ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
何も無い静かな荒野。
「来たな、銀翼の
「決着を終えましょう。赤目の
赤い目をギロリと光らせる死銃。不敵な笑みを浮かべる銀翼。
シノンは限界まで離れた位置から狙撃とサポート。
「…………」
「…………」
お互い、武器をぶらりと無気力に持ち向かい合う。
十メートルも無い近距離で使うには不向きなスナイパーライフル。想定されていない二丁拳銃のフルオートショットガン。だまし絵のような構図はしっかりと、シノンの目に映っていた。
ダァン!!
爆ぜる轟音。足元に向けられていたライフルが跡形もなく破壊され、死銃の武器が無くなった。
「私の名はノイントです。殺戮を反逆し、規則を反逆し、常識を反逆してご覧にいれましょう」
ノイントは両手のショットガンを放り捨て拳を構える。
「愚かな。だが、それでこそ、我が天敵」
死銃も拳を構え、距離を詰める。
「死になさい、ザザ」
ザザ。SAOで一度も剣を交わすことのなかった、天敵の名。
「銀翼は、俺が殺す」
銀翼。ノイントが呼ばれた、最初の異名。
技術も効率も一切ない純粋な暴力。ときに拳。ときに蹴り。手刀、膝蹴り、かかと落としにヤクザキック。武器での戦闘を前提とするこのゲームではHPゲージの減りが少ないことが闘いをより白熱させる。
「名を、覚えて、いたのか」
死銃の拳がノイントの鳩尾に突き刺さる。
「知っていただけですよ。会ったことはなかったはずです」
ノイントの頭突きが死銃のマスクを砕く。
「そうだ。だが、それでも我々は」
死銃の横蹴りがノイントの腕に防がれる。
「殺し合う運命。ゲームなんて関係なく、いつか私はあなたを殺した」
「おれが、貴様を殺した」
拳と拳が交差する。互いに頬を打ち、顎を砕く。
死銃は数歩後ずさり、ノイントは腰を地面に打ちつけた。
「っっ!」
「死ね」
「死ぬのはあなたです。死亡せずとも、もう成すことはないでしょうから」
ノイントは放り捨てたショットガンを躊躇いなく構えた。
「キサマッ」
「卑劣だなんて言わせませんよ。あなたの人生は、ここで終わります」
ダァン!! ダァン!! ダァン!! ダァン!! ダァン!!
死銃に蹴られながらの五連射。手足を吹き飛ばし、最後は頭を吹き飛ばした。
「……とはいえ、悪いとは思っていますよ。人殺しの終わりには似合わない。いささか滑稽にも程がある」
滑稽、滑稽。罪人に相応しい残念な死に様。
「さてさて、どうしましょうかシノン。私とあなたの決着はついてますし……」
「そうね……。まだ始まって一時間とちょっとだし、前回、前々回と比べて終わるには早すぎるのよね」
「私とザザが飛ばしすぎましたかね」
「あっそうよっ! あんた初っ端から一区画分を狩り尽くしたじゃない」
「仕方ないでしょう。十五人に囲われなんかしたら、殺戮せざるをえませんよ。
そうだ、このままトークショーでもします? 私なら観戦映像に音声を付けられますし」
「やめましょう。失言の嵐になるから」
「しかたないですね。おっと、リアルの死銃の捕獲が完了したようです」
「そう。ねぇ、お土産グレネードって知ってる?」
「あぁ、いいですねそれ。せっかくだから盛大にやりましょう」
シノンがグレネードを一つ出すのに対し、ノイントはダイナマイトの山を築きあげた。
「時間なんて物足りなさ、吹き飛ぶくらい盛大に」
「……は?」
目を丸くしたシノンを山の上に押し倒す。
「スリーカウントで逝きましょう。さーん」
「に、に?」
「イーチ」
「え、え?」
ドーン。
全映像が爆炎に包まれ、シノンとノイントの優勝が知らされた。
大会が終わってすぐ、私たちはログアウトした。ノイントから、心配は要らないけど念の為警戒するように言われた。
「ん、んぅ……」
……あれ、明るい。電気が付いてる?
「おー、詩乃。やっと起きたか」
「!?!?」
聞きなれない、馴れ馴れしい男の声が聞こえた。
「だ、誰!?」
思わず頭のアミュスフィアを投げてしまった。
危なげなく受け止めた男の目つきは鋭くて、ノイントの笑みと比べたら可愛くすら見える笑みからは八重歯が覗いていて、右目の下に刺青が……、刺青?
「か、カイ、ン?」
「おう。詩乃に空き缶ぶつけられた可哀想な男の子なら、間違いなくカインおにーさんだぜ。おねーさん?」
「なんで、ウチに……」
なんだか調子が狂う。
「あれ、彩織から聞いてねぇの?」
「いおり? って、だれ?」
「あー、なるほどな。オーキードーキー。とりあえず行こうぜ、詩乃」
カインは何を納得したのか頷きながら私の手を取った。
「行くって、どこに? 警察?」
「んまぁ、それはこの後来るけどよ、その前に俺らはトンズラこくんだ。ウチのお嬢から迎えも寄越されてるしな」
「お、お嬢?」
「おう。ドが付くほどのな」
「……ドジョウじゃない」
「りんごだけどな」
「……は?」
戦場から戻ってきて、現実感の無さから更に頭が混乱してきた。
「……は?」
カインに連れられるまま玄関の扉を開けると、一人の青年が泡を吹いてもがいていた。
「おらどけ邪魔だ。こっち来んじゃねぇよ気色悪い」
「し、新川君? なんで!?」
彼は、私の数少ない友人だった。
「ア、アバガバン……アババガンッ!アザババン!」
縛られたままもがき、目を血ばらせて、泡を吹き散らかしながら叫んでいる。
「カインあんた! 新川君に何をしたの!?」
「不法侵入及び薬物による殺人容疑及び殺人未遂現行犯、で、ひっ捕らえた」
「や、薬物? 殺人?」
この刺青男は何言っている? 新川君が、そんなことするわけ……。
「詩乃達が相手してた死銃な、此奴とその兄貴だったんだ。兄のほうはもう警察が捕まえに行ってて、此奴もこの後連れてかれる」
「あ、泡を吹いてるのは……?」
「育毛剤切らしてたから代わりにシャンプー使って殺った」
そう言ってカインは詰め替えタイプの、女性用シャンプーの空を見せる。それ、結構良い奴だったような……。なんでこの男がそんなものを?
