ドラコと別れたレイラとエリシャは、次に教科書を買った。『フローリシュ・アンド・ブロッツ書店』の棚は、天井まで本がぎっしりと積み上げられていた。
「へぇ……こんな本もあるのですね……」
本を熱心に読んでいたレイラは、エリシャに服を引っ張られるまで、周りの音に気づかなかった。
「ふむ、興味深い本がたくさん……」
「行きますよ、お嬢様」
「あ、待って!」
書店の次は、薬問屋に入った。腐った卵とカビたキャベツの混じった酷い臭いがしたが、そんな事が気にならないほど面白いところだった。
ホグワーツで見たことがあるものが多数だったが、中には
エリシャが基本的な材料を注文している間、レイラは、緑色のキラキラした何かの目玉(一さじ 三シックル)をしげしげと眺めていた。
薬問屋から出て、エリシャはもう一度レイラのリストを調べた。
「あとは、杖だけですね。……では、オリバンダーの店に行きましょう」
魔法の杖……これこそ、レイラがこの世界で一番欲しかったものだ。
最後の買い物の店は狭くてみすぼらしかった。剥がれかかった金色の文字で、扉に『オリバンダーの店────紀元前三八二年創業 高級杖メーカー』と、書いてある。
中に入るとどこか奥のほうでチリンチリンとベルが鳴った。天井近くまで整然と積み重ねられた何千という細長い箱の山が、埃と静けさそのものが、密かな魔力を秘めているようだった。
「いらっしゃいませ」
柔らかな声がした。レイラは気配を感じていたのであまり驚かなかったが、エリシャは飛び上がった。
目の前に老人が立っていた。店の薄明かりで、大きな薄い色の目が、二つの月のように輝いている。
「ようこそ、私がオリバンダーです」
「こんにちは、私はレイラ・ユオハーゼと申します」
「なんと……ご無事でしたか」
オリバンダーは嬉しそうに目を細める。
「えっと……はい……?」
レイラはぎこちなくうなずいた。
「お父さんと同じ目をしていなさる。あの子がここに来て、最初の杖を買っていったのがほんの昨日のことのようじゃ。あの杖は28㎝の長さ。トウヒの木でできていて、ドラゴンの心臓の琴線を使っておる。しなりが良く、変身術に最適じゃった」
オリバンダー老人はさらにレイラに近寄った。レイラは老人が瞬きをしてくれたらいいのにと思った。
「お母さんの方はナナカマドの杖が気に入られてな。ドラゴンの心臓の琴線で26㎝の振りやすい杖じゃった。お兄さんは楓にドラゴンの心臓の琴線、25㎝。固くしっかりしておる杖を気に入られた。いや、母上と兄上が気に入られたと言うたが────実は勿論、杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃよ」
オリバンダー老人はニッコリと笑った。
「さて、それではユオハーゼさん。拝見しましょうか」
老人は銀色の目盛りの入った長い巻き尺をポケットから取り出した。
「どちらが杖腕ですかな?」
「えっと、右利きです」
「腕を伸ばして。そうそう」
そういうとオリバンダーは銀色の巻尺でレイラの様々な部分の長さを測りながら杖の説明を始めた。その説明が終わるとともに、レイラに一本の杖を差し出した。
「ユオハーゼさん、これをお試し下さい。クマシデの木にドラゴンの心臓の琴線。23㎝、良質でしなりがよい」
レイラは杖を手に取って、ちょっと振ってみた。オリバンダー老人はあっという間にレイラの手からその杖をもぎ取ってしまった。
「ナシの木に
レイラは試してみた……しかし、振り上げるか上げないうちに、老人がひったくってしまった。
「だめだ。いかん────次はセコイアの木に不死鳥の羽根。22㎝、バネのよう。さあ、どうぞ試してください」
レイラは次々と試してみた。いったいオリバンダー老人は何を期待しているのかさっぱり分からない。試し終わった杖の山が古い椅子の上にだんだん高く積み上げられていく。
「難しい客じゃの。え?心配なさるな。必ずピッタリ合うのをお探ししますでな……さて、次はどうするかな……おお、そうじゃ……珍しい組み合わせじゃが、クルミの木と不死鳥の羽根、27㎝、良質でしなりが良く、美しい」
レイラが杖を手に取ると、急に指先が温かくなった。杖を頭の上まで振り上げ、店内の空気を切るようにヒュッと振り下ろす。すると、銀色の光が蒼と紅色の火花と交わりながら流れ出し、壁に反射した。
「ブラボー!」
オリバンダー老人が手を叩き、そう叫んだ。
「素晴らしい。いや、よかった。この杖は今まで誰も選ばなかったのじゃが、今回あなたが選ばれた訳じゃな」
杖の代金に7ガリオンを支払い、オリバンダー老人のお辞儀に送られてレイラとエリシャは店を出た。
クルミの木は、知的な所有者に向いている。
革新的な魔法を繰り出したり、発明したりする所有者が多い。
群を抜いて多用な魔法を繰り出せて、とても馴染みやすい。
一度所有者に服従すると所有者の意のままに魔法を繰り出す。
いったん服従したら最後、持ち主が望むことはいかなることでも成し遂げてしまう。
たとえ、それが闇の魔術だとしても
レイラはそんな杖を手に入れてしまいました。さて、この事が後の展開をどう左右するのか。