ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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姉妹転生 010

あのあと、シリカはこの家を出た。此処を拠点に活動しても構わないと伝えたが、場所を特定されかねないと断った。お金は使い切れないから別の層にホームを買うらしい。

 

それから数日して、同じ学校に通う後輩キリトからメッセージが届いた。内容から察するに、運命、もしくは物語が加速しているらしい。

 

なんて、戯言遣いぶってみましたが、もしくは人類最悪ぶってみましたが、私には似合いませんね。傑作です。

 

 

 

 

「で、一体なんですか。私はそう暇じゃないんですが」

 

「文面だけでハイテンションなのが分かる様な返信したのは何処のだれだよ」

うぐっ。別に、シリカが居なくて寂しかったとかじゃないです。ないったらないんです。

 

「それはともかくとして、アスナがいるのは聞いていませんよ」

 

呼ばれてホイホイと来てみると、そこにはキリトだけでなくとてつもなく機嫌の悪いアスナがいた。

 

「言わなかったからな。だって言ったら来ないだろ?」

 

「そうですね。なら仕方ありません」

 

「…………」

 

まるで厄介者のような扱いをされたアスナは無言でゆっくりと鞘に手を伸ばした。

 

「と、とりあえずあんたを呼んだ理由はこれなんだ。この剣を鑑定して欲しい。装備作ったって言ってたから、鑑定スキルも取ってるよな?」

キリトは慌てて私に茨のような剣を渡してきた。

 

「なんとも滑稽な剣ですね。素材が憐れです」

 

「そんな感想はいいから、頼む。大事なことなんだ」

「もう少し攻略組は会話を楽しむということを学んだ方がいいと思います。なんなら私がやってあげましょうか? 《ノイント様の偏差値アップ講座》」

 

「いいから!」

 

怒られた。

 

「……製作者、グリムロック。特殊なスキルは特になし。スペックは割り箸以下。で、これが一体なんなんですか。いい加減教えなさい」

 

「あ、ああ。まず――」

 

 

 

後輩が語るには、圏内で殺人事件があったらしい。

何故か圏内で防具を身につけた男性が、この剣に突き刺され、宙ずりになっていて、死亡。デュエルの勝者表示も見つからなかったことから、圏内で殺人が出来るスキルか武器があるのではないかと疑っているらしい。

 

 

 

「で、こんなくだらないことに私を呼び出したんですか」

 

「くだらないって、あなたねぇ!」

「せっかくなので、暇つぶしも兼ねてクイズ方式にしましょう」

 

「…………」

 

アスナの突き刺すような視線が刺さる。私、なにかしましたかね?

 

「先輩、とりあえず緊急性はないんだな?」

 

「有り得ません。これはもう一通り遊び終えたネタですから」

 

「……遊び?」

 

刺さる。

 

「実は死んだのはNPCだった、とか」

 

「なんの意味があるんです? そもそも殺せませんし、誰も悲しまないしで事件にもなりませんよ」

 

後輩の頭が心配になってきた。

 

「うぐっ……」

 

「運営とか、茅場晶彦側の人間の仕業とかは無いかしら」

 

「だとしたらどうしようもありませんね。SAOのジャンルは謎解きミステリーではありませんよ」

 

「ちっ」

 

怖っ! 美人の舌打ちって怖!?

……そういえば今日はご飯食べてないですね。

 

「私はお腹がすいたのでもう行きます。どうしてもわからなかったらアルゴにでも聞いてください。こういう遊びを思いつくのはアルゴの担当でしたから」

 

「待って!」

 

「……まだ何か?」

 

アスナはどうしたのか冷や汗を垂らしている。

 

「あなた、何人殺してるの」

 

「……さぁ。いちいち数えませんよ、そんなこと」

 

「あなた、ノイントさん、それでも、人間なの?」

 

「一応は。私は受精卵の時から人間ですよ。それ以前は知りませんが」

 

きっと、アスナから見て私は冷静すぎたのでしょうね。冷静すぎて、無情すぎて、達観しすぎている。

 