「って、そういえばなんでシャンプー!?」
一番の謎が誤魔化されそうだった。危ない……。
「舐めんなよ詩乃。俺は武器を選ばねぇ。石鹸だろうとボディソープだろうと、たとえリンスだろうと泡を吹かせてみせる」
「武器が一つもないじゃない!」
「何言ってやがる、人を殺せりゃ立派な武器だろうが。人間その気になりゃコンニャクで撲殺するくらい朝飯前だ」
「それはもう素手の方が強いじゃないのよ」
「カビキラーと大根はオーバーキルになっちまうから気をつけろよ」
数少ない武器になりそうなものの扱いが銃刀法だった。
「やっぱ理想は育毛剤か長ネギだよな。程よい粘度、程よい長さ」
「本質を見なさい。それは育毛剤とネギであって武器ではない」
「はっ、ならそれがお前の限界だ」
「カッコイイ……。世界観がファンタジーで私が戦闘職だったら目がハートマークになって惚れそうなくらいカッコイイ……」
「欠片も惚れてねぇじゃねぇか」
「それがあなたの魅力の限界よ」
「ツンデレだな。それもブタみたいなファンばっか増えるあざといやつ」
「ならあなたはナマハゲね。本質を見てもらえず、恐れられる」
「そりゃむしろ彩織だ。《人を狂わす傾国の美女、ただし囲うは荒くれ者》みたいな」
「だから誰よ……」
偏差値とかIQとかが下がりそうな会話を続けながら、私たちは執事さんの運転する車で、千葉に連れてこられた。
千葉。最近よくニュースで聞いた単語。なんだったか、流通を一部遮るとか、他県と大きく差別化するとか、そんな事を言っていた気がする。
県境を過ぎて更に一時間、延々と森の中を揺られて、時間はもうすぐ午後九時になりそうな頃に車は止まった。
「カイン様、朝田詩乃様、到着致しました。既に彩織様もいらっしゃっておりますので」
「サンキューシツジ。俺ら今日は泊まってくから、夕飯期待しとくぜ」
「存分に」
カインが降りて、反対側、つまりは私側のドアを開けた。
「ほれ、降りろ詩乃。……もしかして疲れたか?」
「平気。歩ける」
嘘だ。かなり疲れてる。怒涛の一日だ。
目的地は、ひと目で分かった。
とてつもなく大きく、窓も扉も無い、赤い立方体。
首が痛くなるほど高く、気が遠くなるほど長い。
「……ここは?」
カインは壁をなにやらぺたぺたと触りながら答えた。
「樹生家当主、樹生りんごの家。兼、樹生第二研究所」
「研究所? これが?」
「一辺五百メートル、多分世界一高い研究所だな。東京タワーが余裕で入る。つっても、この赤いのの中身はスパコンやら冷却装置やらで居住空間とか実験室とかは地下だけどな」
「へ、へー」
開いた口が塞がらない。驚愕とか恐怖とかじゃなくて、大規模かつ許容圏外すぎて一切の感情が湧いてこなかった。
カインの手が止まった。壁中に青い光線が走り、壁に穴が開き、地下の階段へ続く道が現れた。
「階段、足下気をつけろよ」
「あ、うん……」
左右に両手を広げられない程度の広さの通路を、カインに手を引かれながら進む。
「なんなの? ここ」
カインは悩むような表情をしながら答えた。
「んー、あぁ、あー、人それぞれ、だ。役割っつーか、使い方っつーか」
「役割?」
「おう。アルゴはシェルター、彩織は世界、りんごはドラえもんの不思議アイテム、俺はたまり場。ここがどういう所かなんてものほど無駄な問いはねぇ。金の無駄遣いだと思う奴もいれば、最良の使い方だと思う奴もいる。ファンタジーだと思う奴もいればSFだと思う奴もいる。図書館だと思う奴もいれば、ゴミ捨て場だと思う奴もいる。陳腐な言い方をするなら、何でもできるところだ」
なんでも……
「権力、財力、武力、技術力。大抵のものは揃ってる。りんご様々だな」
――カイン、遅いですよ」
「ひゃっ!?」
背後から女性の声が聞こえた。一本道だったから後ろにまでは気を回していなかったから余計に驚いた。
「壁ぶち抜いてまで驚かすなよ」
「反逆者とドッキリは切っても離せないものでしょう?」
クスクスと笑う女性。膝下まで伸びた銀色の髪は三つ編みに結われている。
「……もしかして、ノイント?」
「ええ。少しぶりですね、シノン」
数時間ぶりの再開は《ドッキリ大成功!》の看板に挟まれながらだった。