最後のボーダー   作:初音MkIII

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遊真だって人間だもの。みつを
実際、少なからず彼自身も悩んでいるとは思うんですよね。表には出さないけど。


第27話 空閑遊真

 

 今期加入した二部隊の一つであり、アンデルセン隊ほどではないが何かと話題を提供している若き部隊、玉狛第二。

 ボーダーの異端たる玉狛支部に所属するかの部隊の一員であり、近界民である少年、空閑遊真。彼は今、真剣な表情でアンデルセン隊の作戦室の前に立っていた。

 

 

「……ソフィアさん、いる?」

「あら? その声は……遊真? 今開けるわ。灯!」

 

 

 普段ならば個人ランク戦に入り浸るか、玉狛支部で次の試合の対策を皆で練っている頃なのだが、遊真はどうしても聞いておかなければならない事があった。

 

「やあ、アカリちゃん」

「いらっしゃい~。どしたの遊真くん?」

「ちょっとソフィアさんに聞きたい事があって」

「ふーん? とりあえずどうぞ~」

 

 作戦室のドアが開くと、アンデルセン隊のオペレーター、猫山灯と目が合った。

 どうやらクルマイスというものに乗っているソフィアではなく、チームメイトがこうした雑務をこなす事になっているようだ。

 

 何はともあれ、お言葉に甘えて失礼する遊真。

 奥まで行くと、ソファに座り、テーブルに向かうソフィアの姿があった。

 何やらペンでノートに書いていたようだが。

 

「いらっしゃい、遊真」

「おじゃまします。何書いてたの?」

「んー。たしか明日の夜あたりに敵が来ると思うから、おさらいと対策をね」

「明日の夜……おれたちの部隊がランク戦をやってる頃とか?」

「そうね、それぐらい。わたしたちは昼の部だから迎撃作戦に参加できるわ」

「ふむ。おれたちは無理そうですな。守りはおまかせします」

「ええ、もちろん」

 

 灯がお茶を用意している間、ソフィアとの会話を楽しむ遊真。

 しかし、聞いてみればなんと明日にもガロプラなる近界民の国……アフトクラトルの従属国が侵攻してくると言うではないか。

 

 ボーダーの事をよく知らなかった頃の遊真であれば、黒トリガーを使って参戦したかもしれない。

 しかし、今はこの組織にどれだけの猛者がいるのかをよく知っているし、何より目の前の“最強”、ソフィア・アンデルセンがいる。

 

 彼女に任せておけば何も問題はない。

 そう思える程度には遊真はソフィアを信用している。

 

「はい、お茶とチョコどうぞ~。あ、今の話は口外しちゃダメだからね~?」

「おお、サンキューアカリちゃん。うん、分かってる。きぬたさんから聞いてるよ」

「なんだ、そうなの~?」

「だからわたしも話したのよ。それで? 遊真、わたしに何の用かしら」

「……うん」

 

 ちらりと灯を見る遊真。

 それを見て、あまり聞かれたくない話なのだと察したソフィアが、灯に退室を促す。

 

「灯。少し席を外してちょうだい」

「え~? まあ、分かりました~。遊真くん、あんまりソフィアさんに負担かけないでね?」

「うん。そう時間はかからないから。ありがとう、ソフィアさん。アカリちゃん」

 

 こうして、作戦室には遊真とソフィアの二人だけが残された。

 その事を確認し、ゆっくりと口を開く。

 

 

「ソフィアさん。おれは……おれは、あと何年生きられる?」

「聞いてどうするのかしら」

「オサムが必死になって今シーズンのうちに遠征に行こうとしてるのは、おれが生きてるうちにレプリカと再会させたいからだとおもう。でも、もし……もしおれがもうすぐ死ぬって言うなら……」

 

 

 とうに覚悟は決まっていた。

 決まっていた、はずだった。

 

 しかし、こちらの世界に来てから、とても楽しい事ばかりだ。

 素晴らしい友人たちとも出会えた。

 新たな“家族”、玉狛支部の人たちと出会えた。

 

 何より、修と会えた。

 

 

 だからこそ……。

 

 

「もうすぐ、死ぬっていうなら、おれ、は……」

「──皆の前から消える、とでも?」

「…………」

「そんな事したら、修くんなら草の根を分けてでも、どんな手を使ってでもあなたを探し出すわよ。わたしに協力を仰ぐとかね」

「おれは……」

 

 

 

 皆の輪から、自分だけが消える。

 その事を想像すると、遊真は怖くてたまらなくなった。

 元より死ぬはずだった人間が、死ぬだけ。

 そう割り切っていたはずなのに。

 

 

「おれは、死にたくない……っ!」

「……遊真」

 

 

 自分の手のひらから、全てがこぼれ落ちる。

 そんな感覚に襲われ、遊真は涙を流す。

 

