ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
お昼というには早い時間。来客があった。
「あの、困ったらとりあえずウチに来るのなんなんですか。特にアスナ」
「ご、ごめんなさい」
「仕方ないだろ、いつでも暇そうなやつなんてあんたしか思いつかないんだから。エギルとカオリとリズを見習え」
殺人詐欺事件(私名称)から半年が経って十一月に入ったその日、かつての反省からお昼前頃にアスナとキリトが我が家を尋ねてきた。見知らぬ、りんごちゃんより更に小柄な女の子を連れて。
「リズベットの時といい、クラディールの時といい、あなたは私を頼るよりさっさと動いた方が手っ取り早いというのを学習しなかったのですか?」
「ノイントさん、もしかして私のこと嫌い?」
「まさか嫌われてないとでも? シリカを連れて勧誘に来た時は本気で垢BANに追い込もうかと思いました」
「せめて普通に殺してください」
普段のノイントとの会話とはかけ離れたアスナの言葉使いにキリトまでもが顔を引きつらせた。
「で? その子は一体なんなんですか? バグ? AI? イベント?」
ユイと紹介されたその少女は、どこか私を恐れていてキリトの後ろから覗いている。
「それを今から調査するんだ。手伝ってくれ」
「もしや、私を頼めばやってくれる都合のいい女だと思っていませんか?」
「そうだとしたら攻略組にいるでしょう?」
「もしや、私を頼めば殺ってくれる都合のいい女だと思っていませんか?」
「殺し屋だとは思ってねぇよ!」
「もしや、私を頼めばヤッてくれる都合のいい女だと思っていませんか?」
「キリトくん? 確かに仲のいい女の子が多いと思ってたけど……」
「ちっがーう! 俺にそんな仲の奴はいない! 俺はアスナ一筋だ!」
「へー。ふーん?」
「ア、アスナ?」
「とりあえずお昼にしましょう。手伝うかはともかく、お昼くらいは用意しますよ」
「はじまりの街の、子供たちを保護してるっていう教会に俺たちを紹介してほしい」
「よりにもよってそこですか」
「鼠じゃない情報屋にあんたに紹介してもらえと言われてな」
「お願いノイントさん、そこにユイちゃんのことを知っている人がいるかもしれないの」
「…………おねーさん?」
なぜか、私はユイが気になった。気になったというか、きにかかったというか。
「……いいですよ。ただ、一つ約束してください。私に何が起きても、決して妨げないと」
二人は頷き、ユイは不思議そうに見つめてきた。
はじまりの街は現在、軍の管理下に置かれている。軍の主な目的は、治安維持。ただ、それは建前で、実際は独裁国家を作り一部の人間だけで甘い汁を啜ろうというもの。税金回収という名の人間審査と金銭強奪。そこで払えなかった男は軍の下モンスターを倒す素材源。女は言わずもがな、制約と禁欲が多い軍の末端に送られる。
そんな街だから、入れば当然こういうことになる。
「ちょっと待てやお兄さん達。この街にいるってこたぁ軍の保護下にいるってことだ。感謝しながら所持金の八割、最低二十万払っていきな」
軍の下っ端であろう男たちが、私とアスナに鼻の下を伸ばしながら囲った。右手は腰にかけられた剣を握っていて、言わばこれはカツアゲだ。
「ったく、……いってぇ!?」
律儀に払おうとする後輩の脛を蹴りつつ、私は大剣を抜く。
「後輩、アスナ、手は出さないでくださいね」
「ちょ、ちょっと待ってノイントさん! ここは圏内よ!?」
「前にも言ったでしょう、私の名はノイントです」
大剣を横薙ぎに一振り。本来入らないはずのダメージが入り、男たちの首が舞う。HPゲージは黒く染まり、その場に何も残さず消えていった。
「断罪権はプレイヤーではなく運営向きのスキルです。日本で警官だけが拳銃を持てるように、私は私という正義の名の元に圏内でも悪を裁ける」
「……死んで、ないんだよな?」
「ええ。黒鉄宮の牢獄に転移しています」
「その仕様聞いてないんだが?」
「言ったら誤解を産みまくりますからね。軍の上層部には私という殺人鬼の情報が知れ渡っているのでここでは気にしませんが」
「あんた何してんだよ」
「カインと私で大暴れしたんですよ。舞突錐カインと銀翼ノイント、いやはや懐かしいです。……まさか攻略組から離脱するとは思いませんでしたが」
「待ちなさいノイントさん、まさか軍の攻略組離脱はあなたの仕業だったの?」
