最後のボーダー   作:初音MkIII

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本日二話目です。

今回長めです。というかランク戦はどうしても長くなっちゃいますね(:3_ヽ)_

ランク戦中の「」←これは基本的にチーム内だけの内部通信、【】←これはオペレーターのセリフ、という分け方をしています。
『』←これは実況・解説ですね。
試合中だけど他チーム同士で明らかに会話してんなこれ、ってやつは内部通信じゃないです。


第8話 B級ランク戦 二日目

 

 

 先日行われた個人ランク戦で、あの村上鋼をストレートで下した超新星、ソフィア・アンデルセン。

 その彼女が率いるアンデルセン隊が戦うチーム戦とあって、ランク戦二日目昼の部を観戦するべく多くの隊員たちが足を運んでいた。

 

 来ていないのは防衛任務が入っていたり、次の試合の対策を必死に考えていたりする面々。そして、どうしても外せない用事がある者ぐらいだ。

 

 

 一部、情報に疎いツワモノも来ていなかったりするが。例えば某幹部にアッパーをかまして降格したあの人とか。

 

 

『さぁ本日も始まりました、B級ランク戦ラウンド2。実況は私、東隊オペレーターの人見がお送りします。解説席には三輪隊の古寺さんにお越し頂きました』

『古寺です。よろしくお願いします』

『選択されたマップは“市街地B”ですね。ここは高い建物と低い建物が混在し、場所によっては射線が通りにくいマップですが……』

『オペレーターを除けばたった一人しかいないアンデルセン隊と漆間隊はともかく、鈴鳴第一には狙撃手がいますから、それを封じたい構えでしょうか。マップを選択した那須隊にも狙撃手の日浦隊員がいますが、そこは地形の利を活かして……といったところでしょう』

『なるほど。さぁ、ここで全部隊転送完了! 二日目昼の部、四つ巴戦……いよいよ開始です』

 

 

 ランク戦が始まり、転送完了と同時に周囲を見回す各員。

 しかしマップの選択権を持つ那須隊だけは、確認する必要もないため早々に動き出す。

 これが下位チームの強みである。

 

 観衆もまた巨大なモニターに映されたマップを眺め、ある者は愉快気に口笛を鳴らす。

 

 

『マップ“市街地B”、天候“雨”! アスファルトが濡れ、少々足場が悪いか?』

『なるほど。これは那須隊のアンデルセン隊に対する策ですね。機動力を奪いたい、という事でしょう。転んで隙を晒す恐れがある』

『とすれば、那須隊の狙い通りにアンデルセン隊は初日ほど派手な動きは──』

 

 

 人見がそこまで言いかけた、まさにその時。

 ソフィアが初日を彷彿とさせる姿を見せた。

 地面が弾け飛ぶほどのスピードで、建物を縦横無尽に蹴って跳ね回っているのだ。

 

 

「嘘!? この雨で……!?」

「マジか、あの人よくやるなぁ!?」

 

 

 

【!? 鋼くん、敵に警戒!! ハンパじゃないスピードでそっちに向かってるわ!!】

「──了解」

 

 

 マップを選択した那須隊の熊谷が信じられないとばかりに目を見開き、鈴鳴第一の別役太一もまた、ひぇーと戦慄する。

 そして少し時を置いて、一通りマップを“巡回”し終わったソフィアが、鋼目掛けて一直線に飛んできた。

 

 

『……』

『す、すごい事しますね……ご、ごほん。なんというか、アンデルセン隊長は多少の雨をものともせずに走り回れるようです』

『いくらトリオン体とはいえ、相当な勇気が必要ですよね……あの速さで滑って転んだらエラいことになりますし』

『そうですね……』

『え、えーと……あっ! チームメイトと合流するべく動いていた村上隊員を、アンデルセン隊長が強襲! そ、空から降ってきた!?』

 

 

 この人外じみた動きには一同唖然である。

 しかし、直接戦った鋼は「あの人ならこれぐらいはできる」と冷静であった。

 そして、文字通り“降ってきた”ソフィアの攻撃を間一髪で防ぎ、何とか無傷に抑える。

 

 先日の個人ランク戦で、彼女が使ってきた手だったからこそ、ギリギリ見えたのである。

 ちなみに、アンデルセン隊の隊服は上が白で下が黒、上は胸に二つのポケットが付いたシンプルなもの。下はショートパンツである。健康的な太ももが眩しい。

 

