最後のボーダー   作:初音MkIII

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なんか評価一気に増えた感……?
ありがとうございます。
林藤さん、ようやく登場。


第17話 林藤匠

 

 

 ボーダーの異端、玉狛支部。

 独自の改造トリガーを保有し、一時は黒トリガーさえも所有していた魔境。

 

 その玉狛支部を支配する林藤匠は、夜中ではあるがふと風に当たりたくなり、散歩に出かけた。

 

 

 るーるるーと鼻歌を奏でながら歩いていくと、小さな公園に辿り着く。

 

 

 

 すると、なんという事でしょう。

 

 

 

 とても悲しいうたを歌う、飛びっきりの美少女がいるではありませんか。

 しかもその姿はよくよく見ると非常に覚えがあった。

 

 

 色々とタイミングが悪く、直接会うのは初めてだが、話は迅からよく聞かされている。

 ボーダーが壊滅した未来の並行世界からやってきたという女性、ソフィア・アンデルセンだ。

 

 

 

「よっ。こんな遅くにどうした? きちんと部屋ん中で寝ないと風邪引くぞ」

「……人の歌を盗み聞きとは、感心しないわね。林藤さん」

「……本当に俺の事も知ってるんだな。あとこっち向いて喋ろうか」

 

 

 当然、話しかけてみた。

 絶世の美少女……いや、年齢的には美女か。

 とにかくすっごい綺麗なねーちゃんが居るのに話しかけないのは失礼なのである。

 

 

 

「お気遣いなく。わたし、随分前から眠れないし、風邪も引かない体質になってるの」

「……!」

 

 

 

 振り向いたソフィアは、仮面のように笑顔を貼り付けている。

 しかし、あの悲しいうたを聞く限り、泣いていたようにしか思えない。

 

 

 

「一応確認しておくけど、あなたはわたしの事を把握しているのかしら?」

「まぁ、迅がいるしな。大体の話は聞いてるよ。お前の、その身体の事もな」

「そう」

 

 

 吸っていたタバコをなんとなく消し、よっこらせとイスに腰掛ける。

 それを見て、ソフィアもまたブランコの安全柵によいしょと腰掛けた。

 

 

 

 ……この際だから、林藤は気になっていた事を聞いてみる事にした。

 

 

「なぁ」

「なぁに?」

「向こうの俺は、そして玉狛支部の奴らは……最後まで笑えていたか?」

 

 

 

 とても残酷な事を聞いたかもしれない。

 しかし、ビンタを貰う覚悟もした上で、どうしても聞いておきたかったのだ。

 

 

 

 

 

「──いいえ。皆、怒っていたし、泣いていたわ。迅が最初に死んで、レイジが死んで、陽太郎が死んで。小南が死んで、京介くんが死んで。修くんが死んで、遊真が死んで。ヒュースが死んで、ゆりさんが死んで、クローニンが死んで。栞ちゃんが死んで、死んで、死んで、死んで……。最後に、あなた。顔をくしゃくしゃに歪めながら、死んでいったわ」

 

 

 

 

「──全員、わたしの目の前で。ううん、迅だけは死に目に会えなかったかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 夜空を眺めなから、彼女はそう言った。

 

 

 

 

「…………そう、か……」

「それなのに、わたしは涙を流せないの」

「……? どういう事だ?」

「そういうサイドエフェクト……副作用なのよ。眠れもしないし、風邪も引かないし、涙も流せない。まるでロボットみたいよね。嫌になるわ」

 

 

 

 

 その瞬間、林藤は自分の顔を思いっきりグーで殴りつけた。

 愛用の眼鏡が割れたが、予備があるので問題ない。

 

 

 

「ど、どうしたの?」

「いや。自分があまりにも考えなしだったもんで、ムカついてな。お前がそんなに辛い経験をしてきたなんて、考えが甘かった」

「うふふ、気にしなくていいのよ。いつも間に合わなくて、誰一人救えなかったのはわたしだもの。最後まで結局あのお爺さんには勝てなかったし。片目は奪ったりしたんだけどね」

