ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

8 / 67
第8話

初ダンジョンから帰還して数日。クラスメイトの死を間近で見てしまった彼らは意気消沈し、半数以上が訓練を仕様にも武器を握れずにいた。

聖教教会関係者は都合のいい人間兵器が役立たずなことを良くは思わなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

 

しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子だ。

 

愛子は、当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ激レアな天職を農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

 

そんな愛子はハジメの死亡を知るとショックのあまり寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったという事実に、全員を日本に連れ帰ることができなくなったということに、責任感の強い愛子は強いショックを受けたのだ。

 

だからこそ、戦えないという生徒をこれ以上戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。

 

愛子の天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議していたうえ、さらに勇者を超える戦闘特化天職である『最強』を持つ希依が愛子に賛同し、クラスメイトや騎士団、王族、貴族の命を人質にとって脅迫しようとして愛子に止められたりした。

 

状況の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れざるをえなかった。

 

結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。そんな彼等は、再び訓練を兼ねてオルクス大迷宮に挑むことになったのだ。今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。そこに、最強である希依の姿はなかった。

 

彼女曰く、

「地下ダンジョンにはちょっとしたトラウマがあって実はあまり関わりたくない。あくまで好き嫌いの問題であってアレルギーという程ではないけど」

とのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

畑山愛子、二十五歳。社会科教師。

 

彼女にとって教師とは、専門的な知識を生徒達に教え、学業成績の向上に努め、生活が模範的になるよう指導するだけの存在ではない。もちろん、それらは大事なことではあるのだが、それよりも〝味方である〟こと、それが一番重要だと考えていた。具体的に言えば、家族以外で子供達が頼ることの出来る大人で有りたかったのだ。

 

それは、彼女の学生時代の出来事が多大な影響を及ぼしているのだが、ここでは割愛する。とにかく、家の外に出た子供達の味方であることが、愛子の教師としての信条であり矜持であり、自ら教師を名乗れる柱だった。

 

それ故に、愛子にとって現状は不満の極みだった。いきなり、異世界召喚などというファンタスティックで非常識な事態に巻き込まれ呆然としている間に、クラス一カリスマのある生徒に話を代わりにまとめられてしまい、気がつけば大切な生徒達が戦争の準備なんてものを始めている。

 

何度説得しても、既に決まってしまった流れは容易く愛子の意見を押し流し、生徒達の歩を止めることは叶わなかった。

 

ならば、せめて傍で生徒達を守る!と決意したにもかかわらず、保有する能力の希少さ、有用さから戦闘とは無縁の任務『農地改善及び開拓』を言い渡される始末。必死に抵抗するも、生徒達自身にまで説得され、愛子自身、適材適所という観点からは反論のしようがなく引き受けることになってしまった。

 

毎日、遠くで戦っているであろう生徒達を思い、気が気でない日々を過ごす。聖教教会の神殿騎士やハイリヒ王国の近衛騎士達に護衛されながら、各地の農村や未開拓地を回り、ようやく一段落済んで王宮に戻れば、待っていたのはとある生徒の訃報だった。

 

この時は、愛子は、どうして強引にでもついて行かなかったのかと自分を責めに責めた。結局、自身の思う理想の教師たらんと口では言っておきながら自分は流されただけではないか!と。もちろん、愛子が居たからといって何か変わったかと言われれば答えに窮するだろう。だが、この出来事が教師たる畑山愛子の頭をガツンと殴りつけ、ある意味目を覚ますきっかけとなった。

 

『死』という圧倒的な恐怖を身近に感じ立ち上がれなくなった生徒達と、そんな彼等に戦闘の続行を望む教会・王国関係者。愛子は、もう二度と流されるもんか!と教会幹部、王国貴族達に真正面から立ち向かった。自分の立場や能力を盾に、私の生徒に近寄るなと、これ以上追い詰めるなと声高に叫んだ。

 

結果、何とか勝利をもぎ取る事に成功する。戦闘行為を拒否する生徒への働きかけは無くなった。だが、そんな愛子の頑張りに心震わせ、唯でさえ高かった人気が更に高まり、戦争なんてものは出来そうにないが、せめて任務であちこち走り回る愛子の護衛をしたいと奮い立つ生徒達が少なからず現れた。

 

また、希依からしてみれば愛子の教師らしからぬ、素晴らしく好みな善性はある時はいじめられっ子JK、またある時は14代目魔王、またある時は星と世界を司る神、ステラこと希依をも魅了した。

 

「戦う必要はない」「派遣された騎士達が護衛をしてくれているから大丈夫」そんな風に説得し思い止まらせようとするも、そうすればそうするほど一部の生徒達はいきり立ち「愛ちゃんは私達(俺達)が守る!」と、どんどんやる気を漲らせていく。そして、結局押し切られ、その後の農地巡りに同行させることになり、「また流されました。私はダメな教師です……」と四つん這い状態になり、希依(約二万歳or10歳)が少女(25歳)を抱き抱えて慰めるという高年齢親子(仮)が誕生したりしなかったり。

 

ちなみに、この時、愛子の護衛役を任命された専属騎士達が、生徒達の説得を手伝うのだが、何故か生徒達を却って頑なにさせたという面白事情がある。なぜ、生徒達が彼等護衛達に反発したのか。それは生徒達の総意たる、このセリフに全てが詰まっている。

 

「愛ちゃんをどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか!」

 

生徒達の危機意識は、道中の賊や魔物よりも、むしろ愛子の専属騎士達に向いていた。その理由は、全員が全員、凄まじいイケメンだったからだ。これは、愛子という人材を王国や教会につなぎ止めるための上層部の作戦である。要はハニートラップみたいなもの。それに気がついた生徒の一人が生徒同士で情報を共有し、希依を矢面に立てた「愛ちゃんをイケメン軍団から守る会」を結成した。

 

だが、ここで生徒側に一つ誤算が生じていた。それは、ミイラ取りがミイラになっていたということを知らなかったことだ。その証左に、生徒達への騎士達の説得の言葉を紹介しよう。

 

 

 

神殿騎士専属護衛隊隊長デビッド

「心配するな。愛子は俺が守る。傷一つ付けさせはしない。愛子は…俺の全てだ」

 

神殿騎士同副隊長チェイス

「彼女のためなら、信仰すら捨てる所存です。愛子さんに全てを捧げる覚悟がある。これでも安心できませんか?」

 

近衛騎士クリス

「愛子ちゃんと出会えたのは運命だよ。運命の相手を死なせると思うかい?」

 

近衛騎士ジェイド

「……身命を賭すと誓う。近衛騎士としてではない。一人の男として」

 

 

ちなみにこれらに対抗した希依の反論がこちら。

「うちの娘をアンタらみたいな雑魚に任せられるか!」

 

生徒たちの愛ちゃん発言に怒る愛子が娘扱いに怒らないわけがなく、

「あなたいつ私のお母さんになったんですか!」

と頬をふくらませていた。

 

とまぁ、長々と語るというか、書き連ねてみたわけだけれども要するに私は愛子ちゃん達と一緒に行動したりしなかったりするというわけだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。