今回ステージと時刻が原作の七戦目と同じ+組み合わせも似ている(東隊がおらず、玉狛第二がアンデルセン隊に変わっている)ので。
ガロプラ襲来当日。
運がいいのか悪いのか、この日はちょうどランク戦とかぶっており、多くの隊員が本部基地に足を運んでいる。
そして──。
『皆さんお待たせしましたー! 本日の実況を務めます、海老名隊オペレーター、武富です! B級ランク戦五日目、昼の部。あのアンデルセン隊の試合が、遂に始まります! 解説には、先日の試合で見事アンデルセン隊を一人落とした上で逃げ切った、東隊隊長の東さんにお越しいただきましたー!』
『どうぞよろしく。逃げ切ったと言っても、結局試合は負けでしたけどね。少々予定外の事が重なって厳しい流れでした。おっと、今は関係ないですね。失礼』
最早恒例である大量の観客。
彼らが見守る中、解説兼緊急時の現場指揮を任された東が実況の武富と語り合う。
『おっと、選択されたステージは……市街地D! 市街地Dです! 東さん、これは……?』
『……なるほど。なんとなくですが鈴鳴の狙いが分かった気がします。このマップ自体は狭いのですが、大きな通りとそれに面した大きな建物が特徴的であり、中央に位置する大型ショッピングモールが戦闘の舞台となるケースが多い。いわば縦に広いマップと言えるでしょう』
『ふむふむ、ではその鈴鳴の狙いというのは?』
『外れていたら恥ずかしいので、実際に彼らが私が今考えている“手”を使ったら説明しますよ』
『えー……教えてくださいよー』
平然とした顔で恥ずかしいなどと宣う東だが、実際のところは十中八九間違いないと考えている。
鍵を握るのは、鈴鳴第一に所属するお調子者、別役太一である。
『直接アンデルセン隊と戦った東さんから見て、今回の試合はどうなると思いますか?』
『正直に言うとほぼアンデルセン隊の勝ちは揺るぎないでしょうね。隊長個人の強さが桁違いすぎる。おまけにチームメイト二人もアンデルセン隊長が率いる限り、マスタークラスどころかポイント1万超すら食らいかねないほどの駒に化けますから。真っ向勝負で行くとなると、私が旧東隊のメンバーを率いでもしないと勝てないと思いますよ』
『な、なるほど。東さんが言うと説得力が違いますね……。旧東隊とアンデルセン隊の戦いというのはかなり見てみたいですが、実現しそうですか?』
『そうですね、割と有り得ると思いますよ。楽しみにしていてください。さて、話をこの試合に戻しましょうか。少々脱線してしまい申し訳ない』
『いえいえ。あっ、ここで全部隊転送完了! マップは“市街地D”! 時刻“夜”!』
『さて……恐らく、私が気付いているという事はアンデルセン隊長も鈴鳴の作戦に気が付いているでしょう。果たして狙い通りに行くのか。見ものですね』
そう笑う東の言う通り、ソフィアはマップを軽く見回し、中央にそびえるショッピングモールを眺めて微笑んでいた。
「なるほど、そう来たか。さて、今回はどうしようかしら……太一くんを潰せば終わりなのだけど……」
「えっ、もう鋼さんたちの狙いが何か分かったんですか? 私はさっぱりです」
「だよねぇ。影浦隊はともかく、鈴鳴にも狙撃手は居るのに、どうしてこのマップなんだろぉ?」
【ソフィアさん、指示をお願いします~】
「そうね……アリスと万理華はすぐに合流してショッピングモールに。わたしは一人で動くわ。戦場はあそこになるから。現在位置はどっち?」
「了解、となると私は上からですね」
「はーい。私は地上にいるんでぇ、下からになりますねぇ。グラスホッパーで上がった方がいいです?」
「いいえ。中に入ってから上がって合流よ。敵と当たったらわたしに教えてちょうだい。潰しに行くから」
【じゃあ、あたしは二人のサポートに回りますね~。お二人共、各エースに注意です~】
