ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
「ノイントさん、私を、最前線に連れて行ってください!」
「はぁ」
ピナを蘇生させ、二人してはしゃぎ倒した後のこと。腰を九十度直角に曲げ、頭を下げ頼み込むシリカに、すぐにいい返事は返せませんでした。
「ロザリアさん達と戦ってるノイントさんを見て、ついて行きたい、強くなりたいって思ったんです」
「あのときも言いましたが、あのときというかそのときに言いましたが、私の目的はアインクラッドの攻略では無いんです。そして一番の目的は既に達成してしまっています」
「分かっています。聞いてました。覚えてました。でも、こうも言っていたのも覚えてます。75層辺りに復帰するって。その時まででいいんです。その時までに、最前線に立てるくらい強くなってみせます! 弱いだけの、可愛いだけのシリカじゃ嫌なんです!」
シリカの横にいるピナも伏せをしていて、子と共に頭を下げる親のよう。
「わかりました。いいですよ」
「だめ、で…………いいんですか!」
「ええ。まぁ、ああは言いましたが、それまでにやることも大してありませんでしたから。アドバイスと用心棒と話し相手程度しか出来ませんがそれでいいのでしたら」
「はい! ありがとうございます!」
「いえいえ。
とりあえず昼食にしましょう。今日はカオリにこの階層へ来てもらってますから」
「えっと、たしかノイントさんのお姉さんでしたよね?」
「残念ながら、そうなんですよね」
「残念って、何があったんですか?」
「まぁ、産まれる前から続くの因縁ってやつですよ」
「それ、とばっちりって言うんじゃ……」
カオリは解放されている各階層を日替わり、ランダムに移動しながら屋台をやっている。食材のレア度関係なく安価に豪華な食事が食べられることから、攻略組もこぞってやってくる。
「というわけで来てあげましたよ、カオリ」
「はじめまして。私はシリカっていいます」
「あー、久しぶりノイントー。元気にしてたー? ……ってなるわけないでしょバカ! ねぇノイント、あなた今までどこにいたの? ここ半年くらいは目撃情報すらなくて心配したんだよ?
あといらっしゃい、シリカちゃん。妹から聞いてるかもだけど、私はノイントの姉のカオリ。よろしくね」
「心配なんてしなくていいでしょう。肉体を奪い合った仲じゃないですか。もっと険悪であるべきです。
野兎定食とミックスフルーツパフェを二人分お願いします」
「肉体を奪い合うって、どんな仲なんですか……?」
「ふふふっ、ノイントがツンデレなだけだからシリカちゃんは気にしなくていいよ。はい、召し上がれ」
バターで味付けされた兎肉のステーキ。
兎肉と芋、野菜がゴロゴロ入ったシチュー。
程よい焦げ目のついたカリカリふわふわのパン。
柑橘系のフルーツを搾ってできたジュース。
様々な階層のフルーツが高々と盛り付けられ、蜂蜜とクリームがたっぷりかけられたパフェ。
「わぁー! いただきます!」
「S級レアのラグーラビットですか。よく手に入りましたね」
「ふふん、投擲スキルが最近カンストしてね。十匹分をどうにか仕入れたんだよ」
「へぇ、なるほど。そこそこ美味しいですよ」
「当然。ゲームだからカロリー気にしないで食べれるし、シリカちゃんもおかわり遠慮なく言ってね。お代はノイントが払うから」
「……まぁ、構いませんが」
カオリとシリカが会話に花を咲かせながらの食事を終え、時刻は一時頃。もう用はないので席を立った。
「そろそろ行きますよ、シリカ」
「あ、はい! カオリさん、ごちそうさまでした」
「ううん、また来て。もちろん、ノイントもね」
「……まぁ、たまになら」
「あ、そうそう」その場から去ろうとした私に、カオリは思い出したように言った。
「懐かしいね、その装備。忌々しいくらい可愛い」
「憎悪が隠しきれていませんよ、香織」
「ノイント、いい加減敬語やめてよね」
シリカとノイントは40層の主街区の人気の無い酒場で、必要事項を話す。
「シリカの装備、レベルならギリギリ40階層までなら、苦戦はするでしょうけど戦えます。つまりはここです」
「はい!」
くいっと、わざわざ装備したズレないはずのメガネの位置を直す。
「レベリングは絶対に店売りの武器を使ってください。耐久値が勿体ないですから。それと、これは上の階層に登る基準にもなります。そうですね……私は一撃で倒せるって言うのを基準にしてましたが、シリカはダガーなので、……二秒にしましょう。店売りの武器で二秒以内にモンスターを一体倒せるレベルになったら上に上がるということで」
