ガロプラ襲来当日。
B級ランク戦のラウンド5が終わったソフィアは、忍田に呼ばれて本部作戦室に詰めていた。
「皆、そろそろ時間よ。気を引き締めてちょうだい」
「おう。そういや防衛会議は別として、こうして直接話すのは初めてか? ソフィアさん。今更だけど」
「んな事今はどうでもいいでしょ、太刀川。それより、東さんならともかく、なんでB級部隊の隊長がここにいんのよ。おまけに車椅子乗ってるし」
「まあまあ、太刀川さんに小南。まだ予知は来てないけど、もういつ敵が来てもおかしくないんだから」
小南に太刀川に迅。
加えて、今や唯一のS級隊員となった天羽と、本部長である忍田。
錚々たるメンツが集まる中に、何故かB級部隊の隊長が混ざっているとあって、小南が疑問の声を上げた。
ここで不信感を抱かれては結束に綻びが生じかねない。そう判断したソフィアが、理由を説明しようと口を開きかけるが──。
「私の指示だ。詳細は伏せるが、ソフィアは近界民の事に詳しい。我々の誰よりもな。加えて、黒トリガーに匹敵する実力を誇る、ボーダーの最高戦力の一人でもある。天羽、お前よりも強いかもしれないぞ」
「……確かに、今まで見た事ないような“色”してるね。まあ、別に最強がどうとか興味無いし。その人がボーダー最強って事でいいんじゃないの」
「……ふーん。ま、いいわ。指示って事ならそれで」
先に忍田が説明し、小南を納得させた。
確かに、ソフィアは忍田に呼ばれてここに来たわけなので間違ってはいない。
尚、天羽はどうでもよさそうに返答し、もぐもぐとぼんち揚げを食べている。あんまりソフィアに興味が無いらしい。
「そこまで言うんならもう特例って事でソフィアさんをS級にした方がいいんじゃないのか?」
「慶……。ああ、それは私も考えた。しかし、この子はサイドエフェクトを共有する事で、部隊の戦闘力を大幅に上げる事ができる。単独行動が基本となるS級よりも、部隊で活動させていた方がいい」
「まあ、一理あるか。ランク戦で当たるのもいい経験になるだろうしな」
小南に続いて太刀川が質問し、それを想定していた忍田は淀みなく答える。
実際、ランク戦で見せる桁違いな強さに、上層部でも「ソフィアを特別にS級に引き上げてはどうか」という意見があったのだ。
しかし、ランク戦は実戦とは違い負けても失うものはなく、敗北から学ぶ事こそが本懐である。
昼に行われたラウンド5で、影浦隊が初めてソフィアにダメージを与えて見せたように、ソフィアの……そしてアンデルセン隊の存在は、ボーダーに所属する各隊の成長を促している面もある。
更に、対人型近界民戦の演習にもなっている節がある、各隊の対アンデルセン隊戦は、色々な意味で人気が高い。
これを機に、風刃を装備した迅を仮想近界民とした対人型近界民撃退訓練を実施してはどうか、という討論が上層部でなされていたりする。
「……まあ、そんなわけだから。とりあえずあんたを認めてあげるわ。ウチの遊真も世話になってるみたいだし」
「ありがとう、小南。太刀川くんもいいかしら?」
「いやいや、俺は元から文句なんてないって。ただ、なんでS級にならないんだろなーって不思議に思ってただけだから。あんたがここにいるのも当然だしな」
「うふふ、そう」
玉狛第二がアンデルセン隊に完敗した事を根に持っているのか、ちょっと刺々しい小南に苦笑いし、そんなソフィアを見て慌ててブンブンと首を振り誤解を解く太刀川。
決して怒れる夜王……もとい、二宮にボコられる事を恐れたわけではない。
「さて……では、敵が来ていない今のうちに作戦のおさらいをしておこう」
「了解。たしか、敵のガロプラとかいう奴らは遠征艇を狙ってくるんだったか?」
「ああ、そうだな」
「ちょっと待ってよ。なんでそんな事が分かるわけ? 前の大規模侵攻みたいに、トリガー使いを捕獲する事が目的かもしれないじゃない」
「確実に、とは言えないけど確率は高い。なぁに、俺が敵を見れば正しいかどうかなんて一発で分かるさ」
「はぁ? あんたたち、なにを隠してんのよ?」
ここで、天羽はひとまず置いておくとして、この中で唯一ソフィアの事情を知らない小南が食ってかかるが、迅も太刀川ものらりくらりと避けるばかりだ。
「わたしが知っているからよ。彼らの目的と正体を」
「……どういう事よ。あんた、やっぱり近界民なの?」
「それは違うわ。コトが無事に済んだら教えるから、今はわたしを信じてくれないかしら?」
「…………」
そんな小南を哀れに思ったか、味方同士で仲違いする事を恐れたか。
自らの言葉を元に今回の作戦が立てられている事をソフィアが明かし、そんな彼女を小南が睨む。