「「了解」」
対する影浦隊、鈴鳴第一は……。
ちなみにだが、鋼たちはまさかスタート早々に自分たちの狙いがバレているとは思ってもいない。
ソフィアは個人としての強さが目立つので、指揮官としての力にはあまり注目されていないのだ。
「んー、ショッピングモールの中って少しやりにくいんだよねー。適当メテオラ封じられて、ゾエさんしょんぼり」
「おいヒカリ。ソフィ姉はどうだ」
【あん? まだゆっくりとしか動いてないからどいつがソフィ姉なのかわかんねーよ! 索敵しろ、索敵!】
「となると、今回はソフィアさんも慎重に行くって事なのかな。カゲさん、どう思う?」
「……派手に動いてねえとなると、アリスと万理華に経験を積ませるっつーのが一番ソフィ姉らしいな。たぶん今回はあんまり出てこねェんじゃねェか?」
「ふーむ。それなら多少は楽だけど」
北添はショッピングモールの近くに転送されたので早々に中に入り、影浦が来るだろう上階に向かって進んでいる最中。
影浦はやはり建物の屋上からスコーピオンを使って移動しており、ショッピングモールの最上階から中に入る構え。
ユズルは外で待つ事も考えたが、点を取るために中に入る事を決意。
影浦隊の面々は、とりあえず全員で合流してアンデルセン隊に対抗しようという考えである。
「来馬先輩、ショッピングモールに入りました。上の方に向かいますか?」
「……そうだね。僕も行くし、できるだけ早く合流した方がいい。太一、そっちはどうだい?」
「ベストポジションっす! これならすぐに目的地に辿り着けますよ! ただ、ソフィアさんが怖いぃ!」
「障害物がたくさんあるから、隠れながら慎重に進めばそうそう見つからないはずだ。縦に広いからレーダーもあまり当てにならないしな。落ち着け、太一」
「りょ、了解っす!」
【とりあえず今はまだソフィアさんらしき高速で移動する人は確認できていないわ。どこにいるか分からないから、皆気をつけて】
「「了解」」
影浦隊、鈴鳴第一の双方ともに、インパクトが絶大な上に遭遇が即ち死を意味すると言ってもいいソフィアを、いち早く発見する事に注力しつつ上がっていく。
開始位置は鈴鳴がかなりいい具合に分かれたが、果たして……。
『どうやら各チーム共にショッピングモールの上階を目指すようですね! これは道中でドンパチが始まる遭遇戦も有り得るか!?』
『ふむ。影浦隊も鈴鳴第一も、恐らくアンデルセン隊長の発見に気を取られていると思いますが、狭いショッピングモールの中でアンデルセン隊長の恩恵を受けている状態の蟻元隊員とぶつかれば、かなり危ういですよ。上手くエース格とかち合わせたいところです』
『東さん的には、影浦隊長や村上隊員であれば、アンデルセン隊の二人も止められると?』
『少なくとも時間は稼げるでしょうね。その間に、彼らのチームメイトがどれだけ点を取れるのか。また、新戦術を使うのであれば村上隊員と行動を共にするだろう来馬隊長がどう動くか。そこが勝負のポイントになりそうです。ただ、アンデルセン隊長に見つかればアウトですが』
『き、キツイですね……。なんだかあの人ならもう誰か見つけていそうで怖いです』
完全にソフィア恐怖症に陥っている武富がぶるりと震え、それを苦笑いしながら眺める東。
しかし、いわば隠れんぼに向いたマップであるここでは、さしものソフィアも敵の発見に手間取っていた。
「むぅ……レーダーではここなんだけど、上なのよね。全部吹き飛ばしちゃダメかしら……ダメね」
「何サラッと怖いこと言ってるんですか!?」
「それ私たちもやばいやつですよぉ!? ショッピングモールが今崩壊したら絶対下敷きになる自信がありますぅ!」
【ソフィアさん、なんだか今日は動きが鈍いですね~。大丈夫ですか……?】
「大丈夫。ただ、このマップ嫌いなのよ。落とされた事あるから」
