最後のボーダー   作:初音MkIII

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皆大好き東さんの回。
完璧人間の印象が強い彼ですが、こんな東さんも見てみたいです。


第15話 東春秋

 

 かつてA級1位部隊を率いてチーム戦を極めて以降、後進の育成に努めてきた男、「最初のスナイパー」東春秋。

 

 今も昔も、ボーダーに多大なる貢献をしてきた彼は、最近となっては非常に珍しくとある人物の記録を何回も見直し、徹底的に情報を洗い出していた。

 

 

 ソフィア・アンデルセン。

 詳しい事情はまだ東にも知らされていないが、戦力的な意味だけではなく、その出自からして城戸司令が「唯一無二の例外」と称する程に特異な存在である。

 

 東は、もはや彼女の事を「異常に強いだけの新人」とは思っていない。

 自身を含むボーダーの隊員たちとは比較にならない程戦い慣れているようにしか見えない彼女の事だ。行方不明になっていた旧ボーダーのメンバー、との噂も、あながち間違いではないかもしれない。

 

 

「……空中に誘い出せばあるいは。いや、その程度を彼女が想定していないとは思えない。グラスホッパーもセットしてあると考えた方がいいか……狙撃は、当たるとは思えないな。となるとやはり鍵はあいつか……」

 

 

「東さん、ほんといつになくガチだよな……」

「ああ……あんな姿初めて見るかも……」

「じろじろ人を見るんじゃない。東さんに失礼でしょうが」

「「すんません摩子さん」」

 

 

 

 モニターをガン見しながらブツブツと独り言を呟く東と、そんな彼を新種の生物のように奇異の目で眺める奥寺と小荒井。

 そしてオペレーターの人見にそれを咎められる。

 

 

 これが現在の東隊の様子である。

 

 

 

 

 そんな彼らの元に、訪問者が。

 

 

「ん? ノック?」

「あ、俺出てきます」

「お願い」

 

 

 作戦室のドアをノックする音が響き、それに気付いた小荒井が応対しに行く。

 東は相変わらずブツブツモードである。訪問者に気付いた様子すらない。

 

 

 

 

 やってきたのは──。

 

 

「初めまして、でいいかしら?」

「あ、は、え? あ、は、初めまして……小荒井と言います……」

「ええ、知ってる。ソフィア・アンデルセンよ。次の対戦相手の。ちょっと挨拶をしに来たの」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね!!」

「うふふ、わかったわ」

 

 

 

 東がブツブツと呟きながら情報を分析している相手、ソフィアがまさかの電撃訪問。

 え、何? 偵察? と半ば混乱しながら、とりあえず人見に指示を仰ぎに行く小荒井。

 

 

 

「ま、摩子さん!! すごくかわいいっ!! どうしましょう!? 危うく惚れそうだった!」

「落ち着きなさいよ。とりあえず東さんにも知らせておかないといけないわね」

「了解です。小荒井、お前は深呼吸でもして落ち着いとけ。えーと、すいません東さーん!」

 

 

 どうやらソフィアの美貌に心奪われかけたらしい小荒井は、ばたばたと手を動かしながら大興奮である。

 ボーダーでの活動に打ち込む小荒井少年には少し刺激が強すぎたようだ。

 

 

 隊服に身を包んだソフィアは、実にビューティフォーなので仕方がない。

 

 

 

「受けに回るとまず負ける。となるとやはり攻めの姿勢でガンガン行く方がいいか……」

「東さーん!! 聞こえてますかー!?」

「……ん? お、おお。悪い奥寺。どうした?」

「あの、お客さんなんですけど。その……アンデルセンさんなんですよね」

「ん??」

 

 

 何度も呼びかけられてようやく戻ってきた東は、一旦モニターを落として奥寺に振り向く。

 しかし、彼が告げた来客の正体に思わず首を傾げた。

 

 

 そしてパチリと目が合う。

 

 

「どうも、初めまして東さん。ソフィアです」

「お……はじめまして……? ンン。どうしたんだ? 何か用事か?」

 

 

 ニッコリと笑って挨拶するソフィアに面食らいながらも、きちんと返す東。

 しかし、特に用事があるという話は聞いていないが、とやはり首を傾げた。

 

 

「用事という程ではないのだけど。数少ない年上の隊長さんが率いる隊とあっては、挨拶しないのも失礼かなと。随分と熱心に分析していたようだけど、調子はどうかしら?」

「あ、ああ。そうか。わざわざすまないな。これは……あれか、俺が何を見ていたか、バレてる?」

「もちろん。恥ずかしいわね、わたしの記録を真剣に眺めたりされると」

「はは、そいつは失礼。しかし、ただ当たるだけでは勝ち目が無いと思ったんでな」

 

 

 もしや偵察か、と一瞬警戒した東だったが、全て見透かされていると察し、すぐにのんびりとした態度に戻る。

 直接会ってみると、やはりまるで底が知れない子だな、と密かに戦慄していたりもするが。

 

