最後のボーダー   作:初音MkIII

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本日三話目です。

向こうの遊真は当然ソフィアと面識があり、そもそも遊真の師匠である小南がソフィアの弟子なので、向こうの遊真はソフィアの孫弟子という事になります。
めちゃくちゃ強い上に優しいので、向こうの彼はかなり懐いていました。

当然、彼も亡くなりましたけどね。


第9話 玉狛と魔王

 B級ランク戦ラウンド2が終わり、次戦の組み合わせが発表された夜の事。

 玉狛支部には、重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

 見事作戦がハマり諏訪隊と荒船隊に圧勝したにも関わらず、何故こんな有様なのか?

 それは、次戦での相手が原因である。

 

 

「えー、玉狛第二、遂に上位入り! おめでとう修くんたち!」

「あ、ありがとうございます」

「ここまでは順調だな、オサム」

「ああ、ここまではな……」

「……次の相手が気になるの? 修くん」

「ああ……」

 

 

 明るい声でクラッカーを鳴らす栞に対し、なんとか礼を返す修だが、チカの言う通り次の相手に勝てる自信が無く、かなり悩んでいた。

 それを眺めるレイジや烏丸も、まぁそうだろうな、と頷く。

 

 

「影浦隊はA級に居た事もある強豪だし、アンデルセン隊は言わずもがな。だが、遠征の選抜部隊を目指すからには遅かれ早かれ当たっていた相手だぞ」

「元A級部隊……ですか」

「やっぱりつよいのか? レイジさん」

「影浦隊か。そうだな、エース兼隊長の影浦が暴れて点を取り、銃手の北添と狙撃手の絵馬がそれをサポートし、隙あらば点を狙う攻撃的な戦術を取る。そういう意味では少しお前たちと似ているかもな」

「カゲさんはスコーピオンの名手よ。たぶんその扱いに関しては遊真より上手いと思うわ」

「小南先輩が素直に相手を褒めるのは珍しいっすね」

「うるさいわよとりまる」

「ほう、スコーピオンの名手とな」

 

 

 自らが使い、日々研鑽を積んでいるスコーピオンの扱いに関して、あの小南が「影浦の方が上」と明言した事に深い関心を抱く遊真。

 

 

「あの、影浦隊はどうしてB級に?」

「んー。勝手に言うのもなんだかなー」

「いいんじゃない? 本人も別に隠そうとしてないし。つかどうでもいいと思ってるでしょ、カゲさん」

「……ま、たしかに。えっとね、幹部の根付さんいるでしょ? あの人にアッパーをかまして降格と個人ポイントを8000点没収されたの」

「「え゛」」

「へえ、そうなのか」

「……まぁ、悪い奴じゃないんだ。ただ、あいつはちょっとサイドエフェクトで苦労していてな」

「そ、そうなんですか。サイドエフェクト……」

「ふむん。どんなの?」

「それは──」

 

 

 レイジが影浦のサイドエフェクトを明かそうとした、まさにその時。

 インターホンが鳴って訪問者を告げ、阻止された。

 

 

「こんな時間に誰すかね? ちょっと俺出てきます」

「頼む、京介。影浦の話は……まあ明日にするか」

「わ、わかりました」

「ふむ」

「あの、お客さんなら私たちはお邪魔なんじゃ……」

「まぁ待ちなさいよ。連絡も受けてないし、誰が来たかわからないのよ」

「そうだな。とりあえず待ってろ」

 

 

 そして、来客の応対に当たった烏丸は。

 

 

「はい、どなたです……か?」

「こんばんは、京介くん。修くんたちは居るかしら?」

「あなたは……アンデルセンさん」

「ソフィアで構わないわよ」

 

 

 玄関を開けると、満面の笑みを浮かべるソフィア・アンデルセンの姿が。

 今のところ接点がなく、何故来訪したのか分からない烏丸は、困惑する事しきりである。

 

 

「あ。レイジさんですか? それとも、次の相手の偵察とか?」

「偵察なんてものじゃないわよ。ただ、いい機会だから挨拶しておこうと思って」

「……とりあえず、中へどうぞ。夜は冷えますから」

「ありがとう」

 

 

 そういえばレイジさんとは知り合いなんだったか、と思い出し、名前を出してみる。それと、次の試合の相手である修たちの様子を見に来たのかもしれない。

 そう思い当たった烏丸だったが、しかし本人は挨拶に来たと言い張っている。

 

 

 何にせよ、同じボーダーの仲間である事は確かだ。

 そう邪険にする事もあるまい。

 

 

 

 こうして、烏丸は魔王を玉狛支部の中へと招き入れてしまった。

 

 

 そして──。

 

 

