北斗の拳のトキとか。
その方がキャラが立つからなんでしょうかね?
あ、予約投稿というものを活用してみました。
あまりにも突然すぎるソフィアの失踪。
すぐに発見できた事は幸いだったが、彼女の悲惨な身体の事情を知った面々は、もう結構遅い時間だったというのに、すぐに行動に出た。
強力な睡眠薬を投与され、眠る……否、気絶しているソフィアが起きるまでの一時間で、ナイトキャップを被って就寝しようとしていた城戸、根付、唐沢を叩き起こし、──鬼怒田はソフィアが心配で起きていた──圧倒的な戦力を誇るソフィア・アンデルセンを活かすため、などと嘯いて「トリオン体の常時使用」および「非常時や戦闘時以外は車椅子で生活させる」という規則をソフィア限定で制定させる。
あまりにも必死すぎる忍田と鬼怒田の様子に、正直城戸らはドン引きしていたが、そんな事は関係ない。
その後目覚めたソフィアはいきなり自身のファンたち……つまりは忍田や影浦らファンクラブのメンバーたち、そしてアンデルセン隊の部下たちに囲まれ、制定されたばかりの規則を厳守するように申し付けられた。
これにはさすがのソフィアもびっくりである。
しかしまぁ、戦えるのであればその程度の制約は問題にならないので、笑顔で承諾。
あまりのかわいさに、全員ノックアウトされた。
そして、時間も遅いのでとりあえず解散となり、ソフィアは当然のように鬼怒田が用意していた特製車椅子に乗り、アンデルセン隊のオペレーターである灯に押されて作戦室兼自宅へと帰っていった。
翌日──。
「……まさか車椅子がボタン一つで自由自在に動くなんて思わなかったわ。ちょっと本気出しすぎではないかしら、たぬきさん」
「当然じゃ。四六時中誰かがお前の傍に居るわけではないし、その間身動きが取れんのでは却ってストレスがたまるじゃろう。それでは逆効果じゃからな」
「まあ、それはたしかに言えてるわね。ありがとう」
「……ふん。精々身体を大事にせい。もはやお前は多くの人間にとって大切な者になっておるという事を自覚しろ」
「ふふ、そうね」
実は、本部基地で生活しているソフィアが朝イチで顔を合わせるのは、徹夜で研究に勤しむ事が日常と化している鬼怒田と、そして彼の部下たちである。
ソフィアは非常に多くの情報を保有しており、その中には“向こう”で対面した近界のトリガーやテクノロジーですらも含まれる。
その美貌と相まって、開発室に属するエンジニアたちの間で女神のように崇め奉られるのは当然の帰結であった。
尤も、情報量が多すぎて鬼怒田たちの徹夜が爆増する原因にもなっているのだが。
車椅子に乗るソフィアは、いつものように彼らに情報を提供し、試作されたトリガーの改善点を指摘し、容赦なくダメ出しする。
エンジニアの中にはソフィアを信仰するあまり彼女にしか使えないようなトリッキーすぎるトリガーを考案する者も居るのだが、そういった手合いは大抵「却下。わたしにしか使えないトリガー? 専用トリガーを作りたいなら玉狛支部に行きなさい」と辛辣なお言葉を頂いて終わる。
いかんせん、ソフィアがどんなトリガーでも即使いこなしてみせてしまうので、エンジニアたちも調子に乗ってしまうのである。
「そういえば、アンデルセン」
「なぁに? たぬきさん」
「来週か再来週あたりにガロプラなる近界の連中が侵入してくると聞いたが?」
「林藤さんから聞いたのかしら。ええ、そうよ。もちろん、わたしが知る通りに行かない可能性もあるけれどね」
「ふむ、なるほどな。一応エネドラの奴に確認を取ってみるか」
「ああ、もう動けるのね。彼」
「うむ。そら、あんな猿にお前を会わせるわけにはいかん。とっととどっかへ行けぃ」
「はいはい、わかりましたよ」
もはや隠し事など無意味と悟っている鬼怒田は、一応の機密事項であるエネドラ……正しくは先の大規模侵攻で敵に裏切られ殺された近界民の“角”をトリオン兵であるラッドに移植し、結果として人格の再現を果たした元近界民、現マスコットの事をもさらりと漏らす。
ソフィアとしても、エネドラと会う気はこれっぽっちもない。
粗野にして横暴な口の悪いアイツと言葉を交わした日には、即あのラッドボディを真っ二つにする自信しか無いからだ。
そんなわけで、ボタンを押して車椅子を走らせる。
向かう先はアンデルセン隊の作戦室。
恐らくだが、そこで読書でもして時間を潰していれば“彼”が訪問して来る事だろう。
尚、待っている最中につまみ食いをするような真似はしない。
食べた分だけ胸が大きくなる体質だし、そもそも食べても石か砂利のようにしか感じないのだから。
これ以上胸が大きくなっても邪魔なのである。
以前それを言ったらアンデルセン隊の面々に「嫌味ですか!?」と怒られたが。
