その頃にユズルはチカと原作通りの流れで知り合いました。影浦隊と玉狛が当たるのが早いので、少し前倒しになった感じですね。
遂にこの日がやってきた。
実に多くの人間が注目する、B級ランク戦……。
その第3ラウンド。
影浦隊、玉狛第二、アンデルセン隊。
この3隊による試合である。
B級不動のツートップと称される元A級部隊。
その一つである影浦隊は、果たして脅威の新人たちを下し、上位の壁というものを思い知らせる事ができるのか。
隊長である影浦は、アンデルセン隊の隊長にして唯一の戦闘員である、ソフィア・アンデルセンに対し個人ランク戦で既に完敗しており、その情報は多くの隊員たちが知る事ではあるものの、チーム戦とあらば話は別……なんじゃないかなぁ? という見方をする者が多い。
まぁ。
残念な事に、肝心の影浦がアンデルセン隊と戦う事に対して若干チキっているのだが。
「なぁおい。いつまで拗ねてんだよ、カゲー。もう試合始まるぞー?」
「……うるせェな。拗ねてねえよ。少し現実逃避してただけだ」
「いやいやそれはそれでどうなのさ」
「……いったい何があったらカゲさんがこうなる?」
「そういや、ユズル。お前はソフィ姉と会った事無かったっけ。あの時いなかったもんな? いやー、面白かったぞー! カゲが気持ちわりーぐらいお行儀よくしててよー! しまいにゃ膝を抱えていじけてやんの! で、それをソフィ姉に慰められてて! おかしくっておかしくって、もう腹痛かったわ!」
「るせーぞヒカリィ!!」
「ちょっとゾエさん的にさすがに焦ってきたよ? マジでもう試合始まるからね? 早く出てきなさい、カゲ。そしてソフィア姉さんへの対策を立てよう」
影浦隊作戦室にて。
試合を拒否すると言わんばかりにコタツに籠城を決め込み、曰く現実逃避をする影浦を、チームメイトたちが時折からかいながら説得していた。
この中で唯一ソフィアと面識が無い若き狙撃手、絵馬ユズルだけは、カゲの奇行が理解できず戸惑うばかりである。
「……対策つったって、どうしようもねえよ。玉狛に狙いが行く事を祈りつつ、俺らも玉狛を狙うしかねえ」
「そんなに強いのかー?」
「ゾエさんも見れてないんだよね。や、カゲがこうなるぐらいだから強いんだろうけど」
「……新人部隊を集中狙いするっていうのもどうかと思うけど」
「んな甘ェ事言ってられねェんだよ。ゾエの銃撃もユズルの狙撃も、200パー当たんねェ。俺が一本も取れねえぐらいデタラメにつえーからな」
「ふーん。おまけに可愛くて優しくてついでに面白いとか、ソフィ姉最強か?」
「間違っちゃいねェな」
もそもそとコタツから出てきた影浦は、しかしひたすらにネガティブであった。
完全にソフィアに歯向かう意思を失っている。
まるで牙を抜かれた猫である。
「……ちょっと興味湧いてきたかも」
「お? 遂にユズルも女の子にそういう事を……ゾエさん嬉しい」
「馬鹿だな、そういうのじゃない」
「言っとくけどソフィ姉、21歳だぞ? さすがにユズルじゃあなー、無理だろ」
「いやだからそういうのじゃないって」
「てめェ、ソフィ姉と付き合いたきゃ俺を倒してからにするんだな」
「カゲさんまで。だから違うってば。しかも何アホな事言ってるのさ、あんたは」
迂闊な一言から隊のオモチャが影浦から自身に変わり、うざいテンションで絡んでくるチームメイトたちの相手をする羽目になったユズル。
彼は思った。
なんなのこの人たち、酔ってるの? と。
特に影浦のキャラ崩壊が酷い。
ちなみに。
ユズルが玉狛第二をさりげなくかばう理由は、ぶっちゃけて言うとかの隊に所属するトリオン怪獣こと、雨取千佳に惚れたからだ。
少年にようやく訪れたアオハルなのである。
そしてその玉狛第二の面々は──。
「今回はハッキリ言って、かなり勝ち目の薄い戦いになる」
「修くん……」
「ハッキリ言っちゃうと、そうだね」
「かげうら隊もアンデルセン隊も、今回の相手は両方がめっちゃ強いもんな」
「ああ、そうだ」
破竹の勢いで遠征への道を突き進む新人たちの部隊、玉狛第二。
彼らの作戦会議は、隊長である三雲修が前向きな表情で言い放った、とても後ろ向きな言葉から始まった。
チカは若干暗い顔をしているが、栞と遊真は至って平然としている。
厳しい戦いになるのはとっくに分かっていたからだ。
「特に、アンデルセン隊。たった一人の戦闘員しかいない部隊だが、その強さは尋常じゃない。空閑が完敗している事から、これまでのようにはいかないだろう」
「正直、おれが親父のトリガーを使っても勝てるかどうかわからないぐらいだ。ノーマルトリガーであれだけの使い手は、近界でも見なかったかもなー」