 

「ごきげんよう、鋼くん。少し遊んでくださる?」

「遠慮します、と言いたいところですが……逃がしてはくれないでしょうね」

「ええ、そうね。逃げたとしても──」

 

 

 軽く会話する二人。

 しかし──。

 

「ッ!? くっ……」

「鋼!!」

「鋼さん!?」

【鋼くんッ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──地の果てまでも追いかけて、仕留めるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソフィアが一瞬だけ放った凄まじい“殺気”に鋼が怯み、その隙を見逃さない“魔王”の鋭い一撃が走る。

 尚、殺気を放った瞬間はソフィアの目からハイライトが消え、ものすごく怖かった。と、鋼は後に語る。

 今夜は夢にまで出るかもしれない。

 

 

 ついでに、ちょっとチビったらしい。

 聞いた相手が鋼と仲のいい荒船だったので、本当か冗談なのかは不明だが。

 きっと冗談だろう。きっと。

 

 

 

『む、村上隊員がダメージを負った!?』

『こうして見ると圧巻ですね……本当に速すぎて動きがまるで見えない。正直、今のでよく致命傷を負わなかったな、と村上隊員に感心してしまいます』

 

 解説の古寺が言う通り、鋼は辛うじて致命傷だけは避けていた。

 なんとか武器である弧月とレイガストも構える事は可能で、戦闘能力を大幅に奪われる事は回避したのだ。

 

 

「やるわね。取ったと思ったのだけど」

「ご冗談を……前より剣速が落ちたんじゃないですか?」

「そうかしら? だとしたら、この雨のせいかもしれないわ」

「嘘つきなんですね、意外と」

「あら、失礼な子」

 

 

『アンデルセン隊長と村上隊員、この試合で最も高い戦闘力を誇る両隊員が激しく争う! しかし、村上隊員が常にギリギリで攻撃を防いでいるのに対し、アンデルセン隊長は微笑みながら全てを回避しています! 手に持つ弧月で受ける、という事すらありません!』

『これだけレベルの高い斬り合いはなかなか見られませんよ。村上隊員は攻撃手4位の腕前ですし、アンデルセン隊長は弧月を持てばあの忍田本部長以上の強さですから。まるでA級同士の試合を見ているかのようです』

 

 

 余裕綽々、といった様子で微笑むソフィアを見据え、激しく切り結びながら、鋼は必死に頭を回す。

 

 

(間違いない。確実に剣速が落ちてる。となると、雨の影響っていうのは本当なのか? いや、まだ本気を出していないだけ、という方が可能性としては高い。気は抜けないな……!)

 

 

 

 かつてないほどの集中。

 今までの戦いも全て本気だったが、今の鋼はつい先程までの「村上鋼」を間違いなく超えている。

 あるいは、“殻”を破ろうという……その時。

 

 

 

【鋼くん!!】

「!? ぐっ!?」

「……外したか」

「あら。漆間くんじゃない」

 

 

 

 確かに鋼はかつてないほどに集中していた。

 しかし、目の前の“魔王”に意識を向けすぎたのだ。

 ソフィアが現れる前までは、ボーダーにおいて戦闘員が一人だけというツワモノすぎる唯一無二の部隊だったチーム、漆間隊。

 

 

 姿を隠し、漁夫の利を得る必殺仕事人は、静かに移動し、開始時点で最も近くにいた鋼を狙っていた。

 虎視眈々と潜み、隙を見せたこの瞬間を待っていたのである。

 

 そして、仕留め損なったと見るや、すぐにまた姿を消した。

 さすがに、ソフィアも鋼を放置してそれを追ったりはしない。

 

 何せ、今の鋼は漆間の銃撃により、左腕に穴が空いて使えない状態なのだ。

 今回の試合で最も堅牢な戦士を落とすチャンスなのである。

 

 

『おっと、漆間隊長が村上隊員を奇襲! またも辛うじて致命傷は逃れましたが、ここでこれは痛い!

