ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
十二月二十三日。クリスマスイブの前日。なにか特別な用事や行事がある日ではないのですが、おそらくこの日は終わりの見えてきた今年で最も騒がしかった日になることでしょう。
その日のお昼頃、一ヶ月以上の期間を費やし、生活できるだけの筋力、体力を取り戻した詩織は退院し、二年ぶりに自宅に帰ってきた。
しかし、そのとき我が家にはカインしかいなかったのです。
「サツマイモ、ごぼう、人参、ネギ、……豚肉入れて豚汁にするか。それと親子丼で……」
昼食の準備をしながら、冷蔵庫の中の食材で夕飯の献立をカインが考えていたタイミングで詩織は帰ってきた。
「わたし、帰還したであります!」
「おー、おかえり。……だれだ、彩織のパチモンか?」
「うわぁ!?」
「……人の顔みて驚くなよ」
「それは理不尽じゃないかな!? あとパチモンってなに!?」
「おんなじ顔で髪の色だけ違ったらもうパチモンだろうが」
「顔が同じなのは双子だからだよ!? ……あとなんでウチにいるのかな? エプロン妙に似合ってるし」
「家なくなったから居候さしてもらってんだ。いくらか金も出してるし家事も引き受けてる」
「それは、なんていうか、ご愁傷さまです?」
「気にすんな。昼は食ってきたのか?」
「ううん、まだだよ」
「そうかい。ならもうじき彩織がりんご連れて帰ってくるからそこで休んでろ」
「りんご……って、反逆者の可愛い子だよね」
「んあー、まぁ、そう。……まて、お前まさかカオリか?」
「今更!? 病院でも会ったでしょ!? しーらーかーみー、しーおーり! 彩織のお姉ちゃんだよ!?」
「お、おう。悪かった。思い出した思い出した。……いや待て、彩織と結婚したらお前が義姉になるってことか!?」
「嘘でしょ!? 待って! 二重の意味で待って! 彩織が結婚!? イレズミマンと!?」
「……育毛剤、取ってくるわ」
「なんでそれは覚えてるの!? てか持ってるの!?」
「俺もお前が義姉とか最悪だわボケが! 義妹なら九千九百九十七歩歩譲って我慢してやるけど義姉は無しだわ!」
「すごい! そこまで中途半端だともう三歩進ませて我慢の限界に挑戦したいよね!」
「育毛剤でぶっ殺すぞコラ!」
「育毛剤で!?」
「心臓フッサフサになって死ねや!」
「《毛の生えた心臓の持ち主、ただし心臓病で死亡》みたいな!」
「解して晒して生やして増やしてぶっ殺してやんよ!」
「《現代を生きる殺人鬼、ただし凶器が日用品》みたいな!」
「老若男女容赦無しに育毛剤にしてやる!」
「《錬金術師の人体錬成、ただし素材で人類滅亡》みたいな!?」
「…………」
「…………」
「……なぁ」
「……うん」
「ちっとばかし語ろうぜ。姉御」
「今夜は寝られないと思ってね、弟君」
口喧嘩の末に共通の趣味を見つけたカインと詩織。さながら河川敷で殴りあった男達のような時代遅れな絆が生まれた。
「カイン、帰りましたよ」
「おじゃましまーす!」
都合の良すぎるタイミングで、彩織とりんごが突撃していく。
「……悪ぃな彩織、りんご。俺は今から忙しいんだ」
「ごめんね、彩織。今夜だけ借りるね」
「借しませんしまだ昼です。いいからたこ焼きパーティ始めますよ。詩織の退院祝いなんですから」
「忘れてたんじゃなかったの!?」
「あははははっ! 反逆者のパーティはサプライズドッキリがなきゃね!」
「りんごちゃん、一緒にしないでくれるかな」
詩織の表情が急激に冷えた。
「まぁ、今日は実行犯だった俺が言うのもあれだけど、タチ悪いよな。こいつら」
カインは呆れた顔をしながら、本格的なガスを使用するタイプのたこ焼き器を点火して油を垂らしていく。
「……たこ焼きって、たこ焼きって言う割にタコは焼かないですよね」
「焼いてから生地流してみるか? 一応できるぞ」
「やめておきましょう。そんなことより具材、色々買ってきたんですよ」
「エビにー、カニにー、ウニー! あとマグロとカツオとイクラとイカとー」
「ポップコーンとポテトチップスもありますよ」
「お前らたこ焼きする気ないだろ!?」
「かろうじて海産物なりんごちゃんはともかくとして、彩織のそれはなに」
「い、いやほら、その、たこ焼きって待ち時間が結構あるじゃないですか? だからですね? その……」
「お姉ちゃん……」
なぜかりんごちゃんに憐れむような目で見られている。
「お姉ちゃん、ボケなのか天然なのか分かりにくい」
「四面楚歌!?」
「一面足りないけどね。三面楚歌かな」
「とりあえず焼くぞ。彩織のはともかくりんごのは入れたら美味いだろ、多分。出来れば寿司にして食いてぇけど、流石に酢飯炊く準備はしてねぇや」
「ま、まだです」
「あん?」
「もうすぐ、母上が――」
帰りの道中、母からメールが来ていた。
