ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
監獄すしずめ事件からそう経たずして、来たる75層ボス攻略会議が行われた。
いつか話した通り、75層に向かおうとドアを開けたところでアスナとシリカが待ち受けていて、私は最前線まで連行された。
ヒースクリフが場を仕切る。
「では、今から第75層攻略会議を始める」
攻略会議に集まったプレイヤーは静寂に包まれた。クォーターポイントのボスは強いらしい。私を除いた全員そのことをわかっているそうな。
「まず最初に、今回のボスに関しては事前情報が何もない。情報を集めるためにパーティーが入ったが、そのパーティーがボス部屋に入った途端扉は閉まった。閉まった扉は何をしても開かなかったそうだ」
いわゆる、ボス戦では逃げられないという、他のゲームではよくあるやつです。
「……しばらくすると扉は開いたそうだが、中に入ったプレイヤーは誰もいなかった」
現状、事前情報がない。初見での一回限りの勝負ということでしょう。
「今回は今までにないくらい危険な戦闘になることが予想される。また、チャンスは一度きりだ。最高戦力を持って臨む必要がある。攻略日時は五日後の15時。それまでに装備を整えておいてくれたまえ」
攻略会議はすぐに終わった。そもそも、情報がないのだから、会議をするのに議題がない。
今日の予定が終わったため、シリカと酒場でお喋りをしてその日を過ごした。
五日後。時間になり、75層の転移門の前に攻略組が集まった。
「コリドーオープン」
ヒースクリフがボス部屋の前に転移するための転移門を開く。
攻略組は転移してボス部屋の前に集まる。
「皆準備はいいな。基本的に血盟騎士団がボスの攻撃を防ぐので、ボスの攻撃パターンを見切り、柔軟に反撃してほしい」
私は一応新参者の身。隅っこでストレージから何時もの大剣と槍を取り出した。
それを見ていたプレイヤーが私に声をかけてきた。
「おいおい新入り、目立ちたいからってそんな無茶して死んでも知らねーぞ?」
「……問題ありませんよ。わたしの死ぬときが、世界の終わるときです」
「はっ、ガキは帰って寝てろっつの」
あくまでも心配して声をかけてきた男とは別の男が、威圧的に突き飛ばしてきた。
数歩後ずさった私は、知り合いのいる最前まで前に出ることにした。
私が前に来たのを確認したヒースクリフはゆっくりと門を開けた。
「戦闘開始」
ヒースクリフの声は、どこか楽しげだった。
ボス部屋の中に攻略組がなだれ込んだ。全員が中に入ると扉が閉まった。
数秒の沈黙。しかしボスは現れない。嫌な静けさが攻略組を緊張させる。
「上よ!!」
突然アスナが叫んだ。全員がアスナの声に反応して上を見る。天井にボスが張り付いていた。
ボスの名はスカルリーパー。骨だけの肉体、ムカデの体にカマキリの鎌を持ったような姿をしている。
ボスは天井から落ちるように襲いかかってきた。
私は槍で地面を突き、空中へ退避する。
「全員散開!」
アスナが叫ぶが、何人か逃げ遅れた。ボスが二人のプレイヤーに向かって鎌を振り下ろす。二人のプレイヤーはその攻撃を避けきれず飛ばされ、空中で消えた。偶然にも、その二人は私に声をかけてきた二人だった。
腰を抜かし逃げ遅れたプレイヤーがいた。ボスはそのプレイヤーに狙いを定めたらしく、右の鎌を振った。
そこを、ヒースクリフがボスの攻撃を盾ではなく剣で止めた。ボスはすかさず左の鎌で逃げ遅れたプレイヤーを狙う。
私は着地と同時にもう一度地面を突き、大剣の腹で攻撃を受け止めた。
「正面からの攻撃は私とヒースクリフが全て対処します」
「側面から攻撃に備えつつダメージを与えるんだ!」
ボスが待ってくれる訳もなく、私とヒースクリフを左右の鎌で同時に振り下ろしてきた。
私はなんともなく受け流すが、盾で受け止めたヒースクリフはHPゲージを少しずつ減らしている。
「ノイント君、どうにか片方だけでも破壊出来ないだろうか」
「出来ます。二秒待ちなさい」
「任せたまえ!」
ヒースクリフは回復ポーションを口にくわえながら、剣と盾それぞれで攻撃を抑えている。
私は店売りの槍をストレージにしまい、別の槍を出した。
細く長い三角錐の刃を持つ槍。銘を〈
「やってくれたまえ!」
「ええ。この槍に破壊出来ぬものはありません」
大剣で地面を叩きつけ跳躍、鎌の関節部分を突いた。
「舞突、錐!!」
右側の鎌が根元から破壊された。ボスのHPゲージが一割ほど減る大ダメージ。
「流石だ」
「そう思うのなら、次のゲームは私達にも一枚噛ませなさい」
「まだ噛み足りないのかね?」
「足りませんね! ほら、鎌は両方破壊しました。あなたも攻撃に参加してきなさい。私は再生後に備えます」
「……分かった」
戦いが始まってから、どれくらい時間がたっただろうか。ついにスカルリーパーはその姿をポリゴンに変えた。その瞬間周囲のプレイヤーは歓喜の声を上げることなくその場に崩れ落ちた。
「ふぅ、案外大したことありませんね」
私はキリトとアスナ、シリカの姿を探す。三人とも無事なようだ。
私以外に、一人だけ立っているプレイヤーがいた。ヒースクリフ。彼は剣を両手で地面にさし、その場に立っていた。
突如、一人のプレイヤーがヒースクリフに斬りかかった。斬りかかったプレイヤーはキリト。
二本の剣がヒースクリフのHPゲージを減らしていく。
「っ!! させません!」
