今日は三話ぐらい投下しますかね。
前触れもなく現れ、弧月一本とはいえあの忍田を下した“白服”、ソフィア・アンデルセン。
試合後、当然のように勧誘の嵐が巻き起こる……かと思いきや、肝心のソフィア本人が煙のように姿を消し、質問は残された忍田に集中した。
しかし、あまりにも重すぎる事情のため忍田もおいそれと話す訳にも行かず、幹部一同と迅が話し合って決めた“設定”を軽く語る程度で終わった。
そして、事が落ち着きを見せた頃──。
「あの娘の扱いはどうする? あの実力といい、外見といい、近界民なのではないかと勘違いする者が多く出るかもしれんぞ」
「まさか、本当に忍田本部長に勝ってしまうとはねえ。約束は約束とは言え、少々軽率だったか……」
「……既に彼女の“設定”は出回っている。あれほどの実力の持ち主だ、戦力として加えない手は無いだろう。先に言っておくが、少なくとも私は本気で戦ったぞ」
「…………」
城戸司令をはじめとするボーダー上層部は、“ボーダーが壊滅した未来”からやってきたという少女──実年齢は人形のように整った可憐な容姿に反して意外と食っているらしい──ソフィア・アンデルセンを、いくらあの迅が連れてきたからと言っても完全に信用したわけではない。
しかし、だからと言って妄想だと捨て置くには彼女の話はあまりにも衝撃的であり、「ボーダーにおけるノーマルトリガー最強の実力者、忍田本部長に試合で勝つ事ができたら入隊を特別に認める」という約束もしてしまった。
その難題を突破された以上、やっぱりダメ、と突き返すのはあまりに不誠実であり、玉狛支部にでも行かれようものならパワーバランスが崩壊する恐れがある。
更に言うなら、彼女が持っていた黒トリガーもこちらが回収しているのだ。と言っても壊れていて使えないようだが。
「下手に放り出して玉狛支部に行かれる方が面倒だ。敵意は感じられない以上、無下に扱う事もあるまい」
「……まあ、城戸司令がそう仰られるのなら、こちらとしては言うことはありませんがねえ」
「そうじゃな。先の侵攻で捕らえた近界民に確認を取ったが、あの娘が持つ情報は確かなようだし」
「そうなると、A級……あるいはS級として迎えたいところではあるが──」
「──それは無理だな。平行世界とやらで隊員だったとしても、こちらでは新入りだ。そこまで特別扱いはできない」
「まあそうですね。それでなくても最近は玉狛と揉めたばかりだ。不満が募って内部分裂、なんて事にもなりかねない」
「……彼女は自身が隊長を務める部隊の新設を要求していたな」
「すぐに手配しましょう。忍田本部長、空いているオペレーターは?」
「問題ない。優秀な者を回せる」
「よし。それではそのようにあの娘にも知らせておくか。連絡先も教わっとるからな」
結果、忍田を下すほどの実力者が玉狛支部に流れてしまう事を恐れた城戸司令の言葉により、ソフィアは本部直属の新人B級隊員として迎えられる事となった。
これに参ったのは職員たちである。
事前に通達されていたならまだしも、あまりにも突然にB級隊員……そして新部隊が増える事となったのだ。
十分な広さを持った部屋を大急ぎで整え、作戦室として必要なだけの設備を運び出す。
これを一日でやれと言われれば愚痴の一つも出る。
しかし、作り物のように整った非常に美しい容姿を誇るソフィアに微笑みと共に礼を受け取り、あっさりと手の平を返し「これぐらいならいくらでも!」と騒いだとか。
そして──。
──B級新部隊「アンデルセン隊」作戦室──。
見知らぬ“白服”に忍田本部長が敗北するという衝撃の大事件の翌日。
一夜にして増えた新たな作戦室を、スーツ姿の少女が訪れていた。
「すいませ~ん。新しくこの隊のオペレーターになるように言われた猫山ですけど~」
「──どうぞ」
猫山
A級部隊のオペレーターに匹敵する処理能力を持ち、冬はコタツで丸くなる系女子である。
歳は15と若く、将来を期待される優秀な人物だ。
どちらかと言うと忍田派閥な彼女は、上司である忍田に「新しくできる部隊のオペレーターになってほしい」と申し付けられ、こうしてやってきた次第である。
尚、別に忍田はタイプではない。
なんかやけにガチめなトーンで言われたけど、まあやっと部隊のオペレーターになれるんだしバンザイって事でいいかなーと呑気に構えていた猫山だったが──。
「失礼しま~……す……?」
「いらっしゃい。あなたがわたしのオペレーターになってくれるのね? ありがとう、嬉しいわ」
作戦室のドアを開け、新部隊の隊長と思われる人物と相対した瞬間……銅像のように固まった。
「……あら? どうしたのかしら。動かなくなっちゃったわ」
「──か」
「うん?」
珍しい女性隊長だったから?
