!注意!
本作では影浦のキャラが崩壊しがちになります。
タグに書いておくべきか。入り切る……?
魔王ソフィア・アンデルセンの玉狛支部訪問から一夜明けて。
彼女と再戦するにあたって、提示された条件をクリアするため本部基地を訪れた遊真。
ついでに、情報収集も兼ねて修もついてきている。
昨夜地味に連絡先を交換し、今朝ソフィアから連絡を受けた遊真は、条件の片方である村上鋼という隊員を個人ランク戦ブースにて探していた。
間もなくして。
どうやらあちらも遊真を探していたらしく、すぐに見つかった。
「あんたが村上鋼って人か?」
「ああ、そうだ。お前が空閑遊真だな? ソフィアさんから話は聞いてるよ」
「よう、三雲。お前もついてきたのか」
「荒船さん?」
声をかけられた二人が振り向くと、そこに居たのは何故か件の村上鋼だけでなく、先日のランク戦で当たった荒船哲次も一緒であった。
「荒船とは俺がボーダーに入隊した頃からの付き合いでな。攻撃手として色々と教えてもらった師匠でもあるんだ」
「まぁポイントはすぐにコイツに抜かされちまったがな。そんな事より、空閑。お前、鋼とカゲの二人を倒しに来たんだって?」
「そうだよ。ソフィアさんにランク戦付き合ってくれるよう頼んだら、条件として二人に勝ち越せたらって言われたからな」
「噂の美少女隊長さんか。鋼相手に完勝したっていう。こう見えてもコイツ、攻撃手4位の腕前なんだぞ?」
「4位……!?」
「なるほど」
どうやら荒船は鋼から話を聞いて、面白そうだと思ってついてきたらしい。
それだけでなく、情報収集も兼ねているのだろうが。なかなか抜け目のない男である。
そして、遊真と鋼は「ソフィアにボコボコにされた同志」として意気投合し、共に笑顔を浮かべた。
「お前はソフィアさんと戦った事はあるのか? 空閑」
「いちおうね。一本も取れなかったけど」
「はは、そうか。俺もだよ。まるで歯が立たなかった。たぶん、あの人に安定して勝ち越せる人はボーダーにはいないと思うよ」
「ふむ、なるほど。まあそんな感じはする」
ところが、荒船と共に穏やかな顔でそれを眺めていた修が、思い出したように爆弾を放り投げる。
「あ、でも空閑はソフィアさんに弧月以外を使わせましたよ」
「いちおうね。ほぼお情けだったけど」
「……へえ、そうなのか。なるほどな……」
あのソフィアが弧月以外のトリガーを使った。
一回だけ使ったメテオラ以外、謎に包まれていたものを一つだけとはいえ暴いたという遊真に、鋼は強い興味を抱いた。
明確に雰囲気が変わり、荒船が苦笑いし、修は冷や汗を流す。
遊真は楽しげにのんびりしている。
「俄然興味が湧いた。十本勝負で五本終わったら15分の休憩を挟むという条件付きでよければ、早速始めよう」
「おーけい。それでいいよ。ところでかげうらさんは来てないの?」
「あいつならそろそろ来ると思うよ。一戦か二戦もやればちょうどいい時間になるだろう」
「なるほど、わかった。じゃあやろうか」
同行してきた荒船と修を放置し、二人は個人ランク戦を始めるために走っていった。
お互いがお互いだけしか見えていないようだ。
「行っちまったな」
「行っちゃいましたね」
「鋼のやつ、少し変わったよ。例のアンデルセン隊長っつー目標ができて意識に変化でもあったのかね」
「そうなんですか?」
「ああ。今までは鈴鳴支部に居る方が多かったからな。さて、取り残された俺たちは観戦でもするか?」
「そう、ですね」
そして荒船と二人で観戦する事しばらく……。
《トリオン供給器官破損。緊急脱出。6-4。
勝者、村上鋼》
休憩を挟んでからの後半の五本を連続で落とす、という遊真らしからぬ負け方を目にし、信じられないとばかりに驚愕する修。
前半と後半で明らかに動きが違っていた事に首を傾げる遊真に対し、自らのサイドエフェクト、【強化睡眠記憶】を明かす鋼。
「つまり、あいつに一度見せた手は通じない。空閑としては通過点程度にしか思っていなかったのかもしれないが、そう簡単にはいかないぜ」
「……!」
修もまた、荒船から鋼のサイドエフェクトを教えられていた。
「うーむ、どうするかな。これ以上やっても負けが続きそうだ」
「俺はどっちでも構わないぞ。お前はソフィアさんと同じスピードタイプだし、いい経験になる」
「おれはあの人ほど速くないけどね」
「それは確かに」
そんな会話をしながら、一旦戻ってきた遊真と鋼。