「ノーマルトリガーで黒トリガー並の戦闘力……ってのは少し信じ難いけど、実際に居るんだもんなぁ。やー、世界は広いねー」
「でも、味方でよかったとおもうな」
「そうだな、チカ。あのひとが敵だったら、レプリカがいない今だとちょっとキツかったろうし」
のんびりと、冷静に戦力を分析し。
出した結果は……。
「だから。今回は、アンデルセン隊とは戦わない。向かってきてもとにかく逃げる事を考えよう。僕たちはつまり、影浦隊をいかにアンデルセン隊よりも早く落とせるか。そういう作戦で行くしかないと思う」
「おれたちがかげうら隊を全員倒してじぶんで緊急脱出すれば、ギリギリで勝てるもんな」
「なるほど、そっか」
「了解ー! となると、しっかりオペレートしないとだねえ」
「たのむぜしおりちゃん」
「影浦隊も強敵だから、特に僕は注意しないとな」
「ただ、問題は──」
アンデルセン隊との戦闘を回避し、影浦隊を全滅させた上での逃げ切りを狙う。
それが修の考えた作戦である。
というか現状だとそれしかないのだ。
チカが人を撃てれば、少しはチャンスもあったかもしれないが。
しかし、一番の懸念材料がある。
それは──
「「今回は、よりによってあのアンデルセン隊がマップの選択権を持っている」」
「だな。あの人はどんなマップだろうと関係ないって感じだから、たぶんおれたちが不利になるところを選んでくると思うよ」
「狙撃を封じるマップとか……?」
「有り得るな。うちにはお前がいるし、影浦隊にも狙撃手がいる」
「あっちの狙撃も封じてくれるなら少しやりやすいけどな。かげうら先輩はそうそう楽に落とされてくれないだろうし」
「まあ、とりあえず! 最初は合流を目指す感じ?」
「……そうですね。散開して各個撃破されたら元も子もない」
「OK、わかった」
「うん!」
影浦隊と、アンデルセン隊。
どちらも遊真以上の実力を持つエースを擁する。
アンデルセン隊に至っては、未だ底知れない程の力を持つ実力者の中の実力者だ。
限りなく勝率の低い戦い。
そう分かっていて、しかし彼らは引かない。
その様は、まるで魔王に挑む勇者たちのようである。
そしてその魔王様は──。
「うん、おいしいわ」
「ですね~。万理華さんったら気が利くな~」
「少し悪い気もするのだけどね」
「いいんじゃないですか~? あ、それよりもソフィアさん~」
「なあに?」
「作戦会議は~?」
「? どのマップを選ぶかはさっき説明したじゃないの」
「……あー、やっぱりあれで終わりなんですね~……相変わらずの慢心王……」
「それだとわたしが男になってしまうじゃない。慢心女王よ」
「ツッコむところそこじゃないですっ!! もうっ、これで普通に勝っちゃうのがまた憎たらし~……!」
作戦会議らしい事は全くせず、ただテーブルで優雅にお茶会を楽しんでいた。
新たに部隊へ加入したメンバー……といっても今回はさすがに参加できないが。
蟻元アリスと八十神万理華がこの作戦室を訪れ、アリスは隊の勝利を願い、万理華はかなりお高いお菓子を恵んでくれたので、こうなったのである。
徒労としりつつもソフィアの慢心を咎める灯ではあるが、彼女もきちんとお菓子を食べているあたり確実にこの隊に染まってきている。
まあそれはさておき。
「マップは本当にあそこでいいんですか~? 相手を不利にするどころか有利にしちゃうと思いますけど~」
「いいのよ。今のあの子たちがどこまでやれるか、見てみたいから。心配しなくても、勝つのはわたしよ?」
「いっそ落とされてしまえばいいんです~」
「あらあら、酷い事言うわね」
「ふーんだ。慢心王なソフィアさんなんて知りませんもんね~……ってなんで撫でるんですか~!」
「可愛いこと言っちゃって。心配してくれてるのよね? ありがとう」
「な、ち、違っ!! 違います~!」
マイペースにお姉さんオーラ全開なソフィアと、彼女にいいようにされる灯。
うにゃーと抵抗するも、だんだんと顔がふやけていき、最終的には全てをソフィアに委ねて寝静まりそうになってしまう灯。
曰く。
ソフィアさんのふわふわボディは究極の凶器であり、まるで干したてのお布団のように気持ちがいい。
故に眠気が来るのも致し方ない、とのこと。
各隊の思惑が交差し、多くの注目を集めるこの試合。
その行方は、神のみぞ知る、かもしれない。
「──見せてちょうだい、修くん。遊真。チカちゃん。あなたたちの力を──」
魔王の眼が、妖しく光る。
この試合にはアンデルセン隊の新メンバー二人は参戦しません。連携の完成度が満足の行く出来に達していないので、書類を用意だけして提出していない状態です。
なのでこれがソフィアが単独で戦う最後の試合となります。次の試合から二人参戦です。