた。よろしければ私と組みませんか?」

 

「はぁあ!? 意味わかんねぇよ! どういう意味だオイ!」

 

「端的に言えば、気に入りました。今のギルドをやめて、私と組みなさい」

 

「……何が目的だ」

 

「このゲームに逆らいましょう。ここのルールに逆らいましょう。茅場晶彦に逆らいましょう。何もかもに逆らい、全力でこのゲーム(人生)を楽しみませんか?」

 

 

私の主な目的はゲームのクリアではなく、(ノイント)の再現でした。ええ、ノイントにはモデルがあるんです。そのために、正攻法の攻略組を辞める口実が欲しかったんですよ。

 

 

第百層攻略以外の方法で、何時でもログアウトできる方法(バグ)を探すという、口実。

 

 

「ハッ! ハハッ! ハハハッ!! オーキードーキー、いいぜ、あんたに飼われてやるよ。そっちの方が楽しそうだ」

 

「それはそれは。では行きましょうか。あと何人か同士を見つけて、ギルドを作るんです」

 

「せいぜいオレを上手く使えよ? リーダー」

 

 

 

 

「彼は後、採掘スキルを極めてダンジョンを破壊、アカウントを削除されてしまいます」

 

「そんなことできるんですか!?」

 

「このゲームの製作者は人間ですから。偶然にも破壊不能オブジェクトで構成されていないダンジョンをアルゴが発見し、カイトが破壊しました。天井を階段状に破壊しながら登って、ボスを倒さずに上の階層に行ってしまい、垢BAN」

 

「あははは……」

 

「あれは一応運営側のミスですから、恐らく無事だと思うんですよね。現在自由かはともかく。

夜もおそくなって来ましたね。もう一人だけ話しますから、そしたら寝ましょう」

 

「はぁい」

 

シリカは眠たげな返事を返した。

 

 

 

 

 

プレイヤーネーム、アップル。通称りんごちゃんは、ログイン時点では十歳の女の子でした。

 

シリカならご存知かもしれませんが、一層のはじまりの街の教会で年少の子供たちを保護されています。

 

りんごちゃんは年齢以上に小柄な女の子だったため、強引に保護されたそうなのです。

ただ、りんごちゃんはゲームが大好きな上に活発で、よく抜け出してモンスターと戦ったり、クエストを受けたりして怒られてたそうなんです。子供が危険なことをするなって。

 

 

私とりんごちゃんが出逢うのは、カインと組み、本格的に仲間を探し始めて数日後のことでした。

 

カオリという、まぁ旅する料理人みたいなことをしてる、不覚ながら私の姉であるカオリに、りんごちゃんの噂を聞いたんです。

 

曰く、健気に走り回りながらモンスターを倒す幼女がいると。

曰く、軍を脅かす幼女型モンスターが色々な階層で走り回ってると。

曰く、大人に追いかけられながらモンスターを倒す幼女がいると。

曰く、曰く。曰く曰く曰く、とにかく幼女が走り回ってると。

 

確実に子供受けの悪いカインをカオリに預けて、私ははじまりの街に向かったんです。

 

 

 

「はーなーしーてっ! 離してってばー!」

 

「ダーメーでーす! 街の外は危険なんですよ!」

 

「だいじょーぶだもん! りんごは強いからへーき!」

 

「いーけーまーせーん! アップルちゃんはまだ小さいんだから」

 

「ヤーダー!」

 

 

私が教会の扉を開けると、ポニーテールの女の子を大人の女性プレイヤーが必死に抑えている光景でした。

 

「……何をしているのです?」

 

「うわっ!?」急に扉が開いたからか、はたまた急に声をかけたからか、急に抑えていた腕が解け、私に突撃来てきました。

 

「ととっ。……アップルという女の子に話があって来たのですが、まだいらっしゃいますか?」

 

「あの――」

 

「はいはい! アップルはりんご! あたしなんだよ!」

 

答えようとした女性の声を遮って、アップル、りんごちゃんが元気よく声を上げました。

 

「へぇ、あなたが。 私はノイント、元攻略組のプレイヤーです」

 

「アップルちゃんに、なんの用ですか」

 

「……私はパーティ、いえ、ギルドを組もうと思っています。時間と力と、なにより元気を持て余している最前線に居ないプレイヤーだけで組むギルドです。

そんな時に、ある料理バカからアップルさんの噂を聞きまして。

どうです、アップルさん。私たちと遊びませんか? この残り少ないゲーム(人生)を楽しみましょう」

 

「うんっ! りんご、もっといっぱい遊びたい!」

 

りんごちゃんはすぐに返事を返してくれましたが、それを女性は認めませんでした。

 

「いけませんアップルちゃん!! あなたはここに――」

 

「やだっ! りんごもっと遊びたいもん!」

 

「外は危険なんですよ! ここにいれば安全なんです! 私が守りますから!!」

 

「そんなの一回もお願いしてない! ここはゲームなんでしょ!? 学校の先生みたいなこと言わないでよ!! ()()()死んじゃうんならその()()()まで遊ばせてよ!!」

 

「っ!!」

 

りんごちゃんも、女性も、両者共に泣いていました。

 

数分、無言が続き、ついに折れてくださいました。

 

「……ノイントさん、アップルちゃんに、危険な目にあわせないと約束してください」

 

「無理です。この世界に絶対的安全なんて有り得ませんから。まぁ、それでも不用意に危険な目にあわせようとはしませんよ。私たちの目的は、いつか攻略されるその日までを全力で生きることですから」

 

「お姉さん早く行こっ! 遊びに!」

 

「ええ、はい。……では、アップルさんは私が頂きました。またいつか」

 

 

 

 

その後、カインと合流して、計三人で、後に接触禁止(アンタッチャブル)とまで呼ばれたギルド《反逆者》を結成したんです。

アルゴとは、それから少しあとにちょっと巻き込んでしまって、そのまま成り行きでギルドの一員に。

 

 

 

 

 

「どうです、聞いてみての感想は」

 

「あの、そのアップルちゃんはいまは……」

 

「行方不明です。恐らくはカインと同じ目にあったと思いますが、りんごちゃんの方は現場に誰もいなかったので」

 

「現場に、いなかった?」

 

「ええ。

デスゲームが始まってすぐのこと、アインクラッドから投身自殺するのが流行ったのは知ってますよね?」

 

「はい……。まさかっ!」

 

「いえ、逆ですよ。あそこからアインクラッドの外に出て、外側から登って行ったんです。そこから先はさっぱりですね」

 

「その……、無事、だといいですね」

 

「まったくです。案外、先に外で遊んでいるかもしれませんね」

 




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