最後のボーダー   作:初音MkIII

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シリアス注意報。
ハイレインに相当なヘイトが集まりそうな回。
ソフィアが異常に強い理由が明かされます。


第14話 ソフィア・アンデルセン

 

 大勝を続けてきた玉狛第二と、元A級部隊にして現B級不動のツートップの片割れである影浦隊にさえも圧勝したアンデルセン隊。

 

 

 そんな脅威の新部隊を率いる女性、ソフィア・アンデルセンに関する事で、実力派エリート迅悠一は、何故かボーダー本部開発室長のたぬきこと鬼怒田に呼び出されていた。

 

 

「もしもーし、鬼怒田さん? 来ましたよーっと」

「……来たか、迅。入れ」

「はいよ。実力派エリート、お呼びに応じ参上しました……って、忍田さんまで」

「…………ああ。よく来たな、迅」

「…………」

 

 

 

 断る理由も無いので参上した迅だったが、やけに空気が重い事から気持ちを切り替える。

 自身のサイドエフェクトで“この画”を見た事があったが、遂に現実となったらしい。

 

 

 が、しかし。

 デキる男、迅。彼はあえて陽気な態度を装う。

 いつも通り、仮面をかぶって道化を演じるのだ。

 

 

「もー、どうしたのお二人さん。そんな怖い顔してたら老け込んじゃうよ?」

「…………」

「ふん。安心せい、すぐにお前もこうなる。彼女の話を聞けばな」

「ソフィアさんの事?」

「うむ。覚悟せいよ」

「……ああ、わかった」

 

 

 いつになくシリアス顔な二人をリラックスさせようとしたが、上手くいかず。

 逆に、覚悟しろと宣告された事から相応に重い話が飛び出るのだろうな、と察する迅。

 

 

 そして鬼怒田はそれを見て頷き、幾つもの画像を伴うデータを出した。

 

 

「ワシが彼女自身に協力してもらい、彼女の事を調べておったのは知っとるな?」

「もちろん。というとこれはソフィアさんの?」

「うむ。彼女の肉体……そしてトリオン体に関する情報を集めたものだ。結論から言うと、じゃがな」

「うん」

「…………」

 

 

 悲痛なような、怒っているような、そんな複雑な顔を浮かべて沈黙する忍田を横目で見ながら、鬼怒田と会話する迅。

 

 

 未来を視る事ができるという破格のサイドエフェクトを持つ事から、滅多な事では驚かない彼が、次の瞬間かつてないほどマヌケな声を上げる事となる。

 

 

 

 

 

 

「彼女……ソフィア・アンデルセンの身体は、もはや人間とは呼べん代物になっとる」

「……はい?」

 

 

 

 

 まさかの非人間発言である。

 いや、確かに人間離れしてるなとは思うけど……と反論しようとする迅だったが、そんな彼に構わず鬼怒田は言葉を続ける。

 

 

「まぁ聞けい。何も彼女を貶そうというのではないわ。まず、生身の方は四肢が未知の技術で造られた……まあ義手と義足、なんじゃろうな。そんなものに置き変わっておるし、内臓も同様じゃ。脳みそですら人工物になっとる」

 

「…………え? いやいや、ちょっと待て。待ってくれ。つまり、いったいどういう……」

 

「神経も生来のものではない。より早く信号を送るために、これまた未知の技術で造られた代用品に変わっておるんじゃ」

 

「…………そんな、そんなの」

 

「続いてトリオン体じゃが、これまたワシらが知るものとは根本的に作りが異なる。まず、トリオン供給器官からして人工物がへばりついておる有様じゃしな」

「…………」

 

「恐らく、彼女が持つトリオンの量を無理矢理増やしたんじゃろうな。その代償として、彼女は味覚を失っておるらしい。腹も減らんそうだ。おまけに眠る事もできないときた。一応、食べる事はできるようだが、それは栄養を補給する以上の意味は持たんだろう。味覚が無いのだから、何を食べても石を食べてるのと変わらんはずじゃからな」

 

「…………」

 

 

 

 背を向けているので迅からは鬼怒田の表情を見る事はできないが、忍田のそれからして察する事はできるし、鬼怒田の体は震えている。

 何より、迅自身が陽気な態度を取る余裕すら無くなっているのだ。

 