「おれは、もっと皆といたい! オサムと一緒にいたい! まだオサムの願いも叶えられてないのに、おれが死んだらアイツはどうなる? きっと、アイツはアイツなりに前にすすむだろう。でも、それじゃダメなんだ。今度こそ、オサムは死んでしまう」

「ええ」

 

 言いたい事はたくさんある。

 それがぐちゃぐちゃになって、うまく言葉が出てこないが。

 遊真は、とにかく心の内をぶちまけた。

 

「だから、アイツにはおれがついていないと! なのに、おれはいつ死ぬかも分からないんだ!」

 

 

 ふわり、と遊真の体が何かに包み込まれた。

 いや。

 

 ソフィアが彼を抱きしめたのだ。

 

 

「大丈夫よ。だいじょうぶ。あなたは、死なないわ」

「……ソフィアさん?」

「誰一人、死なせない。いい? まず、あなたの寿命は今の状況だとあと二年。ただ、近界民の技術とこちら側の医療を合わせれば、十年は生きられる。その間に、必ずあなたの身体を元に戻してみせるわ」

「近界民の、技術……? でも、そんなのおれには……どうすれば?」

「鍵を握るのは、ヒュースよ。正確には、彼の主……エリン家。あれと接触して、こちら側に引き入れるの」

「……なるほど……! となると、やっぱり遠征にはどうしても行かなきゃ……」

「そうなるわね。わたしに任せてくれてもいいけど、あなたたちはそんなの我慢できないでしょう?」

「……うん」

 

 

 自分に残された時間と、やるべき事。

 それぞれが明確になり、目標が立った。

 ソフィアから離れた遊真は、再びその目に炎を灯す。

 

 それを眺めていたソフィアは、にこりと微笑んだ。

 

 

「ふふっ、あなたはそうでなくちゃね」

「うっ……情けないところをお見せしました……」

「構わないわよ。胸の一つや二つ、いくらでも貸してあげる。それよりも……」

「ん?」

「悪いけど、手を抜く気はないわよ?」

「……うぐぅ。そうだった……遠征選抜への最大の壁が、目の前に……」

 

 悪戯っぽく笑うソフィアを見て、呻く遊真。

 ソフィア率いるアンデルセン隊の強さは圧倒的であり、早々に首位を奪った今、今期のB級1位は確定した、というのが大半のボーダー関係者の考えである。

 遊真もそう思っているし、来期にはA級部隊として名を馳せているだろうとも思う。

 

 しかし、少なくとも今期は遊真たちと同じB級なのだ。

 上位を走っていれば、必ずまたぶつかる日が来る。

 その時、自分たちはポイントが取れるのだろうか。

 

 

「でも、ソフィアさんってどうも他の部隊に経験を積ませたがってるようにみえるんだな」

「あら。どうしてそう思うのかしら」

「だって、その気になればもっとポイントを取れてたでしょ。おれたちと当たった時だって、ポイントを全部ソフィアさんが取る事もできたはずだ」

「随分買ってくれてるのね。わたしだって攻撃を食らえば緊急脱出するのよ?」

「当たらなければどうということはない。とにかく、勝つ事を大前提に、他の部隊が成長出来るように立ち回ってる。おれはそう思ってるよ」

「ふむ」

 

 

 例えば、鈴鳴第一の村上鋼。

 彼の壁として立つことでソフィア自身を目標として認識させ、彼の向上心を促した。

 

 更に、遊真自身。

 ソフィアとの再戦の条件として「鋼と影浦に勝ち越す事」を提示する事で、彼らとの親交のきっかけを作り、ほぼ同じレベルの攻撃手同士で切磋琢磨させてそれぞれの実力を高めた。アンデルセン隊のアリスも加わってより効果的にもなったし。

 

 そして、二宮匡貴。

 B級不動の1位という地位を確立していた部隊を率いる彼を叩きのめし、その闘志に火をつけた。その結果、遊真たちが窮地に陥りそうではあるのだが。

 

 

「そうね、当たりよ。あなたたちボーダーの皆にはもっと強くなってもらわないと困るの」

「やっぱりか。東隊と当たった試合も?」

「あれは正直東くんに一杯食わされたわね。わたし自らの手で蜂の巣にしてやりたかったのだけど、逃げられちゃったわ。アリスと万理華がいなかったら、恐らく東隊にポイント負けして勝ち逃げされてたわね」

「……東さんはバケモノか」

「実は戦場帰りです、とか言われても驚かないわね」

 

 

 意図的に試合をコントロールしてきたソフィアだったが、東に逃げられたのは普通に素だったらしい。

 

 その後、灯を呼び戻してそこそこに会話を楽しみ、作戦室を後にする遊真なのだった。

 

 

 

 ──ガロプラ襲来まで、あと一日。

 




どうでもいいことですけど
最近雨が多い気がします。
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