26話ぐらいまでストックあるんですけど、一気に投下しすぎるのもいかがなものかと悩み中。
少しだけ、わたしがボーダーに入るにあたって起こった“一悶着”について話しておこうかしら──。
──小難しいやり取りは迅に任せたから、こうなったのはまあ仕方がない。
ボーダーが四年後に滅びる可能性がある、と城戸司令以外の幹部たちにもあの迅が素直に話したのは少し意外だったかしら。上手いことのらりくらりと煙に巻くのかと思っていたのだけど。
わたしが居た世界ではアフトクラトルに敗北したとは言っても、あれはあまりにも物量が違いすぎたから城戸司令たち幹部の責任ってわけでもないのよね。
どうもあっちのわたわたとした頼りないイメージに引き摺られてるわ。反省しなくちゃ。
「お? なんだなんだ、随分と集まってなんだか楽しそうじゃないか」
「おや、太刀川さん」
お。
迅が太刀川くんと遭遇したみたい。
ついでに言うと、いま現在階級を問わず多くのボーダー隊員で溢れかえるここは、個人ランク戦が行われるブース。
多くの隊員が日夜鎬を削る場所よ。
「準備はいいかな?」
「いつでも」
「それにしても、本当に弧月一本でいいのか? 私は手加減などできない男だぞ?」
「だいじょぶ。負けないですから」
「ふむ。大した自信だな」
「あっちのあなたとはよく戦っていたもの」
「ほう……」
忍田さんを侮るつもりはないけど。
わたしの宿敵は黒トリガー所有者……しかもその中でも間違いなく最強の部類に入るアフトクラトルの国宝使い、ヴィザだ。
壊れたわたしの黒トリガーは“人質”としてたぬきさん……じゃなかった。きぬたさんに研究材料として提供する事になってしまったから、わたしはノーマルトリガーであの剣聖と戦わなくちゃいけない。
だから。
ノーマルトリガー使いなんかに、負けていられないわ。
ノーマルトリガーと黒トリガーの間には圧倒的な壁がある。
忍田さんに勝てないようじゃ、ヴィザに勝つなんて夢のまた夢。
絶対に、負けるもんか。
「ちょっと感覚が鈍ってるというか、この体に不慣れなのが気になるけれど……」
「? 何か言ったかね?」
「いえ、なにも。ギャラリーも集まってきちゃいましたし、始めましょう?」
「ああ、そうだな。鬼怒田さんの方もそろそろ準備が終わる頃だろう」
遠くで猛る太刀川くんと、苦笑いしながらそれを宥める迅が見えるけど、置いておこう。
無数にいる隊員たちも、今は置いておこう。
ちなみに、遊真は「レプリカを探すから」と言って別れたわ。やっぱり大切に思っているのね。
あの子はあんまり感情を表に出さないから、ちょっと分かりにくいけれど。
……にしても。
四年前の身体だからか、少し動きにくい気がするのよね。
まあ、何とかなるでしょう。
「よし、設定は完了したぞ。とっとと始めるがいい」
「お疲れ様、たぬきさん」
「鬼怒田だ、き、ぬ、た! まったく!」
「面倒をかけて申し訳ない」
「ふん。あんたが悪いわけではなかろう。わしもあんたも迷惑を受けている側じゃ」
「はは……」
たぬきさんの毒舌に苦笑いする忍田さん。
わたしはたぬきさんが見た目も口も怖いけどいい人だって知っているから、特に気分を悪くしたりはしないわ。
迷惑をかけているのも自覚しているし。
「では、始めよう」
「ええ、そうね」
「えっ!? 忍田本部長、マジで戦るのか!?」
「うっそ、こんな事あるんだ!?」
「あの女の子、どこの誰?」
「忍田本部長と戦るとか、あの子かわいそうじゃね? つかマジなんで?」
「何にせよ、滅多に見られないって!」
「うおおお、離せ迅ッ!! 俺も混ざるんだー!」
「ダメダメ、抑えてよ太刀川さん。今から大事な戦いをするんだから」
「え、忍田本部長と個人戦するとかヤバない? あとあの子めっちゃかわいいやん。金髪ツインテの、外人さんやろか?」
「ヤバいっす。いやマジで」
「どういう理屈でああなったんですかね、イコさん」
「鬼怒田さん。これは……?」
「東か。まあ、訳ありでな。また迅の奴が面倒を持ち込んできおった」
「ふむ……」
「忍田本部長が個人戦だと……? どうなってる?」
「どうせすぐ終わりですよ。本部長が相手とか勝てるわけないじゃん」
「只事でない事だけは確かですね」
ちょいちょい覚えのある声が聞こえるわね。
特に東さん。彼にも教えておいた方がいいかもしれないわ。
あの戦いが起きる頃には彼もボーダー上層部の一員として、教官になっていたし。
っとと、雑念は置いておきましょう。