 加えて、どうやら那須隊も集まってきている様子ですね』

『大胆不敵に立ち回るド派手なアンデルセン隊長とは違い、漆間隊長はまるで忍者のように隠れ、獲物を狙う仕事人ですから。

 村上隊員は少々アンデルセン隊長に気を取られすぎましたね。那須隊もまた、厄介な村上隊員を落とせるチャンスを狙っているのだと思いますよ』

『なるほど。さあ、村上隊員は果たしてこの窮地を凌げるのか?』

 

 

【鋼くん、分が悪いわ! 引きましょう!!】

「……無理です、ソフィアさんに追いつかれます」

「うふふ……。灯、漆間くんにタグ付けよろしく」

【はいは~い。ガッテン承知です~。それと~那須隊の人達も近付いて来てるので、警戒してくださいね~】

「ええ」

 

 

 

 万事休すか。

 知らず知らず、冷や汗を流す鋼。

 

 

(片腕ではソフィアさんを捌く事は不可能……。まずいな、やられる)

 

 

 ここまでか、と諦めが少しずつ鋼を侵していく……。

 

 

 

 

 そんな時だった。

 

 

「あら、いらっしゃい。来馬くん」

「避けられた!? そんな、完全に死角だったはず……!」

「太一、今はそれよりも鋼を!!」

「りょ、了解っす!」

「来馬先輩、太一……」

【よかった、間に合ったわ!】

 

 

 後方から銃弾が襲いかかり、しかしそれを全く見ずに、最小限の動きで回避するソフィア。

 銃弾の主であり、鋼を助けるためにやってきた鈴鳴第一……正式名称“来馬隊”隊長、来馬辰也は背を向けたまま自身へ話しかけてくるソフィアに、決して少なくない衝撃を受けた。

 

 

(太一じゃないけど、今のは完全に死角だったはずだ! どうなってるんだこの人は!? 背中に目でもついてるのか!?)

 

 

『ここで鈴鳴第一の来馬隊長と別役隊員が援軍として到着! アンデルセン隊長、一転して挟み撃ちにされるという窮地に陥りました』

『しかし、背後から襲いかかってきた銃弾を苦もなく避けるとは、どういう仕組みなんでしょうね? 何かのサイドエフェクトを持っているのか……?』

『たしかに、一瞬も目を向けませんでしたね。仰る通り、サイドエフェクトの効果と考えた方が無難でしょう。としても、シールドを使う様子すら無いというのは珍しいですが……』

 

 

 挟み撃ちにされたにも関わらず、微笑みを崩さないソフィア。

 そんな姿に、鈴鳴第一の面々は薄ら寒いものを感じた。

 

 まるで、人型近界民と戦っているかのようだ。

 それが来馬の正直な感想である。

 

 

「三対一……これで勝てる! とでも思っているのかしら。もしそうだとしたら──」

「消えたッ!」

 

 

 また放たれた“殺気”に、嫌な予感を覚えた鋼は叫ぶ。

 しかし、現実は非情である。

 

 

 

「──甘すぎる、と言わざるを得ないわね」

「え?」

「……へ? あ、あれ?」

 

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出》

 

 

「「太一ィッ!!」」

 

 

 一瞬で、気付かぬうちに距離を詰められ、胸を貫かれた別役太一が光となって離脱する。

 それを、チームメイト二人は叫びながら見送る事しかできなかった。

 

 

『緊急脱出したのは……鈴鳴! 鈴鳴第一の別役隊員が緊急脱出!! い、一瞬の早業でした!!』

『は、速い……いったいいつ動いたんだ……? 瞬きしたら、もうアウト……って感じ、でしたね……村上隊員だけは気付いたみたいですが……まるで瞬間移動したみたいだ……テレポーター? いや、そういう感じでも無かったしなぁ……』

『そ、そうですね。えー……とにかく、先制はアンデルセン隊、アンデルセン隊です!』

 

 

 

 このままでは来馬まで落とされる!

 そう確信した鋼の動きは早かった。

 先程までよりも明らかにスピードが上がっていた事から、本気を出したソフィアには追いつけないと判断し、片腕で握っていた弧月を捨て、シールドモードのレイガストを握る。

 

「先輩、なんとか掴まってください! スラスターオン!」

「あ、ああ! くっ……」

「……逃がさない」

【そっか……! 方向を指示するわ!】

 

 

 レイガストのオプショントリガー、スラスターを起動して移動しながら来馬を回収。

 そのまま止まらずに飛び続け、ソフィアから逃走する。

 無論、ただ逃げるだけでは追いつかれるのは目に見えているし、スラスターの飛距離もそう長くはない。

 

 

 では、どうするのか?