「アフトクラトルの黒トリガー持ちか。国宝だとかいう例のヤツ」

「そうそう、それ。あの人とは何回も戦ったけど、いつも負けちゃって。で、そんなわたしを助けるために来た誰かが犠牲になるの。その度に悔しくて、悲しくて、頭にきて。必死で自分を鍛えるんだけど、やっぱり勝てなくて。最後はこの三門市が、ボーダーもろとも無くなっちゃった。なのにどうしてわたしは生きてるのかしら。不思議よね」

「……ソフィア……」

 

 

 声はいっそ不気味なほど淡々としている。

 感情は高ぶっているのに泣くことができず、ただただ自分を責めてきたのだろうか。この女性は。

 

 

 

 もしかして──。

 

 

 

「お前、死のうとしてるんじゃないだろうな」

「そんなわけないでしょう。失礼なおじさんね。皆が繋いでくれた命だもの、最後の瞬間まで精一杯生きるわ。ボーダーの皆を鍛えてあげなきゃいけないし。みーんな、まだまだ弱いものね」

 

 

 どうやらハズレだったらしい。

 あれぇ? と首を傾げる林藤。

 

 

 

 というか、サイボーグと言って差し支えない状態にまで自身を改造された挙句、周りの人間を失って自分だけ生き残るという壮絶な体験をしているのに、何故この女性は折れないのだろうか? と林藤は心底不思議に思った。

 

 例えあの修でも、同じ目に遭えば間違いなく精神崩壊を起こすだろこれ、としか思えないレベルである。

 

 

 

「それにね、今とっても楽しいのよ? だって、皆が生きていて、一緒に話せるし、戦えるし、触れるし、遊べるんだもの!」

「……そうか」

 

 

 林藤たちにとって当たり前の日常が、ソフィアにとっては一生の宝物と言える程貴重で、楽しい時間なのだ。

 

 

 

 

「ま、重い話はここまでにしとくか。とりあえずお前が凄まじい過去の持ち主だって事はよくわかったから」

「過去は過去よ。それよりも先を見据えないと、わたしは今度こそこの素晴らしい日常を守りたいから」

「四年後の大規模侵攻、だったか?」

「ええ。迅とレイジが死んだのはそれより遥かに前だけれどね」

「……マジか。もしかしてあんまり時間に余裕無かったりする?」

「そうね。特に迅は、向こうの歴史で言うと次の遠征で亡くなるわよ」

「もうすぐじゃんそれ!?」

「そうよ。だからあなたも迅の事を気にかけてあげてね。わたしは大丈夫だから」

「わ、わかった……行かせない方がいいのか……?」

「それはそれで無理にでもついてきそうよね」

「ぐっ、たしかに」

「あの子、なまじ持ってるサイドエフェクトがサイドエフェクトだけに責任感が強いもの。きっと、未来は俺が変えてみせる──! とか思ってるわよ」

「ありそう。あいつの事よくわかってるな」

「そりゃもう。こう見えて二十年近く現役隊員としてボーダーで戦ってるから。隊員たちの事は全て把握しているわ」

「……お前何歳よ」

「21」

「嘘つけ」

 

 

 そんなやり取りをしているうちに、林藤は深く納得した。

 二十年近くも戦ってりゃあんだけべらぼうに強くもなるわな、と。

 上層部の一員として前線に出る事がほぼほぼ無くなった忍田や自分では勝てないというのも当然だな、と。

 

 

 

 そして。

 ふと、ソフィアが「あ」と呟いた。

 

 

「そういえば、来週か再来週あたりに近界民が侵入してくるわよ。ガロプラだったかしら?」

「…………おまっ!? そういう事はもっと早く言え!! えーと、ガロプラ? 国名だよな?」

「ええ。わたしが知る歴史通りに行けば、だけどね。アフトクラトルの従属国で、わたしたちの目をアフト本国からガロプラに移させるために命令を受けた彼らが、少数精鋭を送り込んでくるの」

