最後のボーダー   作:初音MkIII

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カゲと鋼、JKと友達になるってよ。
あ、しばらくは日常話が続きますので、ランク戦四日目は結構先になります。


第16話 アンデルセン隊

 

 圧倒的な戦闘力で他の隊員たちを寄せ付けない女性、ソフィア・アンデルセン。

 

 彼女に見出され、アンデルセン隊に所属する事となった二人、蟻元アリスと八十神万理華は、ふらりと散歩に行って帰ってきた隊長がものすごく不機嫌だった事から作戦室より避難し、個人ランク戦ブースを訪れていた。

 

 

 

 ちなみにだが。

 アンデルセン隊の作戦室は、隊長であるソフィア・アンデルセンの家にもなっているため、シャワールームや化粧室、トイレなども完備してある。

 ベッドはなんと緊急脱出先のマットである。

 

 と言っても、ソフィアは眠る事ができないので、ただ横になってゴロゴロするだけなのだが。

 

 

「アリスちゃん。ソフィアさん、何があったんだろうねぇ? すんごく怖くて、私漏らしちゃいそうだったよぉ」

「私に聞かれても。こっちが聞きたいっての。いつになく不機嫌だったけど、とても聞けるような雰囲気じゃなかったし……」

 

 

 恐怖に塗れる作戦室より脱走してきたが、未だに体が覚えている。

 あのまま逃げずにいたら、リアルにチビっていた可能性が高い。

 なまじ容姿が整っているソフィアなだけに、怒った時の怖さは半端ではなかった。

 

 ナマハゲも裸足で逃げ出すレベルである。

 

 

 何はともあれ、今はこうして無事に五体満足で居られているのだ。少しの間だけ忘れても罰は当たるまい。

 アリスと万理華は頭を振り、一旦自分たちの隊長の事を頭の片隅に追いやった。

 

 

「さて、マスタークラスの人は誰かいるかなっと」

「私もたまにはやってみよぉかなぁ。せっかくスパルタ式で鍛えてもらってるんだし、成果が出る……と思いたい……」

「そうだね……。1万超どころかマスタークラスの人に手も足も出ないって状態だと、ソフィアさんの足を引っ張っちゃうし」

 

 

 そんな事を話しながら、ひとまず個人ランク戦に潜ってみる二人。

 さすがにソフィアのように全て10-0とはいかないが、なんとか勝ち越しを続けていく。

 

 好成績の鍵は、ソフィアによって教え込まれた抜き足と、未だ半人前ながらも形にはなっている「縮地」である。

 本家たるソフィアには遠く及ばないが、しかしどこか彼女を彷彿とさせる二人に、モニターを眺めていた有名隊員たちが注目するのにはそう時間はかからなかった。

 

 

 尚、点取り屋となる予定のアリスは連勝を重ねているが、そのサポートがメインとなる予定の万理華はたまに負けたりしている。

 その度に「ソフィアさんに怒られるぅ~!?」と半泣きになるのはご愛嬌である。

 

 

 

 ──そんな二人を、奴らが見ていた。

 

 

「どうしたカゲ?」

「……あの二人、少し戦闘スタイルがソフィ姉に似てる気がする。まぁ比較にならねえ弱さだが」

「あの人と比べたら俺たちだって弱いから仕方ない。どの二人だ?」

「あの女と、あの女」

 

 

 

 ソフィアを怒らせた東をシバキ終わり、個人ランク戦に入り浸っていた影浦と鋼である。

 ちなみに荒船は狙撃手側に行っており、遊真は既に帰宅しているのでいない。

 

 

 

 そうしているうちに、また一つ。

 長い黒髪をサイドテールにした気の強そうな方の女が、影浦がよく知らない隊員を相手に勝利した。

 

 6000台相手とはいえ、9-1で。

 B級上位部隊の一つ、弓場隊の隊長を彷彿とさせる二丁拳銃の早撃ちに、影浦が敬愛するソフィアのような素早い動き。

 

 スピードをとことん切り詰めたその戦闘スタイルに、興味を抱いた。

 

 

「面白ェな。ちっと声かけてみっか」

「珍しいな、お前が。俺も付き合うよ。少し興味もあるし」

「勝手にしやがれ」

 

 

 対戦が終わり、一旦出てきた女に近付く。

 その様は完全に輩であり、チンピラにしか見えないのが難点である。

 姿勢よく歩く鋼が中和しているのがまだ救いだろうか。

 

 

 ハッキリと姿を確認できる距離にまで近付くと、さすがに向こうも気付いたらしい。

 鈍そうな桃髪の女が黒髪サイドテールの背中に隠れたが、そちらは興味が無いので無視である。

 

 

 

「よォ。面白ェな、おめー」

「もうちょっと愛想良くしろよ、お前は。悪いな、君たち。こいつに悪気は無いんだ。俺は村上鋼。で、こいつは影浦雅人。君たちは?」

 

