ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第9話

勇者パーティ率いるオルクス大迷宮攻略組と愛子率いる食糧事情改善組に別れて二ヶ月が経った。

 

これはその二か月間の馬車内での会話である。

 

 

 

「喜多希依さん、ずっと聞けないでいたのですが貴女は何者なんですか?私たちがここに来る直前にいきなり現れたと思うんですけど」

 

「んー、知りたい?」

 

「はい。もしかしたら帰る手段に繋がるかもしれないので」

 

帰るという言葉に生徒たちは目を輝かせ、護衛騎士たちは希依に話すなよ?とでも言いたげな目を向ける。

 

「というかいつでも聞いてくれて良かったのに。ずっと王宮に居なかった訳でもないでしょ?」

 

「声をかけても一切本から目を離さなかったじゃないですか」

 

「ゆとり世代だからね」

 

「だ、騙されませんよ!」

 

「17歳と25歳、約8歳の差は大きいよ~」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「愛ちゃん先生、もう騙されそうだよー」

 

惑わされそうになった愛子に声をかけたのは生徒たちのリーダー格、園部 優花。普通にいい子。うん、いい子。決してキャラが薄い訳では無い。

 

「てかそもそも喜多さんって歳いくつなの?」

 

本気で分からないという表情で優花は希依に尋ねる。

 

「だって、愛ちゃん先生を慰めてる時はほんとにお母さんって雰囲気だったし、でも白崎さん達と話してる時は私たちとそんな変わんないなって感じだし。よく分かんないんだよね」

 

「あー、なるほどね。ちなみに愛子ちゃんはいくつだと思う?」

 

「えっと、見た目通りだとそれこそ、園部さん達とさほど変わらない、十代半ばくらいだとも思いますが、でも私みたいな例もありますから私と同じくらいなのかなとも思えますし…」

 

「あ、一応外見の自覚はあるんだ」

 

「うーん」と、本気で悩み出す愛子。

 

「ま、私もどう言ったらいいのかよく分かんないんだけどね」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「ステータスには20438歳と10歳の両方が書いてあるし、でもこの約二万歳っていうのは私が死んでステラちゃんと同一化した時点で多分止まってるし、10歳っていうのはあくまでもステラちゃんの年齢だし。いやでもステラちゃんも私なのか」

 

「えっと、つまりどういうことなんですか?」

 

「よく分かんなくなってきたし少なくとも二万歳ってことでいいんじゃない?別に皆が10歳児扱いしたいって言うなら別にそれでもいいんだけど」

 

「そ、そんないい加減でいいの?てか人って二万年も生きれるものなの?」

 

「いいこと教えてあげるよ。優花ちゃん、人って20、30くらいまで生きると割と自分の年齢とかどうでも良くなってくるんだよ」

 

「…愛ちゃん先生、そうなの?」

 

「さ、さあ?

そもそも私、25歳として扱って貰えたことがないので」

 

「もしかして電車は子供料金で?」

 

「…乗れちゃいます」

 

「映画も子供料金で?」

 

「…観れちゃいます」

 

「動物園も当然?」

 

「えぇ、えぇ、子供料金ですよ。ふんっ、どうせ私にはお子様ランチが似合いますよーだ」

 

「…やばいよ優花ちゃん。この子拗ねてもちょー可愛い」

 

「う、うん。正直鼻血出そうだけどあんまりからかわないであげて」

 

騎士団は男子生徒達に電車や映画とは何か聞いて存分に困らせている。

 

「ほらほら拗ねないで愛子ちゃん。あ、プリン食べる?」

 

「食べます。…どこから出したんですか!?」

 

「どこからっていうか、今作ったんだけど」

 

「嘘を言わないでください!材料だって待ってきてないでしょう!」

 

「いいことを教えてあげる。卵料理に材料なんて些細な問題。卵料理を極めるとドアノブで親子丼を作るくらい朝飯前なんだよ」

 

「朝から親子丼はちょっとキツくない?」

 

「おっと、一本取られたね。景品に親子丼をあげよう」

 

「あ、ありがと。…箸もちゃんとついてる」

 

「だから何処から出したんですか!?」

 

「だから今作ったんだって。材料は水が入ってた空き瓶」

 

「えっ…」

 

希依から材料を聞いて食べるのを躊躇う優花。

 

「そういう技能なんですか?」

 