 

 

 

 スラスターで飛べる距離が終わり、来馬を連れて全力で走る。

 二人とも、まだ足はやられていないのが幸いした。

 加えて、どういうつもりかまたソフィアのスピードが落ちている。

 これならば逃げ切れる!

 

 

「見えた!」

 

 

 

 それでも時折追いついてくる斬撃を必死に凌ぎながら、二人が向かった先に居たのは──。

 

 

 

「鈴鳴!? 村上先輩、ボロボロじゃない!」

「ということは、アンデルセン隊から逃げてきたのね……」

「どうするんですか、那須先輩?」

「…………」

 

 

 そう。

 先程までの戦闘エリアに向かって進んでいた、那須隊の面々である。

 

 

「来馬先輩、那須の鳥篭が来たらシールドお願いします」

「うん、任せてくれ」

 

「鈴鳴第一を落とすわ。くまちゃん、茜ちゃん、やるわよ。小夜ちゃんも、サポートお願いね」

「よし、あれだけボロボロならさすがの村上先輩だって!」

「チャンスがあったら狙っていきます!!」

【漆間隊にも気をつけて。それと──】

 

 

 ボロボロの鋼と、来馬。

 この二人しかいない今の鈴鳴第一の姿を見れば、点を取る為に那須隊は必ず向かってくる。

 そしてソフィアが追いついてくれば、三つ巴となり、少しはまともに戦えるはず。

 特に、那須が誇るバイパーによる全方位攻撃、「鳥篭」はソフィアにとっても決して放っておけるものではないだろう。

 

 これが鋼の考えた作戦である。

 漆間の奇襲にも気を付けなければならないが、この人数だ、そうそう姿は現すまい。

 

 

 

【【警戒!! 追いついてきた!】】

 

「あらあら、たくさんいるわね」

「やっぱりこの人数でも、あなたは来ますよね」

「す、すごいなぁ……下手をすれば五対一の戦いになりかねないっていうのに……」

 

 

 もっとも、同じ戦闘員一人の部隊であっても、構わず突っ込んでくるアンデルセン隊も居るのだが。

 

 

『鈴鳴第一、アンデルセン隊から何とか逃げ延びて、那須隊とかち合わせる事に成功! これで三つ巴となりましたね』

『そうですね。那須隊はまだ無傷ですし、射手の那須隊長はとにかく手数が多い。アンデルセン隊と戦わせるにはもってこいの人材でしょう。提案したのは流れからして村上隊員だと思いますが、いい策ですね』

 

 

 この試合の鍵を握る那須は、誰を狙うか考える。

 ソフィアと交戦し、ボロボロの鋼か?

 最もやりやすい来馬か?

 

 

 いや──。

 

 

「くまちゃん、鈴鳴をお願い。茜ちゃんはくまちゃんのサポートを」

「わかった。気をつけてね、玲」

「了解です!」

「……ふう。“バイパー”」

 

 

 自分が狙うべきは、あの村上鋼と交戦し、彼に重傷を負わせてなお、無傷で立つ猛者……ソフィア・アンデルセン!!

 

 

【うわ~、生“鳥篭”! ド迫力ですね~】

「そうねえ……どうしようかしら」

 

「くっ……速くて追いきれない……」

 

 

 トリオンキューブを展開し、弾が飛んでいく。

 自由に弾道を決められる事から那須が好んで使う射撃トリガー、バイパー。

 通常、このトリガーは予め幾つかの弾道パターンを決めておき、それを使い分けるというのが定石なのだが、高い技量を持つ那須は常にリアルタイムで弾道を引き、自由自在の攻撃を繰り出す事ができる。

 

 ボーダーにおいて、同じ事ができるのはA級1位部隊“太刀川隊”所属の射手、出水公平のみである。

 

 

 

 そんな那須の卓越したバイパー捌きにも、難点がある。

 那須が逐一弾道を引いているという事は、即ち那須が想定する範囲内の攻撃しかできない、という事。

 

 

 つまり、那須が目で追えない、あるいは動きの予測がつかない相手には、当てられないのだ。

 

 

『避ける避ける!! アンデルセン隊長、那須隊長の圧倒的な手数をものともせずに回避し続けます!』

『ここはメテオラ、あるいはトマホークで周囲の建物を一掃してアンデルセン隊長の“足場”を崩したいところですが、あのスピードですからね。そんな隙を与えたら間違いなくやられる。目隠しが通用すればあるいは……といったところでしょうか』

