最後のボーダー   作:初音MkIII

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遂に登場、ホストにしか見えないあの人。
キャラ崩壊注意。


第18話 二宮匡貴

 

 

 明くる日の事。

 元A級部隊にして現在はB級最強部隊と名高い二宮隊を率いる男、二宮匡貴。

 

 彼は、珍しく次戦の相手をとことん研究し、情報を洗い出し、対策を考えていた。

 完全に東と同じ事をしているあたり、さすがは元東隊といったところだろうか。

 

 

 ──アンデルセン隊。

 今シーズンになって彗星の如く現れた最強の女傑、ソフィア・アンデルセンが率いる話題の部隊である。

 未だ緊急脱出どころか傷一つ負った事がない彼女を相手に、無策で勝てると思うほど二宮は傲慢ではなかった。

 

 どうしても傲慢に見えてしまうが、雪だるまを作って時間を潰したり、皆で焼肉を食べに行ったりと意外と可愛い所もあるし、コスプレ感が嫌で隊服をスーツにしたら却って浮いてしまい、むしろコスプレっぽくなってしまったという、ちょっと天然気味なところもある面白い奴。それが二宮なのである。

 

 

「……俺一人で当たるのは無謀か。東さんがどう出てくるかによるが……恐らく今回ばかりはあの人も本気で来るはず。となると選ばれるマップは……」

 

 

 二宮がここまで真剣に考えているのは、彼の尊敬する師である東春秋率いる東隊が、今回に限っては東主導で動いてくるだろうという確信あっての事である。

 

 トリオン量にものを言わせ、ブイブイ言わせていた頃の愚かな自分を戦術で叩きのめした「最初のスナイパー」。

 後進の育成に努めて久しい彼だが、今シーズンになってソフィア・アンデルセンという巨大な壁が現れた。

 普段は冷静な東も、東だからこそ、あの巨大な壁を崩さんと燃えているはず。

 

 ならば、いくら二宮と言えど現状にあぐらをかいて普段通りにやっていれば、敗北は必至。

 尊敬する師だからこそ負けたくない。

 

 

 

 そして、ソフィア・アンデルセン。

 まだ会った事はないが、あの圧倒的な強さには惹かれるものがある。

 恐らくはこれまでに一度も本気を出さず、影浦隊にすらも圧勝したその実力。

 

 彼女もまた、尊敬に値する。

 

 

 二宮は年上を敬うタイプなのである。

 ただし諏訪は別。

 

 

 

 作戦室で一人、黙々と考える二宮だったが、訪問者を告げるノックによって一時中断せざるを得なくなった。

 

 

「チッ」

 

 

 誰だ、こんな時に。

 太刀川の野郎だったら蜂の巣にしてやる。

 

 

 そんな事を考えつつ、応対するため作戦室のドアを開けてみると……。

 

 

 

「初めまして、ニノくん。ソフィア・アンデルセンよ。次戦はよろしくね」

「…………?」

 

 

 

 バタン。

 思わずドアを閉めた。

 

 

 

「あら? どうして閉めちゃうの?」

 

 

 

 

 にのみやはこんらんした。

 なんで対策を考えてる時に来てしまうん? と。

 暇してる時ならば大歓迎なのだが。ただし顔には出ない。

 

 いや、しかし年上を締め出すのはあまりに失礼……! ここは開けるべき? と悩みに悩み、再びドアに手をかけようとした、その瞬間。

 

 

 

「酷い子ね、勝手に入っちゃってもいいかしら?」

「…………!」

 

 

 

 手をかける前にドアが開いた。

 思わず声無き悲鳴を上げる二宮。

 

 

 まるでホラー映画のワンシーンである。

 ここに隊員の犬飼あたりが居たら必死に腹を抑えて笑いを堪えていそうだ。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

 落ち着いて深呼吸。

 俺はクールだ、俺はクールだ。

 そう言い聞かせて心を鎮める。

 

 

「初めまして、アンデルセンさん。二宮匡貴です」

「ソフィアでいいわよ。あと、敬語もいらないわ。なんだか似合わないから」

「…………そうか。ならばそうさせてもらう」

 

 

 ホストっぽい格好をした男、二宮匡貴はちょっと傷付いた。

 意を決してできる限り爽やかに挨拶したのに、返ってきたのは微妙に辛辣な言葉である。

 

 

 尚、やっぱり顔は笑っていない。

 対するソフィアは笑顔だが。

 

 

「とりあえず座るといい。今茶を出す」

「ありがとう。気が利くわね。なんだか本当のホストみたいで格好いいわよ」

「誰がホストだ」

 

 

 

 この人、俺で遊んでる?