〈仕事ちょっぱやで終わらせたからママもタコパ混ぜてー! 入れる食材買っていくからー!〉
間もなくして、玄関の戸が開かれた。
「ただいまー! そしておかえり詩織! ビーフストロガノフとザンギとゴルゴンゾーラ買ってきたよー!」
私たちの母親、白神羽織は基本的に暴走列車なのです。それはもう、今は亡き父親ですらコントロールしきれなかったくらいには。
「「…………」」
「こんにちは! おじゃましてまーす!」
「流石はかか様です。私たちよりも高みにいらっしゃる」
「ああ! 私の愛しの娘たち! りんごたんギューってさせてー」
「えっ? わっ、わー!」
詩織とりんごちゃんを母様は二人まとめてギュッと抱きしめる。
「……どーすんだこれ。ザンギ(鶏の唐揚げ)とビーフストロガノフ(煮込んだ牛肉。美味しい)はともかくゴルゴンゾーラ(ブルーチーズ的な奴)の使い方なんて知らねぇぞ」
「なんか、ごめんなさい。お母さんまでこんなで」
「や、あれはもう慣れたけどよ。……俺、彩織が起きるまで羽織さんと二人で暮らしてたんだぜ」
「なにそれ危ない香りがすごい」
「ねぇよ。彼女の母親とそんな仲になってたまるか」
「ゲームとか同人誌じゃ結構あるんだけどね」
「おい待て姉御。情報量が多すぎて俺はそろそろ爆ぜるぞ」
「母娘丼なんかもいいよねー」
「ちょっとカインくーん、私お腹空いたー」
「ああああああ!! ……オーキードーキー!! 全部焼いてやろうじゃねぇかぁ!!! 彩織、舞突錐ィ!」
「どうぞ、こちら百均で買ったたこ焼きクルクルするやつです」
「でかしたマイワイフ!!」
「そしてこちら、夏に麦茶を作る時の容器に生地が入っていて、注ぎやすいです」
「神かお前はー!! りんご! お前も串二刀流で参戦しろやァ!!」
「いいの!!? やるー!」
「彩織詩織羽織さんはポテチでも食って待っててくれ! 速攻で焼き揚げらァ!」
親子三人、横並びに座らされてしまった。
カインが無駄のない動きで具材と生地を半球状の凹みが二十個ある鉄板に注ぎ、りんごちゃんが両手に串を装備してツンツンしている。
「カインくん、あのキャラでもちゃんと焼き揚げてくれるあたりかなりの女子力が根付いてるわよね。彩織が羨ましいわ」
「可愛いでしょう。あれ、私の彼氏なんですよ」
「逆じゃないの? それ」
「でも彩織はどっちかって言うとカッコイイ系の子だから、ちょうどいいんじゃないかしら」
「彩織がカッコイイ系? ないでしょ」
ナイナイと、手を横に振りながら詩織が言った。
「ほんと、双子で同じように育てたはずなのにどうしてこんなに差が出来たのかしらね」
「マミーに二人の人間を同じように育てるのは不可能かと。故に詩織の残念も私の血生臭さもお母様の影響を多大に受けたのかと愚考します」
「愚考する前に呼び方を統一しなさい。混乱するから。……え? 私のどこに詩織のおバカと彩織のヤン娘要素があるのよ」
「お母さん、結構豪快だしドジだと思うよ?」
「ママは天然でけんかっぱやい性格してますよ」
「まって、彩織のママの破壊力すっごい。もうママおなかいっぱい」
「母ちゃん、味をしめてないで起きてください。マザーが完成している料理を買ってきたせいで一人でも多く人員が必要なんです」
「彩織のその呼び方のレパートリーはなんなの?」
「二年も会わずにいたら呼び方くらい忘れても仕方ないでしょう」
「ママでいいんじゃない? 一応喜んでるみたいだし」
「ふむ……。コホン、……ママ、たこ焼き、一緒に食べよ?」
気持ち高めの声で、イメージするのは甘えてくれる時のりんごちゃん。
「決めた。私、彩織のママになる」
「落ち着いてお母さん。なるも何ももうお母さんだから」
「髪も銀色に染めるわ」
「ご近所さんがビックリするからやめて!」
「詩織も一緒に染めるのよ」
「髪の長さ以外見分けがつかなくなるでしょ!?」
「失礼な。私は詩織のような淫乱な顔してません」
「失礼は彩織だよ!」
「出来たぞ喰らえ!!」
「できたー」
焼き揚がったたこ焼きが皿に盛り付けられていて、既にカインは次を焼き始めていた。
「お姉ちゃん、あーん」
「ちょっ、待ってくださいりんごちゃん! それまだ熱いですよね!? 出来たては特に冗談じゃすみませんから! それはたこ焼きとかそのレベルじゃないんです! 火の玉とか熱した鉄球とかに近いなにかですから! だから口に近づけないでせめてソースとマヨネーズをアッヅェイ!?!?」
「お姉ちゃん、りんごの真似しちゃメッ! だよ」
りんごちゃんは頬を赤く染めて膨らませている。
「カ、カイン、氷を、冷気をください」
「お代わりはちょっと待ってろー! 今焼いてんだ!」
なんだこの楽しい家族。そしてノイントちゃんのオリ主化が加速しまくってる。
以下、感想催促。
なんで? なんでなんでどうして感想くれないの? 私こんなに頑張ってるのに! ……ねぇ、私のこと嫌いなの?(ヤンデレ風味)