「「へ!?」」
【嘘だっ!!】
「……そ、そんなに驚く事? わたしだって攻撃をいい具合にもらえば落ちるわよ」
落とされた事がある。
あのソフィアが放った驚愕の一言に、思わず足を止めるアリスと万理華。
しかしすぐに我に返り、再び走り出す。
そして──。
「えっと、誰もいないよね……グラスホッパーで登って、とぉ……!」
「あ。万理華発見。もうすぐ合流します」
「了解。そのまま上がって敵を探しなさい。見つけ次第噛み付いて大丈夫よ」
「はーい! あ、いたいたぁ」
「合流しました。指示通り更に上を目指します」
と、グラスホッパーで更に上階へと行こうとしたアリスと万理華だったが……。
『ここで北添隊員と影浦隊長がアンデルセン隊の蟻元隊員と八十神隊員を捉えた! アンデルセン隊の二人は北添隊員の銃撃を捌きつつ徒歩での移動に切り替えた模様!』
『アンデルセン隊長ならばともかく、空中だとどうしても回避能力が落ちますからね。その状態で影浦隊長の間合いに入ると一発で落とされる恐れがあります。妥当な判断でしょう』
「ハッ! 見つけたぜ、アリス!!」
「上がってきそうだけど、どうする?」
「決まってんだろ、遊んでいこうぜェ!」
【ソフィ姉に気をつけろよー。あの人ならどこから現れてもおかしくないからな】
「さっきソフィアさんを見かけた。下にいるみたいだ」
「ナイスだユズルゥ! 今のうちに狩る!」
地上だろうが空中だろうが馬鹿げたスピードで飛び回るソフィアは例外として、基本的には空中だと人は思うように動けない。
グラスホッパーで多少誤魔化せても、緑川や遊真のように“ピンボール”ができないアリスと万理華では、影浦の支配領域で跳ぶのは自殺行為である。
すぐに上がってきたアンデルセン隊の二人を、挨拶がわりとばかりに北添の銃撃が襲う。
ソフィアのサイドエフェクトを共有し、回避能力を高めたと言っても、まだ人間を辞めていない二人では、銃撃の嵐と影浦のマンティスをかわしながら進む、などという事はできない。
なので。
「万理華ッ!!」
「うん! シールドぉ!」
「来やがったなァ!!」
「アリスちゃんの早撃ちに注意してね、カゲ!! シールドは自分で! ゾエさんだと反応できないから!」
万理華がアリスの前方にシールドを張り、北添の銃撃を防ぎつつ猛進するアリス。
影浦はそれを嬉々として迎え撃ち、後衛の北添と万理華がそれぞれのチームメイトを援護する形となった。
『激しく争う両部隊!! しかし、鈴鳴の村上隊員と来馬隊長も近付いてきているぞぉ!!』
『アンデルセン隊長がシールドを一切使わないので忘れがちですが、トリオンが多い人間が張るシールドはかなりの強度になります。あの二宮に次ぐ程のトリオン量を誇る八十神隊員だからこそできた無茶ですね。他の人間が真似しようとすると普通に割られて終わるでしょう。蟻元隊員も、目視できるスピードとはいえかなり速かったですし』
実況の武富が言った通り、鈴鳴は作戦通り鋼と来馬がコンビを組んでこの場に接近していた。
太一はビクビクしながら一階に留まり、目的地である「電気室」で合図を待つ。
【ん! 二人とも、警戒~!!】
「「!」」
【警戒! やられんなよ!】
「あァ!?」
「ほ!?」
激しく争うアンデルセン隊と影浦隊の元に、鈴鳴の二人も加わる。
既に新戦術の構え……鋼がレイガストを構えて防御姿勢に入り、来馬が両手に突撃銃を持って攻撃を担当する、という状態に入った上で。
「外したか……! すまない、鋼」
「いえ。あいつら相手にいきなり当たるとは思わない方がいいです。ここが正念場ですね」
『出たァー!! 先日の試合で玉狛第二と熾烈な得点争いを繰り広げた、鈴鳴の新戦術です!』