ソフィア本人としては嫌味のつもりは欠片もない。大体にして、一時期まではこの大きな胸は彼女のコンプレックスだったぐらいなのだ。
何はともあれ、作戦室でダラダラし、暇すぎて死にそうになっていた所にアンデルセン隊の面々が現れた。
漫画や小説、秘密のデータ本などなど、作戦室に持ち込んだものは粗方読み終わってしまったし。
「お疲れ様、皆。学校は楽しい?」
「おつかれさまです、ソフィアさん。楽しい事は楽しいですけど、ソフィアさんの事が気になりすぎてめちゃくちゃ時間が長く感じました……」
「私もですよぉ。無理してないですよね?」
「ソフィアさんはす~ぐ無理しますもんね~。これ以上あたしたちを心配させないでくださいよ~?」
「あらあら、皆して可愛い事言ってくれるわね」
一人で居る時は常に無表情なソフィアだが、誰かがいると途端に笑顔になる。
それが友人やチームメイトなら尚更である。
これは、一度全てを失った彼女にとって、「自分以外の誰かと一緒にいられること」がたまらなく幸せで、楽しい事だからだ。心配させまいと笑顔を取り繕っている事もあるが。
「それで、今日はどうしますか~? どこかへ出かけるなら、車椅子押していきますけど~」
「ううん。そろそろあの子が訪問してくる頃だと思うからいいわ」
「あの子ぉ?」
「誰ですか?」
ソフィアの発言に首を傾げる灯たち。
呼び方からして恐らくは隊員の誰かなのだろうが、皆目見当がつかない。
ファンクラブのメンバーだろうか?
と、チームメイトが疑問符を踊らせているのを他所に、じっと出入口を眺めるソフィア。
そして……。
本当に、来た。
ノックの音が響き、一番近くにいた万理華が返答する。
「はいぃ? どなたですかぁ?」
「あ、八十神さんですか? 三雲ですけど……」
「……うぇ!? ええ!?!?」
「ミクモって……」
「玉狛第二の?」
「ええ、そうよ。どうぞ、入ってちょうだい」
「失礼します……」
恋する相手、三雲修の訪問。
あっという間に万理華の脳内はショートし、使い物にならなくなった。
ただ、ドアの前に立って開けようとしていたので──。
「あ、どうも」
「……ぴゃぁあぁぁぁぁあ!?」
「えっ」
──当然、ドアが開けば至近距離で修とご対面する事になる。
そしてそのシチュエーションにクソザコメンタルな万理華が耐えられるはずもなく。
奇声を上げ、とても素早い動きでテーブルの下に隠れてしまった。
「「ええ……」」
「む? なにしてるんだマリカちゃん」
「あれ、空閑。お前知り合いだったのか?」
「ん、まぁな」
チームメイトが起こした突然の奇行に戸惑うアリスと灯。
ソフィアはくすくすと笑い。
ちゃっかり修についてきていた遊真が、修と共に首を傾げる。
普通にカオスである。
「あの、ソフィアさん……僕は何か彼女に嫌われ……え?」
「ソフィアさん、どうしたのそれ」
「気にしないでちょうだい。過保護な子たちに乗せられてるだけだから」
「「過保護じゃないですソフィアさん」」
「充分過保護よ。ちゃんと歩けるっていうのに」
突然の奇行を「自分は嫌われている」と結論付けた修がソフィアに質問しかけるも、そのソフィアが何故か車椅子に乗っている事に面食らう。
遊真も同様である。
「灯。お茶を入れてくれる? もちろん例のチョコも出してあげてね」
「了解です~」
「初めまして、三雲くん。君の話はよくソフィアさんと空閑くんから聞いてるよ」
「あ、初めまして。えっと……」
「ああ、ごめんね。私は蟻元アリス。アリスでいいよ。で、あっちでお茶を入れてるのがオペレーターの猫山灯。テーブルの下で忍者ってる奴は……知ってる風だったね」
「よろしくお願いします、アリスさん」
「アリスちゃんとマリカちゃんは知ってるけど、アカリちゃんとは初めて会うな」
「よろしくね~。二人とは同い年になるのかな~」
「おっ、そうなのか。ヨロシク」
「うん~」
テーブルの下に隠れていた万理華はアリスに容赦なく蹴り出され、ソフィアが座る車椅子の後ろに改めて隠れた。
それを一旦捨ておき、和やかに挨拶していく修たち。
差し出されたお茶とチョコがうまい。
「──で、修くん。今日来たのはアレね?」
「アレ? えっと、射手としてのアドバイスを頂きたくて……でも、八十神さんはああだし……」
「なるほど」
「問題ないわ。万理華っ!」
「はいぃっ!!」
「……マリカちゃん、軍人みたいだな。下っ端の」
「あはは~。うまいこと言うね~」
車椅子の後ろに隠れていた万理華だったが、恐怖の魔王である隊長に呼ばれた事で身体が反射的に動き、前に出て敬礼した。
骨の髄までスパルタ式を叩き込まれた結果がこれだよ。
「修くんと模擬戦してあげなさい。こういうのは身体に直接教えこんでから説明した方が早いわ」
