ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
翌朝早朝五時。シリカとキリト、ノイントは転移門へ。四十七層の転移門の広場は朝早いからか、普段はカップルで溢れるここもまだ無人だった。
「行きますよ。後輩、シリカ」
「は、はい!」
「おー。……なぁ、俺いらなくねぇか?」
「後輩は先輩に使われるものです。せいぜいか弱い女の子二人のために男を見せてください」
「おいいま聞き間違いじゃなきゃ使われるって言わなかったか? 言ったよな!」
「あ、あははは。二人は仲良いんですね。付き合ってるんですか?」
シリカの冗談に、キリトは飛び退いて否定する。
「無い無い無い無い無い無い無い! 百億歩譲って仲は良くてもこの人と恋仲とか宝くじで百億円当てるより有り得ない!」
「私も付き合いたいとか欠片も思いませんが、流石にそこまで言われると傷つきます。いっそ襲ってみましょうか」
「だからあんたは
迫り来る植物型のモンスター達。本来、特有の粘液やら触手やらを駆使していやらしく襲ってくるのだが、彼らは明らかにノイント達を避けるように、道の両脇で直立不動になる。
「ここのモンスターは決して危険ではありませんがやはり、見た目が気色悪いですね。……そのまま触手一本、粘液一滴たりとも触れないでください」
ノイントの言葉が通じたのか、頭部をブンブンと上下するモンスター達。
「キリトさん、ここのモンスターって、いつもこんななんですか?」
「いや、そんなはずないんだが……。先輩、なにやった」
「いえ、まぁ、反逆者のときにちょっとやんちゃしすぎまして。今の私に敵対するモンスターはボス級くらいですよ」
「マジで攻略組に戻ってくれよ」
「嫌ですよ。あぁ、でもまぁ、75層辺りですかね、その辺で復帰しますよ。今はまだ、私が表で動くべきではないんです」
「表、ですか?」
シリカが首を傾げる。
「いえ、そこの後輩は折り紙の表を黒く塗る変質性を持っているってだけの話です」
「何の話だ!?」
「……キリトさん、ちょっと、ほんとにちょっとですけど、ちょっときもちわるいです」
「やめてくれ! そんな趣味ないから! しかも〈気持ち悪い〉をひらがなで言うな! シリカに言われると俺が変態みたいになる!!」
「ほんとは街の男性プレイヤーくらい気持ち悪いです」
「やめろー!! 俺はロリコンじゃない! 違うんだ!」
「そんなまっくろくろすけ装備揃えてる時点で変態でしょう。いったい幾つの眼玉をほじくったのです?」
「サツキとメイじゃねぇよ! いやあの二人もほじくったりはしてないけども!」
「じゃあキリトさん、なんでそんなに真っ黒なんですか?」
「い、いや、それはその……」
「シリカ、男の子は何でもかんでも黒に染めたがる時期があるんです。時期が過ぎればピンク色のシャツなんかも着るようになります。けっして触れてはいけませんよ。デリケートな所ですから、触れるならアルコール消毒したゴム手袋を着け、熱消毒したピンセットで丁寧に触れてあげてください」
「俺を胎児かなんかだと思ってるのか!?」
「私から見れば、あなたなんぞ胎児のようなものです」
「
「あの……キリトさんより年下の私は一体……」
「シリカは飼い猫のようなものです」
「褒められてるのか、貶されてるのか、さっぱり分からないです」
「下を見なければ踏んでしまうから、大差ありませんよ」
「猫踏んじゃった!? ノイントさん酷いです!」
「正しく足元に及ばない、か」
「なんでキリトさんは冷静に分析してるんですか!」
「そういうお年頃なんです。放っておきなさい」
「ノイントさんの目が休日のお父さんを見るお母さんぐらい冷たいです!」
やんややんやと騒ぎつつ、一度も剣を抜くことなく丘に到着した。
「ほら、あそこですよ。花が咲くのは」
「ありがとうございます!」
とったとったと駆けるシリカを、ノイントとキリトが後を追う。
「キリトさん! ノイントさん! これですかー?!」
シリカの手に根から引っこ抜かれたプネウマの花が握りしめられていた。年相応の可愛らしい笑みで花をブンブン振るっている。
「あれってあんな強引に抜くアイテムだったか? もうちょっと丁寧というか、ファンタスティックな……」
「まぁ、甦ればそれでいいでしょう。
おめでとうございます、シリカ。嬉しいのは見て分かりますが、蘇生は街に戻ってからですよ」
「はい!」
もう街に着く。この橋を渡れば。そんな所で、前を歩いていたノイントは後ろを歩く二人を制止した。
「ノイントさん?」
はぁーと、ため息をついてからノイントは剣を抜いた。
「さっさとそこを失せなさい。そうすれば少なくとも今日は、日を浴びられますよ」
ノイントがキッと睨むと、十人ほどが顔を出した。そして、最後に赤髪の女性にシリカが驚愕する。
「っ! ロ、ロザリアさん!? どうしてここに……」
「その様子だと、首尾よくプネウマの花を手に入れられたみたいね。おめでとう。じゃあ、早速花を渡してもらおうかしら」
「な、何を――」
「シリカ、後輩。嫌なものを見たくなければ、目と耳閉じて下がっていてください」
「待ってくれ! こいつらはオレンジギルド、タイタンズハンド。俺がっ――」
大剣の腹にキリトの顔が映った。
「すっこんでろ、後輩。私が殺ったほうが効率がいい」
「……ノイントさん?」
「大丈夫ですよ。殺した程度で、私に影響はありませんから」
ノイントはシリカの頭を撫でると、敵集に大剣を向ける。
「反逆者元リーダー、ノイント。
「オラァァァッッ‼︎」
「死ねやぁぁッッ‼︎」
「のろい」
ノイント以外の目には、振るわれた大剣の残像すらも映らなかった。
まず襲いかかってきた二人の首が飛んだと同時にエフェクトを発生させることなく消え去る。
「こっ、殺したぞこいつ!」
「この人殺し!」
「それはあなた達でしょう? 私は悪くありません」
跳躍用の槍を取り出し、瞬きする間もなく全員を消し去った。
「ふぅ。これで全員でしょうね。……どうしました?」
「先輩、あんた、人を!! 人を殺したんだぞ!!」
鬼気迫る表情でノイントの胸ぐらを掴むキリト。
「ノイントさん、どうして……」
はぁーと、ため息をついてからノイントは語る。
「先に言っておきます。一人も死んでいませんよ。
「なんだと」
「ユニークスキル、独断権。私の攻撃で死亡したプレイヤーは、HP最大値の5%まで回復させて黒鉄宮の監獄に強制転移されます。おまけに一撃で殺せば私のカーソルもグリーンのまま。私の独断と偏見で
「すごい……」
「待て! 待ってくれ、そんな」
シリカは感激するが、キリトは頭を抱える。
「そんな、アンフェアなスキルがこのゲームにあるのか? 発動条件はなんだ? そもそも茅場はなんのためにそんなスキルを……」
「全てを語ると私のアカウントも危ういので全てを語ることは出来ませんが、掻い摘んで伝えましょう。
〈独断権〉このスキルは、茅場晶彦を脅迫して創らせたものです。そして私は、この世界のプレイヤーとしての茅場晶彦を知っています」
「なに!? 誰だ! まずいるのか!?」
「私が語れるのはここまでです。反逆者のメンバーは知っていることですが、これ以上を口にした途端にこの世界から
この後、キリトとは一切の会話もなく別れ、ノイントとシリカは街の宿に戻った。
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