 

 るせー、と噛み付く影浦をスルーし、できる限り温和な表情で挨拶する鋼。

 その甲斐あってか、二人の少女の態度が若干軟化したように思える。

 

 

「あ。ソフィアさんファンクラブの……」

「ああ、カゲくんと鋼くんって言ってたもんね。あっ、私は蟻元アリス。こっちは八十神万理華です。よろしくお願いします」

「「待て」」

「ぴっ!?」

 

 

 二人の少女が挨拶した瞬間、影浦と鋼の目の色が変わった。

 そしてその様にビビる万理華。

 

 

「今の……もしかしておめーら、ソフィ姉の知り合いか?」

「ソフィ姉……? そうですけど」

「ちょ、ちょっと近いので離れてくださいぃ……!」

「あ、ああ。悪い。ほら、落ち着けカゲ」

「おめーもがっついてただろうがよ。チッ、悪ィな」

 

 

 警戒している様子のアリスと、子鹿のようにぷるぷる震えて怯える万理華を見て、我に返る鋼。

 影浦もまたバツが悪そうに頭をかき、ぶっきらぼうに謝罪する。

 

 

 知り合いをビビらせたとソフィアに知られたらボコボコにされると恐れたわけではない。

 ないったらない。

 

 

 とにかく。

 すぐさま謝罪してきた事で悪い人達ではないと察したのか、二人の少女はまた態度を軟化させた。

 

 

「おめー、蟻元っつったか。もしかして、ソフィ姉に鍛えられてんのか? 動きが似てたが」

「はい、そうですよ。元々は弓場さんの真似をしていたんですけど、たまたま会ったソフィアさんにフォームを矯正して頂いたら撃つ速度が速くなって。それから仲良くしてもらってます」

「私は、個人ランク戦に潜ってたらソフィアさんと当たって、面白い戦い方するわね、と気に入られましてぇ。それからの付き合いですねぇ」

「へぇ、そうなのか。あの人に直接教えて貰えるなんて羨ましいな」

「めちゃくちゃ厳しいですけどね」

「何回吐いたかわからないですよぉ」

「お、おう」

「そ、そうなのか……」

 

 

 うら若き少女から飛び出した「吐いた」という言葉に思わずドン引きする影浦と鋼。

 アリスと万理華、二人の顔にちょっと影が差していて怖い、というのもある。

 

 

「ソフィ姉ほど人外じみた速さじゃねェが、なかなかのスピードだったな。あれどうやってんだ?」

「まだまだ未熟で、本来のスピードは全然出せてないんですけどね。何でも、縮地という歩法というか、武術らしいですよ。生身で出来ればトリオン体でも出来るようになる、と言って叩き込まれました」

「なるほどな、武術か……」

「えっとぉ、ソフィアさんに言ったらたぶん教えて貰えると思いますよぉ? 無事に済むかどうかは保証しませんけどぉ」

「お、おう。そうか」

「少し興味あるな……」

「鋼、お前マジで言ってる?」

「ああ」

 

 

 他の邪魔にならないよう壁に寄り、和気藹々と話す四人。

 共通の話題が今のところソフィアに関する事ぐらいしかないので、自然と会話も彼女関係の事になる。

 

 

「結構長い事戦ってたが、相手を探してんなら俺らとやるか? ちょうど暇してんだ」

「それは助かりますけど、いいんですか?」

「あァ」

「俺も構わない。ソフィアさんの弟子相手なら、こちらとしてもいい経験になるしな」

「……ふぇへへ、そっかぁ。私たち、ソフィアさんの弟子って事になるんだぁ……」

 

 

 影浦以外は気付いていないが、ボーダーの中での有名人である影浦と鋼が仲良さげに女子二人と会話しているとあって、多くの視線を集めていたりする。

 中には会話を盗み聞きする悪いヤツも居たりして、当然のように情報が拡散していく。

 

 影浦にとってはいつもの事なのでスルーである。

 

 

 そして、結果は──。

 

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出。

8-2。勝者、影浦雅人》

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出。

9-1。勝者、村上鋼》

 

 

 それぞれの一戦目。

 影浦とアリス、鋼と万理華、という組み合わせだったが、双方ともに野郎コンビが勝利する事となった。

 

 

 影浦も鋼も、ソフィアに10-0で負けているため忘れがちだが、ボーダーでも有数の強者である。

 付け焼き刃のアリスと万理華では、こうなるのが当然であった。

 

 更に言うなら、アリスはともかく万理華の方はサポートがメインなので、一対一はそれほど強くないのだ。

 一点をもぎ取ったあたりは、彼女も意地を見せたのだろう。

 

 

 

 続いて組み合わせを変更し、影浦と万理華、鋼とアリスで戦う。

 その結果は……?