「え!?」
「了解ですぅッ!!」
「じゃあ準備しますね~」
「ふむ、ソフィアさんは実戦派か」
「ええ、そうよ。そういう遊真もじゃないかしら?」
「うーん。あんまり誰かに教えた経験が無いから何ともいえませんな」
「なるほど。余裕ができたら弟子でも取ってみるといいわよ。そうする事で自分の課題が見えてくる事もあるから」
「ふむ。ソフィアさんが言うならそうなんだろね」
のんびりと会話を楽しむ遊真とソフィア。
その一方で、修と万理華の模擬戦が始まる事に。
そして、準備が終わり。
全員が見守る中、模擬戦が行われた。
結果──。
「……何も、させてもらえませんでした……」
「任務、完了ですぅ……ッ!」
「……マリカちゃん、あんな戦い方だったっけ?」
「個人ランク戦では立ち回りが違うからね。カゲさんにボロ負けしたのが堪えたみたいで」
「ほほう、かげうら先輩に」
「二人とも、ご苦労さま~。ソフィアさん、満足しました?」
「…………まあ、いいでしょう」
(((ひぇっ……すごい不満そう……)))
自他ともに認めるよわよわメガネなだけあり、修はアンデルセン隊の中でも最弱である万理華相手に十本中一本も取れず完敗した。
しかし、個人ランク戦で何度も戦った事がある遊真は首を傾げる。
彼が知る万理華の戦闘スタイルは、ソフィア直伝の歩法“縮地”で後退しながらアステロイドとメテオラをばらまくというものだった。
しかし、今回の万理華は序盤にひたすら縮地でチキりながら罠を仕掛け、それらが済んだ中盤以降にチクチクとアステロイドをばらまき、修を罠の元へ誘導した上で周囲をエスクードで囲み、罠を踏んだ修が爆殺される、というものだったのだ。
はっきり言って嫌らしいを通り越してもはや陰湿である。
遊真ほどのスピードを持たない修では手も足も出なくて当然だった。
しかもあくまで牽制や誘導目的のはずのアステロイドがやたらとデカい。
普通ならばこれで万理華は修に嫌われるだろう。
だがそこはあの修だ。
「……すごい。あんなに多彩な戦い方……想像もしていませんでした」
「ふぇ? そ、そうかなぁ? ふぇへへ」
嫌うどころかむしろ感動していた。
彼にとって実りの多い戦いだったらしい。
「マリカちゃん、おもしろい戦い方するね。個人ランク戦もそれでやってみればいいのに」
「やった結果、カゲさんに完敗したからぁ……正直これは一対一でやるべき戦法じゃないんだよぉ」
「そうか? 相手が悪すぎただけで、並の相手なら普通に通じるとおもうよ」
「そうかなぁ……」
意外な事に遊真からのウケもいい。
といっても、元より本物の戦場を渡り歩いてきた彼の事だ。戦いに綺麗も汚いもない、という考え方なのだろう。
まぁそれはさておき。
「修くんはトリオンが少ないからエスクードは確実に削る事になるけど、万理華が使っていたワイヤー状のトリガー……“スパイダー”は確実にあなたに合っているわ。何故なら──」
「──そうか! あれはあくまで建物とか、そういう障害物に向かって使うから、人に当てる必要が無い!」
「ええ、その通り。狙った所に当てるぐらいなら数日も練習すれば問題なくできるようになるでしょう。ただ、修くんが自分で点をとるのは難しいけれどね」
「え?」
「たぶんメテオラも削る事になるから、オサムじゃ純粋に火力がたりない。でも、玉狛第二にはおれがいるだろ?」
「空閑……! そうか、そういうことか!」
常に「弱い自分が何かできるのか?」と不安に苛まれてきた修だったが、ソフィアからアドバイスをもらった事で高揚し、あるいは生まれて初めて次の試合が待ち遠しい、とまで思えるほどになっていた。
が。
「まあ、わたしたちには通用しないけれどね」
「うっ」
「空閑くんができる事はソフィアさんもできるからね」
「ウッ」
「オマケに手の内もバレてますからね~」
「「うウっ!?」」
「ちょ、皆……かわいそうだよぉ」
アンデルセン隊の容赦ない言葉に晒され、高揚していた気持ちがちょっと萎んだ。
確かに、彼女たちに勝てる気は全くしない。
そもそもソフィアを落とせないのだから。
何にせよ、修はこうして新たな武器を得た。
「あれっ? そういえば木虎もあのワイヤーを使っていたような……」
「木虎ちゃんのはA級特有の特別製だけれどね。スパイダーはたしかにあの子が好んで使うトリガーでもあるわ」
「やっぱりそうなんですね……」
地味に、木虎は出番を失ってしまった。
とんだ流れ弾である。
というわけで、原作での木虎の出番を奪うアンデルセン隊。
これで私たちがよく知る嫌がらせメガネ、修の本領が発揮できますね。相変わらずアンデルセン隊相手は無理ゲーですが。
※次回、遂にランク戦四日目です。
個人的にかなり面白く仕上がったと思ってます。