 二宮は衝撃の事実に気が付いた。

 

 射手の王として恐れられ、敬われる自分をおもちゃ扱いするとは、何とも不敵な女性である。

 しかし相手は年上。

 無下に扱う事は躊躇われる。

 

 

 

「それで、何をしていたのかしら」

「……別に、何だっていいだろう。そちらこそ、いったい何をしに来た」

「あら。次戦の相手だから、挨拶に、よ。迷惑だったかしら?」

「迷惑とは言っていない」

「うふふ、そう」

 

 

 この短い時間で、二宮は思った。

 俺、この人苦手だわ、と。

 

 作り物のように美しすぎるのもちょっと心臓に悪い。

 たぶんお化け屋敷とかで鉢合わせたらめちゃくちゃ怖いと思う。

 

 

 

 そんな二宮を見透かすように、ソフィアがぽつり。

 

 

「わたしと東隊の対策よね?」

「……!」

「そういうの、なんとなく分かるのよ。東くんも今回は本気で来るみたいだしね」

「会ったのか?」

「ええ。今と同じように、直接会いに行ったわ。挨拶をしにね」

「そうか。やはり東さんは本気で……」

 

 

 

 尊敬する師の行動を予測できていた事に機嫌を良くする二宮。

 割とチョロい奴である。

 

 ようやく笑みを浮かべた二宮を、何が面白いのかニコニコと満面の笑みで眺めるソフィア。

 そんな彼女の視線に居心地が悪くなり、ちょっと恥ずかしくなってきたり。

 

 

「ニノくんは本当に東くんが好きなのねえ」

「当然だ。愚かだった頃の俺に戦術の重要さを叩き込み、部隊の大切さを教えてくれた恩人だからな。それに、ボーダーで初めての狙撃手だ。今でも衰えないその腕には感服せざるを得ない。本気で当たれば、今でも勝てるとは断言できないほどだ。例え東さんのチームメイトがまだ未熟な奴らだとしてもな。小荒井と奥寺という、よくて中位レベルのガキどもを主軸に据えて尚も上位に居るあたり、さすがは東さんと言わざるを得ない。俺でも同じことはできんだろう」

 

「ふふ……」

 

 

 東の事になると早口になる二宮を、微笑ましげに眺めるソフィア。

 数分語り続けた後にようやく気付いた二宮は、真顔のまま頬を少し赤く染めた。

 

 いい歳をしてガキのような事をしてしまった……と自覚したのである。

 

 

「……すまん」

「いいのよ。ニノくんが東くん大好きなのはよぉく分かってるから。あなたのそういうところ、可愛くて結構好きよ?」

「な」

「さて、と。お茶をありがとう、おいしかったわ。次戦では本気で行くから、心しておきなさい、ニノくん」

「ほ、ほう」

 

 

 

 やっぱりこの人苦手だ、とハッキリ自覚し、思わず頭に手をやる二宮。

 歳は大して変わらないはずなのに、やたらと子供扱いしてくるところが、どうしても苦手だ。

 

 しかも割とそれを悪く思わないどころか、ちょっと何かに目覚めてしまいそうな自分が怖い。

 

 

 それはさておき、次の試合で本気で来ると聞き、ペースを崩されながらも不敵に笑う。

 ちょっと顔が引き攣っているかもしれないが、そこは気にしたら負けだ。

 

 

 

 

 笑顔で去っていったソフィアを見送り、アンデルセン隊の過去の記録を見直す事にした二宮。

 その最中に思い出したのだが、何やらソフィアのファンクラブとやらがあるらしい。

 

 

 噂によるとあくまで非公認だそうだが。

 

 

 

「…………入るか」

 