否。たぶん、否。
あの忍田本部長を破ったと噂の少女だったから?
それもある。
しかしそれより何より大きかったのが──。
「かっわいい~……人形みたいな女の子って本当にいるんだ~……」
「うふふ、ありがとう。さあ、そんなところで固まってないでお入りなさいな」
「う、ちょっとこんなかわいい子の部屋に入るのはちょっと難易度が高いというか聖域すぎてあたしなんかが烏滸がましいというか」
「いいから、入りなさい」
「あっはいすみません」
隊長が、あまりにもかわいすぎた。
ラノベのタイトルになりそうなほどである。
ウチの隊長がこんなにかわいいわけがない、とかそんな感じの。
更に──。
「……(おっぱい揺れとる)……」
「? どうしたの?」
「イエ、ナニモ」
巨乳、巨乳である。
それも圧倒的なサイズだ。
歩く度に乳揺れが起きても不思議ではないレベル。
灯は生まれて初めて心の底から忍田に感謝した。
究極にパーフェクトな美少女のチームメイトにしてくれた事に。
彼女の心の中で忍田の株が急上昇した瞬間である。
それはさておき。
「じゃ、初めまして。この度新設された“アンデルセン隊”隊長、ソフィア・アンデルセンです。こう見えて歳は……そうね、21よ」
「エッ」
「よく間違えられるのよね」
「ま、まぁたしかに高校生ぐらいかと……あの、外国の方ですか~?」
「ううん。両親はそうだけど、わたしは日本生まれ日本育ちの日本人よ。だから外国語には疎いの」
「はー、そうなんですね~」
21歳。21歳である。
てっきり自分の一つか二つ上くらいだと思っていた灯はビックリした。
というかボソッと聞こえた「本当は25だけど、今は21だし……」というソフィアの言葉は聞かなかった事にした。
「えーと、あたしは猫山灯と言いまして~。15の中三やってます~。隊のオペレーターやるのは初めてなんですけど~、仕事はきっちりやりますんで~」
「15! 若いわねえ。好きな男の子とかはいるのかしら?」
「はい? い、いや。いませんけど~?」
「あら、そうなのね。ダメよ、青春はあっという間に過ぎ去るものなんだから」
「は、はぁ。えーと、アンデルセン隊長は──」
「ソフィアでいいわよ」
「あっはい。ソフィアさんは~、やっぱり攻撃手ですか~? 忍田本部長に勝ったと噂になってますし~」
「あら、もう噂になってるのね。そんなに珍しい事なのかしら?」
「そりゃそうですよ~。本部長が試合やるってだけで珍しいのに、負けたってんだから驚きです~」
「そういうもの?」
「はい~」
あっ、この人めっちゃマイペースだ。
灯は察した。
ウチの隊長、超絶可愛い見た目でちょっと不思議系が入ってる系女子だと。
あと、たぶん世話好きである。
若干オバ……これ以上は死ぬ気がするので考えるのをやめた。
「で、攻撃手ですか~?」
「わたし?」
「はい~」
「ボーダーの基準から言うと、攻撃手ではなく射手という事になるわね。まあ、しばらくは弧月ばかりしか使わないだろうから、結局は攻撃手になるのかしら」
「エッ」
思わぬ返答に灯ちゃんフリーズ。
だってあの“虎”を、忍田本部長を弧月で狩る程の腕を持っているのだから、普通はそれを活かして攻撃手をやると思うだろう。
しかしそこはできる女、灯。
マイペースな隊長が言った「ボーダーの基準」、「結局は攻撃手になる」というワードに反応し、頭を回す。