「狙いは何か分かるか?」

「そうねえ……なんだったかしら……」

 

 

 ソフィアからすれば四年前の出来事になるので、すぐに思い出せないのも無理はないのだが。

 昨日の料理を思い出したかのような気楽さで、近界民の侵入を宣告してくるのはやめて頂きたい。

 わたわたと慌てながら、林藤は切にそう思った。

 

 

 そして、ポンと両手を合わせるソフィア。

 なんとか思い出したらしい。

 

 

「たしか、遠征艇の破壊が目的のはずよ。そうすればわたしたちからはアフト本国にもガロプラにも侵入できなくなるから」

「何ぃ!? それがマジなら、万が一やられたら遠征計画が一年は頓挫するぞ! 修たちの今後にも支障が出る!」

「そうなのよねえ。わたしも困っちゃうわ」

 

 

 なんでこんなのんびりしてるのこいつ!? と思わずツッコミを入れそうになる林藤だったが、ある事に気付き首を傾げる。

 

 

「でも、たしかアフトクラトルはトリオン能力者を捕まえるために侵攻してきたんだよな。だったらこっち側から攻めてくる分には大歓迎なんじゃないか? 放っておいてもあっちのホームにトリオン能力者が乗り込んでくるんだから」

「あっちの政治的な事情が関係して、それどころじゃないのよ。アフトクラトルは一つの巨大なトリガーによって国そのものができているのだけど、そのトリガーを維持、あるいは肥大化……強化するために“神”と呼ばれる人柱が居るのね。だから“神の国”なんて呼ばれてるんだけど」

「ふむ、それで?」

「もうすぐその“神”が死ぬの。だから、次の“神”を見つけてきた権力者は次の時代の主権を握れる。ハイレインが侵攻してきたのもその“神”を探すためよ」

「……なるほど、だから千佳が狙われたのか。だが、それなら尚更トリオン能力者を欲しがりそうなもんだが……続きがあるんだな」

「ええ。よいしょっと」

 

 

 おもむろに立ち上がり、砂場へと移動していくソフィア。

 話が途中なので、林藤もそれについていく。

 

 

 そして、どこからか持ってきた木の枝を使い、ソフィアは砂に絵を描き始めた。

 

 

「アフトクラトルは傘下の家を無数に持つ四人の大領主が統治していて、その中の一人があのハイレインなの。わくわく動物野郎ね。向こうでわたしを改造した犯人でもあるわ」

「なんというか、中世ヨーロッパみたいだな」

「そうね、その認識でだいたいあってる。それで、神候補となる“金の雛鳥”を捕まえに来たハイレインだけど、ボーダーが撃退したでしょう? だからあいつは、予め用意していた第二の策を使う事になる」

「それの影響で向こうの国内がゴタゴタするって事か?」

「そういう事。だって、傘下の中で最もトリオン能力の高い人間を“神”に……生贄にする、というのだもの。当然その人間の関係者は黙っていないわ。だから、間違いなく噛み付いてくるだろう、ヒュースをこちらに置いていったのよ」

「……なるほど。つまり……」

「生贄にされるハイレイン傘下の人間……それは、ヒュースが忠誠を誓う当主。つまりは彼の主君なの」

「そういうことね……つーか当然のようにヒュースの事も知ってるんだな。向こうじゃあいつは帰らなかったのか?」

「色々あって、ヒュースの主君はボーダーに亡命してきたのよ。そうなれば彼も近界に帰る理由が無くなるでしょう?」

「そんなのよく城戸さんが許したな?」

「そうね」

 

 

 

 ちょっと丸っこくて可愛い図を眺め、唸る林藤。

 今頃は鬼怒田あたりが“捕虜”からあの手この手で情報を聞き出そうとしているだろうに、自分がいち早くこんなあっさり聞いちゃっていいのだろうか、とか思ったり。

 

 

「さて、林藤さん」

「ん?」

「ここまで聞いたからには、働いてもらうわよ?」

「 」

 

 

 

 あ、そう来る?