《ランク外対戦十本勝負、開始》
「さて、どう来る? ソフィア・アンデルセン」
地味に初めて着るわね、この白い隊服。
わたしって実は小南よりも更に古い隊員だから、これ着た事無いのよ。
この服を見て、「C級隊員!? どういう事だよ!?」と驚いているギャラリーの声が聞こえてきそう。
「どうもこうも──」
脳に働きかけ、人体のリミッターを外して……。
ああ、やっぱり遅いわね。
──動くまで、一秒もかかってしまったわ。
「な……に……?」
《忍田、緊急脱出。1-0。アンデルセンリード》
外野にて。
「「……は?」」
「……迅、今の見えたか?」
「……いいや、見えなかった」
「だよな。俺もだ」
「太刀川さんもか」
「ああ。なんだあのスピード? グラスホッパー使ってもあんなに出ないぞ」
数秒の後。
「う、嘘だろ!? 忍田本部長が先に取られた!?」
「何者だよあの女の子!?」
「あの服からして、C級……なんだよな? って事はすぐ上がってくる……か、勧誘だ!! 勧誘しましょう諏訪さん!!」
「耳元で怒鳴るな馬鹿野郎! わかってんよ!! へっへっへ、誰にも渡さねえぞ!」
「諏訪さん、ちょっと変質者っぽいです」
「るせぇ!!」
そして試合内に戻り──。
「……そういう事か、全くとんでもない子だ!」
「あら、もう対応してくるのね。さすが“ノーマルトリガー最強”だわ」
「世辞はいらん、よ!」
さすが、太刀川くんの師匠ね。
もうわたしのスピードについてくるなんて。
でも、建物がたくさんあるこのフィールドなら、わたしを捉える事は至難の業よ?
「くっ!? ちょこまかと飛び回って! バッタか君は!」
「失礼ね、レディーに向かって。戦いとなると熱くなるのは悪い癖よ?」
《忍田、緊急脱出。2-0、アンデルセンリード》
《忍田、緊急脱出。3-0……》
《忍田、緊急脱出。4-0……》
……ううん、いくらなんでも楽すぎるわね。
おかしいわ。
あの忍田さんが、こんなに弱いはずないもの。
「!?」
「──ようやく、捉えたぞ」
……あらあら。
《アンデルセン、緊急脱出。4-1……》
そういう事。
やられた、わたしとした事が。
緑川くんじゃあるまいし……!
建物を足場にし、普段かけられている脳のリミッターを外して得た人智を超える身体能力から繰り出す「縮地」によって跳ねるように駆け回っていたのだけど、忍田さんはそんなわたしをじっと観察し、スピードに“慣れる”事に集中していたらしい。
要は、これまでの四本は捨てていた、という事。
もちろん一本目は完全に虚をつけていたし、実際忍田さん自身驚いていたけど、あれで完全にスイッチが入ったという事になるわね。
そうとも気付かず、気をよくしたわたしはまんまと罠にかかり、カウンターをもらって落とされた、というのが今の一本の流れよ。
にしても。
乙女の身体を真っ二つにするとか、容赦ないわね。
《アンデルセン、緊急脱出。4-2……》
《アンデルセン、緊急脱出。4-3……》
《アンデルセン、緊急脱出。4-4……》
あらら……。
追いつかれちゃったわ。
「もう跳ね回るのはやめたのか?」
「ええ。だって斬られちゃうもの」
「ふむ。ではどうする」
そんなの決まってるわ。
「正面、突破よ」
「面白いッ!!」
小細工は無用。
お互いに弧月一本なのだから、勝負はシンプル!
懐に飛び込んで──。
((弧月を振り切るまでの、スピード勝負!))
生駒くん、見てるかしら?
これは、貴方から教わった技──。
ま、弧月だけだからただの居合なんだけど。
《忍田、緊急脱出。5-4、アンデルセンリード》
わたしは、“スピード”ならば誰にも負けないわ。
そうでもないと、ヴィザの「星の杖」には追いつけないもの。
「……見事だ、完敗だよ。これは、確かに他のトリガーを解禁したとしても私の負けだろうな」
「そうかしら? 貴方、とっても強かったですよ」
《忍田、緊急脱出。6-4。勝者、アンデルセン》
あ、危なかったわ……。
徹底的に鍛え直さないと、あの翁となんて到底戦えないわね……。
旋空や他のトリガーがあったら、正直忍田さんに勝てたかどうか怪しいし……。
はぁ。
やっぱり個人ランク戦に入り浸るのが手っ取り早いかしら?
チーム戦は……オペレーターさえ紹介してもらえればなんとか間に合う……と、いいのだけど……。
5話目からランク戦開始なので、その時にでも主人公のステータス載せときますかね。
あ、次話から三人称になります。