個人ランク戦、チーム戦、共に無敗を誇る超新星、ソフィア・アンデルセン。
彼女が率いるアンデルセン隊に、次の試合からチームメイトとして新たに参戦する事になっているぼっち、八十神万理華。
実は彼女、ランク戦の記録を片っ端から見て回る趣味があり、その中でも今シーズン特に注目しているチームがあった。
尚、直接観戦した事は一度もない。万理華にとって、大勢の人間で溢れかえる観戦席は、ちょっとハードルが高すぎるのである。
「はぁ~……修くん、かっこいい……」
完全にメスの顔になっている万理華が熱い視線を送る先に居るのは、いやがらせメガネこと三雲修。
正しくは、彼がランク戦で戦う様子である。
万理華はトリオン貧者な修と違い、あの二宮に次ぐ程のトリオン量を誇ってはいるのだが、サポートをメインにしているため、その意味では修と似たスタイルなのだ。
そこから修に注目しはじめ、何故か妙に詳しいソフィアから様々なエピソードを聞き、いつしか恋に落ちた。まだ本人と会った事すらないのに。
そんな万理華だったが、にへにへ笑いながら次の試合……修率いる玉狛第二が、アンデルセン隊と影浦隊という実力派部隊に完敗してしまった三日目の記録を映そうとした、その瞬間。
「あら、修くんじゃない」
「ぴゃあぁぁああ!?」
ひょこっと己の肩から顔を出してきたソフィアの声に驚き、飛び上がる。
ソフィアの事を母のように慕う万理華ではあるが、急に現れるのは心臓に悪いのでやめていただきたい、と切に思った。
「そ、そそそそソフィアさん!?」
「うふふ、相変わらず元気ねえ。何を見ていたの?」
「あぅ……えっと、玉狛第二の記録を……」
「修くんね」
「はうぅ!? ち、違います違いますー! 凛々しくてかっこいいなーとか思ってませんから!」
「顔を真っ赤にしちゃって、可愛いわねえ。そういう事にしておいてあげるわ」
「うぅー……!」
穴があったら入りたい……。
あまりの恥ずかしさからテーブルに突っ伏し、謎言語で呻く。
ソフィアはそんな万理華を眺めてお淑やかに笑うばかりである。
「それにしても、変わってるわよねえ。大体の女の子は京介くんや嵐山くんあたりを好きになるものだけど。修くんが好きな子なんて初めて見たわ」
「だからそういうのじゃないですぅ!! でもぉ、烏丸くんや嵐山さんは確かにイケメンですけど、ちょっと違うというか……」
「ふーん? そういうものかしら。アリスもアリスで弓場ちゃんに憧れてる変わり種だし、うちの子は変人ばかりね。灯は……男の子自体に興味無さそう」
「ガーン!」
ソフィアさんに変人呼ばわりされた!? とリアルに結構なショックを受ける万理華。
でも確かにあの弓場隊長に憧れるアリスの気持ちはちょっとよく分からない。
というか。
「そういうソフィアさんはどうなんですかぁ」
「わたし?」
「いっつも人をからかってばかりでぇ……!! こっちにもネタをください、ネタを!」
「そう言われてもねえ。隊員の子たちは基本年下だからそういう対象としては見れないし、忍田さんたちはちょっとおじさんすぎるし。強いて言うならレイジが好みかな? ただ東くんは絶対に許さない」
「えぇ、木崎さんですかぁ? あの?」
「ええ、あの。意外?」
「うーん……割とお似合いなのかなぁ……? でも木崎さんの事はよく知らないしぃ……」
「あはは。レイジは玉狛支部の人だものね。修くんもだけど」
「うっ」
偶然か狙っているのかはソフィアのみぞ知るが、アンデルセン隊はボーダー内でも比較的珍しいガールズチームである。
故に、恋バナで盛り上がるのは日常茶飯事であった。
玉狛第一の木崎レイジがソフィアの好みと聞き、二人が並んでいる絵を想像してみる万理華。
最初は、身長差が割とエラい事になるのでどうかと思ったのだが、双方ともに落ち着いた雰囲気のあるレイジとソフィアは、結構お似合いのカップルなのでは? という結論に至った。なんだか悔しい。
尚、東の事については触れてはいけない。
絶対に開けてはならない禁断の箱なのである。
そして──。
「なんだったら修くんと会ってみる? たぶん玉狛支部に行けば会えるわよ。面識もあるし、連れて行ってあげてもいいけど?」
「えっ!? ほんとですかぁ!?」
「え、ええ。思った以上にがっつくわね。ビビりのくせに」
「是非是非お願いしますっ!! そ、そうと決まったら気合い入れてオシャレしないとっ!!」
「……本当に好きなのね。応援するわ。面白そうだし」
「えっ?」
「ううん、何でもない。そうだ! お洋服選び、手伝ってあげる」
「ほんとですかっ!? ありがとうございますっ! にへへぇ、ソフィアさんの私服って可愛いですよねえ」
「あげようか? 忍田さんから貰ったお金で、たくさん買いすぎちゃって」
「ありがたく貰いますっ!」
よっしゃ!! とガッツポーズ。
大好きな修くんと会わせてもらえるどころか可愛い洋服までくれるとかさすがソフィアさん! そこにシビれる憧れるぅ!!