「と、いうわけで。客は修たちが次の試合で当たるソフィア・アンデルセンさんでした」

「どういうわけだ。何しに来た? アンデルセン」

「もう、レイジったら。ソフィアでいいと言ったでしょう? あ、栞ちゃん。これお土産ね」

「わ、超高級なチョコじゃないですか!? いいんですか!?」

「ええ。忍田さんからお小遣いを貰ったから」

「へえ、随分あの人に気に入られてんのね」

「何をしてるんだ本部長は……」

 

 

(なんかめちゃくちゃ馴染んでる……)

(なんかレイジさんと夫婦みたい……)

(レイジさん以外初対面のはずだけど、そんな感じしないな。やっぱり未来の並行世界ってのは本当なのか)

 

 

 

 さりげなく親戚のおじさんと化している忍田の暴挙が暴露される中、やたらと玉狛支部に馴染んでいるソフィアを見て、修たちはそんな事を思った。

 

 

「あ、おひ……いえ、初めまして、修くん。チカちゃん。遊真はしばらくぶりね」

「あ、初めまして……」

「初めまして……」

「おひさしぶり、ソフィアさん」

 

 

 そんな事を思ってると、声をかけられた。

 正面から見ると綺麗な人だな、と修とチカは目を奪われ、遊真はのんびりと返す。

 何気に、チカは修の母より綺麗だと思える人間に出会ったのはこれが初である。

 

 

 雰囲気が若干緩やかになった、この瞬間。

 

 

「いい目ね」

「「え!?」」

「速い……」

「生身なのにすごいスピードだな」

「おい。室内で派手に動くなよ。ここは試合のマップじゃないぞ」

「あら、ごめんなさい。つい」

 

 

 客が来た事から立ち上がっていた修のすぐ傍に、いつの間にかソフィアが立っていた。

 それどころか、修の心を見透かすかのように目をじっと見つめてくる。

 

 

 その動きを追えなかった烏丸が思わず呟き、遊真は素直に驚いていた。

 トリオン体ならともかく、生身でこれほど速い人間が居るというのはびっくりである。

 

 

 そして、以前知り合った際に同じような事をされたレイジだけは冷静に咎めた。

 

 

「な、な、なんのつもりよ! ウチの修に何する気!?」

「あら。小南ちゃんには嫌われちゃったかしら。悲しいわ、お姉ちゃんお姉ちゃんって、小さい頃はあんなに懐いてくれた小南が……」

「そうだったんすか、小南先輩」

「なわけないでしょ今日が初対面よ!! さすがに騙されないわよ!」

 

 

 一拍遅れて噛み付く小南に対し、およよよ、と泣き真似で返すソフィア。

 烏丸もいつも通り真顔で乗っかり、しかし自分自身の事なのでいつものようにはいかない小南。

 

 

 

 それを見て、事情を知るレイジと遊真は押し黙る。

 きっと、“向こう”の小南は本当にソフィアを姉のように慕っていたのだろう、と。

 

 

 

「……それで? 本当のところは何をしに来たんだ。こんな時間にただ喋りに来たってわけもないだろう」

「ん、そうね。ちょっと今の遊真のレベルを見ておきたくて」

「え!?」

「やっぱり試合の偵察じゃないの!! スパイよスパイ!!」

「遊真くんの、偵察……?」

「小南先輩、映画の見すぎじゃないすか」

 

 

 ソフィアの用事を聞いた小南が騒ぎ出し、修は冷や汗を流し、チカは若干警戒モードに入った。

 しかし。

 

 

「……いいよ、やろう」

「おい、空閑!?」

「まあまあ待てオサム。ソフィアさんの情報はまだ少ないし、ここでおれができるだけ引き出すから」

「しかし……」

「……遊真本人がいいと言っているんだ。構わないだろう。やらせてやったらどうだ、修」

「レイジさんまで……」

 

 

 肝心の遊真本人が乗り気であり、何故かレイジもそれを止めようとしていない。

 普段はブレーキ役であるあのレイジが、だ。

 その様子に、レイジのチームメイトである小南と烏丸、そして栞は意外なものを見る目になった。

 

 

 結局、修の許可が下り、遊真とソフィアは模擬戦をする事となる。

 理由としては、やはりソフィアの情報があまりにも少なすぎる、という事が挙げられるだろう。

 

 

 何せ、攻撃手4位という凄腕らしい村上鋼という隊員を含む鈴鳴第一や、中位部隊である那須隊、漆間隊を相手にしても弧月しかトリガーを使っていないのだ。

 

 シールドやバッグワームすら未使用であり、あるいはそれらが入っていない可能性すら修は考慮している。

 

 

 

 判明しているソフィアのデータといえば……。

 

