今日は夜勤なので、夜までに投下していきます。
何を考えているのかよくわからない、三輪隊のお調子者アタッカー、米屋陽介。
彼が広めた情報によって個人ランク戦ブースに集った隊員たちは、今。
まさかの光景に、言葉を失っていた。
『トリオン供給器官破損。村上、緊急脱出。
10-0。勝者、ソフィア・アンデルセン』
ボーダーが誇る攻撃手4位にして、「強化睡眠記憶」と名付けられたサイドエフェクトにより、これまで戦った敵との経験を積み重ねている猛者が。
あの、村上鋼が。
今シーズン新たに参入したB級部隊の隊長に、為す術もなく完敗したのだ。
「つえーな……鋼さんが一本も取れないとか、そんなんありか?」
「忍田本部長に勝ったって話、本当だったのか」
「おい、米屋」
「太刀川さん。何すか?」
「アイツ、休憩は取ったんだよな?」
「そっすよ」
「それであれか。くそー、いいなー羨ましいなー。俺ともやってくれんかなー」
ようやく言葉を絞り出した米屋と緑川の元に近付き、心底羨ましそうに眺めるのは、太刀川慶。
攻撃手1位、そして個人総合1位の凄腕である。
ただし大学の単位を生贄に捧げたバカだが。
「強い……。嘘でしょ、あの村上先輩がストレート負けなんて……」
「これは、作戦を練り直す必要がありそうね……」
「そうだね、玲……」
鋼とソフィア。
次の試合で最も厄介な二人が戦うと聞いて、急いで飛んできた那須隊の熊谷と隊長の那須は、呆然と呟く。
あの鋼であればソフィアを仕留める事も可能なのではないか、と踏んで作戦を立てていただけに、今回の結果は衝撃的であった。
「俺おもたんやけど」
「なんすかイコさん」
「あの子、なんで揺れへんのやろな」
「私服の時は揺れるらしいですよ。迅さんが言ってました」
「マジで? それはさておき俺もやりたいわ」
「俺らだけゲスい会話してて恥ずかしいっすわ。それとイコさん。あの人普通に年上やで」
「マジで!?」
どこぞのお笑い部隊がそんなコントをしていたり。
ちなみに、どこが揺れるのかは察して頂きたい。
そんなギャラリーを尻目に……。
「強いですね……。正直驚きました」
「うふふ、鋼くんはまだまだね。精進なさい」
「そう、ですね。これからはもっと個人ランク戦をやるようにするか……」
戦いを終えた二人はにこやかに握手を交わし、鋼は敬意を持って頭を下げた。
これまでにもボーダーの凄まじい使い手とは戦ってきたが、ソフィアの強さは群を抜いていた。
何をしても攻撃を捌ききれず、相手を捕捉する事すらできない、というのは初めての経験である。
知ったつもりではいたが、あまりにも速すぎて目で追えないのだ。
レイガストで守りを固めたつもりが、気付けば後ろに回られていて斬られる。
打開策がまるで見えてこないというのは随分と久しぶりの経験である。
「そういえば、ソフィアさん」
「何かしら?」
「今回は弧月だけしか使ってませんでしたけど、他にも何か隠してますよね」
「ええ、そうね。弧月はどちらかと言うとメインというより近寄られた時の迎撃用なの。まあ、個人ランク戦だと弧月の方がやりやすいっていうのもあるのだけど」
「やっぱりそうか……うーん」
「次の試合、楽しみにしてるわ」
「こっちは対策を考えないと……忙しくなりそうですよ」
「いい事じゃない」
「──違いない。それでは、ありがとうございました」
「こちらこそありがとう。またね」
「はい、また」
隠し玉がある事を隠そうともしないソフィアに苦笑いしつつ、試合の事を考える鋼。
ソフィアは慢心している、と緑川やオペレーターの灯は言うが、どうやら慢心していたのはこちらの方だったらしい、と頭をかく。
正直、ここまで手も足も出ないとは思ってもみなかった。
「上には上がいる、か。その通りだったな」
「あっ、ソフィアさ~ん!? あたしを置いていかないでくださいよぅ~!!」
用は済んだという事なのだろう。
ソフィアは、集まった隊員たちに捕まらないうちにさっさと去り、それを灯が慌てて追いかけていった。