「弧月も使うんですよね?」
「あら、聞こえなかった? しばらくは弧月ばかりしか使わないわ。だから万能手という事になるのだけど、今のわたしは点が足りないから」
「あー、そういう」
なるほど、と頷く。
そういう事なら納得である、と胸を撫で下ろした。
撫で下ろす胸が無いとか言ってはいけない。
大変豊かなアンデルセン隊長とは違い、灯ちゃんは貧しい。貧しいが、まだ15歳。希望はあるのだ。
ふと、灯は部屋を見回してみた。
しかし、ここに居るのはどう足掻いても灯とソフィアの二人だけである。
はて、と首を傾げた。
「どうしたの?」
「あ、いや。他の隊員はまだ見つかってないのかなーと。ランク戦始まるまであと少しですよ~?」
「ああ、その事ね。ウチは二人だけでスタートするつもりなのよ」
「エッ」
はて、本日何度目の「エッ」であろうか。
目の前の大変ご立派な隊長には驚かされてばかりである。
いつか絶対にこの人を驚かせてやる、と灯はこっそりと誓った。
しかしまあ聞いてみれば充分理解できる話ではあった。
「自慢になってしまうけれど、こう見えてわたしは強いし、ランク戦まで時間もない。わたしについてこられる隊員が見つかるとはとても思えないわ」
「なるほど、たしかに~。他所から引き抜くにしても、結局時間無いですしね~。おまけにあたしたち新部隊ですし~」
「そういうこと。もちろん、名を上げたらきちんと探してみるつもりではあるけれどね」
ソフィアについていける人員となると、A級隊員かB級上位部隊のエースレベルであろう。むしろそれでも不足な可能性まである。
しかし、現時点でそんな人員を引き抜く事などまず不可能と言っていい。
「納得納得、です~。そんじゃ~、とりあえずトリガー構成と戦闘スタイルとか、諸々教えて貰ってもいいですか~? 頭に叩き込んでおくので~」
「ええ、わかったわ。まず──」
こうして、ランク戦開幕直前に新設された部隊、アンデルセン隊の二人は親睦を深めていった。
そして、その最中にサラッと告げられた「わたしにはサイドエフェクトが二つあるの」という言葉に、灯は仰天する事になる。
本日何度目かの「エッ」である。
尚、厳密にはサイドエフェクトは一つ……曰く“神の眼”と呼ばれる超視覚だけらしく、二つ目のものはとあるシリアスな経験から得た後天的な体質との事。
それって結局サイドエフェクトって事でいいですよね~、と思った灯であった。
というか、いったい誰に“神の眼”などという中二な名前で呼ばれているというのだろうか。
「これ、ソフィアさん落ちる気しないんですけど~」
「そう? 油断は禁物よ。戦いは何が起こるか分からないから」
「まあ、そうなんですけどね~。絶対攻撃当たらないじゃないですか~。本部長みたくカウンターで合わせるとか、避けようがない攻撃ぐらい~? でもあの超スピードに反応できるなんて、それこそ本部長ぐらいだと思うんですよね~」
「見てたのね」
「そりゃもうねっぷりと~」
そんなこんなで、幸いにもあっさりと打ち解け、早速一緒にお出かけする約束を取り付けた灯であった。
ちなみに後日、「勝ち組ってあたしの事だよね~」と周囲に自慢して回ったらしい。
本作の世界では普通に我々がよく知るアニメもやっているので、意外とノリがいいソフィアなら「アンデルセェェェン!!」って叫んだらどこからともなく出てきてくれます。