 ファンタジーかよ、と呆れざるを得ない程に圧倒的なまでのスピードと、弧月を握れば忍田本部長を上回る程に腕が立つ、という事ぐらいだ。

 強いていえば、天気が雨でも全く影響無く走り回れる、という事が追加される程度だろう。

 

 これらの要素を考慮して作戦を立てろと言われても、無理な話である。

 

 

 

 そして──。

 

 

 

「うーむ、強い」

「さすが遊真ね。なかなか楽しかったわ」

 

 

 模擬戦の結果は……。

 

 

「あの遊真くんが……」

「嘘でしょ、遊真が……」

「うーん、これはちょっとキビシイなー」

「強い……普通に俺らでも勝てるか怪しいっすよ」

「忍田さんが負けたぐらいだからな。それはそうだろう。何か参考になるものはあったか、修」

「空閑が……あの空閑が、こんな……」

 

 

 

 遊真の、ストレート負け。

 つまり、十本中一本も取る事ができずに終わった。

 あの小南ですら初戦で一本取られている上、今の遊真はボーダーのトリガーにも慣れてきているのだ。

 はっきり言って、ソフィアの戦闘力は異常である。

 

 

 

「ソフィアさん、おねがいがある」

「何かしら」

「個人ランク戦、付き合ってくれない?」

「そうね……カゲくんと鋼くんに勝ち越せたら、また戦ってあげるわ」

「ふむ。かげうら隊と、すずなりの人だったか?」

「ええ、そうよ」

「わかった。その人たちとはどこであえる?」

「鋼くんのアドレスなら教えてもらったから、あなたに付き合ってくれないか頼んでおくわ。鋼くんならカゲくんの連絡先も知ってるはずよ」

「おお、それはありがたい」

 

 

 修たちが呆然とする中、当の遊真本人はソフィアに再戦の申し込みをしていた。

 玉狛支部での模擬戦ではなく、本部で行う個人ランク戦なのは、お願いする相手が本部所属だからだろう。

 目上の人に不躾な事をお願いし、わざわざ足を運んでもらうのは失礼に当たる、と理解しているのだ。せめてこちらから出向こうというわけである。

 

 

 

 ただ、遊真は有言実行の男だ。

 完敗はしたが、弧月以外の手を見事ソフィアから引き出して見せた。

 

 

 

「帰るのか、ソフィア」

「だからソフィアでいいと……あら」

「呼んでやっただろう。帰るんなら送ってくぞ」

「うふふ、ありがとうレイジ。お言葉に甘えさせてもらうわね」

「本部でいいか?」

「ええ、お願い」

 

 

 

「あの、烏丸先輩。ソフィアさんのあれって……」

「……あんなバカでかいトリオンキューブはチカぐらいだろうと思っていたが、バイパーだな。ポイントの基準こそ満たしていないが、あの人は万能手だったらしい」

「つまり、攻撃手と射手を兼ねているって、事ですよね……」

「そうなる……もうこんな時間か。悪いな修、そろそろ俺も帰らないと」

「あ、はい、お疲れ様です……」

 

 

 

 次の試合まで、それほど時間はない。

 チームの点取り屋である遊真が手も足も出ない存在(ソフィアがバイパーを使ったのは、諦めない遊真のガッツに感服したから、という意味合いが大きい)、ソフィア・アンデルセンという大きな壁を前に、修は目の前が暗くなった気がした。

 

 

 

《件名:鋼くんにお願い》

 

《玉狛第二の空閑遊真くんが私に個人ランク戦を申し込んできたんだけど、鋼くんとカゲくんに勝ち越せたらっていう条件を勝手につけちゃった。

 悪いんだけど、明日遊真くんと会ってもらえるかしら? 時間はこちらで指定するから、個人ランク戦ブースに行ってあげて。頼むわね。

 

          ソフィア・アンデルセン》

 

 

 

(はい? いや、急だな。構わないけど……)

 

 

 

 ついでに、こんなメッセージを携帯端末に送り付けられて、困惑しながらも請け負う村上鋼という武士系男子がいたとか。

 

 




ヴィザの「星の杖」が黒鳥遊真が重しを付けてようやくギリギリ見える、というぐらい速いので、ソフィアも重りなしの星の杖に追いつき、斬り合える程度には速いです。

こうして書くと原作ですらあの爺頭おかしいな……
もっとおかしいのは若くしてその爺とまともにやり合えるソフィアさんなんですけど。
あ、ソフィアは小南の師匠という事なので当然彼女よりもボーダー歴が長いです。子供の頃から戦ってました。

そんな昔からボーダーあったのかって?
あった事にしておきましょう。実際謎ですし。
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