「後輩、何故人を殺してはいけないか、知っていますか?」

「それは、法律で決められてるからとか、同じ人間だからとか……」

 

「答え、人を殺してはいけないからです。人を殺してはいけないから、人を殺しちゃだめなんです。そもそも殺す殺さないという選択肢に逢ってはいけないんです。万引き未遂はただの変なやつですけど、殺人未遂は罪になるんですよ」

 

「でも……、でも、あるだろ。殺さなきゃいけないときとか、殺すしかないときとか」

「ありますね。でも、そんなこと免罪符にはなりえませんよ。だからあなたは今でも気に病んでるのでしょう? ラフコフか、月夜の黒猫団か、それらとも違う私の知らないなにかか。知ったこっちゃありませんが」

 

「あんたに何がわかる」

 

「だから、知ったこっちゃありませんって。

あなたが求めてるのは罰であり許しではない。死者の亡霊でも出てきて、殺されれば満足ですか?」

 

「いや、それは……、そう、なのかもな。いっそ俺を、あんたが斬ってくれよ」

 

「はぁ? なぜ、私がそのような、となりの聖人さんに恨まれそうなことをしなくちゃいけないんですかめんどくさい。ノイントっていうのが私の名前なんですけど、知りませんでした?」

 

「「…………」」

 

無表情で睨まれた。

表情豊かですね人間!

 

 

 

 

 

 

 

「それで、そんな中途半端に突っつくだけ突っついて逃げてきたの?」

 

「黙りなさい、香織」

「ノイントが呼んだんでしょ。わざわざ分かりにくいホームの場所を細かく教えてまで。シリカちゃんが居なくなって寂しくなっちゃった?」

 

「斬りますよ」

 

「いいよ、死なないもん。

で? 結局その事件のトリックってなんなの?」

 

「簡単ですよ。カオリでも思いつきます。死んだのはプレイヤーではなく、プレイヤーの装備していた防具です。言ったでしょう、何故か防具を着ていたと。防具の耐久値が切れると同時に転移結晶で転移するんです」

 

「あ、ああ! たしかに。でもそれ、防具でなくても良くない? 普通の服にも耐久力はあるんだから」

 

「耐久値の問題ですよ。詳しくは知りませんが、事件を起こした彼らの目的は自分が死ぬところを出来るだけ多くの人間に見せる、アピールすること。服では刺してから耐久力が切れるまでの時間が短すぎるんです」

 

「なるほどね。なら、ノイント達はこれでどうやって遊んだの?」

 

「ドッキリです。アルゴが殺人犯役で、私が被害者役。りんごちゃんには何故か通じませんでしたが、カインは思いっきり驚いてくれました。具体的にはアルゴを殺しかけるくらい」

「反逆者って暇なの?」

 

「毎日遊んでたので暇ではありませんでしたね」

 

「このゲームでのそれは暇って言うんだよ」

 

「仕方ないじゃないですか。アルゴ以外攻略に興味が薄かったんですから」

 

「あ、そう、それそれ。ずっと気になってたの。なんでアルゴさんが反逆者にいたの? どちらかというと攻略組側じゃない?」

 

「情報源ですよ。反逆者は攻略組じゃ知ることの無いクエストやダンジョンをよく発見していたので、情報屋としては関わらざるを得なかったんです。というか売りつけてました」

 

「ふぅーん?」

 

「なんですか、その意味ありげな返事は」

 

「意味を込めたからね。きっとノイントのギルドなんだから、安く売ったりしたんじゃない?」

 

「よく分かりましたね」

「だって、ノイント優しいもん」

 

「そんなことありませんよ」

 

「あるって、絶対。断罪権だって、無闇に殺したくないから使ってるんでしょ? カインさんは分かんないけど、りんごちゃんを連れていったのだって優しさだよ」

 

「……気に入らないんですよ。そうも私を信じるあなたも。それに何処か喜ぶなかったはずの感情も。あなたに押し付けられた私の優しさも」

 

「それは、恨まれがいがあったね」

 