どうやら遊真はこのままではいかんと察したらしい。
「むらかみ先輩には一度見た手段は通じないんだよね?」
「大体はな」
「じゃあ、ソフィアさんと個人ランク戦やったら勝てるの?」
「いい質問だな。どうなんだ、鋼?」
「…………」
条件の二人目である影浦待ちという事なのか、ブースの片隅でダべる事にしたらしい遊真が質問し、答えが気になるのか荒船もまた鋼に問う。
修は、はっきり言ってクソザコな自分がここにいるのは場違いなのでは、と妙な居心地の悪さを感じ、やんわりと挨拶してその場を離れていった。
何故ついてきたのか。彼はコミュ力を鍛えた方がいいかもしれない。
「いや、無理だ。確かにソフィアさんとは試合で戦ったし、その前にも一度空閑と同じように十本勝負をやったけど、勝てる気がまるでしなかった」
「ふむ?」
「……そこまでか。お前が言うならよっぽどだな」
「なんていうかな。あの人は速すぎて、何が来るか分かっていても避けられないんだ。俺自身がもっと強くならないと、勝つどころか勝負にすらならないよ」
「記録を見た限り、試合ではそこそこやれていたと思ったが?」
「あの時のソフィアさんは、どうも力をセーブしていた節がある。来馬先輩と一緒に逃げた時とか、あの人なら普通に俺たちに追いつけたはずだ。でも、そうはしなかった」
「それは──」
「──何してんだおめーら。やり合うわけでもなしにこんなとこで雁首揃えやがって」
鋼と荒船のやり取りを静観する遊真。
そして、鋼の「力をセーブしていたソフィア」という発言に対し、荒船が彼なりの見解を口に出そうとした時。
待ち人が不機嫌そうに現れた。
元A級にして現B級2位、“影浦隊”隊長。
影浦雅人その人である。
「カゲ」
「やっと来たのか」
「るせー。いきなり訳分かんねェ理由で呼びつけやがって」
「……あんたがかげうら先輩か」
「あん? おい、なんだこのチビは」
「話をしただろ。こいつが空閑遊真だよ」
「……あァ。俺を踏み台にしようっつークソ生意気なガキか」
影浦が不機嫌な理由。
それは、実に単純であった。
「踏み台?」
「そうだろォが。超新星だかなんだか知んねーが、俺と鋼相手に勝ち越せたら、だァ? 舐められたもんだ」
「……ああ、ソフィアさんの事か」
「おい、鋼。こいつに理由を馬鹿正直に話したらこうなる事は目に見えてただろう」
「いや、変に誤魔化したら後で面倒になると思ってな。正直に話した方がマシだろう」
「…………まあ、たしかに」
「ソフィアさんが気に食わないの?」
「おめーもだよ。大体、そのソフィアって野郎は何様のつもりなんだァ? 鋼に勝ったからって俺にも勝てるとは限らねェだろォが。上から目線で物言いやがって」
「ソフィアさんは“野郎”じゃないぞ」
「るせーぞチビ。んな事ァどうでもいいんだよ」
空閑遊真という新人が影浦と戦いたがっている、という事を話した際、理由を聞かれた鋼が「ソフィアさんが個人ランク戦をする条件として俺とカゲに勝ち越せたらと言っていた」と明かしたせいである。
鋼はさておきとして、影浦に勝ち越せたら個人ランク戦をやってやってもいい、という事はつまり、そのソフィア・アンデルセンは自分の方が影浦よりも強いと自分で認識している事になる。
まだソフィアと戦うどころか面識すらない影浦は、それが気に食わないのである。
「──とにかく、そのソフィアって野郎を俺の前に連れてこいや。話はそれからだ、ボケ」
「「…………」」
「まぁ、一理あるな」
そんな影浦に、軽く頷く荒船。
大体、面識もないはずの影浦を踏み台にさせようという事自体かなり失礼なのである。
──そして。
まるでタイミングを見計らっていたかのように、彼女が現れた。
「──お呼びかしら、カゲくん?」
「「!?」」
「あ、ソフィアさん」
「急に現れないでくださいよ。いつからいたんですか?」
件の、ソフィアって野郎である。
いつの間にか背後に立たれていた影浦は思わず、といった様子で飛び退き、いつ近付いてきたのかまるでわからなかった荒船は目を見開く。
面識があり、戦った事もあるので若干慣れつつある遊真と鋼は至って冷静に話しかけた。
「……てめェ」
「ダメよ、カゲくん。年上に対してそんな口の利き方しちゃ。あら、荒船くんもいるじゃない」
「ど、どうも。初めまして、荒船です」
「ソフィアよ。よろしくね」
毛を逆立てる猫のように警戒心を露わにする影浦。