 

 それはさておきとして、相手は美少女である。

 それも、飛びっきりのだ。

 次の対戦相手とは言え同じボーダーに勤める仲間である事に変わりはない。

 故に、席に座るよう勧めてお茶を出し、ほんわかに雑談を楽しむ事にした。

 

 

 奇妙な空間で過ごす事になった小荒井たちは、興味津々で二人のやり取りを眺めるばかりである。

 

 

「それで、わたしに勝てる見込みはあるのかしら?」

「さて、どうだろうな。少なくともそう簡単に負けてやるつもりはないぞ」

「あら怖い。気は抜けなさそうね」

「はは、それはこちらも同じだよ。本気で隠れないとすぐに見つかってしまいそうだ」

「うふふ。じゃあわたしも本気で探さないとダメね」

 

 

 笑顔が飛び交ってはいるが、おっかないやらのんびり空間すぎて気が抜けるやら。

 しかしサラッと飛び出たソフィアの「本気」発言に、敵として戦う事になる小荒井と奥寺は戦慄した。

 東を探すついでに見つかって即緊急脱出、とか普通にありそうで困る。

 

 

「そういえば。東さんが最近気になる若い子とかは居るのかしら? 教官役をやっていると聞いたけど」

「ん? そうだなぁ。君や玉狛第二の空閑もそうだが、俺は三雲が特に気になっているかな」

「ふむ。彼、弱いけど?」

「今はそうだ。しかし隊長として見るなら既に中位の隊長たちにも引けを取らない指揮能力がある。加えて、いい意味で勝つために手段を選ばない。アレは二年もすれば化けるぞ」

「なるほどね。ええ、わたしもそう思うわ。先日叩きのめしてあげたし、次の試合では進化した姿を見せてくれるんじゃないかしら」

「ああ、そういえばアンデルセン隊と当たって完敗していたか。彼らを追い込むような作戦を取ったのも、成長を促すためだな?」

「もちろん。ちょっと厳しすぎたかしらね?」

「いや、あれぐらいで挫けるようなヤワな奴とは思えない。丁度いい機会なんじゃないかな」

「そう。あなたにそう言ってもらえると嬉しいわ」

「はは、どういたしまして」

 

 

 のんびり空間でちょっと物騒な事を話し合う二人。

 なんかアンデルセン隊長って意外と東さんに似てる? と目を丸くする小荒井たち。

 

 

 ただ、とてもB級部隊の隊長同士の会話には見えないが。

 普通に上層部で話し合っている方が似合う。

 

 

 

 しかし。

 何を思ったか、ボケたのか。

 東が急に爆弾を放り投げた。

 

 

 

「そういえばアンデルセン」

「ソフィアでいいわよ。何かしら?」

「……君、年齢偽ってないか?」

「…………どうしてそう思ったのかしら」

 

 

 

 東さん女性に年齢の話題は禁句っすよ!!

 小荒井と奥寺は戦慄し、人見は呆れて息を吐いた。

 

 そんなんだから結婚できないのよ、と。

 

 

「いや、確証はないんだが。こうして話してみると、とても俺より四歳も年下だとは思えなくてな。もしかして、俺と同い年ぐらいなんじゃないか?」

「…………老け顔のあなたに言われたくないわね」

「老け……」

「試合では覚悟していなさい、“東くん”。絶対に……見つけ出して蜂の巣にしてやるわ」

「あっはい」

 

 

 

 あれ、なんかビンゴっぽい?

 コアデラは意外な事実(たぶんが付くが)に驚いた。

 ソフィアは見た目だけなら普通に自分たちと同じぐらいの年齢にしか見えない。

 しかし、確かに東と意気投合していたところを見ると、年齢をサバ読んでいるという方が納得できた。

 

 

 

 そして、完全に据わった目になったソフィアは、真顔のまま挨拶もそこそこに作戦室を出ていった。

 

 

 

 

「……チビるかと思った。あいつめっちゃ怖いな……」

「何やってんですか東さん!! 絶対試合で本気出してきますよ!? 完全に殺る気でしたもん!!」

「いや、だって気になったからつい……すまん……」

「だってじゃないですよ! もしかして年齢サバ読んでる? とか思っても口に出しちゃダメですって!」

「そう、だな。本当にそうだ」

「東さん、普通に最低です。あんなの女性なら誰だって怒りますよ」

「まことにもうしわけない」

「謝るならソフィアさんに、です。ほとぼりが冷めてから直接自分で謝りに行ってくださいね」

「りょ、了解です……」

 

 

 

 その後、不機嫌オーラ全開で見る者全てを恐怖させるソフィアの姿が各所で確認されたとか。

 

 

 

 そして──。

 

 

 

 

 非公認ファンクラブ、「ソフィアちゃん親衛隊」の面々が東隊の作戦室に殴り込んできた。

 