 口をポカンと開け、徐々に理解していく。

 

 

「迅も既に動いてるかもしれないし、修くんも思い立っているかもしれないけど。ヒュースを玉狛第二に入れてあげてちょうだい」

「……えぇ、それはさすがにキツイだろ。侵攻してきた近界民だぞ? 遊真とは訳が違う」

「大丈夫よ。角さえトリオン体で誤魔化せば、ヒュースの顔をきちんと認識して覚えてるC級隊員なんていないわ。B級以上なら口止めも容易いでしょうし」

「うーん……でも、俺からできる事なんてそんなに無いぞ? 今は城戸さんと仲が悪いからなぁ」

 

 

 ソフィアからのお願いに対し、そう容易く頷く事はできない。

 あまりにも無理難題ではないか。

 というか──。

 

 

「なんで修たちの部隊なんだ?」

「わたしの部隊じゃ、わたしが何をするか分からないもの。それに、修くんたちと一緒に居てくれた方が、ヒュースにとっても修くんたちにとってもプラスになるわ。特に、修くんは何かと鍵を握る事が多いから」

「あっ、なるほど」

 

 

 そっか、そりゃそうだわな。

 思わずまた自分の顔面を殴りつけたくなった林藤。

 ソフィアにとっての怨敵である国、アフトクラトルの人間をソフィアの傍に置くとか、普通に考えて有り得ない。

 

 加害者と被害者、あるいはその遺族を一つの部屋に閉じ込めるようなものである。

 

 

「それに」

「うん?」

「今のままじゃ、玉狛第二は遠征に行けないわよ。遊真が落とされたら終わりというのは厳しすぎる。ニノくんやカゲくんに勝てないでしょう」

「あー……」

 

 

 たしかにそりゃ言えてるかも、と頷く。

 というか目の前の美女が居る時点でB級が魔境すぎる。

 ただでさえB級詐欺の二宮隊と影浦隊がいるのに。

 

 

 はっきり言って、修たちが遠征に行くための条件であるB級最上位二枠の内、一枠はほぼほぼアンデルセン隊で確定している、というのが林藤の正直なところである。

 恐らく隊員たちの多くもそう思っているだろう。

 

 

「お前もいるしなぁ……」

「言っておくけど、わたしは負ける気無いわよ?」

「だろうな。未だに本気も出してないだろ」

「あら、わかる?」

「だってほとんど弧月しか使ってないじゃん。バイパーをようやく使ったぐらいで」

「ついでに言うと、隊員増えるわよ」

「……はい?」

 

 

 

 はて、聞き間違いだろうか。

 思わず林藤は自分の耳をかいた。

 

 

 隊員が増える?

 ソフィア一人しかいない今でさえ明らかにオーバーパワーなのに?

 

 

「お前、手加減って言葉知ってる?」

「何故わたしが手加減しなくてはならないのかしら? まだ本調子じゃないし、こっちも手を抜いていられるほどの余裕は無いのよ」

「そ、そう」

 

 

 あれで本調子じゃないとかこいつどんだけ強いんだ。と、林藤は軽く引いた。

 

 

 

「まあ、そういうわけだから。あ、今度遊びに行くわね。お土産を持っていくから楽しみにしていてちょうだい」

「お、そうか? そりゃありがたい」

「ええ。それじゃあまたね、林藤さん」

「おう、またな」

 

 

 

 そんなこんなで、ソフィアは本部へ帰っていった。

 住む家が無いので作戦室で寝泊まりしているという噂は本当だったらしい。

 

 




仮設住宅みたいなのに住まわせる方が現実的か、と思いましたが、まぁ細かい事はいいんじゃないかな。
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