ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
BoB予選一回戦は私にはただの作業でしかなかった。私が得意としている立体機動も、散弾銃による狙撃も使わず、真正面からのヘッドショット。
私は待機エリアにすぐに戻ってきた。待機エリアには私以外に、もう一人のプレイヤーがいた。ボロボロのマントに顔を覆うマスク、赤く光る目。映像で見た、今大会に潜む癌、《死銃》がいた。
「どうも、死銃。ちょっと死んでくれませんかね?」
「……おまえ、なにもの、だ?」
機械で加工されたような声で、極限まで個性を押し殺した口調だった。
「私の名はノイントです。私の予想では、あなたには一度名乗ったような気がします」
「おまえ、銀翼、本物、なんだな?」
「言ったでしょう、私の名はノイントです」
「反逆者。いつか、絶対に、殺す。伝えて、おけ」
「お断りします」
「…………そうか」
死銃は、腕に巻かれた包帯の隙間から覗く黒い棺桶、ラフィン・コフィンのギルドマークを見せつけるようにしながらその場を去った。
ラフィン・コフィン。かつて反逆者と肩を並べ、同時に対に位置した殺人ギルド。彼らは私たちの敵であり、殺戮対象であった。
「フ、フフ、フフフ。キャハハハハハハハハ!! ラフコフ! ラフコフ! ラーフコフ!!」
狩り残した敵の再登場に、ノイントは笑う。
「キャハハハハハ! 愉快痛快! 楽しくて仕方がありません! 楽しみで仕方がありません! 殺しましょう死なせましょう逝かせましょう!! キャハハハハハハハハハハ!」
「ノイント……さん?」
遅れて待機エリアに戻ってきたシノンが、気味悪く笑うノイントに声をかけた。
「おや、シノン! 今日はとても良い日です! 祝杯をあげましょう! 赤飯を炊きましょう! 血の花火を打ち上げましょう!!」
「……はぁ? あっ」
困惑しているシノンを放置したまま、小躍りしながらノイントはフィールドに転送されていった。
「なんだったのよ、もぅ……」
観戦用の画面を見ると、ノイントが相手のプレイヤーの頭部を蹴り飛ばしている映像が流れていた。WINNER表示が現れ、ノイントは戻ってきた。
「キャッハハハハハ!」
まだ、正気に戻ってはいなかった。
「やり残したことをやり直せる! 人生って素晴らしい!!」
予選決勝戦、順調に勝ち上がったノイントとシノンは剣を交えることとなった。
初めてのときと同じように、シノンは高所からノイントを狙う。
初めてのときとは違い、ノイントは地を駆ける。シノンを目視出来ていないがため、狙撃されないために縦横無尽に跳び駆ける。
「速すぎる! どんなステして、っ!! 見失った!? いつの間に……」
スコープから目を離した一瞬の間に、ノイントは消えた。
あのキチガイじみた笑い声が嘘のように、何も無い屋上は静寂に包まれた。
トン。
何かが落ちる音がした。
「っ!!」
ドゴン!!