「愛子ちゃん惜しい。技能とか魔法じゃなくてレシピだよ。ただ、極めすぎて魔法の域に達してるだけでね」

 

「ちなみに編み出したのは『卵王』っていう料理屋の店長、十一代目魔王の愛子っていう首なしろくろ首の人なんだよ」

 

「ま、魔王ですか」

 

魔王というワードに騎士団だけでなく生徒たちまで希依を疑うような目で見る。

 

「ちなみに私は十四代目の魔王。いやー、懐かしいね。孤児院作ったり奴隷解放戦争したりいじめ撲殺運動したり。

ちょっとちょっと、どしたの?そんな世界を闇に染めた魔王を見る勇者みたいな顔をして。

女の子一人にそんな目をつけるなんていじめだよ?」

 

「まさか魔人族が紛れ込んでいようとは。安心しろ愛子。必ずこの邪悪を殺してみせる!」

 

騎士の一人が立ち上がり、希依に剣を突きつける。

 

「ちょっと待ってください!喜多さんはどう見ても人間ですしこの世界の魔王とは限らないでしょう!」

 

「い、いや、だがしかし」

 

希依を弁護しようとする愛子に戸惑う騎士達。希依がこことも、元の世界とも違う所から召喚されているのを目撃している生徒たちは確かにと思い、騎士達を疑うような目で見る。

 

「喜多さんも喜多さんです!言えないことがあるのは分かりますが言えることはしっかりと話してください!」

 

「んー、愛子ちゃんが聞きたいっていうのなら話すのもやぶさかでは無いんだけど…」

 

「もしかして、私達いたらまずい?」

 

「いや、そんなことないよ。んーと、じゃあ愛子ちゃん、ちょっとこっち来て」

 

希依は自身の膝をトントンと叩く。

愛子はいつかのように希依の膝の上にちょこんと座ると希依がお腹辺りに腕を回す。

 

「これに、なんの意味があるんですか?」

 

「んー、人質?」

 

その瞬間騎士達は視線で殺さんとばかりに睨む。

 

「い、一体何を話すつもりなんですか!?」

 

「冗談だよ冗談。愛子ちゃん愛されてるね~」

 

「へ?いや、えっと、はい。あれ?」

 

「本当は怖かったから癒して欲しいだけだよ。これでも昔男性恐怖症拗らせた過去があってね。実は結構ビビってる」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だよー。父親が実は邪神とか、先代が親バカとか普通じゃない男とは仲良くなったりして自然と薄くなってるみたい。

それじゃあ自己紹介から話していくね

私は喜多 希依。ステラ・スカーレットっていう、どっちも本名なんだけどこの辺はパラレルでシュレディンガーでパラドックスな事情があるから省略するね。

私は高校二年生、16歳の時に妹であり後輩であり恋人の琴音って子と、あとまぁ勇者パーティみたいな人達とで異世界に召喚されたことがあるんだよ。で、まぁなんやかんやでアルビノの猫の獣人、リリアちゃんって子と友達になったりした後に『魔国ヘルムート』の十四代目国王、つまり魔王になったわけだよ。ここまでで質問ある?」

 

一人、生徒の女子が小さく手を上げる。

 

「ん、どった?」

 

「妹で後輩で恋人ってなに?」

 

皆もそれが聞きたかったと言わんばかりに首を縦に降る。

 

「なにって聞かれてもね。後輩を拾って妹になってから恋人になったんだよ」

 

「後輩を拾うって、あ、もしかして一人ぼっちだった子の友達になってあげたとか、そういう話ですか?」

 

「妄想力が逞しいね愛子ちゃん。そんなんじゃ…いや、意外と合ってるのかな?