「全てがとは言いませんが、一端を担ってはいるでしょうね。他の原因として、質より量、足並み揃えて行進ワン・ツーというMMORPGではありえない、正しく軍隊な方針をとっていましたから、どうせ途中で頓挫してましたよ」
「あー、まぁ、防具を全員同じにして結束力を高めるとかなんとか言ってたな」
「確かに血盟騎士団の装備も似たような理由だけれど……」
「反逆者は皆それぞれで見た目重視でしたよ。ステータスよりもプレイヤースキルを優先してましたから。モチベーションの維持、向上を狙った戦略です」
「なるほど、そういうやり方もVRならありなのか……」
「なんか女の子として負けた気分だわ。それもノイントさんに」
「私ってそんなにお洒落のイメージないですかね。これでもキャラメイクにはこだわる方ですよ。裁縫スキルなんかも取ってるんですから。
……さぁ、着きましたよ」
「ここが、教会か」
「ユイちゃん、なんかわかる?」
「うぅん、なんにも」
当然のことながらインターホンが無いのでドアをノックすると、覗くように少しだけ開けられた。
「どうも、お久しぶりです」
顔を覗かせたのは、いつかりんごちゃんを必死に止めていたあの名を知らぬ女性だった。
「あなたは!! 二度と来ないでって言ったのを忘れましたか! アップルちゃんを殺したあなたにここに来る資格はありません!」
子供たちに向けていた優しげな表情からは想像できないような目で睨まれる。
「言ったはずですよ。りんごちゃんは死んでいません。アカウントが削除されただけで。それに、りんごちゃんが思いついてりんごちゃんが計画してりんごちゃんが実行したんですから、りんごちゃんの責任です。それを私のせいにされても困ります」
「アップルちゃんはまだ子供だったんですよ!」
「世間一般から見れば私もまだ子供です」
「そんなことを言っているのではなく!」
「ええ、そんなことを話に来たのではありません。とりあえず中に入れてくれませんか。話が進まないので」
「また子供たちを殺す気ですか!」
「あなたの子供ではないでしょうに……。
仕方がありません。アスナ、ここまで連れてきたのですから、後は自分たちでなんとかしてください。こうなるから嫌だったんですよ。努力を諦めさせる人間と、努力を踏みにじる人間しか居ないこの階層は嫌いです」
「あ、先輩っ」
「ノイントさん……」
嫌いです。嫌いです。大っ嫌いです。
「あぁ、そうそう。私の情報を売ったその鼠じゃない情報屋のことですが、二度と会えないと思ってください」
教会から立ち去った私は、酒場にいた。
「カウンセリング用人工知能、やはりAIでしたか」
とある者から送られた文書には、ユイと名付けられた少女に関する仕様、性能、考察がまとめられている。
以下内容。
メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号、コードネーム、yui。
元々はプレイヤーの精神的ケアの為に創ったもの。
記憶(記録・データ)の一部を失っていたのはSAO正式サービス開始時カーディナルから権限を制限され、次第にバグを蓄積させていった結果だと思われる。
22層に現れた原因は不明。考察の余地はあるが必要性の少なさから省略する。
君が違和感を感じたほどの彼女の人間らしさは《不気味の谷》と呼ばれるものに近いもので、簡潔に言えばAIが文字通り必死に人間らしくあろうと人間観察した結果、中途半端に成功したものである。決して不具合ではない。
結論。ある意味君の考えた通り、彼女はこのゲームのバグであり、イベントであり、AIだ。決して人間では無いが、偶然とはいえこのゲームによって産まれた、私の娘のようなもの。君がプレイヤーと同じように接してあげてくれることを、私は期待している。
情報提供感謝する。
ヒースクリフ/茅場晶彦
「……そんなこと、私に期待されましてもね」
茅場晶彦の考察が真実であるならば、ユイ、彼女は私と少しだけ似ている。生まれる段階で、彼女には感情が不足していて、私には感情が過剰供給されている。そのどちらも、精神的に幼く、ある意味人間に達していないと言える。つまりは子供なのだ。
だからなんだと言われたら、なんでもないのだけれど。
私はアルゴに例の情報屋の情報を探させる。
その日、牢獄の人口密度が跳ね上がったそうな。