最高にテンションがハイってやつになった万理華は、軽くキャラ崩壊を起こすほどルンルン気分でオシャレに勤しむ。
ちなみに、ソフィアの私服は基本ゴスロリである。
他には清楚なワンピースやスカートなど、ひらひらとした可愛らしいものが中心だ。
ちょっと歳を考えた方がいいのでは、とアリスが無謀にも言っていたが、当然のように締め落とされていた。賢い万理華はそんな愚行は犯さないし、そもそも普通に似合ってるからいいんじゃないかな、と思っている。
いつも長ーい黄金のツインテールだし、きっとソフィアは若作りしたいお年頃なのだろう。
親戚のおじさんと化している忍田に関しては、もう今更突っ込むだけ無駄である。
そして、万理華はキュートでビューティフォーなソフィアに連れられ、玉狛支部へと向かった。
否。
向かおうとしたのだが、突然ソフィアに首根っこを掴まれて無理やり止められた。
「ぐぇっ!?」
「ちょっと待って。修くん、本部に来てるみたい」
「えっ? どうして?」
「嵐山隊と太刀川隊の子たちに用があるんだって。きっと修行するためじゃないかしら? 修くんって真面目だものね。常にランク戦の事を考えてるイメージだわ」
「あ、あー、なるほどぉ……どう、しましょう」
「せっかくだし行きましょう? 嵐山隊の作戦室はっと……」
「えっ、邪魔になるんじゃ……あっ、待ってください腕を引っ張らないでくださいー!!」
改めて、そういうことになった。
ルンルン気分だった万理華も、これには意気消沈。修行してるところに訪問なんてしたら絶対邪魔になるよぉ……と、そう思いながらも足は止まらない。
むしろ、汗をかく修くんを生で見れるかも!? と内心興奮していた。
もはや痴女である。
── 嵐山隊作戦室 ──
新進気鋭の部隊、玉狛第二を率いる男、三雲修。
ラウンド3で影浦隊、そしてアンデルセン隊に大敗を喫した事から、彼は己の戦闘力を上げてエースである遊真の負担を減らそうと、修行をつけてもらうために嵐山隊の作戦室の前にやってきていた。
「ふー……」
しかし、一人でA級部隊の作戦室を訪れるというのはなかなか緊張する。
だが、師である烏丸がせっかく設けてくれた機会だ、無駄にする事はできない。
決心し──。
「こんにちは、修くん」
「え?」
「こ、ここここんにちはぁ」
「あ、こんにちは……」
しかし背後から声をかけられ、振り向く。
そこに居たのは、件の試合を制した部隊、アンデルセン隊を率いる女性、ソフィア・アンデルセンだった。
加えて、彼女の背中に見知らぬ少女が隠れている。
えっと、どなたさま?
