ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
真竜騎士シリカへと進化したシリカが疲労で倒れたため、元反逆者のギルドホーム、今は私のホームになっている家でベッドに寝かせた。
「そういえば、私も寝てないんでした……」
私は防具を全て外し、ピナを抱き枕に泥のように眠りました。
「ん……んぅ、ほぇ?」
え? は、え? あれ?
ベッドで目が覚めたかと思ったら、隣に裸でピナを抱きしめるノイントさんが!? 同じベッドで寝てたから……。ノイントさんって女性ですよね!? ま、間違いは起きてない、はず。
ま、まぁ? もし仮にノイントさんが男性で、間違いが起きてたとしても、ゲームですし大丈夫ですよね?
「ここは……」
寝室なのか、大きいベッドと照明があるだけの、綺麗だけれど宿とは思えない小さな部屋。
それ以上に宿に見えないのは壁にかけられた額縁に入れられた写真。
右目から頬にかけて刺青を入れた
ネズミのヒゲのようなペイントをつけた
刺青の男性と、女の子、ノイントさんの三人が泥まみれになりながら遊んでいる写真。
ノイントさんが女の子を肩車してクリスマスツリーに飾り付けしている写真。
ネズミヒゲの女性と、女の子、ノイントさんの三人がエプロンを着て料理をしている写真
内部をくり抜いて家にした巨大な木の前で四人集まっての記念写真。
「これ、もしかして反逆者の人達?」
「そうですよ」
「ひゃっ!?」
「おはようございます。といってももう夜ですけど」
「そんなことより早く服を着てください! 色々見えちゃってますから!」
「別に人間に見られようと何も思わないのですが」
「ノイントさんは人を犬猫と同列に見る人外かなにかですか!? そしてそんなこと言いながらクパッて見せつけないでください! 見てるこっちが恥ずかしいです!」
「どこをクパァしているというのですか? ほらほら、言ってみてくださいよ」
「そ、それは、お、おまっ、……言えるわけないじゃないですか! ノイントさんの変態!」
「頑張ったシリカへのご褒美にと思ったのですが、不評なようで残念です。私のような凹凸の乏しい身体は好みではありませんか?」
「私にそんな趣味ありません!」
「そうなのですか? カオリにはこうすると犬みたいにむしゃぶりついて来るんですけど」
「姉妹でなんてことしてるんですか!」
「あるスタイルを持たぬ芸術家曰く、《何々みたい》って表現は最大級の侮辱らしいですよ」
「なんでいまその話をするんですか! なんで自分のそこを舐めさせた人に最大級の侮辱をぶつけたんですか!」
「要するに、シリカは私の
「そもそも女性に欲情なんてしません! 早く服を着てください! 見苦しいです! 目の毒です!」
「毒って、流石に傷つきますよ」
「その割には無表情じゃないですか」
「あー、シリカのジト目、効くなー」
「マッサージみたいに言わないでください!」
それからもノイントの淫行やら、シリカのツッコミやらが続き、飽きるまでに一時間ほどを費やした。
翌日の事だった。
その日は早くから来客があった。
攻略組の戦力の一角。血盟騎士団副団長。閃光。
「ノイントさん、今日は話があってきました」
「……まぁ、私も用があったと言えばあったので、まだ追い返したりはしませんよ」
シリカはまだ寝ている。というか、私もさっきまで寝ていた。
ゲームだというのに、アスナは規則正しい生活を送り続けているのでしょう。朝起きて、夜眠る生活を。不規則な生活を送っている私に合わせろという方が難しいのでしょうね。
カオリからもらった茶葉を使ったお茶を出して対面に座る。
「話より先に聞いておきたいのですが、どのようにしてウチの場所を?」
「情報屋から。思い出話のおまけまで頂いたわ」
「そうですか。まぁ、私も別に口止めはしていませんでしたしね。
ではどうぞ、アスナ。あなたの要望はおおよそ予測出来ますが、聞かせてもらいましょう」
アスナはお茶に口をつけることなく、背筋を伸ばして言った。
「ノイントさん、攻略組に戻ってきて下さい」
「イヤです」
今はまだ、その時じゃない。
「ノイントさんは、現実の私たちの身体がどうなっていると思いますか」
「私は現代医学に疎いので素人考えですが、病院か研究所か、はたまた専用の施設か、そこで生命維持されながら生きているのでしょうね」
「はい、そうです」
アスナは断言した。そして続ける。
「でも、それがあと何年も持つと思いますか?」
「知りませんよ。知りたくもない。そんなこと考えて楽しいですか?」
「話をそらさないでください。私たちには絶対的かつ致命的なタイムリミットがあるんです。それも残り少ない。一人でも多くの、戦力が必要なんです。あなたのような強者に、遊ばせている余裕はありません」
「タイムリミットがある、そんなの何処でだって変わりませんよ。生きているんですから、いつかは死ぬのにゲームもリアルも、物語も現実も、ファンタジーもSFも変わりありません」
「……少しでも早く、帰りたいとは思わないんですか?」
「思いませんよ。ここを、この家をどこだとおもっているんです?
ここは反逆者の巣窟です。
アスナが帰りたいと思うのと同じくらい、この家に居た者たちはこの
そちらの話は以上ですか?」
「ええ。話にならないわ。はっきり言って異常よ」
「それはそれは。でも、私の話はあなたにとっても好都合な話のはずです」
「……なに」
「短剣使いで初のモンスターテイマー、レベルは80、名を
アスナが返事をするより前に、部屋の扉が開かれた。
「おはよーございますぅ、あれ、お客さんですか?」
ノイントが話しているところにちょうど起きてきた、ピナを胸に抱き抱え、寝癖のついたパジャマ姿のシリカが、二人が話していたリビングにやってきた。
「おはようございます、シリカ。彼女は血盟騎士団副団長、
「誰が聖人ですか!!」
「……えっ、血盟、騎士団? えっ!? どうしてもっと早く教えてくれなかったんですかぁ!!」
リビングを飛び出し、バタンッと、勢いよく扉が閉められた。
「えっと、その……」
「可愛らしいでしょう? 攻略組の華になるはずです」
「彼女、戦えるのかしら?」
「比較対象としてどうかとは思いますが、腕はヒースクリフ並に仕上げたつもりです」
「団長クラス……。分かったわ、今日のところはそれだけでも収穫としては十分です。団長に伝えておきます」
アスナは席を立った。
「その、朝早くに失礼しました。では」
「あぁ、そうだ、アスナ。さっきのタイムリミットの話ですが」
「はい?」
「タイムリミットが残り少ないという話ですよ。私は医学には詳しくありませんが、何も知らないし何も考えられないという訳ではありません。2017年には既にコールドスリープの実験で成功が収められているそうです」
「それが、どうかしたのかしら?」
「それからもう七年近くが経過しているんですよ。科学技術の発展の速さは加速度的だそうです。それなら、ナーヴギアではなく人間の身体に何か手を加えて安全にナーヴギアを取り外すくらい訳ないと思うんですよ」
「……だから、攻略をやめても問題ないと?」
「そこまでは言いませんよ。ただ、残り数ヶ月か数年か、それくらいのことは考えて生きて行く方が人生を楽しめると思いますよ。年長者からの、悲劇を楽しむためのアドバイスです」
「……お気遣い、どうも」
それから振り向くことなく、アスナは攻略へと戻っていった。
「ノイントさんのバカー!!」
「申し訳ありません、シリカ」
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい! もうお嫁さんにも攻略組にも行けないじゃないですか!!」
「ああ、その件ですが、了承してもらいましたよ。シリカ、攻略組入り決定です」
「……え?」