 

 

 ひたすら回避するソフィアと、隙を探しつつひたすら撃ち込む那須。

 こちらの戦況が膠着する中、“あちら”が動く。

 

 

 

 

《トリオン漏出過多。戦闘体活動限界。緊急脱出》

《トリオン供給器官破損。緊急脱出》

 

 

「あら」

「誰と誰が落ちたの……?」

【やられた……!! 那須先輩!】

「!?」

 

 

 

『ここで戦況が大きく動いた!! まさに必殺仕事人! 陰に潜んでいた漆間隊長が来馬隊長を仕留め、しかしすかさず返した村上隊員によって緊急脱出!

 繰り返します、緊急脱出したのは来馬隊長と漆間隊長です! これで鈴鳴第一はもう後がない!』

『鈴鳴第一と那須隊、共に“向こう”に気を取られすぎましたね。上手くその隙を漆間隊長に狙われました』

 

 

 戦況を地味に引っかき回した漆間と、あんまりいい所が無かった来馬の二人が緊急脱出。

 那須隊オペレーター、志岐小夜子の言う「やられた」というのは、せっかくのポイントを漆間隊に取られた、という意味での事であった。

 

 

「もう……びっくりさせないで。てっきりくまちゃんか茜ちゃんがやられちゃったのかと……」

【ご、ごめんなさい】

 

「ふうむ、いい仕事するわねえ。さすが漆間くん」

【のんびり言ってる場合ですか、も~! ポイント取られちゃったじゃないですか~!】

「いいじゃない、そんなに焦らないでも」

【遠征行くつもりならもっと焦ってくださいよっ!】

「もう、分かったってば」

 

 

 大きく動いた戦況。

 そのうねりは、まだ終わらない。

 

 なんとかして一旦離脱し、後がない鋼を倒すべきか悩みながらも、ソフィアの足止め……あるいは撃破に専念する事にした那須が猛攻を再開し、相変わらず微笑むソフィアがそれを避け続ける。

 それどころか、時折消えるように移動し、恐らくはすれ違いざまに斬撃を叩き込んでいるのか、那須のトリオン体に徐々に傷が増えていく。

 

 

 いつまで経っても仕留められないどころか傷一つ与えられず、こちらのダメージばかりが増えていく事に、那須が焦りを覚え始めた時。

 

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出》

「「!」」

「今度は……そんな!?」

「灯、分かる?」

【予想ついてるんじゃないですか~?】

「……まぁね」

 

 

 

 再びの緊急脱出。

 それは──。

 

 

【ごめん、玲……村上先輩に勝てなかった……】

「くまちゃん……」

 

 

『……もう後がなく、いつ緊急脱出してもおかしくない程にボロボロな村上隊員が鬼神のごとき粘りを見せ、焦った熊谷隊員を撃破! 鈴鳴第一、二点目です!』

『これで日浦隊員は那須隊長の援護に回らざるを得なくなりましたね。しかし、あのアンデルセン隊長に狙撃が当たるとは思えないので、自発的に緊急脱出した方が無難ではないでしょうか?』

『ここで村上隊員が動いた! ボロボロの体を押し、既に場所が割れている日浦隊員を狙うようです!』

 

 

 熊谷が緊急脱出し、日浦茜が鋼に狙われている。

 この状況に、那須は激しく焦る。

 仮に鋼が緊急脱出したとしても、彼に最も大きな傷を与えたのは恐らく、片腕を奪った漆間であろう。

 あるいは、鋼の全身を切り刻み、無数の傷跡をつけたソフィアかもしれない。

 

 

 何にせよ。

 那須隊には、まだポイントがない。

 

 

【!? 村上先輩が狙いを変えました! 那須先輩の方に向かってます!!】

「……そう。ありがとう、小夜ちゃん。茜ちゃんは緊急脱出してくれる?」

「那須先輩……いえ! せめて一点……!! 逃げられません!!」

「茜ちゃん……」

 

 

 

「来たわね、鋼くん」

【……分かってたんですか~?】

「ええ。戦士の勘かしら」

【そ、そうですか~】

 

 

 

 そして──。

 

 