 

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出。

10-0。勝者、影浦雅人》

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出。

7-3。勝者、村上鋼》

 

 

 やっぱり野郎コンビの勝利であった。

 特に、完敗した万理華の方は完全に消沈している。

 

 しかし、彼女は感情が出やすく、サイドエフェクトによって感情を感知できる影浦とは相性が悪いのだ。

 せっかくスパイダーやメテオラで罠を張っても、「かかれぇ! かかれぇ!! かかってぇ!!」と感情ガン出しでは丸わかりである。

 

 

 

 対して、アリスの方はかなり頑張った。

 遊真が鋼と初めて戦った時と似たスコアだと言えば、その奮闘ぶりがよく理解できるだろう。まあ、今回は休憩を挟んでいないので単純には比較できないが。

 

 影浦がアリスに圧勝したのは、やはりサイドエフェクトで攻撃を感知し、威力と弾速にトリオンをガン振りしている反面射程が短いアリスの弱点を見抜き、間合いの外からマンティスで貫く、という戦術が使えたからである。

 

 

 

 そして、試合後──。

 

 

「うぅー、負けたぁ……」

「さすがに強いなぁ。カゲさんも、鋼さんも」

「ハッ、たりめーだ。ソフィ姉相手ならともかく、そんじょそこらの奴になんざ負けるかよ」

「でも結構危なかったよ。特に、アリス相手の時はもう少しで俺の負けだった」

「私はボコボコでしたけどねぇ……くすん」

「いじけないの。タイマン苦手なのに、よく頑張ったと思うわよ」

「本当ぉ……?」

 

 

 戦いを通じ、完全に打ち解けた四人。

 さり気なく名前やあだ名で呼び合っているあたりでお分かり頂けるだろう。

 

 

「ここに空閑もいたらもっと楽しくなりそうだな」

「あァ、そりゃいいな。おいアリス、おめー今度からもっとここに来いよ。面白ェ奴を紹介してやっから」

「カゲさん、私はぁ?」

「おめーはもっと腕を磨け」

「ひどい!!」

「あはは。わかったよカゲさん。暇があったら来るようにするね」

「それは楽しみだな。連絡先を交換しても?」

「もちろん」

「はっ……! これはもしかしてお友達というやつなのでは!? やったー!!」

「お、おう」

「そうだな、俺達は友達だ」

 

 

 

 こうして華のJK二人の連絡先をゲットした影浦と鋼。非常に珍しい出来事に、チームメイトたちに酷くからかわれたのは言うまでもない。特に影浦。

 

 

 

「ソフィアさんは呼ばなくていいの?」

「ソフィ姉は強すぎて勝負にならねーからダメだ」

「ま、まぁそうだな……未だに一本も取れないし」

「さすがソフィアさん……今日はやけに不機嫌で怖かったけど……」

「あァ、まだ怒ってんだな……つーかおめーら、もしかしてソフィ姉のチームメイトだったりするんじゃねェか? 新しく隊員増えんだな、アンデルセン隊」

「そうなのか?」

「「うっ!?」」

 

 

 見事に図星を突かれ、呻く二人。

 しかしまぁ、これだけの情報があればバレるのも無理はない。

 

 どうしよう、これはバラしてもいいものなのか? と慌てる二人。

 もしも今の不機嫌なソフィアに叱られたら、破門されそうな気さえする。

 

 

「……まぁこんなとこで話す事じゃねェか。おめーら、腹減ってねえか? せっかくだから飯でも奢ってやるよ。俺んちがお好み焼き屋やってんだ」

「あ、ほんとですかぁ? ゴチになりますぅ!」

「ありがとうカゲさん。ゴチになります」

「お、いいな。ゴチになります」

「おめーは自腹だよ鋼」

「何……だと……」

「ソフィアさん呼んでもいいですかぁ? まだ機嫌悪いかもしれないですけどぉ……」

「あァ? もちろん俺は構わねェけどよ。本人が嫌がったら無理に連れてくんなよ?」

 

 

 

 かくして太っ腹な影浦にお好み焼きを奢ってもらえる事になり、ソフィアを誘うべく作戦室に顔を出してみるアリスと万理華。

 

 

 幸いな事になんとかソフィアは機嫌が治ったらしく、いつも通りの笑顔で二人を出迎えた。

 そして目論見通りソフィアも影浦家にてお好み焼きを食べる事となったのだが……。

 

 

 

 影浦がせっせと焼いたお好み焼きを口にし、「おいしいわ」と笑うソフィアが、本当は何も味を感じられていないとは、まさか誰も思うまい。

 

 

 




鋼はたまにソフィアと個人ランク戦をやってます。
カゲは牙を抜かれた猫なので、ソフィアには歯向かわないし戦いたがらないですが。
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