 

 

「たのもー!! おいこらおっさん!! 出て来やがれ!!」

「おっさん言うな。なんだお前ら、揃いも揃ってぞろぞろと」

「なんだ、だぁ? いい度胸してんなこの野郎!!」

「お、おう?」

 

 

 影浦と諏訪がヤンキーのように睨みつけ、その後ろで鋼が腕を組んで東を睨む。

 ちゃっかり遊真もついてきており、鋼の隣でのんびりとした空気を纏っている。

 

 他にも他にも、名だたる隊員たちばかりである。

 女性隊員である熊谷や那須までいる。

 

 尚、諏訪は未だにソフィアと出会ってすらいないという事を明記しておく。

 ファンクラブの会長なのに、悲しい、とても悲しいすれ違いである。

 

 

 

「──聞きましたよ、東さん。ソフィアさんを怒らせたそうですね」

「めちゃくちゃフキゲンで、八つ当たりとばかりにボコボコにされました。こんな再戦はのぞんでなかった」

「……あ」

 

 

 ものすごく心当たりがあった。

 鋼と遊真の言葉に、思わず目を逸らす東。

 

 

 そんな東を見て、那須がずいっと出てくる。

 いつものごとく熊谷も一緒である。

 

 

「正直に言ってください、東さん。あの温厚で優しいソフィアさんを怒らせるなんて、何をしたんですか?」

「いつもは笑顔で可愛いのに、今日はめちゃくちゃ不機嫌で怖いんですよ。それで情報収集して回ったら、小荒井くんが“いや、東さんがやらかして”、と」

「!?」

 

 

 犯人はお前か、小荒井ぃ!?

 思わず振り向く東だったが、犯人は既に逃走していた。

 気付けば奥寺と人見もいない。

 ソフィアの分析と対策に夢中になりすぎた結果がこの有様である。

 

 

 錚々たる面々の、凄まじい圧にたじろぐ東。

 更にプレッシャーをかけていくファンクラブ。

 

 

「あのソフィ姉がよォ、“絶対に許さないわ東くん”ってブツブツ呟いててよォ。刺されんじゃねえかってぐれェ怖ェんだよ。何したんだおっさん」

「キリキリ吐け、おっさん! つーか俺だけ出会えてないのは何故だチクショー! なんなの、避けられてるのか!?」

「そ、そんなに怒ってるのか……あと、諏訪。お前は運が悪いだけだろう」

 

 

 影浦のちょっと気持ち悪いソフィアの真似に軽く引き、運が悪すぎて何かを拗らせそうな諏訪に呆れ。

 しかし、遊真以外全員顔が怖い。

 

 

 特に女性隊員たち。

 黙って逃げようものなら地の果てまでも追いかけてきそうである。

 

 

 観念した東は、正直に白状する事にした。

 

 

「実は……あいつがここに挨拶しに来て、その時に年齢をサバ読んでて本当は俺と同い年ぐらいなんじゃないかって指摘したらな……たぶん図星だったんだろうけど、すごく怒ってな……真顔で出ていった」

「「…………」」

 

 

 全員固まった。

 

 

 男性陣は「え、ソフィアさんって東さんと同い年なの?」という驚きから。

 女性陣は「え、そんな事をあの綺麗な人に言ったのこの人? 引くわー」という驚きから。

 

 

「あ。俺が言った事は本人には内緒な。話を広めた、なんて思われたら本気でやばい気がする」

「正直あなたにはガッカリしました東さん」

「そんなの怒るに決まってるじゃないですか。ソフィアさんかわいそう……」

「試合でボッコボコにされればいいんです」

「ぐふっ!?」

 

 

 いち早く再起動した女性陣に言葉でボコボコにされ、膝をつく東。

 氷点下の眼差しがメンタルにクる。

 

 

 

「おい、東のおっさん。ブース行こうぜ」

「いや俺狙撃手だし……」

「いいから来いコノヤロー!! 何はともあれ、ソフィ姉を傷付けるやつは許さねェ!!」

「生きて帰れると思うなよコラァ!! 俺のショットガンで蜂の巣にしてやんぜ!」

「その次は俺がやるよ」

「じゃあむらかみ先輩の次はおれで」

「「おれもおれも」」

 

 

「いやちょっと待ってお前ら本気で待って」

 

 

 

 

 こうして、東は無事にソフィアちゃん親衛隊の面々にボッコボコにされ、騒ぎを聞きつけた鬼怒田や忍田にまでガチトーンで説教される事となった。

 

 

 そして、“ソフィアさんにじゅうごさい”という話はボーダーのタブーとされる。

 誰がなんと言っても彼女は21歳なのだ。

 

 

 




ちゃっかりランバネインからも逃げ切っていたり、めちゃくちゃしぶとい東さん。
果たして彼はソフィアの魔の手から逃れられるのか。
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