「二秒、ですか? 安全マージンはたしか階層+10じゃありませんでした?」
「それは大した才能の無く、平々凡々なステータスのプレイヤーの場合です。一点特化のステータスでしたり、特殊なスキル構成、並外れた戦闘センスなんかで簡単にそのマージンは変わってきます。シリカの場合はピナがいるので、幾らか楽になるでしょうね」
一点特化はSTRに九割振ってる私が当てはまりますし、特殊なスキル構成は間違いなくカオリですね。あのバカは包丁を武器に使うくせに未だ短剣スキルを取っていないと噂で聞きますし。
「へー……、ノイントさん、そんなに色々考えてるんですね」
「違いますよ。予め決めておくことで今後考える必要を無くすためです。目安として一日十時間以上はぶっ続けで戦うことになるので、余計なこと考えてると体力が持ちませんから」
「十時間!?」
「あくまで目安ですよ。ただ、最前線で戦うなら戦闘継続スキルは必要になります。ステータスでは無いので、他のゲームで使える他、現実でも役に立ちますよ。体育の持久走とかシャトルラン、漢字の書取とかにも使えるでしょうね」
「な、なるほどです!」
「戦闘継続ができるようになったら、次は並列思考の訓練です。強敵と戦うときに、打開策をあらゆる知識、環境、状態から編み出すために、戦いながら考えるための技術です」
「なんだか難しそうです……」
「戦闘で考えるから難しそうに聞こえるんです。食べながら話すとか、ラジオを聞きながら運転するとかと一緒ですよ」
「そう聞くと簡単そうですね!」
「ちなみにりんごちゃんは戦闘継続が苦手でしたね。飽きっぽい子だったので」
「あららら。
……そういえばノイントさんって、基本呼び捨てなのにその、アップルさんだけはあだ名、それもちゃん付けで呼ぶんですね」
「あぁ、まぁ、ちょっとした賭けで負けたんです。りんごちゃんが勝ったらりんごちゃんのことは永久的にりんごちゃん呼び、私が勝ったら私のことはお姉ちゃんではなくノイントと呼ぶ。ってだけの」
「すっごい遊んでた反逆者」
時を進め二ヶ月が経過。
シリカとノイントは現段階の最前線、59層の廃村跡でレベリングをしていた。時刻は午後三時、既に戦闘開始から二十時間が経過していた。
「や……やりました、のい……しゃ、れべう80ですぅ……きゅー」
シリカは瓦礫に腰掛けていたノイントに報告してすぐ、しがみつくようにして倒れてしまった。
「まったく、私ってこんなに賭けに弱かったですかね」
前日の夕飯中の会話を思い出す。
「ノイントさんって、なんか学校の先生みたいですよね」
「やめてください。私の教え子って大概問題児になるので」
「才能じゃないですか?」
「ほぉう、言うようになりましたね」
「でもほんと、向いてると思いますよ?」
「そんなことありませんよ。私には道徳とか人道とか倫理とかが致命的に欠如してますから」
「十四年間日本でどんな生活を送ったらそんな致命傷負うんですか!?」
「蔑称というか、悪名ですけど〈学園最強〉なんて呼ばれてましたからね」
「番長だったんですか?」
「魔王ですね。どちらかというと。喧嘩を売ったら逃げられずに殺されるって噂が親にまで流れて大変でした」
「へ、へー。
ノイントさんって、……もしかしてリアルよりSAOの方が気楽だったりします?」
「そりゃもう。相手を殺さないように気を遣う必要がありませんし」
「独断権って、ノイントさんには必須スキルだったんですね。……主にレッド、オレンジのプレイヤーのために」
「そうですよ? 言いませんでしたっけ。ステータス補正、ダメージ補正は一切ありませんし、本当に相手を死なせないだけのスキルです。それくらいでないと、いくら脅したとはいえ茅場晶彦も創ってはくれなかったでしょうし」
「あー。
あ、そうだ、アップルさんとカインさんって、レベルは幾つくらいだったんですか?」
「唐突に話を変えましたね。
カインは早くにいなくなりましたから、たしか50くらい、りんごちゃんは80くらいでしたよ」
「80……、じゃあ、私、明日中に80まで上がったらノイントさんのこと先生って呼んでいいですか?」
「今日やっと60になったところじゃないですか。無茶はしないでくださいよ」
「はい!」
「あぁ、達成できなかった場合は一日水着でレベリングしてください」
「ええっ!? 失敗できなくなりました!!」
「アルゴに売ったりはしませんよ」
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