「っお~い村上!! お前ずるいぞ! 俺だってあの人とやりたかったのに!! どうして引き止めてくれなかったんだよ!」
「痛っ!? た、太刀川さん……?」
「もうこうなったらお前でいいや! やろう!」
「いや、俺は対策を考えなきゃいけないので……」
「うるせぇ、やろう!!」
「いや、だから──」
「はいはい太刀川さん落ち着いてー! ごめん鋼さん! このヒゲは俺が連行しますんで!」
「出水……た、頼む」
「うおお、離せ出水ィィィ!!」
「おい槍バカ! 手伝え!!」
「ガッテン承知っと。まったく、俺もやりたかったのによー」
思わぬ戦いを見て血が疼いたのか、単位を生贄にした個人総合1位が暴れたが、チームメイトである出水公平と、その友人である槍バカこと米屋によって捕獲。
ずるずると引き摺られ、去っていった。
それを呆然と見送る鋼。
そんな鋼に──。
「強いだろ、あの人」
「……迅さん? 珍しいですね」
「まあね」
「あの人って、ソフィアさんですか」
「うん、そう。あんなに強い人でも、どうにもならない事があるんだ。俺たちももっと強くならないとな」
「……仲間を、そしてこの街を、守るためですか」
「そゆこと。次の試合、楽しみにしてるぞ」
「あ、はい……」
迅が個人ランク戦ブースに顔を出すのは非常に珍しい。
今はフリーのA級なので、居ても別におかしくはないのだが。
案の定、鋼とソフィアの試合を見に来ただけだったらしく、迅はぼんち揚げを食べながら去っていった。
その後を犬のように追いかけていく緑川。
そして、集まりに集まった群衆は、どんどん消えていき、鋼もまた、その中に紛れて帰っていった。
そして、ソフィアは──。
「ソフィアさ~ん」
「ん?」
「チーム戦の時もそうですけど、どうして弧月しか使わないんですか? 他はまだメテオラ一発しか使ってないじゃないですか~」
「まだ時期じゃないのよ。でも、たぶん次の次からは弧月以外も使うわよ」
「ほんとですか~? とか言って結局メテオラしか使わなかったりとか~」
「メテオラも使う、の間違いね。皆を驚かせるのが楽しみだわ」
「旋空見せてくださいよ、旋空弧月~」
「結局弧月じゃないの」
「や、そうですけど。あれすっごいんですもん~」
「生駒くんもやるでしょ」
「……まあ、そうなんですけどね~。もう、冷めてるなぁ~」
「そ、そうかしら?」
「そうです~」
にゃーにゃーまとわりつく灯の相手で、ちょっと疲れていた。
こう言ってはなんだが、試合よりも疲れる気がする。別に嫌いなわけではないのだが。
貴重なソフィアの情報を隊の面々と共有し、対策について話し合う鈴鳴第一。那須隊。漆間隊。
しかし彼ら彼女らが頭を抱え、唸る。
負ける気など微塵もないソフィアは、しかし灯にぶーぶー文句を言われるほどリラックスしながら日々を過ごし、体操やら散歩やらに時間を費す。
無論、だらけているわけではない。
だらけているようにしか見えないが、これはこれで今の身体に慣れるという非常に重要な目的があった。
見据える先は、遠征。
そして四年後に訪れるかもしれない、アフトクラトルの大軍勢による襲撃。
全てはそのための布石なのである。
「ソフィアさん……結局、何も対策してないですけど~?」
「大丈夫よ」
「本当かな~……いや、体操とか眼福でしたけど」
「おじさんみたいね」
「おじっ!? 今言うてはならんことを言いましたよあなたは!! 15の乙女に向かってなんてことを言うんですか!!」
「事実じゃないの。さあ、にゃーにゃー言ってないで気持ちを切り替えるわよ。試合が始まるわ」
「むむむぅ……」
B級ランク戦二日目、昼の部……開始。
まぁ忍田さんに勝つぐらいなのでこうなるよねっていう。
太刀川対鋼とかどんな感じなんやろ。
ちなみにソフィアはGカップです。
そのままで動くと胸が揺れて大変なので、トリオン体は揺れないように細工がしてあります。