『この試合もいよいよ終盤です。漆間隊が脱落し、鈴鳴第一で唯一の生き残りにして、既にボロボロである村上隊員。

 奮戦してはいますが、一歩及ばずポイントを取れていない那須隊長と日浦隊員。

 そして、未だ無傷であるアンデルセン隊長……。

 勝利はいったいどの部隊が手にするのか!』

『厳しい事を言いますが、さすがに村上隊員は限界でしょう。もうトリオンが尽きる』

 

 

 

 片腕を無くし、身体中からトリオンが漏れ、しかし目をギラつかせる村上鋼。

 彼が狙うのは、やはりというべきか。

 

 

「最後まで、付き合ってもらいますよ……。ソフィアさん……」

「……ふふ。いい、すごくイイわ。今のあなた、最高よ。一皮剥けたんじゃないかしら」

「かも、しれないですね……!」

「おっと」

 

 

 

 片腕でのスラスター斬り。

 バランスを取るのが難しく、攻めよりも守りを得意とする鋼が使う手としては非常に珍しい。

 

 

 

(ここ!!)

 

 

【!! ソフィアさん!】

【鋼くん!】

 

 

 激しく争う二人の元に殺到する弾。

 バイパーである。

 

 

 

「く、そ……!」

 

 

《トリオン漏出過多。戦闘体活動限界。緊急脱出》

 

 

 

「一つ……!? どこに──」

「──そう。あなたも、イイわ。綺麗なだけが戦いではないのよ、玲ちゃん」

「……!!」

 

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出》

 

 

 

 

『こ、これは!? 村上隊員と那須隊長が緊急脱出! 一瞬のうちにすごい攻防が起きました!』

『村上隊員とアンデルセン隊長が競り合っているところに那須隊長がバイパーを撃ち込み、逃げきれなかった村上隊員だけが緊急脱出し、ポイントは那須隊に。そして、持ち前のスピードで回避したアンデルセン隊長がすかさず那須隊長のトリオン供給器官を貫いた、という流れでしたね』

『なるほど、ありがとうございます。これで残るはアンデルセン隊長と日浦隊員のみ! これはさすがに自発的に緊急脱出したいところですが……』

 

 

「そ、そんな!? もう近くまで来てるよぅ! 緊急脱出できないぃ!!」

【落ち着いて、茜! 空中にいる所を狙えば……】

「あ」

 

 

 ハイライトが無い絶望の目と目が合う。

 その瞬間、茜は思った。

 あ、むり。これ死んだ。と……。

 

 

 

「ごめんなさいね、茜ちゃん。泣いちゃダメよ?」

「ひっ……!」

 

 

《トリオン供給器官破損。緊急脱出》

 

 

『こ、ここで試合終了! 日浦隊員、自発的に緊急脱出しようと試みるも、既にアンデルセン隊長が60m以内にまで近付いていたため条件を満たせず、緊急脱出が不可能に! そしてそのままやられてしまいました!』

『さ、最後まで非常識なスピードでしたね……』

『5対2対1対1! アンデルセン隊の勝利です!』

 

 

 アンデルセン隊 撃破数三人、生存点獲得。

 鈴鳴第一 撃破数二人。

 那須隊 撃破数一人。

 漆間隊 撃破数一人。

 

 

 夜の部の試合結果と合わせ、アンデルセン隊は7位へと浮上し、上位入りした。

 また、修たち玉狛第二も諏訪隊と荒船隊相手に圧勝して6位に浮上し、同じく上位入り。

 

 

 

 そして、遂に。

 

 

 

 

 次戦組み合わせ──。

 

 

 

 暫定2位 影浦隊。

 暫定6位 玉狛第二。

 暫定7位 アンデルセン隊。

 

 合計3チームでの戦いとなる。

 

 

 

 ──ラウンド2で相手に見せた恐怖の微笑みや絶望のハイライト無しの目、という凄まじいインパクトから、不名誉ながらも“ボーダーの魔王”というあだ名が囁かれ始めたソフィア・アンデルセンと、“持たざるメガネ”こと三雲修率いる玉狛第二。

 

 

 今シーズン加入した二チームが激突する日が、やってくる──。

 

 

 




漆間が未だに詳細不明なので、BBFのトリガー構成を参照して私が妄想したスタイルで戦わせるしかありませんでした。どう考えてもアサシンスタイルになるよ……
原作にソフィアみたいなチートキャラ出るわけありませんしね。
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