しかし、ソフィアはそれをまるで意に介さず呑気に荒船へ話しかけた。
なるほど、随分とマイペースな人らしい。
荒船はそう思った。
「鋼くんと遊真はもう戦ったの?」
「ええ。俺が6-4で勝ちました」
「負けました。条件なだけあってなかなかキビシイ」
「ああ、やっぱりそうなのね。カゲくんは?」
「……誰がやるかよ。つーか踏み台にしようとして鋼に負けるたァ随分と無様じゃねーか、チビ」
「返すことばもない」
「──カゲくん」
「!? ん、んだよ。やんのかコラ!」
「……まるっきり猫だな、カゲ」
ふしゃー! と息を荒らげる影浦を無視し、流れるように影浦の隣に座るソフィア。
その椅子はどこから持ってきたのか。
「何隣に座ってんだてめー!」
「まあまあ、声を抑えなさいな。周りの迷惑でしょう?」
「誰のせいだと思ってやがる!!」
「なんというか、カゲとあの人は相性が悪いな」
「そうか? むしろいいと思うけどな」
「……まあ飼い主と拾われた猫には見える」
「そうだろう。そういえば荒船、お前はやらないのか?」
「やめておくよ。空閑の方はデータも大分集まってきたし」
「ほう。次に戦う時は手強そうですな」
「当たり前だ。次は負けねえぞ」
騒ぐ影浦と、そんな彼で遊ぶソフィア。
それを放置し、荒船と鋼、そして遊真の三人は仲良く会話していた。
「~~ッ!! おいコラ女!! 俺と戦えや!」
「あら。次戦の偵察かしら?」
「ああん!? そんなんじゃねえよ! ただ、ナチュラルに俺を見下してやがるてめーが気に食わねえ! 大体なんだてめーの変な感情は! 妙にふわふわして気持ち悪いんだよクソ!」
「サイドエフェクト? そう、ふわふわしてるのね」
「ふわふわしてるのか」
「ふわふわしてる感情ってなんだ」
「かげうら先輩のサイドエフェクトって?」
「ああ、それはな──」
そのふわふわしてる感情の正体は、例えるならば世話焼きでちょっと意地悪な姉が弟に向ける愛情に似ている。
何を隠そう、“向こう”での影浦はソフィアのかわいい弟分なのだ。
故にこちらでもからかってしまうのである。
尚、影浦とソフィアは本当に個人ランク戦をしたが、結果は10-0で影浦の負けであった。
「クソァ!! なんなんだてめーは!! もう一回、もう一回だ!! 次は負けねえ!!」
「うふふ、いいわよ。あなたの気が済むまでボコボコにしてあげるわ」
「すごいな。カゲが手も足も出ないとは」
「言っただろ? あの人の攻撃は速すぎて分かっていても避けられないんだよ」
「ふーむ……やっぱりかげうら先輩も強いな。ボロ負けしてはいるけど」
「ソフィアさんだから仕方がない」
結局、未だかつてないほど連敗を重ねた影浦は、灰のように真っ白に燃え尽き、ソフィアに頭が上がらなくなった。
罰ゲームとして「ソフィ姉」と強制的に呼ぶように申し付けられてしまう程である。
「クソが……クソがァ……今日は厄日だ……」
「げ、元気出せよ、カゲ。いい事あるって」
「カゲのこんな姿は初めて見るな……」
「……かげうら先輩、今日は、個人ランク戦やらなくてもいいよ。見てて哀れになってきた」
「うるせーチビ……つーか次のランク戦はソフィ姉とやんのかよォ……バックれてェ……」
「大丈夫、カゲくん? ゾエくん呼ぶ?」
「……あァ。つーかあんたはさっさとA級いけや」
しばらくして影浦を引取りに来た影浦隊の北添は、あまりにもあんまりな影浦の様子に驚愕し、思わずカメラで撮ってネタにしてしまうほど動揺したという。
「待てコラゾエてめえ!! 何撮りやがったァ!! 今すぐ消せェ!」
「ちょ、ちょま、ちょま! ソフィ姉さんパス! ゾエさんは意地でもこの面白画像をヒカリちゃんに届けなくてはならないからね!」
「やめろォ!! つーかソフィ姉に渡すのは卑怯だろうがァ!! あとてめーはソフィ姉呼ばわりすんじゃねえぶっ殺すぞコラ!」
「ヒカリちゃんに届ければいいのね?」
「お願いしまーす!」
「まて! マジで待て!! やめろォ!!」
こうして、影浦の面白画像は影浦隊オペレーターの仁礼光に届けられ、最高のいじりネタが保存された。
ついでに。
ショックのあまり膝を抱えてしまった影浦を見て、いじめすぎたか、とそんな彼を抱き寄せて頭を撫でるソフィアの姿があったという。
影浦は語る。
ソフィ姉はヒカリと違ってめっちゃふわふわだ、と。
影浦はソフィアからかつてないほど温かい感情をサイドエフェクトで読み取り、混乱している模様。