「……はあ。分かったわよ! なんだか、あたしだけごねてるみたいじゃない! でも、約束よ!? そのゴロプラとかいう奴らを追っ払ったら、全部説明しなさいよね!」
「ガロプラな」
「う、うるさい!! ちょっと間違っただけでしょ!」
向こうでの妹分に睨まれ、思わず困った顔になるソフィア。
それを見た小南は、無性に罪悪感が湧き上がり、ソフィアを信じている様子の忍田たちを信用する事にした。
決して、ソフィアに絆されたわけではない。
と、小南本人は言い張っている。
「では、話を戻すぞ。ガロプラの狙いは遠征艇を破壊し、我々の足を止める事。そして同時に、我々の目をアフトクラトル本国から逸らさせる事だ。そうだな、ソフィア」
「ええ、そう。そのために、陽動として大量のトリオン兵を中心に外側からこの基地を攻め、わたしたちの目がそちらに向いているうちに数人が基地内部へ侵入。奥に進み、遠征艇を破壊……そういう流れのはずよ」
「基地ん中に入ってくる奴らは捨て駒か? それとも絶対に生きて帰れるっていう自信がある精鋭か? どっちにしろ、俺らに捕まったら終わりじゃないか」
「彼らには新型の装備……ボーダーの緊急脱出システムとほぼ同じものがあるの。だからこそ無茶な真似も平気でしてくるわ」
「「!」」
「なるほど。ま、こっちもあっちの技術を真似てるわけだからな。あっちが真似てきてもおかしくはないか」
近界民側にも緊急脱出がある。
それを聞いた小南たちは、瞬時に無数の状況を想像し、顔を顰めた。
捨て身の自爆行為を仕掛けてくる近界民とか、厄介すぎてちょっとやってられない。
「それを差し置いても、相手の一人は忍田さんに近い実力を持つ使い手よ。楽観視はできないわね」
「ふむ。それならば、慶たち攻撃手上位陣を遠征艇の防衛に回す方がいいか」
「OKOK。強い敵が来るってんなら退屈な待機も大歓迎だ」
「うっかり遠征艇を破壊されたりしないでよ。あたしは守るより攻める方が得意だし」
「なっはっは。生憎だがそれは俺もだ」
師匠である忍田に近い実力者が来る。
それを聞いた太刀川は、ウキウキ気分で遠征艇の防衛任務を快諾した。
小南もほぼ同じである。
そんな二人を見て、若干不安になる忍田。
「……ソフィア、あいつらで大丈夫だろうか?」
「大丈夫よ。それより、わたしはどこに行けばいいかしら? 中? 外?」
「んー。ソフィアさんはいわばジョーカーだからなぁ。戦況を見て投入できるように本部作戦室で待機してた方がいいんじゃない? でも、冬島さんがいればすぐに移動できるから待機ってのも勿体ないか?」
「そうだな、中の戦況次第ではあるが、基本的にはソフィアには東に代わり外の指揮をしてもらいたい」
「ええ、大丈夫よ。カゲくんはどうするの?」
「影浦は……中だな。外はトリオン兵が中心なのだろう? それならば対人型近界民に回した方が活きる」
「そうね、その方がいいと思うわ。となると、影浦隊は別行動って事になるわね。ゾエくんとユズルくんは外の方がいいでしょうし」
「そうなるな」
対人型近界民戦ができると聞いてワクワクな太刀川と小南はさておき、冷静に話し合う忍田と迅、そしてソフィア。
その後も着々と会議は進んでいき──。
「……おいおい、マジか」
「……来た?」
「うん、来た。忍田さん! 近界民が来る! パターンは予定通り“A”で!」
「わかった。予定通り人員を配置する」
「OK、予定通りな。気張っていくとするか」
未来を見た迅の合図で、皆が持ち場に移る。
そんな中、“太刀川が真っ二つにされる未来”を小南に教え、真剣な表情で迅がソフィアに問う。
「ソフィアさん。いつでも遠征艇の方に回れるように準備しといた方がいいんじゃない?」
「……どうかしら。太刀川くんが真っ二つにされても、それで終わるわけじゃないわよ?」
「なんだ、知ってたの?」
「ええ。あっちでも同じだったから。まあ、確かに準備はしておいた方が良さそうね」
「うん。しくじるわけにはいかないからね。今回の敵は……思ったよりも厄介そうだ」
ゲート、出現。
ガロプラ、侵攻開始。
とりあえず、忍田の指示通りソフィアは外で基地防衛の指揮をとる事となったが、中で遠征艇の防衛にあたる太刀川たちの戦況が悪化すれば、冬島が仕掛けたワープトラップを用いてすぐさま基地内部での争いに乱入する、という手筈である。
もっとも、ソフィアは太刀川たちが負けるとは思っていないが。
迅や忍田も同様だろう。
原作での天羽が詳細不明すぎてどう書けばいいのか非常に困る……。
ノーマルトリガー装備時のパラメーターこそ開示されてはいるものの、大して強いように見えないし……。
でもかませにするには「迅より戦闘能力は上」っていうセリフ(たしか根付さんだったか?)がネックになる。
どうすんだこいつ(:3_ヽ)_