「恨みなんてありませんよ。私が恨むのは星神ステラただ一人」

 

「うん、まぁ、それは、そうだよね、うん」

 

「煮え切らない返事ですね」

 

「んー。ノイントはさ、希依ちゃん、喜多希依ちゃんのこと覚えてる?」

 

「大凡は聞いていますよ。星神ステラの同一体にして規格内。規格ギリギリの規格内」

 

「最後のは知らないけど、うん、そう。私、思うんだよね。希依ちゃんがハジメ君が奈落の底から出てくるのを確信してたみたいに、その星神ステラ? も、私とノイントがそれなりに仲良くなるのを、確信してたんじゃないかなって」

「それはないでしょう。その両者は同一体というだけで思考が同じという訳ではありませんし、何よりあの時入れ替わったのはただの偶然です」

 

「そうかもしれないけど、そうかな? ノイントは私たち以外に頭をぶつけて中身が入れ替わったのを見たことあるの?」

 

「魂魄魔法なんてものがありましたからね、そういった事例があるかもしれません」

 

「あー、そっか。そういえば魔法がある世界だったもんね」

 

「今や懐かしいですね。あまり覚えてませんけど」

 

「私は覚えてるよ。ハジメ君のことも、ユエも、シアさんにティオさんも、ミュウちゃんも。そして、雫ちゃんも」

 

「いつか聞きましたね。親友だったとか」

 

「うん、そう。ノイントは居ないの? 親友」

 

「いませんね。強いて言うならアルゴでしょうけど、あれはどちらかというと悪友の方が正しいでしょうし。りんごちゃんは、妹の方が近いですね」

 

「カインさんは?」

「あれ、前に言いませんでしたっけ。カインは私の、所謂彼氏、恋人ですよ」

 

「はぁあ?」

「なんですか、その出来の悪い妹にキレる姉みたいな声は」

 

「正しくその通りだよ! えっ!? あのイレズミマンが!? ノイントの彼氏!? 舎弟とかじゃなくて!?」

 

「イレズミマンて。いや、間違いではありませんけど。あれです、優等生が不良生徒に恋する、みたいな」

 

「優等生? ノイントが?」

 

「間違いないでしょう?」

 

「うん、そうだね。ノイントが優等生でないってところに目を瞑ればその通りだよ。さすが優等生」

 

「そもそも、男の趣味については香織も似たようなものでしょう。野蛮な男に変わりありません」

 

「ハジメ君は違うもん。優しいもんね」

 

「カインだって身内には優しかったですよ。見た目は確かにあれですが、程よい気遣いができる人です」

 

「ふんっ、所詮はゲームの中の恋人でしょ」

「はっ、この世に居ない男を語られましても」

 

「ハジメ君は魔王と書いてハジメ君だよ」

「カインは番犬と書いてカインです」

「……犬じゃん」

 

「犬です」

「犬なの?」

「形あるものをなきものにし、息の根を噛みちぎる、可愛らしいチワワです」

 

「チワワを凶悪の権化みたいに言わないで」

 

「ちくわが好物のチワワです」

「上手くないから。ちくわは美味しいけど」

「ちくわにするのが得意なチワワです」

 

「怖いから。ただただ怖いから。練って棒に付けて焼かないで」

 

「……話してたらカインに会いたくなりました。カオリ、今からリハビリに付き合いなさい。全盛期レベルまで鍛え直しますよ」

 

「え、ご飯は? 今作ってるところなのに」

 

「食事の暇なんぞ無いと思ってください」

 

「日を跨ぐ気!?」

 

「年を跨ぐ前に終わらせますよ」

 

「鬼! 悪魔! ノイント!」

 

「鬼畜を名乗らせないでください。私は神の使徒です」

 

「ノイントのノイントー! 絶対ノイントる」

 

「私の名前を動詞にしないでください。カオリますよ」

 

「え、臭う? ニンニクは使ってないはずだけど」

 

「なんか負けた気がします。次は斬る」

 

「なんか理不尽だー!」

 

 


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