即座にグレネードを投げると、地面に落ちる前に爆ぜた。
爆煙の向こうで無骨な銃を二丁もった銀髪が笑っている。目を細めて、口を三日月のように歪めて。
「こんにちわ、シノン♪」
「一体どこから……! AS12、コンバットショットガン!?」
「……へぇ、この銃そんな名前だったんですか」
「ありえない!! 一丁五キロもあるのよ! 走れるわけがない!」
「私の名はノイントです。ところでシノン、敵の前で無駄口を叩けるのは、強者の特権なんですよ」
「っ!! (……それはつまり、私はまだ弱いってこと?)」
二重に重なった三度の銃声がシノンの視界を赤く染めた。
構える隙すらなかった。弾道予測線は見えたのに、避けようと思うことすら出来なかった。勝てる気がしない。次元が違う。世界が違う。何もかもが敵わない、完全なる敗北だった。
そもそもなんなのあの銀色! 初めて会った時も意味わかんない攻撃でキルされるし、店で声掛けたら変なあだ名付けられた挙句ナンパ扱いしてくるし、強くなる方法聞いてるのによく分かんない恋バナされるし、大会じゃなんかとち狂ってるし……。
「色々ムカつく!」
コーンと、地面に転がっていた缶を蹴飛ばす。
BoB予選決勝戦が終わってすぐ、あの銀色と顔を合わせたくなくてすぐにログアウトした。今は夕食の食材を買いに行った帰り道、人気の少ない道を選んで独り言をボヤきながら歩いていた。
飛んでいった缶が偶然道路に飛び出して、偶然通りかかったパトカーが缶を跳ね飛ばし、私から大分離れたところを歩いていた人の頭にぶつかった。
「あ……」
「いってぇぇええ!?!?」
偶然にも角の部分が当たってしまったらしく、後頭部を抑えて悶絶している。駆け寄ると、安否を確認するまでもなく彼は立ち上がった。
「あ、あの」
「くっそがあのパトカー! 轢き逃げ殺人詐欺強盗暴行虐待万引き反逆罪で通報してやろうか」
「……盛りすぎじゃないかしら」
「おぉ?」
彼が振り返って、顔を見た瞬間私は二十秒前の缶を蹴飛ばした私を呪った。
どこからどう見ても不良としか言えない容姿だった。右目から頬にかけて文字、単語のような刺青が彫られていて、目つきは鋭い。口の左側から八重歯が覗いていて、私にはそこらのGGOプレイヤーよりもよっぽど恐ろしく見えた。
「あっ、そそそそその、ごごごめんなさい!!」
その顔から目を逸らしたくて、私はすぐに頭を下げた。
「……はぁ? 俺あんたになんかされたっけ? 刺された覚えも、薬盛られた覚えも、轢かれた覚えも、ナンパされた覚えもねぇんだが」
「あのっ、その、」
「ハッキリ言いやがれよオネーサン。大学生、じゃねぇな。高校生か?」
「さ、さっきの缶」
「缶? あぁ、コブにもなってねぇし救急車は要らねぇぞ」
「そうじゃなくてっ! さっきの缶、蹴ったの私、なんです」
「ほぉう?」
「ヒッ!」
ニヤリと笑うその顔はとても冷たくて、なんだか重たかった。
「ヒッて、はっ、はははははっ、けひゃはははははははは!!」
「へ?」
あの笑みが嘘かのように、楽しげに笑う。下品に、今にも両手を広げて踊り出しそうな楽しげな笑い。
「けひゃははっ! んなもん気にすんなってオネーサン。むしろ誇れ。俺に一発入れるなんてそこらの不良五億人いたって出来てねぇんだ」
「は、はぁ」
不幸中の幸いというべきか、思ってた五億倍心の広い人だった。
「ビビらせちまったみてぇでこっちこそ悪かったな。この刺青と目は産まれた時からなんだわ。不良じゃない、と思う、多分、きっと……」
だんだん表情が暗くなっていった。気にしてるのかしら。
「こっちこそごめんなさい。缶を当てた挙句、勘違いまでしちゃって」
「だから気にすんなって。あんまり謝ると鼻ん中育毛剤で埋めるぞ」
「なんで!?」
「なんでって、女子を育毛剤で脅すなら鼻か心臓だろ?」
初めて聞く二択だった。彼は私を脅しながら、ポンポンと頭を撫でる。
「俺はカインだ。オネーサン、名前は?」
「シノんーじゃなかった、詩乃。朝田詩乃」
外国の人なのかな。プレイヤーネームみたいな名前でこっちもそう答えそうになった。
「ほーん、うし、多分覚えた。じゃーな詩乃。縁が合ったらまた逢おうぜ」
気がついたら家についていた。カインと名乗った彼は手を振りながら去っていく。
「……いきなり名前呼び」
なんとも不思議な出会いだった。私があの銀色にムカついて無ければ、あのとき缶を蹴飛ばさなきゃ、あのときパトカーが来なければ、どれか一つでも抜けたら出逢うことは無かった。そんな気が、全くしない。運命の出会いとかじゃないけど、今日逢わなくてもカインとは何かしら、どこかしらで逢っていた、そんな気がする。なんて、詩人が過ぎたかしら。
ノイントちゃんの使っていたAS12 コンバットショットガンはフルオートのショットガンです。当然片手で撃つことは想定されていないでしょうね……。
以下感想催促……?
かん……そう…………ワカメ……。(乾燥ワカメを切らしたユラさん風)