『シンプル故に破るのが難しいんですよね。ここに狙撃も加われば影浦隊が有利になるかもしれませんが、絵馬隊員がいる階のすぐ下にはアンデルセン隊長がうろついている。迂闊に撃てば即緊急脱出させられます』
『鈴鳴第一と言えば、村上隊員をアタッカーとして前面に出し、来馬隊長と別役隊員がそれを援護する形が常でしたが、新しいやり方が増えたのはどういう心境の変化なんでしょうね?』
『恐らく、先の大規模侵攻で思うところがあったのではないでしょうか。それに、鈴鳴の来馬隊長は以前アンデルセン隊と当たった時、仕事があまりできないままアンデルセン隊長に緊急脱出させられましたし』
『なるほど! 苦労が新たな武器を生み出したのか!! さあ、アンデルセン隊と影浦隊はこれにどう対抗する!?』
あのソフィアがおとなしくしている事に観客席が若干ざわつく中、真剣な表情で試合を眺める東。
銃撃と斬撃の嵐がショッピングモールを荒らしに荒らし、援護役の万理華、北添、村上の三人が必死にそれを防ぐ。
「くそっ、やりづらいなぁ!」
「そ、ソフィアさぁん!!」
【ヘルプ求められてますけど~?】
「まだよ。もう少し粘りなさい。鋼くんのレイガストだっていつかは割れるしね」
「了解……ッ!」
「ふぇー、忙しいよぉ!! あっ、シールドぉ!!」
「ハハハッ!! なんだこれ、当たらねえ!! やるなぁ、アリスゥ!!」
「どわっち!? あ、当たりそうなものはどぅわっ!? きちんと援護役の万理華ちゃんが防いでるんだよね……っとぉ!! あっぶなー!!」
「くそっ、当たらないよ!! 仕方ない、やるか!」
「了解です。カゲもそうだが、アリスも本当に粘るな……これほどやりにくくなるとは思わなかった。ラウンド4で当たらなくてよかったな……」
ものすごく楽しそうな影浦と、なかなか落とせない事に苛立ちを隠せないアリス。
できればこんな昇り降りする階段の近くではなく、店の中で作戦に移りたかった来馬。
そして、震えて待つ太一の元に、ようやく合図が。
「太一ッ!!」
「了解っす! 3、2、1、スイッチョフ」
【視覚支援】
「「!?」」
突然暗くなり、思わず動きを止めるアンデルセン隊と影浦隊。
『おっとぉ!? ここでショッピングモール内が停電!?』
『別役隊員ですね。なかなか上手く考えたと思います。しかし……既にバレてますよ』
【……!? まずい!! 太一!】
「ひょ?」
【あっ! アリスさん!!】
「見えないんだけど!?」
「まりかガードぉ!!」
《トリオン供給器官破損。緊急脱出》
《トリオン供給器官破損。緊急脱出》
ドドンッと、二つのトリオン体が緊急脱出した。
誰と誰が消えたのか……。
『あっと!? ここで別役隊員と八十神隊員が緊急脱出!! 先制は……えーと』
『二部隊ほぼ同時でしたね。別役隊員はアンデルセン隊長に落とされ、八十神隊員は狙われた蟻元隊員を庇って村上隊員に落とされました』
『あ、ありがとうございます東さん。先制は、アンデルセン隊と鈴鳴第一です!』
太一の位置を探し当てたソフィアが少し遅れて彼を仕留め、鋼がアリスを狙うも、万理華がアリスに抱きついて身を盾にし、緊急脱出。
シールドを使わなかったのは、どこから攻撃が来るか分からなかったからである。どこにシールドを張ればいいのかが分からなかったのだ。
何はともあれ。
【視覚支援~】
【視覚支援! これで文句ねーだろ!】
「ごめん灯、助かった! 万理華も、守ってくれてありがとうね!」
「ふむ。万理華が落とされた……か。仕方ないわね。遅れてごめんなさい」
【仕方ないですよ~。ねー、万理華さん?】
【うんー。はー、守れてよかったぁ】
「おせーんだよヒカリィ!」
「ちょ、カゲ! ありがとうヒカリちゃん! すんごく助かった!!」
【んだコラカゲェ!! ソフィ姉に言いつけてやるからな!!】
「 」
「太一の居場所がバレてたか……!」