家から文字通り飛び出した女の子を橋の下で拾って連れ帰ったってだけなんだけど」

 

「「「まさかの捨て猫感覚ですか!?」」」

 

同じ女子として思うところがあるのか、それとも素敵でロマンチックな出会いを予想していたのか、愛子と女子生徒達が興奮気味に捲し立てる。

 

「話、進めていい?」

 

「「「「あっ、はい」」」」

 

「えっと、就職したとこまで話したんだったかな。

それからはまぁ、色々したんだよ。色々。勇者が攻めてきて、妖狐の家族の娘以外全員が殺されて、最終的に妖狐の子が復讐遂げたりとか、孤児院作って色んなとこから忌み子とか私みたいないじめられっ子とか奴隷の子なんかを多少強引でも引き取って保護したりとか、悪党しかいない街を滅ぼしたりとか。

別に、人間はヘルムートを滅ぼす気満々だったけどこっちはそんな気全くなかったから人間と魔族の和平とかめちゃくちゃ大変だったよ」

 

「魔王なのに、人間を滅ぼしたりとかはしなかったんですか?和平ってことは、それ以前は戦争していたんですよね?ここと同じように」

 

愛子は希依を見上げる姿勢で目を合わせて尋ねる。

 

「確かにここと似た世界たけど、戦争において最も違うのはそれぞれの求める物なんだよ。

人間はヘルムートの地下にある無限に等しい魔力が欲しいとか、魔族の奴隷が欲しいとか。

対してヘルムートが望むのは、初代から十四代目の私、そして十五代目の子も含む魔王が望むのはただ平和な暮らし。争いはなく、国の外で子供たちが駆け回れるような、そんな世界。

これってとても素敵じゃない?」

 

愛子やその生徒達は頷いているものの、騎士達は納得いかない様子。

 

「なに、なんか聞きたいことあるの?」

 

「人間達は、神、エヒト様のために戦っていたのではないのか?そんな下賎な理由で戦うなど…」

 

「一つ、勘違いしてるみたいだね。エヒト、あれは一応神なんだけど、本当に一応っていう前置きが付くようなかなり下級の神なんだよ。そして神はひとつじゃない」

 

「八百万の神、というやつですか?」

 

「さすが社会の先生。そういうのには詳しいの?」

 

「いえ、そんなに深く知っている訳ではありませんが、生徒に教えられる程度には」

 

「なるほどね。え、社会って神話まで教えるの?」

 

「…喜多さん、二年生までとはいえ高校生だったのでは?」

 

「いやだって私、極度のいじめられっ子だったせいで勉強なんて中三の受験勉強を一週間くらいしたっきりだよ?その前にも後にも学校でやるような勉強はしてきてないし」

 

「そ、そうですか。大丈夫だったんですか?」

 

「いや、ダメだったよ?ifの私が16歳の時にいじめが原因で死んでる…あ、やっぱいまの無しで。

えっと、戦争の理由に神は関わっているのかって話だったっけ。結論から言うと一切関わってないよ。というか、私が召喚されて三年後にお父さんに殺されてるし」

 

「神を殺しただと!?」

 

「そんなありえないみたいな顔されても困るっての。そもそもお父さんも神だったわけだし。聞いたことない?這いよる混沌っていう邪神」

 

「「「「?」」」」

 

「あ、知らないか。多分ハジメくんなんかは知ってるんじゃないかな。ちょ、愛子ちゃんそんなに落ち込まないでよ。ハジメくんはきっと無事だって。私が保証する」

 

「…はい」

 

「ちょっとそこの騎士団、愛子ちゃんが落ち込んでるから喜ぶような一発ギャグかまして好感度稼いでよ」

 

「「「な、なに!?」」」

 

 

 

 

希依の正体の一部が露見したりしながら馬車に揺られること更に四日。

 

イケメン軍団が愛子にアプローチをかけ、愛子自身、やけに彼等が積極的なのは上層部から何か言われているのだろうなぁと考えていたので普通にスルーし、実は本気で惚れられているということに気がついていない愛子に、これ以上口説かせるかと生徒達が睨みを効かせ、度々重い空気が降りるなか、やはり愛子の言動にほんわかさせられ……ということを繰り返して、遂に一行は湖畔の町ウルに到着した。

 

旅の疲れを癒しつつ、ウル近郊の農地の調査と改善案を練る作業に取り掛かる。その間も愛子を中心としたラブコメ的騒動が多々起こり、それに希依が爆笑して雰囲気をぶち壊すというのを繰り返すのだが……それはまた別の機会に。

 

そうして、いざ農地改革に取り掛かり始め、最近巷で囁かれている豊穣の女神という二つ名がウルの町にも広がり始めた頃、再び、愛子の精神を圧迫する事件が起きた。

 

生徒の一人が失踪したのである。

 

愛子は奔走する。大切な生徒のために。その果てに、衝撃の再会と望まぬ結末が待っているとも知らずに。

 


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