 

「つまり──」

「──つまり何か? ソフィアさんは、笑顔が似合うあの綺麗な人は、“兵器”として人体改造されていると、そういう事か……?」

「……そうなる。この有様じゃ、子を産む事もできんじゃろうな……」

「…………どうして、こんな」

 

 

 

 これほどの怒りを覚えるのは、迅にとって久しぶりか、あるいは初めての事かもしれない。

 少なくとも、かつて仲間を失った時と同じか、それ以上に動揺はしている。

 

 

 

「正直、どうしてこれで生きていられるのか不思議なぐらいじゃ。これ程の歪さだ、ワシらでは想像もつかないほどの激痛に、常に襲われているじゃろう。本人はもう慣れたと笑っていたが、な」

「どうして、あの人は笑っていられるんだ……これはつまり、近界民に捕まって、そこで改造されたって事だろう……? 三輪以上の復讐鬼になっていてもおかしくはないのに……」

 

 

 完全に沈み込み、そう呟く迅。

 そんな彼の疑問に答えたのは、それまでずっと沈黙していた忍田だった。

 

 

「──それは当然私も聞いたよ。思わず、な。そうしたら彼女はなんて答えたと思う?」

「……分からないよ、俺には」

 

 

 

「……仲間も家族も、街の人々も。彼女自身以外の人間が全て死んでしまったから。こうしてまた触れ合える事が嬉しくて、楽しくて、仕方ない……だそうだ」

「……!」

「健気な子じゃ。本当ならもう戦いから遠ざけてゆっくりと過ごさせてやりたいところじゃが、皆を守るために戦わせてほしい、と懇願してきおった」

「……そっか。うん、それは少し分かる」

 

 

 思わず目頭が熱くなった。

 見れば、忍田もハンカチで目元を抑えているし、背を向ける鬼怒田も手を目のあたりにやっている。

 

 

 

「迅。忍田くん。君たちと違い、ワシは戦えん。じゃから……彼女を頼むぞ」

「もちろんだ」

「ああ。仲間だからね」

 

 

 

「それと、彼女から言伝じゃ。アフトクラトルの“ヴィザ”という老剣士と彼女が出会うような事があれば、自分で自分を止められなくなるから、止めてくれ、と」

「ヴィザ……」

「かつてのレプリカ先生曰く、アフトクラトルの国宝って奴を使う強敵だよ。遊真がギリギリで倒したけど、二度目は勝てないかもしれない、と言っていた」

 

 

 

 忍田と迅は、怨敵の名を確かに心に刻んだ。

 あのソフィアが「自分を止められなくなる」というのだから、余程憎んでいるのだろう、と。

 

 

 

 

 そして、所変わって先の試合を見た者達は──。

 

 

 

 

 

 

  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ラウンド3の結果により、影浦隊は変わらず2位。

 勝利したアンデルセン隊が4位に上昇し、玉狛第二は8位にダウンして中位落ち。

 

 あの影浦隊を含めた試合で圧勝したアンデルセン隊の話題で一色となる本部基地内。

 個人ランク戦ブースにて。

 

 

 

「おう、鋼。ちょっと遊ぼうぜ」

「カゲか。ああ、いいぞ。俺もお前を探していたところだ」

「ハッ……おめーも負けたままでは終われないってクチか?」

「そういう事さ」

「ちょっとかげうら先輩にむらかみ先輩。わるいけどおれも混ぜていただきたい」

「あ? ああ、チビか」

「空閑か。ならジャンケンで順番を決めよう」

 

 

 ソフィアにボコられたエース組こと、影浦と鋼、そして遊真が戯れ。

 

 

「正面から当たれば影浦ですらまるで相手にならんと来れば、搦手で攻めるしかないだろうな」

「攻められると、いくら菊地原の耳があっても対応できないでしょうから、こちらから押していくしかないのでは?」

「風間さんが居れば大丈夫でしょ。影浦さんよりも強いんだし」

「そうはいかない。第一、忍田本部長すら負けているんだぞ。一対一では間違いなく彼女が最強だ」

「そうですかね……」

 