「なんとか一人落とせただけでもよかったです。よくやった、太一」
【褒めたら調子乗るわよコイツ】
【ですよね!! よくやりましたよおれは! ソフィアさんに探し回られてるのが見えてめっちゃ怖かったんすからね!? 勝ってくださいよ!】
援護役を失ったアリスが窮地に立たされ、全員に視覚支援が入った事によって鈴鳴の有利は失われた。
これからがこの試合の本番、といったところか。
「な……」
「先輩!!」
《トリオン供給器官破損。緊急脱出》
しかし、更に戦況が動く。
「……ヒット」
「っし、よくやったユズル」
『こ、ここで来馬隊長が緊急脱出!? 今のは、狙撃!?』
『こっそりと上がってきていた絵馬隊員が下から天井を抜いて、上の階の来馬隊長を撃ち抜きましたね。フルアタックは強力ですが、シールドを張れなくなるので脆いという弱点があります。そこをカバーするのが村上隊員の仕事なんですが、上手く不意を突かれました』
『なんと……! これまた珍しいものが飛び出しました! 若き天才狙撃手、絵馬隊員! さすがの腕前というべきか、村上隊員の防御を掻い潜って見事ターゲットの来馬隊長を仕留めました! これで影浦隊が大幅に有利となったか!?』
鈴鳴が優勢に進められる要因となっていた来馬が落とされ、唯一援護役が生き残っている影浦隊が非常に有利な試合運びとなった。
しかし、それを黙って見ているわけもない。
「アステロイド」
【もうちょい右、はい、そこです~!】
「どぅわっち!? あー……れー……」
「!? ゾエ!!」
「これは……ソフィアさんのアステロイド! ふう、助かったー……」
「まずいな……遂に来たか……」
更に、試合が動く。
「……ほ?」
「邪魔よ」
《トリオン供給器官破損。緊急脱出》
『ここで北添隊員が緊急脱出!! と、とんでもない技が飛び出した~!! あの、東さん……解説お願いします……』
『はは、了解です。先程別役隊員を仕留めたアンデルセン隊長ですが、一旦絵馬を放置して上階に。そして、北添の真下からアステロイドで天井を抜き、立っていた床が崩落して落ちてきた北添を、飛び上がりつつ弧月で斬り捨てた、という流れでしたね』
『相変わらずすごい事しますね……この短時間で二度も天井抜きが見られるとは思いませんでした』
東の言う通りである。
そして、北添が落ちていった穴から代わりにソフィアが飛び出し、威圧感全開で着地した。
すぐさまアリスが下階に降り、グラスホッパーで速やかに移動しつつユズルの元へと向かう。
それを確認したユズルは、すぐさま逃走を開始。
アリスとユズルの鬼ごっこが始まった。
「は、ハハ……! 最終局面ってか……!」
【待てユズル! そっちはやばい! あっちにはグラスホッパーがあるんだぞ!】
「そんな事言われても。このマップじゃ逃走ルートがかなり限られてるよ。ちょっと逃げるのが遅かったか。こうなったら……」
「……結局最後はこうなるか。なんとかカゲをとっておきたいところだな……」
魔王と対面した影浦と鋼。
若干ボヤきながらも構え、少しの動きも見逃さないように注意する。
しかし、これまでの激しい争いで多少なりと負傷している二人と、無傷であるソフィアとでは、結果が目に見えているというのが正直なところだ。
そして、影浦と鋼が同時に互いを見つめ、頷く。
「「ッ!!」」
『おや、どうやら影浦隊長と村上隊員は共同戦線を結んだようですね! 二人一緒にアンデルセン隊長へと向かっていきます!』
『無難なところですね。しかし、完全に味方というわけではない。恐らく、互いが互いを落とせる隙を窺っている事でしょう』
「アステロイド+バイパー……“コブラ”」
「「ぐっ!?」」
ここで、ソフィアが新技を見せた。
A級1位部隊、太刀川隊所属の天才射手、出水公平が考案した必殺技、とも言えるべき業。