キリトの攻撃で削りきるよりも早く、私は大剣でヒースクリフの首を切り飛ばした。
HPゲージは尽き、ヒースクリフはその場から消滅した。
その場にいたプレイヤーは全員二人を見ていた。
「キリト、くん?」
「……ノイントさん?」
静まり返ったその空間に、アスナとシリカの声はよく響いた。
誰が口を開くよりも先に、消えたはずの男の声が現れた。
世界観に似合わない白衣姿の男、茅場晶彦だった。
「惜しかったね、キリト君。ただ、それでもなぜ気づいたのか、参考までに教えてもらえるかな」
「……直感と消去法だよ。あんたと先輩、二人はあからさまに強すぎた。茅場晶彦は男なんだから、女の先輩はありえない。まさかグルだったとは思わなかったけどな」
「はっ、ははは! まさかそれだけの情報で私を殺しにくるとはね」
茅場晶彦は楽しげに語る。
「ヒースクリフの正体を見抜いたのは君で二人目だ。だが言った通り、惜しいが、間違いではないが、このゲームの攻略なら君は間違えた」
「……どういうことだ」
「このゲームのラスボスは途中で変わったということさ。察しているだろうが、もしくは知っていただろうが、見抜いた一人目はノイント君だ。彼女には断罪権というユニークスキルを与える代わりに、私の戦闘の師とラスボスという二つの仕事を引き受けてもらった」
「と、いうことです」
「まさか、攻略にいままで参加してこなかったのもそのためなの……?」
アスナはキッと睨む。
「そうですね……、そういうことにしておいて下さい。他の理由は語るまでもないでしょう?」
「本来の予定ではノイント君には100層のボスとして君臨してもらう予定だった。
さぁ、ノイント君。私は既に監獄で囚われの身だ。君のしたいようにしたまえ」
要するに、仕事の丸投げだった。
「……分かりました。後輩、ヒースクリフの正体を見抜いた報酬として、チャンスを差し上げます。この場で1対1で戦うチャンスを。不死属性などという無粋なものはありません。勝てばゲームはクリアされ、私含むプレイヤーはログアウトできる。負ければ断罪権により監獄行き。決して悪くない条件では? このゲームで最も平和的なボス攻略です」
「……こんなときでも後輩って呼ぶのやめてくれよ。斬りにくいから」
「……茅場晶彦」
「ああ。場は私が整えよう」
茅場晶彦は左手でウインドウを操作した。すると、私と後輩を除いたプレイヤーはその場に倒れた。麻痺。障害になりうるプレイヤーを麻痺させた。
私は舞突錐をしまい、いつもの槍と大剣〈銀翼〉を構える。
「後輩、そして他のプレイヤーに一つお願いがあります」
「なんだよ」
「私が勝とうと負けようと、香織を、カオリを恨まないでやってください。この件に関して彼女は一切無関係ですから」
「分かった。みんな! 分かったな!」
さぁさぁ、場は整いました。血湧き肉躍る決戦の幕開けです!
「
遠慮はするな私の名はノイントです。
我々は美しい
ここは魔王の寝室だ、存分に暴れろ銀翼が許す。」
……なんて、偉大なる御方の言葉をお借りしてみましたが滑稽でしょうね。戯言でもなく、傑作でもない。
最初に仕掛けたのはキリト。技量がソードスキルの上を行く私に合わせ、ソードスキルを使わずに斬り掛かる。
二刀流の多段攻撃を前に小回りの利かない私は防戦一方。
「あんたは攻略組をなんだと思ってたんだ!」
「あなたが望んでいるようなことは思ってませんでしたよ。滑稽だとか、愉快だとか」
「それでも人間か!」
「殺人鬼、人間失格に倣いまして。元天使、人間寸前といったところでしょうか」
「人でなしが!」
「だからそう言っているでしょう。 っ!!」
打ち合った槍と剣一本が同時に折れた。
「なに!?」
「武器は消耗品ですよ」
私の大剣がキリトの左腕を切り落とした。大した痛みはないだろうが、それでもバランスが悪くなる。
「負けられない!!」
「ならば私に勝ちなさい」
大剣を横薙ぎに振るう。キリトが対応できない速さで振るわれたそれは、抵抗なく上半身と下半身を切り離した。
「ふぅ、――なっ!!」
HPゲージが空になり、転移されると思ったところにキリトの一撃が命中した。しっかり急所を捉えたその一撃は、私の脳天を貫いた。
気が付くと私は空にいた。
上も下も右も左も前も後ろも空。私は夕日の中の空に一人立っていた。足元にはガラスのような見えない床がある。
「ここは……、ああー、なるほど」
床の更に下に崩壊していく浮遊城アインクラッドが見えた。ソードアート・オンラインはクリアされたのでしょう。
「なかなかいい眺めだろう」
背後から声が聞こえた。振り返るまでもなく、茅場晶彦。
「ええ。ところで、あの戦いはどういう結末に落ち着いたのですか?」
「両者HPゲージゼロ、勝者なしさ」
「それはそれは。二年続いたゲームの結末にしては」
「滑稽かい?」
「はい。知っていますか? 西尾維新、戯言シリーズ」
「寡聞にして知らないな」
「すぐにでも読むことをおすすめします。さすれば次はもっといいゲームが出来上がるかもしれませんよ」
「……私は、子どもの頃空に浮かぶ鉄の城に憧れていた。そしてその城を、現実世界の法則を超越した世界を作り出すことだけを欲して生きてきた」
「へぇ」
「……興味、無さそうだね」
「何度も聞いた話ですから」
「さて、どうだったかな」
「そんなことより、どうです? ログアウトする前に、最後をあの城と共に過ごすというのは」
「よかろう。付き合うとも」
2024年 11月6日 17時30分 ノイント、ログアウト。