 

 遠征が挟まるのでしばらく先の事とはいえ、間違いなく訪れる対戦の日を見据えて、あの風間隊が真剣にアンデルセン隊への対策を話し合い。

 尚、個人ランク戦ブースを使っているのは、スピードタイプのエース級を実験台にするためである。

 

 

「どうだ、出水。お前、止められると思う?」

「いや、普通に無理でしょ。たぶん二宮さんでもあの人は止められないですよ」

「マジかー。やっぱり俺がどうにかするしか……よし、あの人を探そう」

「ただ戦いたいだけでしょあんた。ダメですよ」

 

 

 現A級1位、太刀川隊がダベっていたり。

 対策らしい対策が全く出てこないあたりが実に彼ららしい。

 

 

「次はちょっと日にち空いて土曜日だっけ?」

「ああ。というか対策を話し合うなら作戦室でいいだろうが。何故ここなんだ、陽介」

「だから言っただろーがよー? ソフィアさん、たまーにだけどここに来んだよ。相手してくれるかもしれねーだろ?」

「なんで狙撃手の俺までここに……」

「ま、まぁまぁ奈良坂先輩……とにかく、三輪先輩が鉛弾を当てられなきゃはっきり言って勝ち目無いですよ、あれ。スピードが尋常じゃないですもん」

「そうか……」

「頼むぜ大将!」

「誰が大将だ」

 

 

 意外な事に、三輪隊が勢揃いしていたり。

 生真面目な狙撃手である奈良坂が個人ランク戦ブースに居るというのは、軽くプレミアものであろう。

 

 

 

 他にも空いているA級部隊のほとんどがこの場にいるが、それはさておきとして。

 

 

 B級ランク戦、ラウンド4。

 上位の組み合わせは……。

 

 

 暫定1位、二宮隊。

 暫定3位、生駒隊。

 暫定4位、アンデルセン隊。

 暫定7位、東隊。

 

 

 こうである。

 尚、中位落ちした遊真ら玉狛第二は、鈴鳴第一、香取隊、那須隊と当たる事となった。

 

 

 

 この場……個人ランク戦ブースにはいない二宮隊、生駒隊、東隊の面々は、お笑い部隊こと生駒隊を除き作戦室で真面目にアンデルセン隊への対策会議を開いている。

 特に、二宮隊隊長、二宮匡貴と東隊隊長、東春秋の力の入れっぷりは、チームメイトたちが珍妙な目で見てしまうほどであるらしく。

 

 

 

 

 

 ── 東隊作戦室 ──

 

「よし……これでいこう。悪いな、奥寺。小荒井。今回ばかりは俺の思うようにやらせてくれ」

「は、はぁ。もちろん構いませんけど……」

「珍しいっすよね、東さんがそんな真剣になってるの」

「はは、まぁな。なんというか、彼女の戦いぶりを見ていると久しぶりに血が疼いてきたんだ。恐らく、二宮の奴も本気で来るぞ」

「うげっ、マジっすか……」

「二人とも、簡単に落とされないようにしなさいよ」

「努力はします、摩子さん……」

 

 

「──この作戦なら、必ずあいつも乗ってくる。挑ませてもらうぞ、ソフィア・アンデルセン……!」

 

 

 

 

 かつてA級1位部隊を率いた最強の隊長、東春秋。

 後進の育成に努めていた彼が、牙をむく。

 

 

 

 

 そして肝心のソフィアは──。

 

 

「ダメよ二人とも、全然ダメ。そんなんじゃまるで使い物にならないわ。さあ、早く立ちなさい」

「「イエッサー!!」」

「……どうしたんですかソフィアさん。いつになく真剣ですけど~。あとサラッと新入りのアリスさんと万理華さんを軍人みたいに仕上げるのやめてください~」

 

 

 

 ラウンド4から参戦する二人、蟻元アリスと八十神万理華を超スパルタ式で鍛えていた──。

 

 




アンデルセン隊がA級に来ると確信し、各隊は今から対策を話し合っています。太刀川はワクワクが止まらなく、夜な夜なカレンダーをめくっては早く来期にならないかな、と子供のようにウキウキしてそう。
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