『こ、これは……合成弾!? 威力が高く、自由自在に動く特製弾が影浦隊長と村上隊員を襲う!!』
『まあ、彼女なら使えるでしょうね。特に驚く事でも無いでしょう。問題は、非常に豊富なトリオン量を誇る彼女の合成弾は、本家たる太刀川隊の出水隊員のソレと比べても桁外れに高威力だという事ですか』
『な、なるほど。たしかに、村上隊員のレイガストが見る見るうちに削られていきます! 影浦隊長も時折村上隊員の陰に隠れるなどして避けていますが、決して少なくないダメージを負っている様子!』
ソフィアが使える合成弾は二つ。
バイパーとメテオラを組み合わせたトマホークと、アステロイドとバイパーを組み合わせたコブラだ。
トリオン量の多さを最大限に活かせる彼女の合成弾は、東が指摘した通り凄まじい威力を発揮する。
近距離では剣技で圧倒し、中距離では超火力で粉砕する。
“向こう”の世界にて、“ノーマルトリガー最強”と呼ばれたソフィアの真骨頂である。
このまま削り殺されるかと思われた影浦と鋼だったが……。
「3、2、1、スイッチオン……ぐっ」
【視覚支援解除!】
「「!?」」
「悪ぃな、鋼」
「ソフィアさん!!」
アリスから逃げ切る事を諦め、太一がいた一階の電気室に辿り着いていたユズル。
彼は、背中でショッピングモールの照明の主電源をオンにしつつ、イタチの最後っ屁とばかりに、オペレーターの光から送られたマップデータとレーダーを頼りにソフィアを狙撃。
そして、影浦。
鋼と視線を合わせて頷き、さも「ここは共同戦線と行こうぜ」と言わんばかりだったが、実は影でユズルからの提案を受け、ポイントを勝ち取るべく見事に鋼を騙し討ちした。
結果──。
《トリオン供給器官破損。緊急脱出》
《トリオン供給器官破損。緊急脱出》
『…………こ、これは……!!』
『……驚きましたね。まさか影浦隊がこんな手を使ってくるとは。そして何より……』
「ちっ……やって、くれたわね……! だからこのマップは嫌いなのよ……!!」
「は……ハハハ!! やったぜ! 見たかコラ!! 影浦隊舐めんなよ!」
【し、視覚支援解除~!! 大丈夫ですかソフィアさん!?】
落ちたのは、ユズルと鋼だ。
ユズルは追いついてきたアリスによって蜂の巣にされ、鋼は先述の通り影浦の騙し討ちに遭い、彼の肘から伸びてきたスコーピオンに貫かれた。
しかし、観客も、実況も、それぞれの隊員たちも。
やった張本人である影浦隊の面々ですらも驚かざるを得なかった事実──。
『ひ、被弾!! 被弾です!! あのアンデルセン隊長が、初めてダメージを負いました!!』
『と言っても大した傷ではありませんから、大局には影響しないでしょうけどね。それでも大したものです。絵馬隊員としては心臓部分……トリオン供給器官を破壊したかったのでしょうが、アンデルセン隊長が咄嗟に避けた事で左手を失う程度の損傷に抑えられましたね』
『なんでそんなに落ち着いてるんですか東さん!? これはものすごい事ですよっ!! 影浦隊すげー!』
圧倒的な強さでランク戦を蹂躙してきたあのソフィアが、まさかの被弾。
と言っても東の言葉通り大局に影響はなく、影浦はその後あっさりとソフィアに落とされた。
しかし、確かに。
確かに、影浦隊は絶大なインパクトを残した。
どうあがいても越えられない壁だと思われたソフィアでも、被弾する事はあるのだ。
何にせよ、これで試合は終了。
色んな意味で見るもの全てを興奮させる名勝負が、たしかに記録されたのであった。
尚、得点だけを見れば、生存点を含め6対2対1でアンデルセン隊の圧勝という結果に終わった。
しかし、内容を見ればなかなかの接戦であったと言えるかもしれない──。
と、いうわけで。
ソフィアさんランク戦初のダメージ。
今までに彼女にダメージを与えたのは忍田本部長だけなので、すごさが分かるかと。