 

 

 そういうことなので、ファンクラブの名誉会員として有名な影浦と鈴鳴の村上鋼を探し、個人ランク戦ブースに向かう。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「あ? 二宮じゃねェか」

「本当だ。あの人がここに顔を出すなんて珍しいな」

「あ。二宮隊の……」

「スーツ……なんで??」

「ふむ。ゆうめいな人なのか?」

 

 

 

 何やら影浦と鋼が玉狛第二の白いチビや見知らぬ女二人と共に、ブースの片隅でダベっていた。

 奇妙な組み合わせに内心で首を傾げる二宮だったが、まぁ別に奴らそのものに興味は無いので置いておく。

 

 

 

 とにかく、目的を果たすべく影浦たちに近付き。

 

 

「ん? おい、こっちに来やがるぞ」

「もしかして、対戦の申し込みかな?」

「ソフィアさん対策で空閑くん目当てかもよ」

「おれ?」

「あの人はねぇ、射手1位の凄腕で、B級一位の二宮隊を率いる隊長の二宮さんって言うんだよぉ」

「ほう、射手1位か。つよそうだ」

 

 

 好き放題言われているが、別にソフィア対策でも白いチビ目当てでもない。

 なので、話が早そうな鋼目掛けて歩く。

 

 当然両手はポケットにインである。

 

 

 

「鋼。お前見てねえか、あいつ」

「……ぽいな。なんでだ?」

「さぁ?」

「あの人、雰囲気が苦手ですぅ……」

「マリカちゃんはたしかに、ああいう人はニガテそうだな」

 

 

 

 そして、到着。

 

 

 

「おい、お前ら」

「……んだよ」

「何ですか、二宮さん?」

「え、私たちも?」

「プルプル……わるい豚じゃないよぅ」

「……何か用?」

 

 

 

 何故か全力で警戒されているが、二宮にとってはそんな事はどうでもいい。

 重要なのは、本当にファンクラブは存在するのか。

 こいつらは本当にファンクラブの会員なのか。

 

 それだけである。

 

 

 

「“ソフィアちゃん親衛隊”とやらの会員か?」

「「ぶふぅ!?」」

 

 

 

 ブース中が笑いに包まれた。

 二宮にはよくわからなかったが、面白かったらしい。

 なんでも、微妙に馴れ馴れしくなった影浦曰く、「おめーの口から出てくる言葉じゃねェだろ」とのこと。

 

 

 

 

 そして。

 

 

「会長が諏訪さんだと? 納得できん。俺がやる」

「オイオイ、新参のくせに大口叩くんじゃねえよ二宮ちゃんよォ」

「……だが、確かに諏訪さんは未だにソフィアさんと出会った事すらないらしいしな。そんな人が会長というのは違和感がある」

「なら戦ってきめるというのはどうでしょうかな」

「ふん。俺は一向に構わんぞ」

「ダメに決まってんだろエセホスト。おめーが会長になったら全員スーツ着用とか言いかねねェ。ファンクラブからホスト軍団にジョブチェンジしちまうだろうが」

「なら勝てばいいだけだ、カゲ」

「……まぁそりゃ言えてんな」

 

 

 

 ファンクラブ内で戦争が起きた。

 天然面白エセホスト、二宮匡貴の参加は少しばかり劇薬に過ぎたようだ。

 

 ちなみに、戦争を起こした主犯は半ば部活感覚でファンクラブに参加している遊真である。

 

 

 

 

「あなたたち、全員ちょっと座りなさい」

「「はい」」

 

 

 

 尚。

 戦争は、騒ぎを聞きつけた……というか地味に密告した万理華が呼んだソフィア御本人によって瞬く間に鎮圧された、という事も明記しておく。

 

 

 

 いつもの笑顔を捨て、氷点下の眼差しで延々と説教を繰り広げるソフィアと相対した二宮や影浦たちファンクラブの馬鹿どもは、揃ってちょっとチビったらしい。

 

 ただし、主犯の遊真は逃げ仰せた。

 なかなかにちゃっかりしている奴である。

 

 




二宮が正座して説教されてる絵を想像すると、ものすごく笑える気がする。

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