それが修の正直なところである。
ここに遊真がいれば気さくに「おっ、マリカちゃん」と声をかけただろうが。
そんな時。
作戦室のドアが開いた。
「何してるの? さっさと……はい?」
「あら、木虎ちゃん」
現れたのは当然、嵐山隊。
それも、かの隊の若きエースであり、嵐山隊の勝率を大幅に上げた立役者、木虎藍である。
「…………なんで??」
「えっと、ぼくも今会ったばかりでなにがなんだか……」
「ほらぁ、ソフィアさぁん!! 絶対これ私たち邪魔ですよぅ!」
「まぁまぁ落ち着きなさい、万理華」
来るのは修だけだと聞いていただろうに、何故か居るソフィアと万理華に目を丸くする木虎。そりゃそうだ。修だって何故二人がここに居るのかわかっていないのだから。そもそも万理華がどこの誰かも知らないし。
とりあえず。
木虎は、ふぅー……と長~く息を吐いた。
普通に失礼だが、この場合はソフィアが悪い。
「そこのメガネは分かります。話は聞いてますから。ですが、あなたたちは分かりません。お引き取りください。ただでさえ忙しいんですから」
「ちょ、木虎……もっと言い方ってものが……」
「何が。事前の相談も無しに突然来られたら、はっきり言って迷惑よ」
「あらあら」
「はうぅー……」
言い方はアレだが、正論である。
ただでさえ嵐山隊は広報担当部隊として多忙なのだから。アポ無し訪問は迷惑以外のなにものでもない。
「そうねえ。修くん、今回は修くんの修行のためって事でいいのかしら?」
「え? あ、修行というか、嵐山さん……嵐山隊の皆さんに、射手の点のとり方を聞きに……」
「そういう事なら私もこの子も助けになれるわよ。特に、この子はあなたと同じ射手だし」
「そうなんですか?」
「あ、うん。一応。あ、その、私、八十神万理華って言うのぉ! その、修くんのランク戦はいつも見てるよぉ! 記録でだけど……。歳は16の、高校生! よろしくねぇ」
「あ、はい。三雲修です。よろしくお願いします」
「…………はぁ。もういいです、さっさと入ってください。時間が勿体ない」
「ありがとう木虎ちゃん♪」
「……別に」
ぽわぽわと幸せオーラを放つ万理華が苦手なのか、はたまた元々機嫌が悪いからか。深くため息を吐き、作戦室に入るよう促す木虎。
ニコニコ笑顔で礼を言うソフィアにもぶっきらぼうである。
仮にだが、もしもこの場に影浦や二宮あたりが居たら喧嘩になる事請け合いだ。
そして、中にいた嵐山隊の綾辻や時枝とも軽く挨拶を交わし、修が出演してしまった記者会見の影響で、入隊希望者が爆増し、しばらくの間毎月入隊申込を受け付ける事になった、という事を時枝から聞き。
何故かいるソフィアと万理華はとりあえず放置。
隊長である嵐山准がやってきた事で、本題に入る。
「ふむ……。エースの空閑が点を取る、というだけでは限界が見えてきたから、三雲くんも点をとれるようになりたい、と。そういう事だな?」
「はい」
「うーん……俺の意見を言う前に」
テーブルに座り、修と話し合っていた嵐山が立ち上がり、当然のように綾辻と女子トークをしているソフィアの方を向く。
ついでに言うと、万理華はソフィアの影からぼーっと修をガン見している。
背後霊みたいで実際怖い。
「初めまして、ソフィアさん。嵐山准と言います。挨拶が遅れてすいません」
「初めまして、嵐山くん。ソフィア・アンデルセンです。で、こっちは次の試合からわたしの隊員になる八十神万理華ちゃんよ。仲良くしてあげてね」
「「え!?」」
既にさらっと聞いていた綾辻と時枝以外の全員が驚愕する。
つまり、万理華本人も含めて。
「言っちゃっていいんですかぁ、ソフィアさん!?」
「アンデルセン隊の新人!?」
「どこかで見た覚えがあると思ったら、B級でフリーだった人……!」
「こりゃ、驚いたな……他の奴らは知ってるんですか?」
突然爆弾を投下された嵐山隊の作戦室は、阿鼻叫喚の大騒ぎである。
何しろ、シーズン途中で部隊の隊員が増える事は、ルール上問題はなくとも連携などの観点からして、ランク戦で真っ先に落とされやすいので滅多に無い。しかし、あのソフィアが率いるアンデルセン隊ともなれば話は別である。
一人しか戦闘員がいない現在でさえ、圧倒的な強さで順位を上げているのだから。
そして。
実は“向こう”では戦術面でも東に次ぐ程に評価が高かった女、ソフィア。
皆の興味を引いたこのタイミングで──。
「まだ誰にも言ってないから内緒よ? それじゃ、お邪魔みたいだから失礼するわね。万理華、帰るわよ」
「えっ? あっ、はいー!」
「修くん。気が向いたらうちの作戦室にも来てね。万理華が喜ぶから」
「え? あ、はい……」
「送りましょうか?」
「いや、いいわよ嵐山くん。それじゃあね」
──スタコラサッサと姿を消す。
残された修たちは呆気に取られるばかりである。
しかし、これで修は確実に近付いてくる。
そう確信しニッコリと笑う、ソフィアなのだった。
「なんだったのよ、いったい……」
「見て見て藍ちゃん、ソフィアさんから超高級なチョコもらっちゃった♪ いい人だわぁ。綺麗だし」
「綾辻先輩より美人な人を初めて見ましたよ」
「たしかに。充の言う通り、綺麗な人だったな」
「……アンデルセン隊に新人……ああ言われたし、顔を出してみようかな……?」
修、見事術中にハマる。
地味に木虎さん初登場か?
というか嵐山隊が。